売春防止法は、売買春を禁止としながら、「売る側」のみを処罰の対象としている。「買う側」を処罰の対象とし、女性は保護すべきだとして、売春防止法の改正を求める声が上がっている。法務省は有識者による検討会を設置し、買う側の処罰の是非を議論する方針で、初会合は、3月末までに開かれる予定だ。海外では、スウェーデンが採用し買う側を処罰する「北欧モデル」が広がっており、フランスでは2016年に買春処罰法を整備した。識者は「買春は性暴力と考えるのが世界の潮流」と話す。(共同通信=村越茜、細川このみ)
▽現場から見えるもの
「女性が路上に出る背景には貧困や虐待、障害や孤立といった複合的な要因がある」。東京・歌舞伎町で女性支援を行う一般社団法人「Colabo(コラボ)」の仁藤夢乃代表はそう話す。
コラボは2024年度、未成年の少女88人を含む308人から新規相談を受けた。仁藤代表によると、ホストクラブなどで少女が加害者と知り合い、恋愛関係にあると思い込まされた上での売春や、反社会的組織による管理売春もあったという。
▽「政治や社会構造の問題だと考えて」
1956年に制定された売春防止法は売買春を禁止としているが、行為そのものには処罰規定がない。客待ちや、あっせん、勧誘、場所の提供など性売買を助長する行為には罰則があるが、買う側は処罰されない。相手が未成年の場合は児童買春・児童ポルノ禁止法などの適用対象となる。2025年11月には、東京・湯島の個室マッサージ店で12歳だったタイ国籍の少女が違法に働かされていた事件が発覚している。
日本の性的搾取の現状は海外でも広く知られる。仁藤さんは、売買春規制の議論では「女性を処罰ではなく、支援の対象とすべきだ」と話す。2月8日投開票の衆院選を前にした取材で「体を売ることを個人的な責任とせず、政治や社会構造の問題だと考える政治家が1人でも増えてほしい」と述べていた。
▽宿泊場所や就職支援も
フランスでは、2016年に買春処罰法が整備された。昨年11月、議論の旗振り役で元国会議員のモード・オリビエさんらが来日し、東京都内で国際シンポジウム「売春処罰法と性売買女性支援から~フランスと韓国の経験から学ぶ~」が開かれた。シンポジウムを前に、オリビエさんは記者に対し「性を売る女性は被害者だ。客がいるから性売買システムが存在する」と訴えた。
同法は買春行為に1500ユーロ(約27万円)、再犯は3750ユーロ(約69万円)の罰金を科し、売る側の客引き行為の罰則は廃止された。売春脱却に向けた支援も同法の柱で、女性らに宿泊場所を提供し、就職などへの伴走も盛り込んだ。
オリビエさんによると、「売春する女性は自ら選択した」との考え方は フランスにもあったが、当事者への調査で、性感染症に苦しむ人や、精神的な問題を抱え自殺未遂した人の割合が高いことが分かったという。
▽「売春の非犯罪化が必要」
ジェンダー問題に詳しい大阪大の島岡まな教授(刑法)は、フランスの買春処罰法が買春を性的搾取だと位置付けたことに「大きな意義がある」と評価する。学校で年齢に応じ、男女平等の視点のほか、売春の現状や身体を商品化するリスクも学ぶよう盛り込んだ点も注目すべきだという。
日本でも、若年層を中心に路上や交流サイト(SNS)を通じた売買春が社会問題化している。実態を調査し、買春への罰則を設けるだけでなく、「売春を非犯罪化し、売る側の女性らを保護することが必要だ」と強調する。
▽「幅広い知見に基づいた議論を」
法務省が設置する予定の有識者検討会は、弁護士や裁判官、検察官の法曹三者のほか、刑事法学者らで構成される。「買う側」に対する処罰の要否や、法定刑の引き上げなどが協議される見通しだ。
売春の相手方に対する処罰の必要性に関し、昨年11月の衆院予算委員会で野党議員が取り上げたところ、高市早苗首相が平口洋法相に「必要な検討」を指示。法務省が国内の実態や、海外法制を調査していた。
平口氏は今年2月10日の閣議後記者会見で「社会情勢を踏まえた規制の在り方を、幅広い知見に基づき議論してもらう」と話した。