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女性用トイレに「女装の男性」動画拡散…犯罪?トランスジェンダーならどう判断される?弁護士が解説
イオンモール小山(Googleストリートビューより)

女性用トイレに「女装の男性」動画拡散…犯罪?トランスジェンダーならどう判断される?弁護士が解説

「女性用トイレに女装した男性が」──。

栃木県小山市にある「イオンモール小山」で、女性用トイレに女装した男性が出没したとする動画がSNSで投稿され、波紋を広げています。

動画が投稿されたのは2月20日。マスクを着けて、女性の服装をした人物が女性用トイレから出てくる場面が映っていました。別の投稿では、同一人物とみられる人物が、男性の姿で撮影された写真もありました。

これらの投稿に対して、「犯罪ではないのか」「女性用トイレに男性が入る行為は許されるのか」といった不安の声が相次ぎました。

イオンモール小山側は後日、次のような謝罪をしています。

「この度、小山店のトイレ利用に関するご指摘につきまして、お客さまにご心配とご不安をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。

本件を受け全館のトイレ点検を実施し、カメラや不審物の有無も含め、異常はございませんでした。また警察へも相談を行っております」

不特定多数が利用する商業施設において、男性が女性用トイレに立ち入った場合、どのような法的問題が生じるのでしょうか。元検事の西山晴基弁護士に聞きました

●正当な理由なければ建造物侵入罪の可能性

──不特定多数が利用する商業施設において、男性が女性用トイレに立ち入った場合、どのような犯罪が問題になり得るのでしょうか。

「正当な理由」がない場合、建造物侵入罪が問題となります。たとえば、盗撮やのぞきなどの犯罪目的で立ち入った場合には、「正当な理由」が否定されるのが通常です。

また、一般に男性が女性用トイレを利用することは想定されていないため、事情によっては、外形的に「盗撮やのぞきなどが目的ではないか」という疑いが生じます。

実際の刑事事件では「トイレを我慢できずに入ってしまった」「間違って入ってしまった」といった弁解がされるケースも少なくありません。

一方で、警備員や清掃員などの立場にある男性が、業務上の必要から立ち入る場合は、「正当な理由」があるといえるでしょう。ただし、その立場を利用して盗撮などをするケースも多いため、注意が必要です。

●性的マイノリティという事情がある場合

──この人物が、心身の性別に関する事情を理由に女性用トイレを利用していた、いわゆるトランスジェンダーだった場合でも、建造物侵入罪が成立する可能性はありますか。

性的マイノリティに関わるセンシティブな問題であるため、「正当な理由」にあたるかどうかは慎重な検討が必要です。

トランスジェンダーの方の「自認する性別に即した生活を送る利益」と、「他の利用者に生じる不利益」との比較衡量が問題となります。他の利用者に客観的かつ具体的な不利益が生じると評価される事情があれば、「正当な理由」が否定される余地もあります。

この論点に関連して、刑事事件ではなく、国家賠償責任が争われたケースがあります。

経産省の職員(生物学的な性別は男性で、性同一性障害との診断を受けていた)が、職場での女性用トイレの利用を制限されたことについて、最高裁は、過去の利用状況に照らし、女性用トイレの利用によって「具体的なトラブルが生じるおそれは想定し難い状況」だったなどとし、制限を違法と判断しました。

この判例を踏まえると、他の利用客に「客観的かつ具体的な不利益」を与える特別な事情がない限り、直ちに刑事事件として処罰対象になるとは言いにくいように思います。

●トイレの利用ルールどうすればいいか

──今回のような事案について、施設側はどのような対応をとることが望ましいのでしょうか。

性的マイノリティを理由とするトイレ利用については、一律に対応することが難しく、慎重に判断しなければなりません。

トランスジェンダーの方を念頭に置いた利用ルールや案内を画一的に掲示することは、かえって偏見や誤解を助長し、トラブルを招くおそれもあります。

一方で、制限の対象となるのは、あくまで、他の利用者に迷惑や不安を与える目的・態様による利用です。

そのため、施設側としては、迷惑行為や犯罪行為を禁止する一般的な注意喚起をするとともに、具体的なトラブルが発生した場合には、個別の事情に応じて適切に対応することが、現実的かつ法的にも望ましいと思われます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

西山 晴基
西山 晴基(にしやま はるき)弁護士 レイ法律事務所
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。

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