エミヤ はさいきょうのおじいちゃんを 手に入れた!
キングハサンが来た記念+Twitterのおじいちゃんなキングハサンに和んだので…/山の翁とエミヤ、ほんのり槍弓の話、エミヤにじいじを作って甘えさせてみたかった/ブクマやタグ、コメントありがとうございます!!お陰様でルーキーランキング 27 位&11位に入りました!本当に本当にありがとうございます…!!
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決戦を終えて、人類の安息を取り戻したカルデアはひとまず穏やかなる時を過ごしていた。
この先どうなるのかはまだわからず、残されたものとしてカルデアの職員とダヴィンチがつじつま合わせに奔走する間、マスターが心配でカルデアに残ったサーヴァントの1人であるエミヤは沈鬱な面持ちで俯いていた。
親族が亡くなってもここまで沈んだ顔をするだろうか。ため息をつくことも出来ずにただ重圧に耐えるエミヤは、目の前で野菜の皮むきをするグランドアサシンの山の翁へチラと視線を向けて、小説よりもはるかに奇である珍風景にがっくりと肩を落とした。
きっかけは数日前、新たな霊基の波長を観測したとして召喚ルームに来たマスターの少年は、その日も何気なく宝晶石を砕いて魔力を引き出し、召喚サークルを満たしていた。
「誰が来るんだろうね、今になって観測するならソロモン縁の人かな?」
「さぁな、しかし人理が修復されてから応じる姿勢を見せるなんて随分酔狂なサーヴァントじゃないか」
魔力が落ちる度青い輝きを増していくサークルを前に、期待を隠しきれないマスターへ苦笑したエミヤは新たなる仲間の予感へ自身も胸をワクワクと高鳴らせていた。
魔力を満たし、とうとうマスターの少年がサークルへ手をかざす。ここでは詠唱も必要なく、ただサーヴァントの契約の意志とマスターの呼び声のみが基点となる。
ピリピリと肌を刺す魔力の増幅の気配に、捕捉した波長の主は召喚へ快く応じてくれたのだろうとエミヤも安心した。
だがその時、引き寄せられる霊基の予感にゾクッと背筋へ氷を突っ込まれたような悪寒を感じたエミヤは、咄嗟にサークル内のマスターを引き寄せる。
「ッ!?下がれ!マスター!!」
マスターをそこから退かせた瞬間爆発的な魔力が召喚の間へ迸り、驚いている少年を背に庇ったエミヤは素早く武器を投影させた。
「マスターくん!とんでもない波長を捉えたけど今度は何を引き寄せたんだ!」
続いて管制室でも異常を察知したのだろう、駆け込んできたダヴィンチは形のいい瞳をまん丸にして召喚サークルに佇む巨大な影に言葉を失った。
まるで影が形を得たような禍々しさ、纏う空気は自然と見るものへ死を予感させる。現界した稀代の暗殺者はドクロの仮面に光る蒼い光にて、召喚の間にいる者達を見渡した。
「怯えるな契約者よ。山の翁、召喚に応じ姿を晒した。我に名はない、呼びやすい名で呼ぶがよい」
「キングハサン!?」
「グランドアサシン…はぁ、これはまた…」
額を抑えたダヴィンチは花の魔術師に続いて、また大物中の大物を引き当てたマスターに頭痛がした。
「わぁー!久しぶりだね!また会えて嬉しいよ!」
「息災そうだな、我を引き寄せたということは人理修復に成功したか。此度ばかりは心より、その労を評価しよう」
場所を移して改めて顔合わせをした相手にマスターは無邪気な笑顔を向ける。対して呼び寄せられたグランドアサシンこと山の翁は、かつての特異点で関わったマスターの少年の偉業に心からの賛美を送る。
偉大なるものからの惜しみない労いへ、照れ臭そうに笑うマスターは、突如スパーンと頭を叩かれて言葉を途切れさせた。
「えへへへせっかくならキングハサンとも一緒に戦いたかったっいた!!」
叩いたものは普段マスターを甘やかすことに定評のあるエミヤ。手に投影させたスリッパ(対マスター用宝具)で頭を叩いたエミヤはわなわなと震えて恐れ知らずのマスターを叱りつける。
「マスター!!さっきから聞いていればなんだその態度は!この方をどなたと心得る!」
叱られて困ったように笑うマスターのまるで緊張感のない様子に、エミヤが説教を続けようとした時、誰であろう山の翁ご本人様が手をかざして声を止めた。
「我が構わぬと言ったのだ。それ以上の礼は不要である。気を楽にするが良い、守護者のものよ」
「ほら、キングハサンがいいって言ってるから。それにここにはもう王様とかがたくさんいるし同じようなものじゃない?」
「それとこれとは話が違う!」
「そうだよ、マスターくん。あのマーリンなら別にどうでもよかったがこちらは違う。本人が好意的であっても超えてはならない一線というものがあるからね。ちょうどいいから英雄に関してツルツルの脳みそに知識を授けようじゃないか、お勉強タイムだ」
元々の気質なのか、それともこのマスターの少年を相当気に入っているのか、山の翁の寛容ぶりには驚くばかり。
しかしそれでも相手はそんじょそこらの英霊とは格が違う、英雄譚に詳しくないマスターの見ていて心臓に悪すぎる行いの数々にダヴィンチは豊かな髪を揺らして首根っこを掴んだ。
ずるずると引きずられるマスターは、お勉強の言葉に少し顔をしかめたが大人しくダヴィンチに連行されていく。そして部屋に山の翁と2人取り残されようとしているエミヤへ、思い出したように少年は笑顔を向けた。
「はあーい、じゃあまた後で。そうだ、キングハサンのことよろしくね、エミヤ。いつも通りカルデアのことを教えてあげてよ」
「私が…!?」
無邪気なそれにエミヤは一瞬で顔を青ざめて振り返るも、既にマスターはダヴィンチの工房に連行されていってしまった。
エミヤにとって重い沈黙が落ちるその場で、ぎこちなく山の翁の方へ顔を向けてみると、自分とは比べるのもおこがましい暗殺者のトップ様は指示を待ってこちらを見上げていた。
「これから世話になる。英霊エミヤ…否、エミヤ師よ」
つい先日の回想を終えたエミヤは、やはりどう考えてもおかしい現状に逃げ出したくなる。
比較的早めにこのカルデアに召喚されたエミヤは、元来の世話焼きとも相俟って新しく来たサーヴァントの教育係へ自動的に就任していた。だが、本来英雄ですらない汚れた掃除屋が、あらゆる時代の勇士や王族にデカイ顔をするのだけでもかなりガラスの心がこたえていた。幸い皆快くエミヤのことを先生として認識してくれたのは有難いが、何度マスターに自分と他英霊の身分差を説いたかわからない。
それでも続けてきたこの役割は、最近の女神だの花の魔術師だの大物続きにかなりダメージを与えられてきたが、さらに続く稀代の人物へとうとう一度の敗走もない男は全力疾走で座に帰りたくなった。
エミヤの心労も知らず、今日も危なげなくしょりしょりと野菜の皮をむき終えた山の翁は包丁を置いて頭一つ分低いエミヤの方を向く。
「エミヤ師、次は何をすれば良い?」
「グランドアサシン、私は貴方様から師と呼ばれるようなものではありません」
「今は我が汝に教えを受ける立場、知識を授けるものを師と呼ばずしてなんという。教えを説くに立場や年齢は即ち些事なり」
エミヤが山の翁の教育係へ就任した時から付けられた師という称号、それがあのグランドアサシンに自分が呼ばれるなんて恐れ多いを通り越して笑えてくる。
神に祈る敬虔な信者のように祈るエミヤをあっさり跳ね除ける山の翁に、エミヤはさらに萎縮して頭を下げた。
「しかしっ…!私のようなものがグランドアサシンを顎を使うなど本来はあってはならないこと。厳罰に処されても文句は言えません。なのでどうかご容赦を…」
「お疲れ!エミヤ。仲良く…なれてはないようだね」
あまり円滑とはいえない空気に、定期のダヴィンチちゃんの英雄塾から戻ってきたマスターが、キッチンのカウンターからひょこっと顔を出してぎこちない2人へ唇を尖らせる。
「じいじがいいって言ってるんだからもっと肩の力抜いてみればいいのに」
確かに萎縮しすぎの気はするが…とマスターの指摘に思うところはあったエミヤは、それを吹き飛ばすインパクトの呼び方に、ぴくっと耳を動かした。
「…マスター、今なんて言った?」
「じいじがいいって…」
「じいじとは?」
「我のことである」
エミヤの問いかけに答えたのは、地のそこから聞こえるような重々しい山の翁の声。
ぽかんと見上げたエミヤは刹那手にスリッパを出現させて、今度こそスッパーンといい音響かせマスターの頭をどついた。
ちなみに以前は学校の来客用並みのへろへろスリッパだったが、硬めの新品のものにグレードアップしている。
「ダヴィンチちゃんに何を教わったんだ君は!!」
「いった!だってなんて呼んでもいいって言うから!」
「呼びやすい名で呼べと何でもいいは全然違う!!君は馬鹿か!このっ…馬鹿!!」
とんでもない人物をとんでもない呼び方をするマスターに、エミヤの口から子供のような罵声が飛び出る。一瞬考えても最早捻ったことが言えないエミヤに叩かれた頭を押さえていたマスターは、不意に瞳を輝かせて身を乗り出した。
「そうだ!エミヤもじいじの事じいじって呼んでみればいいんだよ!」
「なんでさ!?」
思わぬ方向に転がった展開に、ついエミヤから冷静さを欠いた声が飛び出た。
何が悲しくてあのグランドアサシンをじいじなんて仲良しほのぼの家族のように呼ばなきゃならんのか、確かに翁はおじいちゃんの意味もあるが君はこれまでの旅で一体何を学んだのかと説教したくなる。
「だってグランドアサシンなんて他人行儀な呼び方だといつまで経っても距離が縮まらないじゃないか」
「私がいつグランドアサシンと距離を縮めたいと言った!?」
「いや、エミヤじゃなくて…」
言葉を切ったマスターが見上げるのは言い争いを静かに見守るドクロの仮面、まさか…と口も瞳も真ん丸に開かれたエミヤへ山の翁は微かに気恥しそうにしたのは目の錯覚だろうか。
硬直したエミヤへ少し前に相談を受けていたマスターは、晴れやかな顔でエミヤを追い詰める。
「ね?一回くらい呼んでみればすぐに慣れるよ!」
「……ッ無理に決まっているだろう!たわけ!」
「ダメだって、じいじ」
「じいじは悲しいのである」
「ぐっ…!」
エミヤが断固として拒否する姿勢にマスターが山の翁へ顔を向けると、まさかまさかのコメントが返ってくる。
どこかしょんぼりとしたような雰囲気を感じるのは気のせいだろうか、気のせいだろう、そうであってほしい。
しかしこちらを見つめる二人分の視線にズキズキと胃を痛めるエミヤは、おかしい以外の何物でもない状況であっても、並外れたお人好しが発揮されてしまうのだった。
「や…山の翁…?」
恐る恐る名を呼んでみると、幾分か山の翁の雰囲気は和らぐものの空気はその先を促している。
これで勘弁してくれないか…エミヤの願いは無言で却下され、躊躇う唇はもごもごと動いた。
「う…キングハサン…っおじいちゃん…?」
「エミヤもう一声!」
外野のマスターからさらに背中を押されて、だんだん華やいできた山の翁の空気がとうとうエミヤの硬い口をこじ開けた。
「っ!…じいじ!」
キングハサンってあんな嬉しそうな顔するんだ、とは後のマスターの証言である。