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どうしようもない、 -side:A-/Novel by 上総

どうしようもない、 -side:A-

12,465 character(s)24 mins

ウリをしているアーチャーが学生時代にこっぴどくフラれたランサーと再会する話。
・始終アーチャーが女々しい
・アーチャーがモブと寝ている旨の描写あり
ツイッターで呟いていたネタをリライトしたものです。後半はランサー視点の予定。

素敵な表紙はこちら(illust/60635209)よりお借りしました。

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「信じらんねぇ。気持ちわりーな、お前」

 ランサーはそう吐き捨てて、アーチャーから視線を逸らした。どくどくと心臓が嫌な跳ね方をする。全身から冷や汗が吹き出して目眩がした。絶対的な拒絶の言葉に、アーチャーは震える声を必死に押さえつけながら、そうだな、と他人事みたいに頷く。

「すまない。君に嫌な思いをさせるつもりはなかったんだ。本当に申し訳ない。今のは忘れてくれ」

 なんとか笑って誤魔化そうとしたが、けれどそれ以上はどうにも表情を取り繕うことが出来ず、アーチャーは逃げるようにその場を去る。
 走って、走って走って走って。
 なのに一向に彼との距離は縮まらない。嗚呼、私は彼から逃げることが出来ないのかと絶望したところで。

 目が覚めた。


   ◇


 時刻を確認すると、まだスマホのアラームが鳴る前だった。アーチャーはぐるりと室内を見回し、ここが自分の部屋であることを確認してから安堵の溜息を吐く。
 夢だ。
 いやにリアルな夢だった。 
 高校時代の苦い思い出。
 彼の珍しい、夏の青空を思わせる蒼天の髪が強烈に目に焼き付いているせいか、ランサーは夢の中でもいやに眩しい青を纏っていた。

「しつこい男だな」

 もう十年以上も前の話だ。良い加減記憶から薄れてくれたら良いのに、ランサーの青は未だにアーチャーを睨んで離してはくれず、こうして時たま夢に現れてはアーチャーの胸を刺し穿つ。

 夢の中の男、ランサーことクー・フーリン・L・アルスターは、アーチャーの高校時代の友人である。
 だった、という方が正しいかもしれない。

 アーチャーは高校の卒業式の日に彼に愛の告白をし、そしてこっぴどく振られた。夢と同じように気持ちが悪いと拒絶され、恋人どころか友人としての立ち位置さえ失った。
 ランサーはアイルランドからの留学生で、とても奔放な男だった。少し喧嘩っ早いところはあるものの、愛嬌があって面倒見も良く誰からも好かれるさっぱりとした性格で、彼の周りには常に人が溢れていた。
 同じクラスだったアーチャーは、委員長だからと担任の教師からランサーの案内係を任されたことで、彼と親しくなった。

 ランサーは美しい男だった。

 白人特有の白い肌とくっきりと筋の通った目鼻立ちは彫刻のようで思わず見惚れたし、赤い瞳は宝石と見紛うばかりの光を放っていた。そしてなにより、その髪。澄み渡る青空を見上げる度に彼を思い出さずにはいられない、輝くばかりの蒼天。
 思えばアーチャーの一目惚れだったのだろう。彼を好いていると自覚した日は、アーチャーが己の性的指向──自分がゲイであるということを自覚した日でもあった。

 だから、初恋だった。
 初めて他人を好きになった。
 笑ってしまうくらいに稚拙な恋だった。

 本当は、告白する気など無かった。
 本人に確かめるまでもなくランサーはヘテロで、その人好きする性格と整った容姿で常に彼女がいた。不思議と長続きはせず、どんなに長くとも三ヶ月もすると相手に振られてはいたが、またすぐに新たな彼女が出来るので、高校の三年間でフリーである時期などアーチャーが知る限りは皆無だった。

 その日。
 卒業式の日。

 最後のホームルームの後に彼女に呼び出されたランサーは、すぐに教室に戻ってきて、また彼女に振られたのだとアーチャーに嘆き始めた。
 いつものことだ。
 慰めてくれと全身で訴えるランサーに、アーチャーは特に優しい言葉をかけたりはしない。「またかね」と少し呆れたように肩を落として、それから帰り道にアイスを奢る。冬なら肉まんになったりするが、それでランサーの機嫌はけろりと直る。
 彼女と別れる度に、アーチャーはいつも少しだけホッとして、また直ぐに新しい彼女が出来る度に少しだけ胸が痛む。
 恋心を自覚してからは、そんなことの繰り返し。
 たがその日は違った。
 最後の日だった。
 ランサーの実家は、金融関係を中心に様々な種の企業を傘下に置く世界でも有数のアルスター財閥である。彼はその御曹司であり、故に高校卒業後はアメリカの大学に進学し、ゆくゆくは現社長の父親の跡を継ぐことが決まっていた。つまり、数日後には日本を経つことになっているのだ。
 あちらに帰ってしまえば、もう二度と日本には戻って来ないかもしれない。二度と会うこともないかもしれない。
 最後かもしれない。
 卒業だからと、勇気を振り絞って告白をする男子がいた。第二ボタンを求める女子がいた。見事カップルになる者もいれば、盛大に振られる者もいた。特別な日にどこか浮ついた雰囲気は確かにあって、アーチャーもそんな空気に乗せられてしまったことは否めない。

「……私なら君を振ったりしないのに」
「ハハッ、なんだよソレ」

 ランサーは冗談だと思ったようで、最初はアーチャーの言葉を軽く流していた。

「君のことが好き、なのだが」
「はぁ?」
「その、友人としてではなく……」

 心臓がばくばくと煩かった。ランサーにもこの音が聞こえているのではないかと思うくらい大きく脈打って、震える手をぎゅっと握り締めた。言葉が上手く出てこなくて拙い告白となったが、ランサーはその意味を正しく理解したようだった。
 途端に整った顔が強張る。
 顔色が失せ、ただでさえ白い顔が更に青白くなる。

「おいおい、冗談だろ?」
「いや……」
「マジなのか」
「ああ」

 その時のランサーの顔を、アーチャーは忘れない。愛嬌の塊のような男の顔に満ちた嫌悪の色。軽蔑の眼差し。十年を過ぎた今でも鮮明に思い出せる、拒絶の表情。

「ラン、」
「信じらんねえ」

 アーチャーはまだ十代で、己がゲイだと自覚して間も無く、そして初恋だった。どんな刃物よりも、ランサーの言葉は鋭利だった。

「気持ちわりーな、お前」

 分かっていたのに。
 ランサーはヘテロで。
 ホモセクシュアルのアーチャー とは違う。
 分かっていたから、この気持ちはずっと胸に仕舞い込んでおくつもりでいたのに、ほんの一瞬の気の迷いで全てを台無しにしてしまった。

「……そうだな」

 笑えた記憶はあった。告白するつもりが無かったので、告白を断られた時のことも考えていなかった。ただ凍り付いた場を誤魔化したくて、無意識に笑ったのだろう。
 気持ち悪いと、そう言ったきり顔を背けてアーチャーの方を一度も見ないランサーに、せめて友人としていることは許して欲しいなどと縋ることは出来なかった。

「すまない。君に嫌な思いをさせるつもりはなかったんだ。本当に申し訳ない。今のは忘れてくれ」

 では、向こうに行っても元気で。
 震える声を抑えて、アーチャーは別れの挨拶だけは言うことが出来た。鞄を掴んで逃げる様に教室を飛び出し、まだあちこちで名残惜しそうに残る生徒の間を擦り抜けて学校を出ると、図ったかのように到着したバスに乗り込んだ。
 覚束ない足取りで空いている席に座る。学生で乗車したのはアーチャーだけで、他には病院帰りらしい老人が数人乗っているだけだった。

「っ…………」

 バスが発車すると同時に、アーチャーの目からぼろぼろと涙が零れた。耐えていたものが堰を切ったように溢れてくる。周りに気付かれないように身を屈めて制服の袖で口を覆い、声を殺して泣き続けた。
 アーチャーはまだ十代で、己がゲイだと自覚して間も無く、そして初恋だった。
 いつも降りる停留所を通り過ぎても立ち上がることが出来ず、いくつもいくつも停留所を見送って終点でやっと運転手に声を掛かられたので、泣き腫らした目でバスを降りた。
 終点は真昼間の繁華街だった。
 その通りの奥に、隠れるようにいくつかゲイが集まるバーがあることをアーチャーは知っていた。自身がゲイだからではなく、クラスの男子が面白可笑しく話していたのを聞いていたからだ。
 吸い込まれるように、大通りを一つ外れた細い路地に足を踏み入れる。いくつかバーが並んでいたが、どれも営業時間は夜からで開いている店は無かったし、店構えからはどれがゲイバーなのかも分からなかった。
 なんだか全てに拒否されている気分だった。
 ふらふらと路地を歩いていると、一軒だけいやに黒い外装の店があって、目を引いた。飾り気の無いただ黒いだけの店舗が逆に目立っていた。アーチャーが足を止めてその黒い壁を眺めていると、中からドアが開いてスーツの男が出てきた。四十代くらいのその男は、制服姿の学生が店の前に立っていることに一瞬目を丸くしたが、すぐに苦笑いを浮かべて「成人したら来な」と言った。顎髭がセクシーな男だった。

「俺、ゲイなんです」

 突然そんなことを言われて、男も大いに困ったことだろうが、アーチャーの赤く腫れた目元と涙の跡に何かを察してくれたのか、男は「そうか、俺もだ」と優しく頷いてくれた。
 なんとなく、目が合った瞬間に彼もゲイなのかもしれないと感じるものがあった。だからアーチャーは救いを求めるように手を伸ばしたのだが、まさか男が見知らぬ子供の手を本当に掴んでくれるとは、思いもしなかった。
 ぼろぼろとまた涙が溢れた。
 俯いて泣き始めたアーチャーを、男は開店前の店の中に招き入れ、こんなものしか無いがと温かいココアを淹れてくれた。
 後に彼が語ったところによると、優しくしたのはアーチャーが好みのタイプだったかららしいが、理由はどうあれアーチャーが彼に救われたのは事実だった。
 顎髭の彼が、アーチャーの初めての男となった。
 経験豊富な男に導かれるまま、アーチャーは彼に男同士のセックスを教え込まれた。前後の処理の仕方、後孔の使い方、最中に注意すべきこと、快楽の拾い方。
 紳士的な男だった。
 それだけは、アーチャーは幸福だったと言える。何度も彼とセックスをして、未熟な身体を拓かれた。
 彼と一年付き合って別れた後、アーチャーは色んな男と寝るようになった。どうやらアーチャーの容姿はゲイに受けるらしく、大学生の頃は禁欲的な高校時代とは真逆の熟れた性生活を送っていた。
 魔性のゲイと言い出したのは誰だったか。
 どうもアーチャーは相手に尽くし過ぎるきらいがあり──そこに一切の恋愛感情がなくても、である──セフレであった筈の相手が本気になってトラブルに発展することが多々あったので、馴染みの店ではいつの間にかそんな肩書きが付くようになってしまっていた。
 アーチャーとしては不本意だったので、社会人となってからはバーで出会いを求めることを止め、副業でゲイ向けの出張ホストを始めた。早い話が『ウリ』である。予約が入れば店から連絡が来て、指定された場所へ向かい客とセックスをする。初めにあくまで金銭の発生するサービスなのだと線を引くことで相手を牽制し、またセックスをする時しか会わないので必要以上に尽くし過ぎて相手を依存させることもない。合間に戯れで「好き」という言葉を求められることはあるが、向こうと同じだけの重さの恋愛感情を期待されることもない。
 あの高校の卒業式の日以来、アーチャーは誰かを本気で好きになったことはなかった。アーチャーにセックスを教えてくれた顎髭の彼のことも、ついぞ恋愛として好きになることは出来なかった。
 だから、この仕事はアーチャーに合っているのだ。ちょうど良い距離でセックスが出来る。需要が続く限りは、なるべく続けたいと思っていた。


Comments

  • あさはな
    January 3, 2021
  • Corntea
    December 24, 2020
  • kiyo
    December 22, 2020
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