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【槍弓】看病されるならお前がいい/Novel by 日月

【槍弓】看病されるならお前がいい

10,828 character(s)21 mins

 お久しぶりです。もしくは初めまして。
 2年程前の冬に思いつき、情勢的に書きにくいなと見送り、去年書いたはいいもののやっぱり情勢的に(以下略)という感じで書くだけ書いて出すタイミングを逃していたんですが、せっかくの機会なので。季節は特定していませんが、夏っぽい話ではないです。
 最後の数行を広げて書いたら面白そうとの自分のメモが残っているんですが、どう広げようとしたのか謎です。やたら人間っぽい話になったので、サーヴァントらしい話もまた書きたいですね。
 以前から因縁のある槍弓がカル〇アで惚れたり惚れ直したり自覚したりする話は何度でも読みたいし書きたいです。

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 ぐらり、とカルデアの何の変哲もない地面で揺れを感じて、は?と一緒にレイシフトから帰還したばかりのマスターやアーチャーを見遣る。二人は何の異変も感じていないようで不思議そうな顔で見返してきたが、オレの後ろでバタン、という音がした瞬間に緊迫した空気になる。
「なん、だ?」
 やたらと重い身体を捻って音のした方向を見れば、共に同行していたアルジュナが倒れ、ギルガメッシュが膝をついていた。あのギルガメッシュが、である。オレの身体も鉛でも背負っているかのように重い。何かがおかしい。帰還前には特に変わったことはないように思えた。かといってカルデアに罠が仕掛けられているとも思えない。レイシフト先で何かしらの遅効性の呪いでも背負い込んだだろうか。原因がなんであろうととにかくマスターをこの異変から引き離さなければならない。
「あーちゃー」
 掠れた声でサーヴァントの中で何故か唯一無事らしいアーチャーを呼べば、アーチャーは駆け寄ろうとするマスターを既に引き止めていた。
「マスター、君は下がれ」
「でも……!」
 激しく首を振るので結んだ髪が左右に揺れ動く。動いているんだよな? オレがふらついてんじゃねえよな?
「伝染性のものならばまずい。ダ・ヴィンチを呼んで来てくれ」
「なら危ないのはエミヤだって同じでしょ! 私がまず回復を」
 アーチャーが粘るマスターを制したままアルジュナの側にしゃがんで様子を窺う。息は荒いが目は薄っすらと開いているようだった。多分。オレ自身も目が霞んでよく分かんねえけど。
「意識はあるし意思の疎通も可能だ。ランサー、君はどんな感じなんだ」
「あ? 身体が重いだけだ。オレは大したことねえよ」
 マスターを安心させるために何の問題もねえよ、といつもと変わらないトーンで伝える。
「という訳で、すぐに取返しがつかなくなる状態ではない。私とランサーで近くの部屋に運んでおくから」
 ほら、と再度促されてマスターは振り返り、振り返りながらもダ・ヴィンチを呼びに駆けて行った。
「年頃の嬢ちゃんに心配されるってのは悪くねえなあ」
「軽口を叩く元気があるようなら何よりだ」
 アーチャーは投影開始、と突然白い台を出現させてアルジュナを台の上に横たえる。確かにアーチャーに異変は起きていないようだが、レイシフト後で魔力が満ちている状態でもないのに何をやっているのか。
「オレとお前で運ぶんじゃねえの」
「君だって体調が悪いんだろう」
 何かしらの制約を身体に受けているように感じていたが、体調、と言われて確かに風邪のようなもんだと思い当たる。尤も生前は風邪とは無縁だったので、ひどい怪我を負った時の発熱と同じようなもんだな、という認識だ。
「マスターにも言ったが、」
「安心させるための方便だろう。ストレッチャーでは一人ずつしか運べないので少し待っていてくれ」
 後半はギルガメッシュに呼び掛けて、止める間もなくカラカラと白い台を押していく。腕組みをして目を閉じていたギルガメッシュはアーチャーが背を向けてからよろよろと立ち上がる。
「おい。動かねえ方がいいんじゃねえの」
「あの白い台に乗りたいのならば待てば良い」
 不機嫌そうに吐き捨てながらもゆっくりと歩き出すのにうんざりしながら後を追う。アーチャーが選んだのはすぐ近くの空き部屋で、オレ達がついた時にはもうがらんとした空間に二つのベッドを投影していた。オレ達が勝手に動くことは想定していたのか特に文句は飛んで来ない。
「言っとくが、オレの分はいらねえからな」
「しかし君も」
 言い募ろうとするアーチャーは気にせずに壁にもたれかかる。強がったものの動ける気はしない。意識を失う寸前に見えた表情は心配そうで、自分の面倒を自分で見ることも出来ないとは、と皮肉の一つでも飛んでくるかと思っていたオレとしては意外な反応だった。

 ぐわんぐわんとただ白一色のはずの天井が回って見える。横になってんのに眩暈がするなんて相当だな、とため息をつきたくなる。きちんと布団を被っているのが暑苦しくて自分の上からどかす。はねのけたかったが手足に力が入らないのでズルズルと動かすことしかできなかった。そうして横たわったまま様子を探っているうちにふとアーチャーの気配がしたような気がしてだるい頭を持ち上げてみたが、部屋には誰もいない。まあいるはずがないか、と枕に頭を戻す。特に拒絶感は感じないがカルデアでのアーチャーはオレに対してどこか一線を引いているようで、今までオレの部屋を訪れたことはなかった。
 ……というか、いつの間に自分の部屋に戻ってきたんだ。空き部屋でアーチャーと合流してからの記憶がない。スペースを占領している布団を押してベッドに腰かけてから通信機でダ・ヴィンチを呼び出す。
「そろそろ連絡が来る頃だと思っていたよ」
 すぐに応答があり、しかも画面越しのダ・ヴィンチは優雅にもカップを片手にくつろいでいた。切羽詰まった状態ではないのだな、と内心安堵する。
「マスターは無事なんだな?」
「もちろん。君も今は風邪のような症状が出ているだろうけど、ゆっくり養生すれば治るはずだよ」
「なんでサーヴァントが風邪引くんだよ。つうか同じ場所行ってんのにアーチャーは平気そうだったじゃねえか」
「彼は神性持ちじゃないからねえ」
「しんせいぃ?」
「ああ。マスターもエミヤも、様子を見に行った私も平気だったしね。どうやら神の性質を持つ者だけがかかっている、というのが見立てだ。アルジュナとギルガメッシュも帰還時よりは安定しているようだから一時的なものだろう」
「神性持ちだけにかかる呪いか?」
「恐らく。しかも風邪のようにうつるようだね。アスクレピオスが往診したのだけど、途中から彼も咳をしだしてね。無理矢理引き離すような形になったから、ちゃんと診られた訳ではないんだけども」
「レイシフト先ではオレもあいつらも異常なんてなかったが」
「その辺も病と似ているね。かかってすぐよりも後からじわじわ苦しくなってくる」
「嫌な呪いだな」
 半神だから他の二人程の症状は出なかったんだろうが、誰かにうつす可能性があるならば下手に動けねえってことじゃねえか。
「呪いが解けるまではじっとしていてもらわないといけないんだが、体力をつけてもらった方がいいからね、食事なんかは運ばせてもらうよ」
「そりゃどーも」
 思わずうんざりしたような声を出せば、まあ君はレイシフト続きで働き過ぎだったしちょうどいいよと返される。
「ひどい症状は今の所見受けられないし、ゆっくり寝るのが一番さ。並行して解呪の方法も調べるから何か分かれば連絡するよ」
 じゃあ私もそろそろ戻るよ、と通信を切られそうになるのを待ってくれ、と引き留める。
「オレを部屋に運んだのは誰だ」
 いくら意識を失っていたとはいえ、サーヴァントであるオレが起きることなくつれてこられたということは相当気を遣って気配を断っていたんだろう。
「エミヤだけども? 起きた時側にいなかったかい?」
「誰もいなかったな」
「おや、何か用事でもあったのかな」
「アンタ、そろそろ連絡が来ると思ったっつってなかったか。オレが一人しかいないから話を聞きに通信を繋いだって分かってたんじゃねえのか」
「いいや。エミヤに説明については私の方からちゃんとする、と伝えていたからね」
 どうしたんだろう、と首を傾げているのは演技には見えない。聞き出せることもなさそうなので、時間を取らせて悪かったな、と伝えて通信を切った。
 布団を被り直して考え込む。ひどく世話焼きなアーチャーが誰かに手を貸すということは全く不自然ではないが、オレを助けるというのは違和感がある。まあカルデアでは仲間なのだからという理由ならば分かるが、それならばそれで意識が戻るのを待たずに去るだろうか。なんとなく隔たりのあるオレに対してだって、倒れた後の様子も見ずに去るなんてことは考えにくい。不調の理由が分からなくてうつる可能性があるとしても確認をしてから離れそうなものなのに、更にダ・ヴィンチと連絡を取って側にいても問題ないと判断した上でなお置き去りにした理由はなんなのか。誰かに呼ばれたか、まさかレイシフト後の連続投影で霊基がおかしくなったか。もしくは単に夕食の仕込みに行きたかったとか? 考えたいのに、頭の芯も重ったるくて思考がままならない。直接確かめに行ってしまいたいが、今カルデア内を歩き回る訳にもいかないだろう。もしオレの部屋に食事を運ぶのがアーチャーならば、なんでなんだって聞けるのに。ずるずるととりとめのないことを考え続けるのが面倒で目を閉じる。病は気を弱らせる。風邪のようなものだというならば、ダ・ヴィンチの言っていたように眠って回復するのが一番だろう。

 何かの気配を感じてふっと目を開ける。ついさっきも同じようなことを感じたよなあと思いつつ辺りを見回すが特に誰かがいる様子はなかった。どのぐらい眠ったのかは分からないが体調は特に良くなってはいないようで、膜越しに見ているかのように意識がぼんやりとしている。ただ感覚が鈍い割に無性に何か食べたくてたまらない。食堂へ向かうか、とやたらと重く感じる布団をどけて壁に手をつきながら入り口を開ける。そうして自分が今うろつけない状態であることを思い出す。あああ、と息を吐いたら効きにくくなっているはずの鼻にいい香りが届いた。廊下には小さな台があり、台の上には鍋が置いてあった。ご丁寧なことに横にはコンロも設置されていて、ふたを開ければ粥がたっぷり入っている。置き手紙の類は何もなかったが、オレの部屋の真ん前にあるということはオレ用ということだろう。もう湯気も見えない粥を立ったままひとさじすくって口に含む。味覚も鈍っているのか辛うじて塩気を感じる程度だが冷えていても美味い味、そしてコンロまで置いて行く辺り、アーチャーによるものだろうと思う。まあアーチャーの作った料理は結構な種類を食べているものの、粥は食べたことがないから確かなことは言えないが。
持ってきたんなら声かけろよな。顔を合わせたくなかったのか? とマイナス方向に考えてしまう頭を振って台を持つ。ベッドの側まで運ぶ気力がなくて部屋の中に引き入れるだけ入れて扉を閉めた。つまみを回せばカッカッカッと音を立てながらコンロに火が灯る。どのぐらい温めたらいいのかと考えることさえ億劫で、火をつけたままスプーンですくって口に入れていく。米の形は残しつつも噛むまでもなく舌でつぶせる程柔らかい。残りが少なくなればなるほど水分が蒸発していき、最終的に熱くなり過ぎた底の方まで残さず食べる。火を消したのだけ確認してずるずると壁にもたれて座り込んだ。腹は満たされたがまだ体力も魔力も戻ったという実感は薄い。
 ベッドにも戻らずにうとうととまどろみかけていたらシュンッと扉が開く音がして反射的に立ち上がる。扉の前には不思議そうな顔をしたアーチャーがいた。
「……いきなりなんだ」
「いや、勝手に開けるつもりはなかったんだ。器を回収しなければと思っただけで。廊下にないようだから声を掛けようと」
 気まずそうな様子はやっぱりらしくないが気づかないフリをしておう、と答える。
「やっぱお前が作ったもんか。ちょうど食い終わった所だ。ありがとな」
 伝えれば、ぽかんとされる。
「なんだよ」
「君が感謝の言葉を述べるなんて」
「はあ? そんぐらい」
 言ったことあんだろ、と口にしかけて止まる。美味いとは常日頃から思っているが、直接伝えたことがあっただろうか。
「まあ全て食べきれたならば良かった。後はゆっくりと寝たまえ」
「いや、ちょっと待て」
 思わず引き止めれば怪訝そうな顔で振り返る。
「無言で廊下に置いて行かれちゃ気づかねえこともある。今度から声かけてくれ」
「コンロも置いているのだから、食べたい時に運べばいいだろう」
「出来立ての方が美味いだろ」
 食い下がれば渋々といった様子で頷く。何か理由を作ってまで断りたい訳ではないのだな、と安心する。いや安心ってなんだ。別にイヤだってんなら無理に頼み込むようなもんでもねえ。
「ではまた、夕ご飯の時に」
「おう」
 さっきの粥は昼ご飯だったのか。となると、レイシフトから戻って、半日以上寝ていたという所か。確認したいことは多々あれど、なんでもないような顔をして会話をしているのも体力的に限界で、じゃあなとアーチャーを送り出した。

 布団にぱたんと倒れ込んで、覚醒したのはアーチャーが次の粥を持って来た時だった。ただ寝ているだけとは随分呑気というか何というか。呪いのせいだとはいえサーヴァントとしてどうなんだ。ノックをして、更に声を掛けてオレの返事を聞いてからという几帳面な入り方をしてきたアーチャーはベッドに腰かけたオレの表情を見て、どうした?と気がかりそうな様子を見せた。
「具合が悪いのか? まさか悪化しているとか」
 粥をテーブルに置いてオレの顔を覗き込んでくる。
「いいや。寝てるだけってのもなあと思っただけだ」
 首を回して身体のコリをほぐす。残念ながら状態が良くなっているということはなかったが、悪くなっていることもないようだった。
「病人は寝ているのが仕事のようなものだ。しっかり休むべきだろう」
「分かってっけどよ。な、治ったら手合わせしてくれよ」
 やれレイシフトだ料理だと断られることばかりなので、今回も無理なんだろうなと思いつつ誘ってみる。
「構わないが」
「えっいいのか!」
 思わぬ言葉に喜べば、アーチャーは眉間に皺を寄せて念を押してくる。
「完全に治ってからだぞ。弱っている君では勝負にならん」
「万全な状態で臨むに決まってんだろ」
 売られた喧嘩に応えずにニヤリと笑って見せれば、アーチャーはオレに向かって手を伸ばしてきた。殺気は感じないので、払いのけることはせずに見上げる。アーチャーの手はヒタリとオレの額に到達した。冷たさが心地良くてすり寄れば、手は離れて代わりにアーチャーの顔が近づいて来る。口づけるならもう少し雰囲気を作れよな、と思っていたら、口ではなく額同士がくっついた。
「やはり熱があるな」
「……は?」
「喉の調子は?」
「特に……」
「まあいずれにせよ寝ていた方がいい」
 そっと押されて大人しくベッドに横たわったのは抵抗する力がなかったからではなく単純に混乱していたからだ。コイツ、今、何をした? そして口づけかと思いながらなんでオレは普通に受け入れようとした?
「君が私の煽りに言い返しもせずに笑っているなんておかしいと思ったんだ。調子が悪いなら寝ていろ」
 布団まで被せられた所で我に返って、勢い良く起き上がる。
「なんで額合わせてんだよ!」
「何故って……ああそうか、馴染みがないのか。熱を測るためだ。しかし君の場合、不審に思うならば避けるだろう。調子が悪いのは確かなのでは?」
 急いで参照した聖杯の情報によれば確かに熱を測る時に額で確認することがあるらしい。親子でやることが多いようだが。それはそうだろう。何事かと思った。
「他に計り方あっただろ」
「当然体温計の方が正確ではあるが。近づいてうつるものでもないのだし、何か問題があるか?」
「ねーけど」
「ならば寝ていろ」
「別に寝込むようなもんじゃねえ」
「駄々っ子のようなことを言うな。マスターが心配しているのだから早く万全な状態にして元気な姿を見せろ。人の気配があると眠りにくいというならばきちんと布団に入ったのを見届けてから速やかに去るから」
 マスターが、ねえ。なーんか面白くねえんだよなあと思いつつテコでも動く気がなさそうなアーチャーを見て布団にもぐる。そしてすぐに起き上がった。
「もう少し落ち着けないのか。身体に障るぞ」
「いや、メシ食ってねえなと思って」
「後でいいだろう」
「さっきも言っただろ。出来立てがいい」
「全く……」
 アーチャーも早く食べたいと言われて悪い気はしないのか、運び入れていた台をベッドに近づける。
「ほら」
「ん」
 半分布団に隠れていた右腕を持ち上げようとして細かく痙攣していることに気づく。自覚がなかった程だし、食べるのには支障がないだろうが、震えているということは確実に悟られる。怪しまれずに食べる方法は。
「お前が食わせてくれ」
「……は?」
 重低音で返された。というかやっぱり熱が上がってそうだ。判断力が正常だとは思えない。
「冗談だ冗談」
 誤魔化すようにせめてと思って比較的まともに見えそうな左腕を出そうとすれば、何を思ったのかアーチャーがスプーンを手にする。大人しく願いを聞いてくれる理由は分からないが、表情は硬い。いいのか、なんて返せば手を引っ込めてしまいそうで黙って口を開ける。迷いを振り切るように勢い良く差し出されたスプーンを仰け反りながら受け止めれば、少量の粥が口の中に入ってくる。サーヴァントには関係ないはずなんだが、熱いからというのを考慮して少なくしたんだろう。同じ味ばかりでは飽きると思ったのか、今度の粥には卵が入っている。
「んまい」
「そうか」
 ほっとしたような顔をして更にスプーンを突き出す。続けるのか、と思いつつ、最後のひとさじまで互いに無言でやり取りを繰り返した。
「ごちそうさん」
「お粗末様」
 台を持ち上げようとするアーチャーにもう行くのか、と声をかける。そんなに速攻で効くものなのか、と思うが粥を食べたおかげなのか、身体の震えは止まっていたので繕う必要はもうない。
「子守歌でも歌って欲しいのかね?」
 皮肉屋な面も戻ってきたらしい。
「お前の良い声で歌ってもらったらよく眠れそうだな」
「本気で言っているのか? 弱り過ぎではないかね」
 困惑しながら台から手を離したアーチャーの腕を掴んで布団に引き込む。
「なっ」
「ついでにあたためていってくれ」
「寒いなら湯たんぽでもヒーターでも投影してやるから!」
「んー」
「ランサー!」
 抱き締める力を強めれば、とがめるように語気が強くなる。
「湯たんぽってなんだ?」
「保温性のある袋にお湯を入れる道具だ。抱えていればあたたかい」
「お前を抱えてる方が魔力供給にもなっていいだろ」
「しかし」
 アーチャーの反論を聞き流しているうちに瞼が重くなってくる。
「お前、他の奴なら喜んで世話するだろうに……」
 つい内心を漏らせば、アーチャーは抵抗を止めた。
「別に、君のことだって」
 続く言葉は気になったが最後まで聞き遂げることはなく、ことりと眠りに落ちた。


 いつになくすっきりと目覚めれば、目の前に不機嫌そうな顔のアーチャーがいた。
「はよ」
「おはよう」
 アーチャーはオレの腕を持ち上げて自身の上からどかし、ベッドに腰かけた。別に逃れられなくて仕方なく待っていた、という訳でもないらしい。すぐにでも立ち去りそうなアーチャーの横で、あーあー、と音程を変えて声を出していけば、思惑通りアーチャーは動きを止めた。
「何をやっているんだ」
「いや、声も治ったなと思ってな」
「声がおかしかったのは帰ってきてすぐの時だけだっただろう」
「そうだったか?」
「ああ。私が知る限りは」
「ま、他も調子良くなったわ」
「そうか。良かったな」
 平坦な声でしか返事がない。まるでボロを出さないようにしているかのように。何を聞こうか迷って、回りくどく聞くよりは最初から順を追って確かめるか、と早々に結論を出した。
「なあ、なんで部屋にオレを運んだ時、すぐにいなくなったんだ」
「用事があったからだな」
 アーチャーはつれない。嘘を吐いている訳ではなさそうだが、一切語るような気がなさそうなので追及するのは後回しにする。
「粥を廊下に置いて行ったのは?」
「人の部屋に勝手に入れないだろう」
「声かければ良かっただろ」
「寝ているのを起こす必要もあるまい」
 これも本音のような気がする。いつでも入っていい、と告げれば必要ない、と素っ気なく返された。
「じゃあ、オレ以外の所には行かなくていいのか?」
 質問の方向を変えてみればアーチャーが僅かに身じろいだ。素材集めに料理に洗濯にと走り回っているコイツが、そう何人も面倒を見られる訳がないのだから、来ているのはオレの所だけなんだろうと分かった上での問いだ。
「ギルガメッシュもアルジュナも後から調子の悪くなったアスクレピオスも、他の者が様子を見ている」
「で? 他の奴の所に行く選択肢もあったんじゃねえの?」
「別に誰が誰の所に行こうと問題ないだろう」
「お前が自ら志願してオレの所に来たのか?」
「私でない方が良かったかね?」
「まあな」
 弱っている所を見られたくない奴、という意味では一番不適任だ。
「そうか。ではさっさと退散するよ」
「待て待て待て、別に来るなって話じゃねえ」
「何故引き止める。そんなに話し相手が欲しいのか?」
 アーチャーは怪訝そうな顔をするが、オレだってオレ自身に問いかけたい。なんでこんなに離れがたいのか。
「いくら病に臥せっていても寂しいとか感じるタマじゃねえ」
「だろうな」
「お前は風邪の時どんなだった?」
「さあ、生前のことはよく覚えていないからな」
 問答を続ける限りは律義に付き合ってくれるらしい。ならば質問を考えようと改めてアーチャーを見据えて、魔力が妙に弱いことに気づく。
「お前は寝なかったのか?」
 問えばぎゅっとアーチャーの眉間に皺が寄る。
「あの状況で寝られる訳ないだろう!」
 ようやく感情を揺らしたアーチャーに、お、と思う。
「なんで?」
「そんなもの緊張するからに決まって……」
 オレのニヤニヤとした顔を見て失言に気づいたらしい、帰る、というアーチャーの前に先回りして立ちはだかる。
「随分と調子が良くなったようだな」
「おかげ様でな。で、オレの想像通りならば、オレはお前にキスしていいんじゃねえかと思うんだが」
「どうしてそうなる」
「好いてくれてるから落ち着けなかったんじゃねえの? すぐにオレの横でもぐっすり眠れるように慣れさせてやるからな~」
 ぎゅうと抱き締めれば肘打ちが返ってくる。
「おめでたい発想だな。元気のない君なんて張り合いがないからと看病をしただけなのに、こんな」
 屈辱を覚えている様子のアーチャーに攻める方法を変える。
「お前がオレを好いてくれているというのなら、オレは存外嬉しいんだが、ダメか」
 想いを寄せられるだけで情を覚える程単純じゃないのは自分が一番よく分かっている。アーチャーの好意を喜ばしいと思うのは、オレ自身がコイツを好いているからだろう。双方の感情に気づかなかったとは、今までもったいないことをした。
「ぐ、その聞き方はずるいぞランサー!」
 覚悟を決めたようにこちらを振り返ったアーチャーに近づけば、くしゅん、と肩を揺らしてくしゃみをした。オレじゃあない。アーチャーが、である。
「おま、なんで?」
「私に、神性なんぞ、ないのに」
 止まらないくしゃみの合間にアーチャーは声を絞り出す。
「とりあえず横になれ。オレのベッド使え」
「いや、この程度、で」
 ぐずぐずと鼻を鳴らし始めたアーチャーを無理矢理横たえる。心当たりがあるとしたら。
「魔力供給のせい、か?」
「は?」
「魔力のやり取りをしただろ。オレの神性がお前に混ざったんじゃねえの」
 両手の人差し指を行き来させるように動かせば、アーチャーは布団を引き上げて顔を隠してしまった。
「そんなこと、周りに説明できない」
 もごもごと布団越しに声が聞こえる。まあオレは構わんが、アーチャーとしてはそんな形でオレと同衾したということがバレるのは不本意だろう。別に一緒に寝ていただけでいかがわしいことには残念ながらなっていないが、邪推するものは少なからずいるはずだ。
「君はもう平気なのか?」
「ん? おう」
「強がりじゃないな?」
「そりゃ、マスターに対してだったら心配かけねえようにするけど。お前に対して強がってどうする」
 言えばふふ、と布団越しでもアーチャーが笑ったのが分かった。どうせならば顔も見たいが、時たまくしゃみをしているので出て来てはくれないだろう。
「さっきは震えているのを隠そうとしただろう」
「気づいてたのか」
「当たり前だ。良くなったのならば、念のため診てもらいに行ってこい」
「んー後でな」
「早く行ってこい」
「お前も診てもらうならば一緒に行くが」
「……治ってからしよう」
 実に遺憾です、とでも言いたげな声だ。オレはアーチャーを潰さないようにベッドに寝転がる。
「お前にゃ気の毒なことをしたが、オレとしてはこうやっていられるのも悪くない」
「じっとしているのは好まないのでは?」
「そりゃ、お前と戦える方がいいけどな。後キスできないのも困る」
「またそんなことを……。君より余程軽い症状のようだし、少し寝れば治るだろう」
「じゃあ寝ろ」
「では自分の部屋に戻る」
「いや、ここにいろ。手は出さんから」
「別にそんなことは心配していない」
 いや、考えた方がいいけどな? 今言ったことをすぐに違える気はないが。閨で事を成すような雰囲気にはならないままぽつりぽつりと話を続けながらアーチャーが眠りに落ちるのを待つ。アーチャーはそれなりに緊張している様子だったが、レイシフトの後もオレ達が倒れた原因を探るべく走り回ったりオレの世話をしたりと忙しかったのだろう。しばらくすれば声がしなくなった。布団をめくって寝顔を見たい衝動に駆られるが、今起こしてしまっては意味がない。ぽふん、ととなりに寝転がって目を閉じた。

 再び同じような状況で目覚めた時にはアーチャーはしかめっ面こそしていなかったが、甘い雰囲気にはやはりならなかった。何故そんな顔をしているのかと問いつめれば思いを疑っている訳ではなく、ただどう接していいのか分からん、と今度は顔をしかめて言われた。まあ、この表情は照れてんだなって分かれば今は充分だ。オレがふわふわしているのは変わらなかったが、これは体調ではなく気分が浮ついているだけだろうから、症状はよくなっているようだった。
 ちなみに、初めてオレの部屋に来た時にすぐにいなくなった理由についてはもっと仲が深くなってから聞いた。オレが弱って寝込んでいるのを見るのは忍びないのに、一方でいつもとは違う姿につい襲いたくなる気持ちもあったので退散した、という爆弾発言を。

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