【カオ転三次】世界が終わるまでのバイク旅   作:山親父

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久しぶりすぎて変な文章になってたらごめんなさい

やっべ、確認のために読み直したらカス子ネキの子が抜けてた
バッパラふーじん様、申し訳ない


本編
ある日の北海道ツーリングでの事件


 

 森の中のキャンプ場で[後編]

 

「ボクは自分が嫌いなんだ……」

 焚火台の上で焚火の炎がパチパチと音を立てる。微かに虫が鳴く声が聞こえ静寂の中エミールはキノの返答を待った。

「ボクは家族を守れなかった……あの時、ただ泣いて逃げるしかなかった自分の無力さが許せないんだ」

 キノは焚火台の側で寝る準備を始める。虫除けの魔香を焚き、地面にはシートを広げる。

「修行はしたし、それなりに力は付けた……でも、肝心な時に無力だった自分を認める事が出来ないんだ」

 シートの上に毛布を広げ、その上に座り込む。小さな枕代わりのクッションを置く。

「この世界は優しくないって解っていたハズなのに……二度目の人生だってのに家族が死ぬまで碌に努力もしなかった。そんなロクデナシなんだ」

 キノは夜空を見上げた。木々の隙間から零れ落ちる月明かりがキノを照らしていた。一人独白する、その姿はどこか寂しげだった。

「そんなボクを救ってくれた人が居た。僕はロクデナシだけど恩知らずには成りたくない。だからボクはボクが出来る事をやってきた」

 テントは要らない。雨は降らないそうだし、耐性を持つこの体は多少の冷気はモノともしない。

「ショタおじから合格も貰ったしね、この旅はおじいちゃんとの約束だったんだ……」

 そう独り呟くと、キノは己の相棒たるバイクに目を向ける。

「世界は汚い、メシアはクソだし、私欲の為に犯罪や殺しをする人間だって嫌と言うほど見てきた……」

「そんな汚い世界にも良い人は居る」

「故郷を守る為に必死な人……家族の為に戦う人……子供を守る為にガクガク足を震わせながらも悪魔に立ちふさがる人。そんな人達を見てると世界は捨てたものじゃない」

「世界にはマダマダ綺麗なモノが沢山あって……ボクはそれを知らないだけなんだって、そう思えるんだ」

「たぶん……たぶんだけどね? おじいちゃんはボクにこんな世界を沢山見せたかったんじゃないか? 今になってそう思えるんだ……」

 キノは毛布を被り横になる。

「世界は美しい……そんな世界を少しでも多く知りたくて……ボクは旅を続けているんだと思う」

 静寂の世界。何時もは饒舌な相棒も今は言葉を返さない。やがてキノは目を閉じた。

「もう寝るよ。お休みエミール」

 早々と眠りにつく主人にバイクのエミールは小さく言葉を返した。

「お休みキノ、良い夢を」

 エミールは願った。主人が悪夢に魘される事が無い様にと……神には祈らない。存在はしても役に立たない。それどころか害悪な神の方が多い事を知っているから。

 

 国道37号線

 

 べーン ベン ベン ベン!

 古いバイクがエンジンを響かせて走行する。速度制限は守り、安全運転。景色を眺めながらのノンビリしたツーリングだ。

 ベンリィ C95 1958年製のバイクで排気量154㏄ 主にアメリカ向けに製造していたホンダのバイク、その日本版だ。

 小柄なキノに調度良いサイズのバイクは祖父がレストアしてプレゼントしてくれた物だった。

 神社仏閣スタイル。ホンダの創始者がデザインした、モノマネではない日本のバイク。

 世界で初めて認められた。そう評価されるビンテージバイクだった。

 そして、命を助けてくれた祖父の形見の様にキノは思っている。

 大切に思う余り、シキガミにしたのは失敗だったかも知れない。先ほどから景色に見入るキノにテレパシーで『前方注意』だの『対向車来るよ』だのと煩い。

 古いバイクだけに付喪神に成りかけており、霊能者だった祖父の思念を日々受け続けていた。このバイクは祖父のもう一人の孫の様な存在に思えた。だからキノは無理を言ってバイクの付喪神をシキガミにしてもらいエミールと名前を付けた。

 バイク型のシキガミはガイア連合でも珍しい……初めてかも知れない。

 なにしろ、自分の身を護る為のシキガミなのに、コレは一緒に異界に潜るのも一苦労だ。

 キノは無理やり突入したが。上層では他のパーティから奇異の目で見られる位で大した苦労は無かったが、中層以降は大変だった。結局は無理やり力技で突破したのだが…

 

「ん? エミール、止まるよ」

 相棒に小声で一声かけると、ゆっくりスピード落としながらブレーキ。バイクを止め、ギアはニュートラルへ。

「どうしました、トラブルですか?」

 その男はT字路の道端にバイクを止め、草原で寝っ転がっている。キノが向かう洞爺湖町、男は真狩村へ向かう道の脇に無造作に大型のバイクを止めていた。

 そんな男に顔を向け、着けていたゴーグルを上にずらしてから、キノは声をかける。愛用の白いジェットヘルメットには虫除けの呪法が施されていて、キノとバイクは虫の体液で汚れていない。

 当たってもダメージは無いが潰れて体液で汚したり、死体が張り付いたり、口に中に飛び込んでくるヤツラはバイク乗りの敵だった。これだけでもガイアに所属する価値はある。バイク乗りのキノはそう確信している。

「車通りは少なくても不用心だし危ないですよ」

 ハーレーダビットソン 大型のバイクは路肩にあっても邪魔だ。片道一車線の小さな国道では尚更だった。トラブルなら押して歩いて、もう少し安全な場所まで移動させるべきだ。

 そんな心配をするキノに帰って来た答えは不愛想かつ乱暴なものだった。

「ああん? ほっとけ、俺の勝手だろ?」

 バイクのトラブルではなさそうだ。男は上半身だけ起き上がるとキノに応えた。

「因縁つけてくるなら、カモるだけだしな。俺はツエーから問題ねえよ」

 男は肌開けた革ジャンの内側に右手を入れている。

『キノ、コイツ銃を持ってる。ショルダーホルスターだと思う』

 相棒からテレパシーで警告を受けたキノは態度に出さない様に注意しながら男に応えた。

「問題が無いんなら良いんです。トラブルかと思ったので。バイク乗りは助け合いですからね」

 そんなキノの言葉に男は返す。

「助け合いねぇ……そんな呑気な時代はもう終わりさ。これから力が全てな時代が来るぜ!!」

『コイツ霊能者だ』

 キノは男から感じる威圧感を受け流す。一般人にかけるプレッシャーじゃない。並の人間なら気絶するだろう。

『多分レベルはそれなり……現地人としてなら超上澄みかな』

 キノは男の実力を20以上30未満くらいと値踏みした。

 ガイア連合以外の霊能者なら10レベルも有れば強者だ。キノには全く及ばないが今までは敵なしで来られたのだろう。”挫折を知らない危ないチンピラ”キノは男をそう結論付けた。男の後ろには羊蹄山が見える。確か初冠雪が観測されたばかりの筈だ。 

「えーと、じゃあボク行きますね」

 関わり合いに成りたくない。そんな空気を出しながら、キノはゴーグルを眼に被りバイクのハンドルに手をかける。勿論油断はしない、何時でも反撃できる様に意識している。

 マトモな霊能者とは思えない。こいつはダークサマナーなのかも知れないが、どちらにしても昼間から大っぴらに争う必要は無いし関わりたくない。討伐依頼でも有れば話は別だが……

「へえ……コイツを受け流すかー、それなりにヤル様だ。それとも肝が据わってるだけか? おい、大儲けできる仕事があるんだ。手伝わねえか?」

 男が誘いをかけて来る。

 キノは自分の力を隠している、実力者には通用しないが、この男に其処までの実力があるとは思えない。単純にビビらないキノが使えると思ったのかも知れない。

「犯罪はお断りですよ」

「犯罪じゃねえよ、危険な裏の仕事ではあるがな」

「どちらにしてもお断りです。今はお金に困ってませんし、自分の仕事は御自分で片づけてください」

 そんなやり取りの後、キノはバイクを発進させる。

「ちっ、ポンコツに乗る根性無しが……」

 悪態をつく男を後ろにキノは走り出した。

 

『キノ、あの男ほっといて良いの? 危なくない?』

 エミールの疑問は最もだが、キノには判断できるだけの情報が無い。

「危険と言えば危険だけど…あいつがダークサマナー? それともダークハンターとでも言えば良いのかな? まあ、悪人って証拠は無いし、危険と言うならボクの方が危険だからね」

 キノのレベルは50を超える。危険度は遥かに上、神を名乗れる悪魔と同じかそれ以上に危険な存在だ。

「さて、そろそろ左折だ。数日は洞爺湖温泉に泊まるよ」

 ウインカーを鳴らし、左に曲がる。それなりの距離を走ったら湖が見えてくる。一度公園に止まり休憩、コンビニで買って置いた缶コーヒを開けて一口啜る。

「ホットの方が良かったかな?」

『どうせキノは熱くても冷たくても一緒じゃない? 簡単には火傷も凍傷もしないし、その程度の温度なんて誤差でしょ』

「確かにそうだけど、気分が違うんだよ」

 たわいもないやり取りに気持ちが癒される。

「何も無ければ良いんだけど……」

 そうも行かないんだろうな。キノは内心つぶやいた。

 

 洞爺湖温泉町

 

「2泊3日ですね?」

「はい、そうです」

「バイクはあちらにどうぞ」

「わかりました」

『キノ、ゆっくり休んでね』

「ありがとエミール。また後でね」

 テレパシーで労ってくれた相棒に小声で答え、タンクを一撫で……エミールを駐輪場に止め部屋へと向かった。

 

 キノは予定していたホテルに入ると早速浴衣に着替え、お風呂に入る事にした。

 久しぶりの大きなお風呂、心が弾む。キノは一応うら若き乙女なのだ、身だしなみではマダNGを出される事も多いが……

 俗に言うTS転生をして早18年、いまだに馴染んだとは言えない。一応スキンケアとかは頑張っていると思うのだが。

 化粧っけは無いし趣味はバイクに銃。男のロマンを理解しまくる女だ……少年にも見える中性的な少女。見た目だけは良い、中身は察しろ。

 小柄で貧乳、刺さる人には刺さる外見だろう。ショートカットの髪は艶やかで、目も髪も日本人らしい黒。一応四分の一はドイツ系アメリカ人だと祖父から聞いている。亡くなった父がハーフだったらしい、キノは写真でしか両親を知らない。

 それでも素直に育ったのは祖父が愛情を注いでくれたからだとキノは信じている。前世でひねくれ過ぎて、これ以上歪みようがなかったとも言えるが。

 大浴場の前で銀髪の少女とすれ違う。

「ロシア系かな?」

 子供、それも小学校低学年くらいの少女が一人でいるのは少々不自然だ。

 思わず呟くも詮索する気は無い。そのままお風呂へ向かう。少女とはそれっきり……そうなる筈だった。

 

 初日は観光で終わった。

 大食いのキノはホテルの朝食をしっかり平らげても足りずに食べ歩きを慣行した。エミールに跨り出発、観光協会でガイド冊子を入手して、オススメのお店をハシゴする。

 火山を初めとする観光名所を見物しながら合間に食べ歩き。

 前浜の海鮮にご当地ラーメン、つい食べたくなったカレーを大盛で平らげてキノはお腹をさすった。

 満足したキノはホテルに戻ると夕食もしっかり食べ、温泉を堪能して平穏な一日が終わる。

「このまま平穏が続けば良いけど」

 キノには予感があった。霊能者のカンは馬鹿に出来ない、なにか事件が起きる。キノは覚悟していた。

 

 二日目、昨日と同じくバイクで出かけたキノは湖周りをツーリングしていた。

「嫌な臭いがする」

 悪い予感が当たったとキノは確信する。

 周りを見渡すと結界がある。そこにはハーレーが止まっていた。

「あいつのバイクだ」

 一昨日あったチンピラのバイクだ、ナンバーも同じで間違いない。

「どうするのキノ? 中に入る?」

 エミールが聞いてくる、結界の中に入るのか無視するのか。

 湖へ向かう小道、隠してもいない足跡。その中に混ざる一際小さな足跡が気になった。

「無視しても良いけど、後々厄介になりそう」

 キノの霊能者としてのカンが介入すべきと言っていた。

「仕方ない、様子を見て来るよ」

 エンジンは止めずにエミールを駐車し、キノは足跡を追って結界に侵入した。

 

 嫌な臭いが強くなる。結界の中に異界への入り口があった。

 こういう時は悪魔が絡んでいるに決まっている。独断と偏見で決めつける。実際、こんな臭いを出す存在がマトモとは思えない。それくらいに臭かった。

「これは武装した方がいいね」

 防具は問題ない。普段から着ているズボンとシャツ、ベストとジャケット、下着に至るまでガイア連合謹製の高級装備で、ヘルメットを脱いだ頭にゴーグル付きのパイロット帽をかぶる。これで完成するスタイルは別名キノなりきりコスプレセット。

 キノは前世で【キノの旅】として知られる作品の主人公に似ている。

 もっとも本人も周りも髪を切るまでは気が付かなかったのだが。

 キノは愛用のガンベルトを召喚し装備する。

「よし、召喚成功。カノンも金の杯も大丈夫。予備の弾薬も問題無し」

 原作に肖ってカノンと名付けたリボルバー コルト・M1872 7 1/2インチバレル .45ロング・コルト弾仕様 原作のキノが使用するリボルバーはシリンダーに自分で火薬と弾を詰めグリスで蓋をするパッカーションリボルバーのM1851、その.44口径仕様だと思われる。

 見た目は似ていても自分の物は金属薬莢のM1872。西部劇で有名なピースメイカーと同じ弾薬と言う事で気に入っている。これは父が残した物で、父もそれなりに腕の立つデビルバスターだったらしい。コレも付喪神と化している。祖父も父親も残してくれたのは付喪神。どこか因縁を感じる話だ。

 結局キノは生まれた時から悪魔と関わる運命だったのだろう。薄々とではあるが祖父から堅気とは思えない雰囲気を感じ取りながら、あの最後の日まで見て見ぬふりをしてきた。

 金の杯はコルト・ガバメントの競技用カスタム銃、ゴールドカップナショナルマッチ。.45ACP弾仕様の左利き用カスタム、口径はカノンと同じでも薬莢の種類が異なる。原作主人公はコルト・ウッズマンを森の人と呼び、愛用していたが、キノには.22口径の銃は豆鉄砲にしか思えず、アメリカ人が信頼する大口径で揃えていた。

 対人間用なら.22口径の殺傷力は十分だが、キノが相手取るのは悪魔なのだ。

 悪魔相手では普通の人間が撃つ銃では倒せない、.45口径でもソレは同じ。

 多少威力が上がったとて悪魔相手では意味が無い。しかし自分は並の人間ではなく霊能者である。しかも銃に特化した霊能者だ。自分が撃つ銃には悪魔を滅ぼす威力がある。

 同時に幼い頃から海外に出かけては射撃を経験させてくれた祖父やその友人の.22口径は豆鉄砲、玩具みたいなモンだ。と言う口癖もキノの心に根付いていた。認識は霊能に影響する、キノが豆鉄砲と思う以上、ウッズマンは主力足りえない。

 逆に.45口径は強力で必殺。と言う祖父の口癖はキノの認識を後押しする。故にキノの銃は悪魔相手に必殺足りえた。

 特に父の形見のカノンはキノにとって特別だ。形見と言うだけではなく戦う力として。

 右腰のホルスターに収まったカノン。後ろ腰のホルスターに収納した金の杯、どちらもスムーズに抜き差しできる事を確認し弾薬をチェック。ベルトポーチのアイテムを確認。全て問題無い事を確認したキノはスッと気配を消した。

  

 

「火をたけ 火をたけ……」

 幼い少女のささやき声が聞こえる、以前ホテルで見かけた銀髪の少女である。膝を抱えて座り込む少女は震えており、いかにも寒そうだ。

 それもその筈、その周囲では女神転生ではお馴染みのマスコット悪魔ジャックフロストが冷気を放っていた。25レベルの標準的な個体らしい。

『あの男の仲魔か……』

 キノが見つめる先では、あのチンピラが封魔管を手に仲魔へと指示を出している。冷気を出して、洞爺湖の守護龍ホヤウカムイを弱体化しようという事らしい。このままなら凍えて死ぬ、つまりは生贄と言う事だろう。

 この悪臭を放つ龍神は元は悪神とされながらも、その悪臭によって病魔を退けてからは洞爺のアイヌに守り神として祭られたという逸話を持つ神だ。寒さに弱く、冬には力を失うとの逸話もある。

『どうせ秋の真っただ中なんだから大して力も出せないだろうに』

 少女はおそらく巫女にされたのだろう。アイヌ文様の衣装とバンダナを身に着けた姿は観光地で良くみるアイヌ文化のそれと同じだ。おそらく少女にホヤウカムイを憑りつかせて干渉しようとしている。事実、少女に重なるように龍蛇の姿がうっすらと見える。

『あの娘、樺太アイヌの血でも引いているんだろうな』

 霊力があるなら巫女にするのは難しくないが、アイヌの血を引いているに越したことはない。しかし、この辺りの霊能者はガイア連合の道南支部の支配下にある。アイヌの血を引く霊能者はこの辺りなら居るだろうが、悪事に協力してくれるアイヌは皆無だろう。道南支部を統べる三人の女傑達には其れだけの実力と信望があった。

『だから外から連れて来た……』

 どうせ誘拐でもしてきたんだろう。キノは決めつけるが大体合ってるに違いない。何故なら少女を囲む一団の中にカソックを着た人物を見つけたから。

「さて、手順を確認します。この悪龍が十分に弱ったら、周辺に疫病の神パヨカカムイを嗾けます」

 カソックの男が喋りだす。配下は8名、傭兵として例のチンピラと言ったところか。

「パヨカカムイの封印はホヤウカムイが弱り切ったら完全に解けます。封印が解けたパヨカカムイは周囲に疫病をもたらすでしょう」

 周囲の男たちが頷きを返す。チンピラは興味なさそうだ。

「我々は疫病が広まりきった後に神の奇跡で治療して周ります。なにガイアの連中は気にする必要はアリマセン」

「我々はメシア教では無くカソリック教徒なのですから」

『ウソつけ。テメーらが真面な一神教のハズがあるか』

 キノは内心で吐き捨てる。ウソも方便とは仏教の言葉だが、それは人を救う場合の話であって、自分の悪事を胡麻化して良いという話ではない。

 北海道は【メシア教お断り】の地だが、なにしろ広すぎる。こうやってガイアの目を盗んで入国したり、隠れ住む事も不可能ではない。

「幸い、メシア教とは無関係の戦力も産まれる頃でしょう」

 此方に背を向けて立つカソックの男。その後ろには在り得ない程にお腹を膨らませた女性が8名。

 全員目隠しをされ手足を縛られパイプ椅子に括りつけられている。配下の男達は苦しむ女性達を後ろから押さえつけていた。

「異教の悪神と、その落とし子。我々とは無関係ですし、その被害を収めたならガイアの連中も文句は言えぬハズ」

「収めるのが無理なら、我々は逃げるだけ。死ぬのは主の愛を信じぬ異端者共……何も問題はありません」

 そう言ってリーダー役であろう、カソックの男がゲスな笑みを浮かべる。

「その場合でもガイアの小娘共の威信は低下するでしょう」

 ククククク……嫌な笑い声が唱和していた。

 

 パパパパン!

 いきなり銃声が響き、笑いの中心に居たメシアの男がよろめく。両手両足を撃ち抜かれていた。

「グアッ!」

 悲鳴を上げて倒れこむ敵リーダー。

「何事だ!」

 担当の女性から離れず、しかしキョロキョロと辺りを見回し動揺する取り巻き達。

「我慢できずに撃っちゃったけど、問題ないよね? あんたらテロリストみたいだし」

 気配を現したキノの姿が其処にあった。左手の金の杯から煙硝の煙が立ち上がっている。

 異界の最奥、戦力とやらが産まれかけ、瘴気が漂う周囲の状況を見て、キノは手出しをすることにした。アナライズの結果チンピラが26レベル、首魁が19レベルで部下達が12レベル。ガイア関係ならソコソコいるレベルだが世間一般では高レベルの人間だろう。キノから見れば全員誤差レベルの雑魚なのだが。

 どうせメシアには言葉が通じない。偏見かも知れないが経験上、疑いようもない事実。

 問答無用の実力行使。どうせ結果は変わらない、時短に越した事はないのである。

「野郎! やれっ、ジャックフロスト!!」

 チンピラの指揮も一歩遅い。指示を出した瞬間には炎の魔力を込めた銃弾が三発、ジャックフロストを撃ち抜いていた。

「弱点を突いたし、格下ならこんなモノかな? レベルの足しにもなりゃしない」

 キノは小声でボヤクとチンピラに声をかける。ジャックフロストは既に霧散していた。

「さて、素直に降伏するのをオススメするけど?」

 そう言っている間にマガジンチェンジ、左腕に着けた腕輪型の簡易使い魔が金の杯のマガジンを交換する。

 主人とテレパシーで繋がり、テレキネシスを使用できるマガジンチェンジ専用の簡易使い魔はガンカタを再現したいキノが特注で作らせたモノだ。コスパは悪いがキノは満足していた。

 チンピラを睨みながらも意識は妊婦たちに向けている。今にも産まれてきそうなソイツは禍々しいMAGを漂わせている。

「てめえ! ガイアの術者かっ!」

 チンピラが喚く、ジャックフロスト以外の手札が有るかと警戒したが持ってない様だ。

「ククッ、手札は補給すりゃあ良いのさ! さあ、産まれて来やがれ!!」

 チンピラは懐から取り出した怪しい薬を飲み干した。すると一時的にチンピラが内包するMAGが上がる。

 そのまま妊婦達にMAGを注ぎ、異形が妊婦の腹を喰い破ってウマレオチタ。

 カスンテ そう呼ばれる悪魔。パヨカカムイと人間の合いの子、アイヌ版ネフェリムとでも言った存在だ。ネフェリムも天使と人間の子である。

「こいつらが相手だ!」

 カスンテは母を見張っていた配下達を喰い殺すとコチラに向かってくる。

 アナライズ、初見の悪魔が相手なら必ず行う解析行為。妄信は出来ないが手がかりにはなる。知っている悪魔だからと手抜きをすると裏をかかれる事もあるので、熟練者ほど警戒をかかさない。

 アナライズの情報を妄信するとトンデモナイ罠にかけられ死ぬ。セツニキの生徒なら心身と魂に刻まれる、先達のアリガタイ教えである。

「特に弱点は無しでレベルは24……コイツじゃ全部は御せないだろうに」

 普通の霊能者なら大悪魔が八体。絶望的な状況である。しかしキノは普通じゃない。

「殺しても復活する伝承があるから、ソコは要注意っと」

 カスンテの敵意を浴びながらも寸毫も動揺せずにキノは左手の銃、金の杯を撃ち放った。一体に付き二発撃ち込むダブルタップのヘッドショットを使用して遠距離で三体即死、チャンバーに一発残して一瞬でマガジンチェンジ。近づきながらポイズマで攻撃してくるがキノの耐性は貫けない。

 そのまま中距離でダブルタップのヘッドショットでまた三体即死させる。近距離でもダブルタップのヘッドショットでさらに一体、計七体のカスンテが即死した。だが一体を残して金の杯は残弾ゼロ。

 七体のカスンテが倒れ、残った一体がキノに襲い掛かる。しかしキノは慌てず言葉を放った。

「リクお願い」

 言葉に反応して右手のキノの指輪から使い魔が飛び出しカスンテを迎撃する。

 元々はアイテム拾いと治療を任されたアガシオンだったのだが、今では霊犬ハヤタロウにまで成長した、キノの仲魔だ。

 キノの手元から飛び出したリクはカスンテを押さえつけ逃がさない。レベル差もありカスンテを一瞬で嚙み殺していた。

「ちっ! これでも喰らえ!」

 チンピラがショルダーホルスターからリボルバーを抜くとキノに銃口を向ける。

「コルト・パイソン……その銃はアンタには似合わない」

「ほざけっ」

 バン! バン! バン!

 ダブルアクションで連射してくるもキノには当たらない。

「なんで当たらねぇ! こんな近距離だぞ!」

 そう言われても射線が見え見えな上に遅いんだから当たる訳が無い(逸般人の話です)。シティなハンターのパイソン使いなら当てて来るかもだが。

「ダイナミックエントリ~!」

 チンピラの後ろから突然現れたエミールが陽気な声と共に轢き逃げをする。ついでにジオも置き土産。

「ぶべっ」

 キノが異界を攻略するに当たって、バイクを諦めなかった為に生まれた戦法である。自立稼働できるエミールが敵の隙を見て体当たりを咬ます……どんな地形でも走れて、キノと視界を同調できる上に何時でもキノの側へ転移できるエミールの得意技だった。

 Uターンしたエミールはキノの側まで吹っ飛ばされたチンピラを前輪で踏んで止まった。

 カスンテに喰われて死んだメシアの雑魚達、エミールの下敷きになり気絶しているチンピラ。

 そして首魁はキノに両手足を撃ち抜かれて倒れ気絶。普通ならコレで終わりなのだが……

「やっぱり復活するよね~」

 エミールの軽口。伝承によればカスンテは上下の顎を切り離せば死んだと言う。必要なら霊気の刃で切り裂けば良い。キノは軽く考えていたがカスンテは予想外の行動に出た。

 七体のカスンテが起き上がる。リクに抑えられているカスンテも復活はしていた。

《ワガチチニチカラヲ》

 八体のカスンテが全員自害する。突然の事にリクの反応も追いつかない。

「第二ラウンド開始……ってね」

 キノの軽口と共にカスンテのMAGを吸収したパヨカカムイの封印が解けた。

 

「いや~、油断は良くないね。うん良くない良くない」

 エミールの軽口は非常時ではムカつく。安心材料にもなるので良し悪しではあるが。

 現在、キノはエミールに跨り、異界内を高速で駆け抜けていた。リクも隣を走っている。

 復活したパヨカカムイのレベルは64。インフレし過ぎの罵倒を受けてもしょうがない強敵だ。しかし上には上が居る。そんな相手とも対戦経験を持つキノは焦らなかった。格上だが倒せない相手ではない。

「さてと、あの娘とは十分に引き離せた」

 クイックターン。キノは追いかけて来るパヨカカムイにバイクごと向き直り、右手でカノンを抜く。

 キノ達が逃げたのは巻き添えを恐れたに過ぎない。気絶したチンピラ達なら可としても、巫女の少女は助けられるなら助けたい。無理なら無理で仕方ないけど。

「ハイアナライズで確認したけどアイツには銃耐性も無効も反射も吸収も無い。特に弱点も無いからキノの最大攻撃で良いんじゃない?」

 エミールと自分のアナライズの結果が同じなら問題はなさそうだ。あの理性が消し飛んだような疫病の神様にセツニキみたいな意地の悪さは無いだろうし。

「うん」

 エミールに跨ったまま、カノンを両手で構える。銃プレロマに銃ギガプレロマさらに銃貫通を乗せて。カノンがそれに銃ブースタと銃ハイブースターを加えてくれる。

 迷った時は万能属性、キノが得た教訓だ。スキルが偽装されてても万能属性なら変な罠に利用される可能性が低い。そんな器用な相手が何所にいるかって? 本部にはイッパイいるよ。セツニキとか探求ネキとかセツニキとかセツニキとか……

「【至高の魔弾】」

 キノが放ったその一撃はパヨカカムイを撃ち抜いた。

 

 

「それじゃ後処理の手続きはお願いするよカス子ネキ」

「あいあい、お任せですよぉ」

 スマホで道南支部の幹部であるカス子ネキに連絡をする。

 後は彼女の指示に従って、洞爺湖温泉町を仕切る支部員に後始末を任せれば良い。

 待つ事、数時間。押っ取り刀でやって来た支部員に引き継ぎを済ませればキノの仕事は一区切りだ。

 保護した被害者であるロシア人少女と捕獲したチンピラ及び首謀者を支部員に引き渡す。

 メシアのクズたちは十勝行きだろうか?

 被害者の巫女は保護者がいるなら引き渡し、いないならホヤウカムイの巫女として現地で引き取る可能性もある。あるいはイタコの里が引き取るかも知れない。

 少女は幼いながらも生贄の儀式に耐えただけあって、それなりの力量(5レベル)をもっている。

 残念ながら流石に母体にされた女性達は救えなかった。この世界では真っ当に弔われ、魂が無事に逝くべき所へ行けただけマシなのだが。

 どうなるにせよキノにはもう関係ない話だ、後処理は支部の人に任せる。自分はちょっと手伝っただけの旅人。キノは自分をこう定義している。

 引き渡しを終えてホテルに帰ったのは日付が変わる頃、苦笑されて出迎えられ、頭を下げて部屋には帰ったものの、メシも風呂も抜き。浄化の札で体は綺麗になっても温泉には入りたいし、美味い物は食べたいのが本音だ。

 しかし、ルールはルール、大浴場は閉まり、食事も出せないのだから仕方ない。

 旅の予定を変えたくないなら、嫌でも書類仕事は今夜中に終わらせないと……それで体を壊すような鍛え方はしていないけど。

 とりあえず、コンビニのサンドイッチとコーヒーをお供に書類を仕上げてしまおう。

 せっかくの観光が途中で台無しになる。良くある事だが諦めきれないのは修行が足りないのだろうか?

 どこかでエミールの笑い声が聞こえた気がした……

 

 森の中のキャンプ場で[前編]

 

「キノ。キノはどうして旅を続けているの?」

 人気の無いキャンプ場でエミールが疑問をもらす。キャンプのシーズンを外した秋のキャンプ場にはキノしか客はいない。

「山梨で修羅勢を続けても良かったし、今までだって親切な支部の人は沢山いた。実際、東北でも道南支部でもキノが参加すれば喜ぶと思うよ」

 焚火台を取り出し、着火剤に火をつける。やがて薪に火が着き燃え上がる。パチパチと薪の爆ぜる音。

 のんびりと独り、火を見つめながら焚火で暖を取る主人に向けてエミールは続ける。

「キノ程の高レベルの霊能者なら引く手はあまた、どこでも大歓迎だったんじゃない?」

 相棒の疑問は最もかも知れない。そう思ったキノは自分でもハッキリと判っているいる訳ではない理由を口にした。

「う~ん、そうだなぁ……」

 




軒野 木乃 本編の主人公レベル60。銃に関する事は大体できる
 それ以外の戦闘能力はぺっぽこ。自衛隊ニキネキがやらかすまで銃弾の補給が出来ず。非力な貫通撃で頑張っていた

エミール 主人公の相棒なバイク。陽気でおしゃべり。レベル55どちらかと言えばサポート役

リク 出世した元アガシオン、現ハヤタロウ。レベル50のタンク兼ヒーラー。地味にパーティのかなめ

文章の構成は原作リスペクトです。時系列が面倒なのでもうやらないかも

舞台背景にバッパラふーじん様の世界感を使用させていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。
同じくシェアワールドとして作品の世界観を開放してくださっている(と言う理解で良いんですよね? 違ったらどうしよう)どくいも様にも大いなる感謝を
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