インタビュー

第4回ハーバード大卒・芦屋市長が語る英語を学ぶ意義 「役立つ」を超えて

聞き手 編集委員・宮坂麻子

 AI時代に学校で英語を学ぶ意義は? 教員はAIをどう使い、AI時代の学校改革はどうしていけばいいのか――。文部科学省の中央教育審議会で、次期学習指導要領の外国語や特別活動などの議論に関わる、兵庫県芦屋市長の高島崚輔さんに聞いた。

 ――中教審の外国語のワーキンググループで議論が始まったころ、「AI時代に英語を学ぶ意義は」という質問をされました。ご自身はどうお考えですか。

 AIやデジタル技術は急速に進化し、英訳、和訳は一瞬でできます。次の学習指導要領で学んだ子どもたちが社会に出るころには、国際会議で全員が母語で発言しても、スマートデバイスからリアルタイムにそれぞれの母語に訳して聞こえて、議論できる時代になるでしょう。ドラえもんの秘密道具「ほんやくコンニャク」のような世界が実現しつつあるわけです。

 そういう意味で「英語を学べば役に立つ」という論理が成り立つ時代は終わりに近づいています。仕事で役立つ、外国の人と話せる、英文が読めるなどは、AIで足りるようになる。「役立つから」を目的にすれば、すぐに「やらんでいい」となってしまいます。

 一方で、教室には外国ルーツの子たちがどんどん増えている。異文化理解の重要性は増しているはず。改めて、なぜ、外国語、英語を学ぶのか。外国語を必修にする本質的な意義を再定義しなければならないのではないでしょうか。

 中教審のワーキンググループでも、AI時代に学ぶ「本質的意義」が議論されました。その中でも、私が重要だと思うのは二つです。一つは、文化を知る意義。異なる言語にはその背景に歴史や文化があり、理解する意味で外国語を学ぶことは大切です。自分の「当たり前」がみんなの「当たり前」ではないと知る過程と言ってもいいかもしれません。

インクルージョンの必要性体感

 もう一つは、インクルージョンの必要性を子どもたちが体感する意義です。留学や海外に行って言葉が通じないと肩身が狭く、壁を感じますよね。そういう感覚を日本の子どもたち自身が学校で経験し、伝わる喜びを感じることで、日本語が話せない外国ルーツの子や、障がいのある子にも思いが及ぶのではないでしょうか。

 学校では、外国語教育を通じて多文化共生や多様性の包摂の重要性をより理解できる人間性を育む時代を迎えているのではないかと考えます。

 ――人と人とのコミュニケーションツールとしての意義はどうでしょう。

 「AIの翻訳ではコミュニケーションがうまくできない」と言われることがあります。でも「AIにできないから人間が」という議論はあまりよくないと、私は思っています。子どもたちが社会に出る2040年、50年代のAIにできないことを想像することは不可能です。むしろ「ここは人間としてやり続けたい」「人間としてここは重要」という点を大切にしていくべきでしょう。英語を人が自力で話すことによる対話を、果たして人間がやり続けたいかどうか、を考えるべきです。そう考えると、役に立つからではなく、相手のことを深く知りたいからとか、気持ちを通じ合わせたいからとか、そういった理由になるのではないでしょうか。

ニュース×AI 新聞も「使わない手はない」

 ――中高生向けのAI・データサイエンスの教材開発に携わった経験もおありですが、教員や子どもたちはAIをどのように使えばいいでしょう。

 AIも進化し続けていて、こんなやり方がいいという模範解答はありません。ただ、AIを使うと学びやすくなることは、間違いなくたくさんあるし、これからも出てくる。倫理的な問題を踏まえた上で、とにかくやってみることに尽きます。先生でも子どもでも同じです。

 例えば、AI相手の英会話練習なら何度間違えても怒られないし恥ずかしくない。英文添削も気長にフィードバックしてくれます。

 教材づくりにも役に立つ。私がこれをやったらおもしろいと思っているのは、AIを使い、文法や語彙(ごい)をその子の好きなことで学べるようにすることです。野球好きな子には、大谷翔平選手にまつわる話で学ぶべき事項がすべて学べるようにする。サッカー好きな子には、サッカーを題材に算数や数学の計算や確率などを教える。AIはそうしたことが得意です。

 新聞も使えます。芦屋市では、今年度、TBSホールディングスなどが行っている生成AIを使った実証研究事業に参加し、まずは教育委員会の指導主事や教員が体験しています。ニュース記事と教科書データを結びつけて学習リソースを提示する「ニュース×学習内容のマッチングAI」の検証です。新聞のように裏取りされた情報を教育に使わない手はない。

「学校は、民主主義を実践する場」

 ――学校自体は、AI時代にどう変わっていけばいいでしょう。

 学校は、民主主義を実践する場です。多様な他者を理解して違いを認め、学びあうのは、学校だからできる。教室内に限らず、日本全体が多様化する中で、民主主義の核として学校を地域の拠点に据え、社会をより良くすることが必要です。実際、芦屋市では全小学校を地域の拠点とするまちづくりを進めています。

 そのためには、学校がまず多様な場で、一人ひとりが主体的に動ける場でなければならない。子どもの主体性を回復するために、校内のルールも学びも、子どもが選び・決め・行うという取り組みを、芦屋市では始めています。インクルーシブ教育をすすめた結果、小学校入学時点では全員が、特別支援学校ではなく地域の小学校を選択しています。

 教員にも同じように主体性を持って欲しい。2024年度からは研究指定校と研究発表会を廃止して、教員の自主参加による探究的な学び研究推進チーム「ONE(ワン) STEPpers(ステッパーズ)」を立ち上げました。研究内容は各自で決められ、出入りも自由です。

 知識や学習スキルの伝授だけなら、学校も教員も不要な時代に入りつつある。多様性を包摂し、主体的に学び、動ける人を育て、民主主義を実践する。AI時代だからこそ、学校はそこに注力していく必要があるのではないでしょうか。

高島崚輔市長の略歴

 1997年大阪府生まれ。灘中学校・高校を卒業後、東京大、米ハーバード大に入学。2022年にハーバード大環境工学専攻、環境科学・公共政策副専攻を卒業。学生時代の16年から、23年までNPO法人「グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ」理事長。県立高校国際教養科のカリキュラムづくりの委員や、公文教育研究会学習者アドバイザーも務めた。23年に史上最年少市長として芦屋市長に当選。25年から中央教育審議会専門委員。

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この記事を書いた人
宮坂麻子
編集委員|教育・こども担当
専門・関心分野
教育・こども

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