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英霊■■■は目覚めない【中】/Novel by ひふみ(自然数)

英霊■■■は目覚めない【中】

9,137 character(s)18 mins

こんばんは自然数ことひふみです。
エミヤがカルデアでゲイボルクを投影した話第二話になります。
9月頭には投稿したいといいながら遅くなってしまって申し訳ありません…6日ならまだ9月頭に入りますか?どうなんでしょう。

今回は若干ほのぼのしているような、そうでもないような?もう書いてて自分でわけわかりません。ほのぼのの意味もよくわかっていません。
今回はあるレアサーヴァントが登場してます。うちには居ません。居ません。もう一度いいます。居ません。口調もよくわかっていません。すみません…

多分この次か、そのさらに次で終わるかな?と思います。
前作である第一話にはたくさんのブックマーク、評価、コメント、ランキング入り等本当にありがとうございます。ランキング入りなど初めてのことだったので、しばらく震えていました。

後日なにかしらのアンケートを置くかもしれませんので、もしそうなったときはお気軽にぽちっとしていただけますと幸いです。
【2016.09.09追記】
アンケートを設置してみましたが、必ずしも結果に添えるわけではないと思われます…できうる限りの努力はします。
仕事疲れのテンションで設置したアンケートを我に返って2択にしました。

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エミヤが倒れてからしばらく経った。

エミヤの意識はまだ戻らない。
ドクターの提案で大掛かりなレイシフトは中止しているものの、マスターは明らかに憔悴している。普段どおりに振舞おうとしているのが余計に痛々しい。マシュやマスター想いのサーヴァントが根気よく休むように言ってはいるが、エミヤがいつ起きてもいいように出来る限りは今までどおりにしたいと言われては強く言うこともできず、修練場や種火集め、召喚は回数こそ減らしたものの、続けられている。

マスターが今までどおりにしたいと努力はしているものの、カルデアは少しずつ荒みはじめた。
エミヤが一体いつ、一人でどうやっていたのか不明だが、館内には少しずつ埃が溜まりはじめたし、何よりサーヴァントたちの最大の娯楽と言っていい食事が行き届かなくなったのが大きい。
エミヤ一人で作っていたわけではないのだが、調理の流れを取り仕切り、量などの指示を出していたのはエミヤである。
エミヤが抜けたことで、結構な大所帯であるこのカルデアにおいて、全員に行き渡るだけの食事の用意が難しくなったわけだった。
それでもマスターをはじめ、もともと調理の手伝いをしていたサーヴァント達や、気のいいサーヴァント達が努力しているが、なれない面子での大量の料理の用意は味にも直結する。
賑やかだった食堂は次第に静寂が落ちはじめ、やがて誰もがエミヤの意識の回復を願うようになった。


キャスターは自身に割り当てられた部屋でぼうとゲイボルクを見つめていた。
無論、エミヤが投影したものだ。通常の投影と違い、未だ消えずキャスターの手元にあった。
口金にあたる部分には赤と黒の飾り紐が結ばれている。マシュが用意したものだ。
ぼう、とキャスターは魔槍を見つめている。目の下にはひどい隈が見える。
それもそうだろう。病室に詰めている時は元より、当番でない日も、昼夜問わず病室の前に座り込み、投影されたゲイボルクを片時も離さずにいるのだから。
マスターに懇願され、今は久しぶりに自室へと戻ってきた。随分と久しぶりのことのように感じる。
ベッドに腰掛け、キャスターは未だゲイボルクを見つめていた。

エミヤが文字通り血を吐きながら投影した己の魔槍。
脳裏にあの日のことが思い出される。
マスターにあらましを説明し、ドクターによってエミヤの状態がスキャンされている間、キャスターはひとり、未だ血のついたゲイボルクを握りしめ、医務室の外で待機していた。何故だかはわからない。己か、この槍がそこにあってはならないと、そんな気がしたのだった。
そうしてただ待っていると、騒ぎを聞きつけたのか、はたまた偶然なのか、スカサハがやってきた。
そして開口一番言ったのだ。

「どうしたそのゲイボルクは。ランサーから盗んだのか?」

と。

一目見ただけとはいえ、スカサハをもってして、これが投影品だと見抜かれなかったことにキャスターは愕然とした。
ことのあらましを伝えている間にスキャンが終了したようだったのでキャスターは医務室へと戻ったが、廊下に立ちぼうけているスカサハの難しそうな、あるいは苦いような、そしてひどく痛ましいものを見たような横顔が印象的だった。

エミヤの投影したゲイボルクは、スカサハをもってして見抜けない出来だった。
エミヤが病室に寝かされた後、スカサハにもじっくりと投影された己の魔槍を見てもらったが、全く見分けがつかないという。
キャスターはそれをとても喜べなかった。
エミヤがいつも通りであったなら、それは諸手を上げて喜んだろう。しかしエミヤは目を覚まさない。キャスターの自責はひどくなるばかりだった。

サーヴァントには自己修復機能がある。そのせいか、スキャンが使えずともエミヤの残存魔力が少しずつ減っていくのはわかった。それがわかった時、皆一様にほっとした。特にマスターは喜んだ。エミヤが自己修復によって体を癒しているのならば、時間がかかろうとも、エミヤの眼は開くのだと。

それが束の間の喜びであったと知るのは、あるサーヴァントが召喚されてからだった。


キャスターはベッドに横になった。体力というよりも、精神が限界だったのだろう。投影されたゲイボルクは壁の隅に立て掛けられている。
閉じられた瞼の下の隈は色濃く、白いかんばせは青くやつれている。
キャスターは薄く目を開いた。
なんと惨めなことだろうか。
自分の我侭でエミヤを活動不能にさせ、挙句には己までこの有様だ。マスターにレイシフト禁止を言い渡されても致し方あるまい。
キャスターはもう一度目を閉じる。
ひどく疲れていた。
はやく目を覚ましてくれないだろうか。
けれども何を言ったらいいのかわからない。
あいつのことだから、こちらが謝ったとて、自分の力量を過信した自分のせいだ、とか何とか言って素直に聞き入れたりしないだろうか。それとも開口一番、お得意の皮肉でこちらを詰ってくるだろうか。

ああ、それだったらどんなにいいか。

誰もキャスターを責めない。
エミヤが良いと言ったのだから、自分が許可を出したのだから。自分たちも止めなかったから。
聞こえてくるのはそんな台詞ばかり。そんなものはキャスターにとってなんの救いにもならない。いっそ責めてくれればよかった。責め立ててくれれば、それで―――

吐き気がする。
自分は今何を考えた?なんと浅ましい、おぞましい。
自分自身に吐き気がする。この喉を掻き切ってやりたい。
だがそうしたところでエミヤが目覚めるわけでもない。
いつの間にか開いていた瞼を再び閉じて、眠りに就こうと胎児のように体を丸めた。

結局のところ、エミヤが目覚めるまで己の救いはないのだ。
キャスターは泥のような眠りに就いた。


ちりと神経の焼ける音でキャスターは目を覚ました。
がばりと身を起こし、時計を確認する。大分眠っていたようだ。そんなことよりも、今はマスターが召喚を行っているはずの時間である。
そんなときに、エミヤが眠っている病室に刻んだルーンが異常を告げた。
いつエミヤが目覚めたり異常を起こしても気付くように、感知のルーンを刻んでいるのだ。
だがこれはエミヤが目覚めたなどという生易しいものではない。もっとはっきりとした感覚を歪めるような、神経を焦がす異常だった。そもこれはカルデア全体を揺らがすような歪みだ。召喚場にいるマスターも、他のサーヴァント達も気付いているだろう。
病室には今ダビデとロビンフッドがつめているはずだ。ふたりが居ればそうそうのことは起こらないだろうが、なにかあればすぐ鳴らすように言いつけられている病室に備えられた警報はまだ鳴らない。
ふたりでは対処できない異常なのか。キャスターは赤と黒の飾り紐のついたゲイボルクを握って自室を飛び出した。

自室を飛び出すと、他のサーヴァント達もざわめいているのが見えた。何名かはマスターの元へと向かっているのだろう。
どこもかしこも似通った風景のカルデアの施設内が慌しい。病室までの最短距離を走りながら、一体この視界が歪むような違和感と揺らぎはなんなのか、果たして眠るエミヤになにかあったのかと焦燥を募らせた。
病室までの道のりがいやに長い。こんなことなら自室へ戻らず、病室の前につめているのだった。
この角を曲がればすぐそこだ。違和感こそ残るものの、神経を焼くような歪みがすっかりなりを潜めたのが余計に奇妙で、不安を駆り立てた。


少し離れたところからマスターと数名のサーヴァントの気配を感じる。何名かはマスターの元へ向かっていただろうから、それだろう。病室へ来たのは自分が一番らしい。
病室の自動扉を開ける。こんな時はその数瞬の間がもどかしい。シュン、という開閉音がいやに間抜けだった。
扉が開ききる前に身体を滑り込ませる、半ば呆然としたダビデとロビンフッドの姿があった。そして違和感の正体は、やはりというか、病室にあった。


「よう、ずいぶん変わった格好でいるんだなァ、どーもお久しぶり。それともハジメマシテ?」

ダビデとロビンフッドを無視するかのように違和感はキャスターを見た。
全身に刻まれた刺青、赤い襤褸布、少年のような小柄な体躯、見知ったような見知らぬような風貌。圧倒的違和感。

アヴェンジャー、アンリマユがそこにいた。


「テメェ…なんでこんなところに」
「なんでって、そりゃあここのマスターに召喚されたからだろう」

ヒヒ、とこちらを嘲笑うかのように告げる。実際に馬鹿にしているのだろう。声に呆れたような色が混ざっている。

「召喚だと…?テメェが…?ならなんでこんなところに居やがる」
「俺が知るかよ。呼ばれたと思ったら此処に居たのさ。召喚時の事故ってやつなんじゃねぇの?」

アンリマユが天井を仰ぐ。まるでそこから降ってきたとでも言うように。
ダビデとロビンフッドは口を挟まない。まだ衝撃から抜けきらないのかも知れない。それも仕方ないだろう。なんせ違和感の塊のような存在が突然現れたのだろうから。
キャスターはアンリマユから目を離さない。
アンリマユは確かに英霊だ。このカルデアに召喚される可能性もあるだろう。しかしこの違和感はなんだ。マスターの元ではなく、この病室に召喚されたことも。

もう一度自動扉が開く。マスターがやってきたのだろう。サーヴァントの中にはランサーの己の姿もある。
アンリマユはエミヤの眠るベッドに腰掛けたまま、よう、あんたが俺のマスターか?などと嘯いている。
肝心のマスターはまだ事態についていけていないようだ。

「ああ…マスター、お前さんさっき召喚してたんだろう。こいつが召喚されたサーヴァントらしい」
「らしいってなんだよ。そうだって言ってんだろ。一番に挨拶できなくて悪かったな、マスター?」

にやりと笑う。少年のような顔でいて、悪意の滲むような表情だ。もっとも、刺青のせいでそう見えるだけかも知れない。今のところ害意は感じられない。
ああうん、これからよろしく、とマスターが返答する。未だ衝撃から抜け出せないのだろう。今はそれどころではないだろうに。

「で、このアーチャーはなんでこんなところで寝てるわけ?俺の見間違いでなけりゃアーチャーに見えるんだけど?」
「それを言うならテメエはなんでこんなところに召喚されたんだ。マスター、召喚のときになにか不具合でもあったか?」

半ばぼうとしていたマスターがあわてたように首を振る。
ただいつものように召喚の儀式を行ったところ、召喚陣が歪み、そうしたら他についていたサーヴァント達がここに異常があると知らせてくれたから急いでやってきたのだと言う。
異常って、ひでぇなー、などと影のような少年が嘯く。

「テメエは本当になんでこの病室にいるのかわからねぇのかよ」
「わかるわけないだろ。俺だって召喚されたと思ったらそこでボーっとしてる明らかにサーヴァントのふたりとアーチャーが目の前に居てびっくりしてるんだっつーの」

マスターじゃなくて英霊の前にいきなり出て来させられたんだからこっちが驚いてるっての。

嘘は見えない。だがまだすべてを言っているようには感じられない。

「んでさあ、挨拶はもう済んだろ?そろそろこいつなんで寝てるのかとか、そこで明らかに苛々してるオウサマとか、なにかひとつずつでも解決してってくんない?」

王様、という言葉で扉にもたれかかるようにしてギルガメッシュが立っているのに気付いた。今の今まで気付かなかった。その気配が伝わったのだろう、ギルガメッシュの苛立つ気配がこちらにも伝わる。

「ふん、我はどのようなサーヴァントがここに来るかと思って見に来てやっただけだ。まさか貴様とはな」

知り合いなのかとマスターが訊ねる。
どこかで顔を見ただけだ、とギルガメッシュが返答する。

「そうそう、ちょっとした顔見知り程度?まぁ随分、見知った気配が多い気はするけど?見慣れない格好してるのもいるし、同じ顔してるのまでいるし、変なとこだなー」

ていうかこんな大量に英霊がいるなんて、俺の出番なさそうじゃねぇ?なんで俺召喚されたのかマジわかんねー。

けらけらと笑って言う。
そんでさあ、と不意に真面目な顔を作る。

「なかなか誰もこいつに関して話してくれねーわけですけど、なんでこんな点滴一本で放ってるわけ?」

エミヤの腕には点滴が繋がれている。サーヴァントに対してどこまで効果があるのか知れたものではないが、少なくとも見ているしかできない存在には気休め程度にはなっていた。

マスターが掻い摘んでエミヤが眠っている事情を説明する。アンリマユがキャスターの手に握られたゲイボルクを見た。キャスターは胸が締め付けられるような気持ちになる。これだけの騒ぎになって尚、エミヤは起きる素振りどころか、なんの変化もないのが辛い。

ふぅん、と話を聞いたアンリマユが喉を鳴らす。

「で、自己修復に賭けて気休め程度に点滴…ってわけか。それしかしてないわけ」
「…それくらいしかできねぇだろう」

声に出したのはランサーだった。己の無力さに歯噛みしているのが声に滲んでいる。

「いやぁ、ほんとなんでなのか俺にはわかんないんだけどさ」

本当に不思議そうに。

「こいつ自己修復なんかしてないだろ。ただ損傷に見合った魔力をどんどん減らしてってるだけだぜ?」

病室がしんと静まり返る。
愕然とした。

「今にも消えそうなくらい薄弱に見えるけどね。消えるの待ってるってんなら召喚されたばっかの俺がどうこう言うもんでもないし?放っておけば遠からず消えるんじゃねーの」

ぞっとする。部屋の温度が下がったように感じる。
マスターの少年は一気に顔色をなくした。エミヤの身を案じるほかのサーヴァントたちもだ。どうすればいいのか、何を言うべきかわからないのだろう。口を開いたのはギルガメッシュであった。

「…何故貴様にそんなことがわかる?」
「なんでって言われてもなぁ。こっちとしちゃあなんでそっちが気付いてないのかがわかんねーんだけど。ほんと今にも消えそうなのにわからない?」

確かにエミヤの魔力は目減りしている。だがそれは自己修復のためだと思っていた。しかしこのアヴェンジャーはそれは違うという。ただ失っているだけだと。

どうすれば、と掠れた声でマスターが言った。静まり返った病室で、いやに弱弱しく聞こえた。アンリマユが答える。


「消えさせてやれば?」


耳を疑った。
は、と声にならない声が喉からでる。

「消えさせてやるのがこいつにとって救いになるんじゃねーの?だってそうだろう。ここにいる何人かはこいつの望みを知っているだろう。答えは得たのかも知れない。けどそれが安息に繋がるわけではない。これはただ在るだけで、己を磨り減らす。そういう存在なんだよ。」

病室にアヴェンジャーの声が響く。
アンリマユ以外、声を発する者はいない。訥々と、愛しいものを見るような目で語る。

「だから俺はこのままでいてもなんの問題もないと思うぜ。ここにはたくさん英霊がいるんだろう。こいつ一人減ったところでそう問題もないだろう?」

アンリマユは笑っている。なんてことはないかのように。
と、アンリマユが僅かに身構えた。視線をたどると、ギルガメッシュの背後が揺らいでいるのが見えた。
一体何を、とキャスターが言おうとしたところで、ギルガメッシュは背後から細かな装飾の施された一本の小剣を取り出した。

「なに?なんか気に食わなかった?」
「いいや。貴様の言うことは至極真っ当だ。だがな―――」

「ここで消えるのは、この我が赦さん」

言うが早いか、ギルガメッシュは左手に持った小剣で自らの右手首を切りつけた。

は?と間抜けな声が出る。随分と久しぶりに声を出したような気がする。アンリマユも同様に間抜けな顔をしていた。マスターも突然のギルガメッシュの行動についていけていないようだ。

ギルガメッシュはそのままエミヤとアンリマユのいる寝台へ向かう。
ぽつぽつと赤い血が白い床に斑点を作る。

「要は魔力が足りていないから消えるという話なのだろう。ならば」

ギルガメッシュが左手の小剣をランサーに向かって投げ、思いのほか丁寧にエミヤの顔に触れた。そのまま顎を持って口を開かせる。

ならば―――分け与えてやればいいだけの話だろう?

そしてその上に手首から滴る血を流し込んだ。

「この我の血をくれてやるのだ。感謝しろよ贋作者」

ぼとぼとと傷口から勢いよくエミヤの頬と口に血が流れる。
ごほ、とエミヤが身じろぐ。目覚めたわけではない。ただの反射だ。眠っているところに液体を流し込まれれば当然そうなる。
ギルガメッシュが顔を顰める。施しを受け入れられないように感じたのかも知れない。

すでに飲み込めない血が口端からつたっている。ギルガメッシュはじっとエミヤを見ている。
成り行きを見守っていたアンリマユが腰掛けたまま上体を捻り、エミヤの褐色の喉を撫でた。
やがてアンリマユが撫でる動きにつられたようにごくり、とエミヤの喉が動いた。それを確認して、ギルガメッシュは退いた。エミヤにかけられていたシーツを破って、己の手首を押さえる。

「ふん、この我の血をわけてやったのだ。しばらくはもつだろう」

尊大な言い方は変わらない。
アンリマユは意外なものを見たような声を出す。

「驚いた。てっきり殺されるのかと思ったぜ。しかしどういう心境の変化?」

こんなことするヤツには見えなかった。言外にそういって、ギルガメッシュを見る。

「フン、いつまで続くかわからん此度の現界で娯楽が減るのは避けたいだけだ」

見るに耐えん贋作者だが、食事の腕だけは買っているのでな。
ギルガメッシュは僅かに血に汚れたシーツを床に放ってそのまま部屋を出る。

「おい駄犬、そのナイフは後で返せよ」
「あぁ!?なら今持って…!っと」

小剣を危うく顔で受け止めそうになったランサーが吠える。が、直前で気付いたらしい。

「…ありがたく借りとくぜ」
「精々有意義に使え」

シュン、と音を立てて自動扉が閉まる。
マスターはまだよくわかっていないらしい。床には未だギルガメッシュの残した血痕があった。

「ギルガメッシュの血ならあの量でも効果ありそうだが」

そういってランサーも己の手首を小剣で切った。
そうしてギルガメッシュと同じように、エミヤの口内に血を垂らしていく。
今度は素直にごく、と飲み下される。先ほどは突然魔力を齎された拒否反応だったのかも知れない。おまけに最高ランクの神性をもつギルガメッシュの血だ。ただの人間だったエミヤでは受け止めづらくとも仕方あるまい。
そういう自分も神性があるわけだが、エミヤはよほど魔力に飢えていたのだろうか、順当に飲み下していく。
どれほど分けてやればいいだろうか、この身で貧血などになるのかと思ったところで、キャスターに手を取って止められた。

「そのへんにしとけ。あとは俺もやる」
「おうそうか。ほらよ」

ギルガメッシュの置いていった小剣を渡す。躊躇いなく手首に滑らせ、キャスターもまた惜しみなく魔力を分け与えた。

マスターがアンリマユに声をかけている。否、声をかけるというよりは、他に答えを教えてくれる存在が居らず、思わず出た独り言にアンリマユが答えているのだろう。
これで大丈夫なのかと。
アンリマユは応える。ご丁寧に神性の高い連中ばっかが献血してやってるみたいだし、また減ったらやれば大丈夫だろうと。

マスターはほっとした表情でいる。同時に悔しそうな、泣く寸前のようにも見えた。
エミヤが消える寸前だと気付かなかったことに対してだろう。それはアンリマユ以外の全員に共通することだが、慰めてやることでもない。本来ならマスターが気付かねばならないのだ。この若く優しいマスターにはつい甘くしてしまうが、時には厳しくもしなくてはなるまい。
しかしつい、ぽんと頭を撫でてしまっていた。自分も随分甘くなってしまったものだ。苦笑いがもれる。マスターも、薄く笑っていた。


アンリマユ曰く、とりあえずもう十分なほどにエミヤの魔力は補充されているとのことだったので、新たにふたり、病室にサーヴァントを残し、それ以外のサーヴァントは各々休むようマスターから指令があった。
マスターはアンリマユを連れて今も管制室で会話を聞いていただろうドクターの元へ説明に去っていった。
キャスターも一度自室へ戻った。いかなる力か、手首の傷は既にない。サーヴァントの自己修復能力をもってしても、ここまで治りは早くない。霊体化でもすれば話は別だが。
エミヤの状態が改善されたことで張り詰めていた糸が緩んだのか、キャスターは睡魔に襲われた。逆らわず、ベッドに横になる。
気がかりなのは、現時点でエミヤの状態がわかるらしいのがアンリマユしかいないことだった。しかし今日アンリマユが召喚されなければ、遠からずエミヤは消滅していただろう。
果たしてこれからどうなるのか。結局のところ、エミヤは魔力を補充されただけで、アンリマユ曰く自己修復はされていないのだった。
問題はなにも解決していない。しかし今日は疲れた。疲れた身体でろくな発想ができる気もしない。キャスターは再び眠りに就いた。


血を分けることでエミヤの魔力を補充するという話を聞いたヘラクレスが、己の斧剣でその腕を掻き切ろうとするのをマスターとサーヴァント総出で止めることになるのは、この夜の話だった。


(2016.09.06)

Comments

  • Y

    続きを待ってます!とても面白かったです!最高の作品をありがとうございます!

    2 days ago
  • にゃんこ大好き

    続きを正座待機してずっと待ってますからね!

    December 10, 2025
  • なぎさん
    February 28, 2023
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