無銘の鷹と地底の檻
エレちゃんスマイルマジかわいい記念、いつもの自分カルデアの小話です。エミヤと召喚されたエレシュキガルの話、例によって心の広い人向け、100%自分得です!!/名前を知るにも自分の耳で新しく聞くという経緯が大事なわけで、縁に縛られずエミヤとエレシュキガルは新しく仲を深めていって欲しいものです。あと鷹と檻ってなかなかいい組み合わせだなと思ってます/おまけだけナチュラルに槍弓が含まれる為一応注意、多分今後エレちゃんの助力という名のうっかりに巻き込まれたりする未来が見えます(千里眼)
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「じゃあ、エレシュキガル。何かあったらなんでも言ってね」
「ええ、ありがとう。マスター」
自分の為に用意された部屋に入って、エレシュキガルはマスターに笑顔を向けた。
肩越しに振り返り笑みを返したマスターが扉を閉めるのを待って、ベッドに腰掛けたエレシュキガルは体重を優しく受け止める優しい素材を見下ろす。
座ったまま跳ねてみて、ぽよんぽよんと上下する。暗い冥界と真逆の白い白い世界。
縁を繋いだとはいえ、本当に喚んでもらえるとは。声に応じて姿を現した先で目の当たりにした一年ぶりの懐かしい顔の喜びを思い出し、エレシュキガルは無意識に足をパタパタとさせる。
自分には関係の無いものだと切り捨てた風も、花も、色も、何もかもが当たり前のように存在する世界。それをもう一度目の当たりに出来るばかりかふれられる幸運、さらに心を通わせた唯一の人間に力を貸せる今の状況は奇跡を束ねた花束のようだ。
満ち足りた吐息をひとつ、不満なんてあるはずがないエレシュキガルはぱたりとベッドに倒れる。
そしてしばらく突っ伏した後、ごろりと仰向けに転がった。
やる事が、ない。
マスターに言われた夕食の時間との間に横たわる大きな隙間、自由にしてていいよと言われたがしたい事がまるで浮かばないのだ。
口をへの字にさせたエレシュキガルはとりあえずベッドから身を起こし、膝の上でぎゅっと拳を握る。
元々エレシュキガルは、冥界では仕事に明け暮れて余暇を過ごした事が無い。女主人として休日の無い冥界を管理するのに駆け回っていたばかりだったのだ。
(こんな時どうすればいいのかしら。マスターが忙しそうだからって悲観すること無いわ!だ、大丈夫よ、私には陰気な趣味以外にもお散歩とパッチワークというかわいい趣味だってあるんですもの!十分素敵じゃない!)
お散歩(はぐれ魂の見回り)とパッチワーク(檻にかける毛布の作成)という趣味を思い出して顔を輝かせたのもつかの間、その動機が無くなってしまっている事に気づいてエレシュキガルの肩がまた沈む。
かつては無限にあってもまだ足りない時間が、突然姿を変えて襲いかかってきた。晴れやかな頭の中に灰色の雲が詰め込またようなエレシュキガルは、なんとかそれを払おうと頭を巡らせる。
しかし、さらにエレシュキガルを悩ませる問題があった。
(…それに、私ここじゃマスター以外にお話出来る人がいないのだわ…!)
それは暇を持て余すエレシュキガルの上にのしかかる危機、冥界に君臨し続けたエレシュキガルの顔見知りはカルデアには全然いないのだ。
ここではまだイシュタルが召喚されておらず、天敵の不在に喜んだのが遠い昔のよう。今は背に腹は変えられず、いない方がちょっと惜しく思えてしまった。
(エルキドゥ…は、ちょっとね。ギルガメッシュ…も、世間話をするには気が引ける…。あーもうなんでこんな時にイシュタルはいないのよ!)
知人の顔が浮かんでは消えていく、『話せないことは無いが進んで話すほど仲良くない』微妙な面々にとうとうエレシュキガルの頭ががくりと落ちた。
冥界の仕事が無くなっただけでこんな事になるとは思いもしなかった。現代の知識が付与された今、すかさず浮かぶのはワーカホリック、仕事人間、何の面白味もない、婚期を逃す…などなどネガティブな言葉。
トドメを刺されて既に気分は地底まで落ち込んだエレシュキガルは、それでもなんとか立ち上がる。そして現状打破の為、意を決して自室から一歩踏み出した。
話しかける相手がいなければ作ればいい。
努力家で真面目なエレシュキガルは早速動き出したのだが、胸を張って堂々と歩けたのは数歩だけだった。
すぐに耳に届いた誰かの話し声に飛び上がり、冥界の女主人は慌てて物陰に隠れる。
ワイワイと談笑しながら通り過ぎていく職員たちをじっと見つめ、ドキドキと鼓動が早くなる胸を抑えた。
(こうしちゃいられない!って出てきたのはいいけど、初めて話しかけるにはどうしたらいいのかわからないのだわ…!)
そもそも生者と話す機会の無かったエレシュキガルは根本の問題に直面した。
冥界の女主人として尊大に話しかけてもいいのだろうか。なにせ今はカルデアに召喚された一人のサーヴァント、他のサーヴァントはもちろん人間の職員も戦友と言って差し支えないだろう。
しかし、エレシュキガルもれっきとした女神の1柱。あまり敷居を下げるのはプライドと女神としての体裁が許さない。
これまで経験した会話が自身に従うガルラ霊が多くを占めるエレシュキガルの顔から、また色が一つなくなる。
(い、いいえ、やっぱり女神たるもの悠然と構えるべきよ。自ら動き回るなんて優雅じゃない事、下郎の行い。…でもここでは私の方が新参者だし、挨拶回りは礼儀じゃないのかしら…。それに挨拶ひとつ出来ないサーヴァントって、マスターの評価にも関わるんじゃない…!?)
顔色が青くなったり白くなったり、表情も百面相が止まらない。
ぺたんと床にへたりこんだエレシュキガルの横を、でもしかしけれどが無数に過ぎ去っていく。そしてたっぷり数分間考え込んだ末、折衷案としてある場所へ歩き出す。
エレシュキガルが向かったのは、先程マスターに案内された食堂だった。そこには有志で手伝いをしてくれているサーヴァントが常駐していると聞いた。
こっそり中に入り、積み上げられたトレイの影からうかがってみるとキッチンでは男女二人のサーヴァントが夕食の仕込みで慌ただしく動き回っている。
(まずは第一歩、『お水をいただけるかしら』。うん、完璧。これなら多少命令口調でも許される…わよね?やるしかないわ、イメージ通り、冷静に気品を持って…でも笑顔で気さくにフレンドリーに!)
初対面の生者よりは下がったハードルを前に、エレシュキガルはカウンターに立とうとした。だが、しかし。
「どうした?ブーディカ」
「あれ?今誰か居たような気がしたんだけど…」
ぴくっと気配に反応したブーディカは無人のカウンターに首を傾げる。確か目の端を金色がかすめた気がしたのだが、勘違いだったのか。
不思議そうなブーディカの脇から顔を出したエミヤは、カウンターの外に乗り出して辺りを見渡す。すると台の上に1本の長い金髪を見つけ、つまみ上げたそれをしばらく見つめた。
一方その頃、結局寸前でプレッシャーに耐えられなかったエレシュキガルはカルデアの広い廊下をとぼとぼと歩く。
あんな絶好のチャンスをふいにするなんて、今後一生誰かと話す事は出来ないんじゃないだろうか…やはり現世でも変わらず一人寂しい生活を送るのではないだろうか…などなどネガティブな考えが泉のように湧き出てくる。
小さく縮こまり、悪い想像に侵されて遠い目をしていたエレシュキガルの元に、一人の人物が近づいた。
「失礼、誉れ高き冥界の女主人、エレシュキガルとお見受けする。貴女程の御方を呼び止める無礼を許していただきたい」
ぱちりとまぶたを開けた先、流れるように膝を折り頭を垂れる白髪にエレシュキガルは直面した。
非の打ち所のない拝謁の礼にパチクリと目を瞬かせ、沈んでいた気持ちを慌てて奮い立たせたエレシュキガルは腕を組んで堂々と謎のサーヴァントに体を向ける。
「え、ええ、いいでしょう。サーヴァントね、何の御用?」
「貴女がカルデアに召喚された事を祝って、お茶でもいかがだろうか?私の拙い品だが、どうか捧げたい。宜しければ貴女の時間を少々お借りたく願い奉る」
深く頭を下げたまま誘いを口にするサーヴァント、褐色に白髪という見慣れない容姿に首をかしげていたエレシュキガルは、お茶というワードに顔を輝かせた。
「お茶…?お茶ってあれよね?温かくて花の香りがするという水の事ね!」
「ええ、つまらない物ですが茶菓子もご用意致しました」
キラキラと光の粒を放つようなエレシュキガルの表情に小さく喉を震わせながら、サーヴァント…エミヤは続きを口にする。
さらに魅力的な話にパァっと顔を華やがせたエレシュキガルは我に返ってこほんっと咳払いをすると、威厳たっぷりに胸をそらした。
「私への献上品となれば受け取らないわけにはいきません、案内なさい。…そ、それに貴方は礼節を弁えているようだけど、ここでは同じマスターに従うサーヴァント同士。畏まらなくて結構よ」
「寛大なお心に感謝しよう。ではエレシュキガル、こちらへ」
促されるままお茶会の用意がされた空き部屋に案内されたエレシュキガルは香り高い紅茶をおずおずと飲みながら、横目で給仕を務めるサーヴァントをうかがう。
女神のプライドを満たしながら、最初のハードルを超えさせてくれた国籍不明のサーヴァント。守護者という肩書きに気づいてからエレシュキガルの混乱はさらに深まった。
食堂でも見かけた為、彼自身が世話焼きの部類に入るのは想像に難くない。しかしなぜわざわざ自分のような冥界の女神に進んで心を砕くのかがわからないのだ。
持ち前の後ろ向きな性格が疑惑を強め、チラチラと忙しなく視線を送りながら小さく菓子をかじっては目を丸くさせて輝いているエレシュキガルに、エミヤは素知らぬ顔で新しい紅茶を注ぐ。
無言のお茶が中盤を過ぎた頃、空き部屋の扉が開いてマスターが顔を出した。部屋の中に珍しいツーショットを目撃して、形のいい眉がぴくんと上がる。
「あれ?二人とも、いつの間に仲良くなったの?」
「マスター」
軽い足取りで空いた席に座るマスターへエミヤが新しい紅茶を入れた。慣れ親しんだ気遣いに軽く礼を言ってからカップに口をつけると、マスターの同席にそわそわと頬を赤くさせているエレシュキガルにニコニコと笑いかける。
エレシュキガルが召喚されたと聞いてから、メソポタミアサーヴァント以外で最も落ち着きを無くしていたサーヴァントが一人いた。
そんな相手が目的を達成したものと思い、マスターは何気なく笑顔を向ける。
「良かった!エミヤずっとエレシュキガルと話したがってたからね。確か知り合いに姿が似ているんだっけ?」
「よしてくれマスター、私は別にそんなつもりは…」
「…私はそろそろ失礼するわ、歓待感謝します」
エミヤが首を振ろうとした時、カップを空にしたエレシュキガルがおもむろに立ち上がる。
先程までおかわりを注げば注ぐだけ喜んでいたエレシュキガルの表情は薄く、感情の見えない赤い瞳にエミヤは口を開くことなく背中を見送った。
( ´ᾥ` )ウッ……エレちゃんマジ天使