英雄の歌【槍と弓】
UBW最終回後、猛然と何か書かねばならぬと思って、色んな弓を見てきた兄貴に語って頂きました。(ホモではございませんが、槍弓製造元なのでほのかに香るかもしれません)表紙はゆゆゆ様(user/2866768)の作品をお借りしました。
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遠い昔の未来に、大馬鹿野郎がいた。
ちょっとばかし魔術回路を持ってるだけの、オレ達の時代からすれば鍛冶屋の娘の方がよっぽど魔術師向きの、不器用な小僧がいた。星が導いたでなく、偉大な戦士の生まれ変わりでなく、運命に愛された仔でなく、ありふれた人の子として生まれただけの。
そいつはオレの槍で心臓を貫かれて、どういうわけか生き残った。必中の槍として開帳こそしてはいなかったものの、奴はオレの呪いを退けた最初の男になった。愛馬も朋友も、我が子ですら逃れ得なかったこの槍の呪いからだ。
その時点で英雄の資格は充分だろうと思うだろう? どっこい、奴は何も自分のものを持っちゃいなかった。唯一つ、育ての親から貰った理想以外は。その綺麗だから憧れたって理想だけでもって、あいつは全能に挑んだ。そんな傲慢と首を振るだろうが、全ての人間を助けたいってのは、神の業と何が違う? 高見を目指したヒトは、いずれ老いた鳥のように地に伏せる。どこかの翼を熔かした奴みたいにな。
しかしその馬鹿は、馬鹿正直過ぎて墜ちることすら出来なかった。飛べるはずのない翼、息を継げない筈の肺で、とうとうここまで上がって来ちまった。完全に単なる人間のまま、人間を超えちまいやがった。
希望と絶望とを交互に積み重ね、かすかな希望をその頂点におっ被せて這い上がったそいつの見たものは、人類の救済の光景だった。人間じゃあない。つまりは、人類という生物を存続させるため、死滅するべき細胞を排除するのがアラヤの存在理由だ。そしてそいつは既に、その濾過装置の一部として機能していた。
人を救うために殺して。
殺して。
殺して。
救いたかった人間を、子を失って泣く母を、父に縋って嗚咽する子を、物言わぬ兄弟を抱えた少女を、その一切を切り捨てた。
そいつは信じてきた胸ん中のたったひとつが、潰れてゆく音を聞き続けただろうさ。そうやって長い長い時を、ああ、ここはもう時間なんてねえから、永遠のいくらかを使って、やっと絶望しきった。そうだ、絶望しかしなかった。クソ真面目過ぎて、狂うことすら出来なかったんだ。強いのか弱いのか解んねえ奴だろ? オレも、自分の記録の数々と首っかきになっても首を傾げっぱなしだ。面白えのは確かだが、意味が解らん。
何でそんな馬鹿の話をしてるかってえと、何とそいつはさらに永遠のいくらか後に、すり潰されて砂にでもなっちまったような理想を、どっからか見つけて胸にしまい直したらしい。すげえだろ、こんな馬鹿は聞いたこともねえ。
過ぎた願いだと、一度打ちのめされるほどに知ったもんを、そいつは抱え直したんだ。今度はてめえが潰れる重みだってのも、勿論知ってただろう。あいつは馬鹿だが、頭は冴え冴えしてる手合いだ。でなきゃ、二度まで槍を退けられたオレの面目が立たん。
だからな、そんな大馬鹿野郎のお人好しに、久しぶりに祝福の歌でも歌ってやろうと思う。十中八九、届かねえだろう。届かねえなら届かねえでいい。オレが祝いたいから歌うだけだ。願いたいから、歌うだけだ。
砂塵の彼方に、未だ見ぬ何かをお前が見出せるように。
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- p13October 11, 2023