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投獄経験有りのフランス人との接し方を乞う/Novel by 凍護@コメント嬉しい

投獄経験有りのフランス人との接し方を乞う

5,902 character(s)11 mins

カルデア公認カップルになったエドモンとエミヤの話の続き、エドエミ/前回の話に多くの反応本当に本当にありがとうございました!!続きを希望してくださるお言葉に励まされ、続いてしまいましたw/まてりあるの照れ顔エドモンの可愛さがすごい

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懐にタバコを忍ばせたランサーのクーフーリンが喫煙所に行こうとした時、前方に見える赤い背中に小さく眉が跳ねた。
見慣れたその背中はこれまでの聖杯戦争で幾度となく顔を合わせた宿敵、しかし今日ばかりは心なしか暗雲が漂って見える。
後ろからでも如実に伝わる疲弊しきった雰囲気に頭をかいたランサーは残りの距離を詰めた。

「おい、アーチャー。大丈夫か?お前」
何気なくぽんっと肩を叩くと背中は大袈裟に跳ね、虚ろな鋼が相手を知覚してようやく緩んだ。
過剰な反応の理由は容易く想像がつく。それは数日前、カルデア公認カップルとなったお相手のエドモン・ダンテスを警戒してのことだろう。
僕たちお付き合いしましたが広まってからというもの、これまでのエドモンのイメージは完膚無きまでに破壊された。
ちょっと前までこの世の全てを蔑み、恨むような言動していた苛烈なる恩讐の化身は朝昼晩想い人へアプローチをするアムール人へと華麗なる転身を遂げたのだ。
アベンジャークラス代表格の復讐鬼がマスター以外に執着を見せる珍しい姿を面白がれる期間はとうに過ぎ、今は絶え間ない愛情表現に摩耗していくエミヤへ同情の色が濃くなっていた。
ランサーの優しい視線に肩を落としたエミヤは、あの犬猿の仲の者からも気を使われる状況に苦虫を噛んだ顔をして警戒を解く。
「…大丈夫そうに見えたら眼科に行きたまえ、おっと君の場合は獣医かな」
「皮肉言うくらいの体力はあるのか」
顔を見ればげっそりとした様子に加えて色の濃いくま、かつてのゲスマスター以上に死んだ瞳をした相手の挑発など乗れたもんじゃない。
軽口を生存反応として受け止めたランサーにがくりと肩を落としたアーチャーの衣服から紛れていた花弁が二枚、三枚廊下へ落ちる。
それはついさっきエドモンに遭遇してしまったエミヤが逃げる間もなく手を取られ、じゅてーむだのしゃとだのなんだの散々言われまくった時についたのだろう。
口説き文句(らしきもの)はだいたいフランス語で言うエドモンのお陰で、幸いなことにエミヤは相手が何を言っているかよくわからない。相手が熱烈なる想いを向けてくれているのだから聞き取れるようになりたい気持ちはあるものの、フランス人サーヴァントが顔を赤らめたりヒュウと口笛を鳴らすのを見るとやはり知りたくない。断固として。パンドラの箱をわざわざ開けることはない。
これが人種の違いというのか、皇帝ネロのお株を奪う勢いでバラの花を散らして愛の言葉を囁くエドモンに、エミヤは何度頼むから公衆の面前ではやめてくれ!と叫んだのかわからない。
服の裾を掴んでぱたぱたと振り、落とした花弁を拾うアーチャーにしばらく考えたランサーは不意に腕を掴んだ。
「ちょいとツラ貸しなアーチャー、話聞いてやるくらいはしてやるよ」
ニカッと笑った輝かんばかりのランサーの顔に、摩耗した心はつい涙が出そうになる。
しかし緩みかけた心をきっちり締めたアーチャーは、腐れ縁といえど大英雄のクーフーリンに愚痴なんて聞かせられないと頭を振る。
「…別に君にそんなことしてもらわなくとも」
「あータバコ吸ってる間に話し相手が欲しいなー!どっかに暇してる奴は居らんものかなー!」
しかしそれを見越して、すかさずランサーはこれ見よがしに声を上げる。
選択肢は元より無いアーチャーは口角を上げたランサーに腕を引かれ、その力に従ってついて行くのだった。


喫煙所として使われる部屋には足の長いテーブルが等間隔にあるのみ、その上に灰皿が乗っている簡単な作りになっている。
常連のランサーは手馴れたもので、テーブルに肘を預けてタバコへ火をつけると早速最初の煙を吐き出す。
それを見ていたアーチャーはおもむろにテーブルへ突っ伏すと、両手の指を組んだところに額をつけて重々しい声を出した。
「つらい…」
「直球だな、おい」
タバコを指で叩いて灰を落としたランサーが開始直後の重すぎる一言に苦笑する。
付き合いを始める以前、エドモンに付き纏われ始めてからずっと積もり積もっていた泥を吐き出したアーチャーは、ランサーが進めるタバコを断ってテーブルへ頬をつけた。
「ふふ…君も連日のように部屋に花束が届けられ、顔を合わせてれば手に口付けされ、油断すれば頬にもキスされて、同じ空気を吸う空間にいるとどこからとも無くラブコールされればこうなるさ…」
「熱烈な奴だな」
「さらにこれがあの巌窟王にされる私のストレスがわかるか!?モンテクリスト伯の一読者はどんな顔をすればいいんだ!」
「あーまぁそこは気にするなよ、向こうが好きでやってることなんだからよ」
顔を覆ったエミヤはこれまで蓄積した巌窟王のラブコールを大いに吐き出す。やる人物も然る事ながらやる事も日本出身のエミヤには耐え難い羞恥心が付きまとい、何度穴があったら入りたいと願ったことか。
告白は二人きりでこっそり、イチャつくのなら公衆の面前は避けて節度を守る、そんな日本の奥ゆかしさのおの字もないオープンさにガラスの心は破裂寸前だ。
なんで欧州すぐにキスする?!とただの挨拶も最初は驚き戸惑ったエミヤの叫びに、生まれ故郷が近いクーフーリンは苦笑した。
「最近はカルデアを歩くのも恐ろしい…あの巌窟王が私のようなものを何故気に入ったのか小一時間問い詰めてみたい」
「問い詰めてみればいいじゃねぇか」
「…………」
「わりぃ」
顔色を悪くさせて押し黙ったアーチャーに聡いランサーはすかさず手を挙げて謝る。
アーチャーの脳裏に蘇るのはかつて軽い気持ちで聞いてみた時の記憶、瞬間抱き寄せられてあの無駄にいい声で好きなところを延々囁いて聞かせる拷問は本当にこたえた。
エミヤの好きなところは?と聞かれた時用のマニュアルでも出ているのかと疑うほど長時間続いたそれは、腰を砕くのには十分すぎる力を持っていてその後動けなくなった自分は…いや、やめておこう。
その記憶の区画に立ち入り禁止札を立てたエミヤは頭を振ると、また長いため息をついた。
「でもな、わりとあのアベンジャーは特異なほうじゃないぞ。お前、ここの連中の全員から気に入られてるじゃねぇか」
アーチャーの話を聞いていたランサーは、新しいタバコに火をつけながら、まるでここまで自分に構うのはエドモンだけだと言うような相手へ紫煙を揺らす。
ランサーに言われて思い当たる節のあるアーチャーは否定しようと開きかけた口を閉じ、気まずそうに顔を逸らした。
「それは……私のようなものが歴代の英雄に目をかけてもらえるなんて、恐れ多い」
「お前さんはいつも私のようなものって言うがそろそろ自覚しろ。無闇やたらにいい顔するのはお前の性分でも、それを知っているか知らないかじゃ段違いだからな。そんなんだといつか第二第三のプロポーズ魔が現れてもおかしくないぞ」
ランサーが出会ってきた人間の中で、アーチャーほど自らの価値というものに気づいていない者はいない。
自覚もなしに魅力を振りまき、そして本人は盾を持たないときた。脳筋集団と一部から囁かれるケルトに生きたクーフーリンにとっては、むしろよく今まで身の危険がなかったものだと感心する。
英雄というもの大なり小なり自らに強い誇りを持っている、そんな者をほぼ無条件で尊敬の眼差しを向けるエミヤに悪い気がするものはおらず、さらにそれぞれの心地よい距離感で快適な世話を焼いてもらえば陥落するのも早かろう。
依然変わらない様子で自分を貶めるエミヤは、やや強い口調で注意したランサーへ今度こそ反論を収めて口をつぐんだ。
そしてふと顔を上げると、目の前でタバコのフィルターを短くさせる腐れ縁の男へ何の気なしに首をかしげた。
「…もしかして君も?」
「本当に嫌いだったらわざわざ近づかねぇっての」
まさか直接聞かれるとは思わなかったランサーは照れ隠しに顔をそらすと筋金入りの鈍感へ肩をすくめた。
周りのことに敏感なのに何故こうも自分への好意には疎いのか、まるまる母胎に置いてきたようなアーチャーへ呆れながらタバコを灰皿へ入れようとしたランサーは、一瞬視界の端に写った喫煙所のドアに固まった。

めっちゃこっち見てる…
それは喫煙所のドアに嵌められたガラスからこちらをじっと睨みつけるエドモン、恐らくしばらく前からずっと居たであろう視線は障害物をすべて突き抜けてランサーへ真っ直ぐに注がれている。
ちょうどドアを背にしているアーチャーは不自然な体制で固まったランサーにきょとんとして、突然喫煙所の扉が勢いよく開かれる音に背を跳ねさせた。
「エドモン…!?」
弾かれたように振り向いたアーチャーの横を通り過ぎてランサーの目の前に立ったエドモンは、自分が嗜むものとはまた違う香りに満ちた喫煙所に眉をしかめる。
エドモンはランサーの読み通り随分前から喫煙所の前にいたのだ。見つけた愛しいものに反応しようと思えば、近くにいるもう1人の男へ必然的に目が止まり様子を伺っていた。
するとどうだろうか、男と二人っきりで密室にいるばかりか気楽に言葉を交わすエミヤの姿、そして一瞬だけ漂った甘酸っぱい空気はドア越しのエドモンにも伝わっている。
エミヤの体に染み込ませた自分の匂いが、瞬く間に目の前の古い時代の英雄に塗り替えられた。
静かな憤りに眼光を強めてただこちらを睨む復讐鬼に、ランサーは明らかな敵意にもとりあえず笑って見せる。
「にらめっこしにわざわざ来てくれるなんて暇な奴だな」
「…マスターから聞いている。エミヤに縁があるとほざく面白い男がいるとな」
「誰彼構わず口説きまくる奴よりはマシだがな」
しかし明らかな侮蔑を含んだ顔と言葉に瞬間ランサーの額へ青筋が浮き上がる。元々気が長い方でないのに露骨な挑発で、喫煙所の緊張感は一気に上がった。
喧嘩売るなら買うぞあぁ?とランサーの背景に透けて見える文字に、いきなり入ってきたかと思うとランサーと睨み合いをするエドモンにアーチャーは狼狽えて仲裁しようかを迷う。
背後のおろおろとした雰囲気を感じとり、ランサーとの火花をふっと切ったエドモンはアーチャーの方へ向くと、何を言われるか構える相手へ眉を下げた。
これまでの高慢な態度からは想像もつかない儚げな表情に、虚をつかれたエミヤへおもむろに口を開いたエドモンは、吐息に交じるようなか細い声を出す。
「この関係も解消した方がお前は楽だろうか」
「…エドモン?」
「言っただろう、色恋の礼儀は弁えている。お前が迷惑だというのなら潔く引き下がろう」
行儀のいい言葉を発しながら唇を噛むエドモンには、それが彼にとって苦渋に等しい決断なのだと如実にアーチャーへ伝えてくる。
エドモンの生前、彼は愛した恋人を別の男に取られた経験がある。それ故に独占欲はこのカルデアで一二を争うほど強く、今もエミヤと会話をしていた男へ攻撃を仕掛けたくてたまらない。
だがそれを止めるのは、覗いただけでもわかるこの英霊と和やかに会話をしていたエミヤという紛れもない事実。恩讐の化身である自らがそれだけで足を止めている。
自らにも背反する思いは不可思議で、その中で形を得ているただエミヤがより幸福であればという思いに基づいて言葉を口にしているに過ぎない。
嫉妬と愛情のマーブル模様に黙ったエドモンへエミヤはしばらく口を閉ざしていたが、表情を緩めて顔をそらす。
「…私は距離を測りかねているだけだ。こんな…情熱的に求められたこともなく、さらに巌窟王から好意を向けられるような者ではないから」
「俺は復讐鬼、巌窟王であるがどうかお前にはただのエドモン・ダンテスとして見てほしい」
「ただの…」
引こうとする相手をすかさず捕まえたエドモンは、これまで蓄積した歴史をこの1人の男に対しては捨てろと言う自分へ何より驚いた。
そして小さく復唱したエミヤは、あの冷静なエドモンの白い肌へ散る紅とどこか必死そうな様子が紛うことなき恋慕に力を注ぐ男の顔であり、あまりのギャップに思わず吹き出した。
初めて見た穏やかなる笑顔につい見惚れたエドモンは、誤魔化すように頬をかく。
ちなみにすっかり忘れ去られてしまったランサーは、もう見なくてもわかる話の行き着く先に額を押さえていた。
このお人好しはあまりに押され続けると摩耗して疲弊してしまうが、気を使って離れようとすると途端に申し訳なさが湧いて引き止めてしまうのだ。
だからお前変な奴に好かれるんだよと言いたいところをランサーはぐっと我慢する。

「お前の視界に入りたい。望みがあれば言ってくれ」
真っ直ぐに射抜かれて、アーチャーは改めてエドモンとの付き合いを考える。
相手の猛烈なアプローチは何となくわかったが、それでも今すぐに彼の望むような態度を軟化させることはこれまで一般人として生きてきたエミヤには難しいのだ。
さらに未だエドモンは謎に包まれていて、あまりここで適当なことを言うのは今後の為にも良くない。
少し考えたエミヤは瞬間相手のことがよくわからない場合、仲を深めるには絶好の手段が自分の出身地にあることを閃いた。
「では…そうだ!交換日記から始めないか?」
「コーカン…日記?」
「なんでだよ」
初めて聞く名称に首を傾げるエドモンと、かつて冬木の地へ召喚された経験で記録には知識のある対象年齢小学生の手段にランサーはツッコミを入れずにはいられない。
居心地の悪い雰囲気を感じて、アーチャーも自覚はあるので顔に熱を集めて呆れた視線を振り払う。
「うるさい!それで私は君のことを知ろう。しかしこれから熱烈なアピールは控えてくれ、私には恥ずかしすぎるんだ」
「好きな者へ好きと言えないのはこたえるが、お前が望むのであれば頑張ってやろう。ニホンジンとは難儀なものだな」


その日から始まったエドモンとエミヤの交換日記、書かれたことは変わらない毎日を綴る他愛のないものだが、エミヤは相手の選ぶ言葉や端々に現れる嗜好にページをめくる度小さく微笑んでいた。
今日も先日渡した日記が返ってくる。本人に手渡される時もあれば、部屋に置いてある時もある日記帳にはいつも一輪だけ薔薇が添えられているらしい。
カルデア公認カップルは継続中である。

Comments

  • May 1, 2022
  • meichi
    June 24, 2018
  • 凍護@コメント嬉しいAuthor

    うめこさん>コメントありがとうございます!とてもとても有難いです///私の拙いエドエミを楽しんでくださる方がいらっしゃるのが嬉しくてたまりません…!

    January 25, 2017
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