【再録】『赤』のアーチャー?
昔に発行した赤騎弓本の再録です、お待たせしてしまいすみませんでした!!
再録にあたっておまけの話はカットしております。そちらのWEB公開は未定となっております。ご了承ください
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【注意】
・赤のライダー・アキレウス×アーチャー・エミヤの赤騎弓本です
・アポクリファに関するネタがあります
・カルデア内設定の捏造あり
その他心の広い方向けの話となります。
注意事項を確認の上でどうぞお楽しみください
【『赤』のアーチャー?】
文明の光が消えた天体にまたひとつ、星が落ちる。残してきた軌跡を辿るように、導かれ合う運命に従うように。そして、星々の煌めきは砂漠でダイヤを探すような果てのない確率で失われた絆すら蘇らせるのだ。
しかし、それは時に顔なじみとは限らない。人の縁とは糸のように絡み合い、解けて、また交差する。
人類史で唯一残った方舟、カルデアにまた思わぬ出会いが結ばれる。
召喚サークルがバチリと弾け、安定していた光が激しく瞬く。湖面のように澄んだ水色は溢れ出る魔力に反応して黄金色に輝き、凄まじい余波の風を受けてサークルの前に立っていたマスターの少年とマシュが咄嗟に腕で体をかばったその時。
「召喚に応じ、参上した。俺は赤の…っと、この呼び名は必要ないんだったな。ギリシャは駿足のアキレウスだ。これからよろしくな、マスター!」
無人のサークル内に人影が現れる。吹き抜ける風をものともせず、まるで森の木々を揺らすそよ風だとでも言うように召喚された男は涼しい顔をしていた。
マスターとマシュが腕を下ろせた時には、早速物珍しげにカルデアの召喚サークルを見渡している。男は鎧の上からでも容易にわかる鍛え上げられたしなやかな体躯を持ち、若葉色の髪が美術品のごとく整った相貌を絶妙な角度で隠していた。そして視線に気づいてこちらに向いた琥珀色の瞳は、思わず体の芯をゾクッとさせるような鋭い光を携えている。
マスターらが緊張したのは一瞬だけ、神代の戦士を前に硬くなってしまった現在の主人へアキレウスが気さくにニカッと笑いかけると、止まっていた時間が動き出したように召喚の間は賑やかになった。
「すごい!アキレウスってあのアキレウスだよね!?」
「はい!彼はギリシャ神話の中でも特に有名な英霊の一人、おめでとうございます。先輩!」
どんなに英雄譚に疎い者でも一度は名を聞いたことがある大英雄に、マスターとマシュが喜びを堪えきれず飛び跳ねる。後世のものに自身の戦歴を尊ばれるのは嫌いじゃない。きゃあきゃあと小鳥が遊ぶような声に表情を緩ませたアキレウスは、二人の少年少女の大歓迎ぶりに満更でもなさそうな顔で手を差し出した。
「まぁまぁ騒ぐなって。喚び声に応えて見れば、またとんだ面倒事に首を突っ込んじまったもんだ。だが、俺が来たからには安心しろよ、マスター!我が槍とオリンポスの神々の名の元にお前に絶対の勝利を授けよう!」
召喚されると同時に付与された知識でおおよその事情は察した。人類史を丸ごと焼却とは太い奴がいたものだ。生きてきた軌跡を踏みにじるような侮辱を感じ、眉を潜ませたアキレウスはそんな輩へ果敢に立ち向かうカルデアという組織に早速好感を抱いていた。
堂々と胸を張り、轟くような声で口上を述べるアキレウスの頼もしさたるや。既にいくつかの戦いによって傷だらけになった手で握手を交わしたマスターは、頼もしいサーヴァントの来訪を心から歓迎した。
早速大英雄に気に入られたマスターに口角を上げ、護衛役のロビンフッドが腰を上げる。万が一友好的でないサーヴァントが召喚された時の保険で付いていたが今回は自分の出る幕はなさそうだ。
「大袈裟な野郎で。じゃあマスター、新しいサーヴァントが来たって赤いアーチャーに伝えてくるぜ」
「待て」
すると召喚の間を後にしようとしたロビンフッドの背に鋭い声が掛かる。ピタリと足を止めてゆっくり振り向いたロビンフッドの前には、これまでの快活な笑顔が嘘のように表情を固まらせたアキレウスがいた。無礼を働いた記憶はないのだが、神代の英霊が扱いづらいのも確か。ただならぬ様子に、ロビンフッドも素知らぬ顔をして腕の武装へ静かに手をかける。
「何ですか?自己紹介の続きならまた今度聞いてやりますよ」
「お前今…何のアーチャーがいると言った?」
警戒するロビンフッドに対して、アキレウスはアーモンド型の瞳をこぼれ落ちんばかりに見開いて詰め寄った。呆気に取られたロビンフッドの言葉を待つのも焦れったい、頭の中で無数のまさかという言葉と期待が踊る。
ああ、神々よ、奇跡よ、寵愛に感謝を捧げよう!
『赤』のアーチャーがいる!
再度ロビンフッドから聞き出したアキレウスは居場所を聞いた瞬間走り出していた。『赤』のアーチャーとは、現世においては実在したことかも怪しい記録へ残る名である。それはイフの世界で勃発した聖杯大戦の折、同じ旗の下で戦った狩人。アキレウスも腕前を認めるギリシャ神話の英霊、アタランテが冠していたクラス名だ。
あの時は二つの陣営が実現した故に便宜上『赤』と『黒』で呼び分けていた。つまり通常の聖杯戦争時には有り得ぬ呼び名が鼓膜を揺らすという事は、関係者がいる事に他ならない。
自慢の駿足が遅いと感じる日が来ようとは、逸る気持ちに苦笑しつつアキレウスは目的地の前で急ブレーキをかける。走り出したアキレウスを誰も止めることは出来ず、マスターらはとっくに振り切ってしまった。何か後ろで言っていたような気もするが、苦情は後でいくらでも聞こう。教えられた場所、食堂の前で深呼吸をひとつしてアキレウスは扉を開けた。
広い食堂は時間も半端だからか人も少なく、閑散としている。ぐるりと見渡したアキレウスの瞳に、ふとキッチンから出てくる少女達が映った。白髪の長い三つ編みの子と黒いドレスの子がお菓子の入った袋を持って、鈴が転がるような声で喜びながら横を通り過ぎて行く。気配からして彼女らもサーヴァントだろうが、古今東西子供が喜ぶ声は心地いい。早くジャックに上げましょう!と話し合う声を横目に、アキレウスはキッチンへ足を進める。
探し人も見つかった。やはり時代や世界が変わろうとも彼女は子供を愛する性なのだろう。キッチンから感じる人の気配に微笑み、そして堪えきれない喜びに破顔して飛び込むようにして調理場に入った。
「姐さん!姐さんもここに召喚されてたのか、やっぱりそうだよな!改めて同じ陣営で戦場を共に出来る栄誉と幸運に俺は…」
狭いキッチンでもキョロキョロしてしまう、我ながらガキのように忙しないことを自覚しながらもアタランテの事を呼ぶアキレウスに触発されて奥にいた気配が動く。
どうかもう一度、もう一度だけでも会いたかった。瞳を輝かせるアキレウスの前で、調理場にかけられていた暖簾を分けて『赤』のアーチャーが顔を出す。
「なんだ?随分と騒がしいな」
顔を出したのは陽の光に透ける金髪とミルクのような白い肌の女性…ではなく、くすんだ白い髪に乾いた大地色の肌を持つ男性という全てにおいて対極の存在だった。思わずぽかんと口を開けたアキレウスはすぐさま気配を探るが、どこをどう探ろうとこの食堂にサーヴァントは一人しかいない。そう、目の前の男だけ。
意味する事を瞬時に理解したアキレウスは豪快に顔を覆い、雄々しき戦いを超えてきた大英雄は膝を折って地面に伏するのだった。
「って、姐さんじゃねぇのかよ!!」
人の顔を見るなり絶叫する男に、エミヤも何となく落胆されているのは理解した。神性のオーラに外見だけで伝わる強者の風格は、たとえ現在進行形でガックリとへこんでいても隠せるものではない。
いいサーヴァントを喚べたのだなと、小さく呟いたエミヤはなおもうずくまって残念そうに唸っているアキレウスへ腰に手を当てて唇を尖らせた。自身が凡百のサーヴァントであるのは自覚していても、こうあからさまにショックを受けられると面白くない。
ムッとしたエミヤがアキレウスに視線を合わせるようにしゃがみ、付けていたエプロンを外す。
「悪かったな、お目当てのサーヴァントではなくッ」
すると瞬間膨れ上がった敵意にエミヤは身構える間もなく捉えられる。気づけばアキレウスに襟首を掴まれ、足は宙に浮いていた。遅れてゲホゲホと咳き込んだエミヤの手から使い古されたエプロンが床に落ちる。
ミシミシと軋む首の骨に眉根を寄せるも、目の前の大英雄から発せられる殺気の凄まじさで痛みは毛ほども伝わってこない。何とか手首を掴んで気道を確保しようとする男をギッと射抜き、ついぞ見たこともない風貌の男が偉大な女狩人の名をのうのうと使っている事に怒りが止まらないアキレウスは唸るようにして口を開いた。
「誰だ貴様は?誰の許しを得て赤のアーチャーの名を語っている?」
「ぐっ…赤のアーチャーと名乗ったことは無い、君の勘違いじゃないのかっ?」
アキレウスの殺気を受けても男は負けじと睨み返してくる。何処ぞの詐欺師かと思えば案外骨のある様子にアキレウスが片眉をあげたその時、食堂にバタバタと駆け込む数名の足音が響いた。
「やっと見つけた!いきなり走り出したからびっくりしたよ」
「エミヤ先輩!?大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄るマシュを見て、仕方なくエミヤを下ろしたアキレウスは片腕で筋骨隆々の男を締め上げていたとは思えないほど悠々とした様子でマスターの元に行く。
これが神代の、本物の英霊か。遅れて痛みを伝える首を抑えたエミヤは、心配そうなマシュへ大丈夫だと言うように笑みを返して立ち上がった。
「マスターよ、こいつがお前らの言う赤のアーチャーだと?笑わせるな!」
そして、マスターを仁王立ちで見下ろしたアキレウスはイライラとした様子を隠しもせず語尾を荒らげる。咄嗟に前に出るロビンフッドを押しのけ、驚くマスターの肩を乱暴に掴んだ。
この地に召喚されてすぐ事情を知った。消え行く人類史がこの少年の細い肩にかかっていると理解したからこそ解せない。それは先に歴史から退場した英霊として、戦場に立った一人の戦士としても。
「何故俺を喚んでおいて姐さんを呼ばない!召喚は不規則といえど、俺の主を名乗るなら見る目を養って貰わねば困る。見たところあの男は逸話も何も無い無名の男ではなかろうか!窮地の今、雑兵を悪戯に増やす暇はないんじゃないのか?」
アキレウスの真っ直ぐな声に食堂でたむろしていた者たちも息を殺して動向を見守る。しん…とした食堂で最初に口を開いたのは鈍痛が残る首を擦りながら出てきたエミヤだった。
「…否定は出来んな」
そして稲妻のような眼光を無視してマスターの肩から手を外させたエミヤは一回ため息をつき、ぐるりと振り向いてアキレウスと真正面から対峙する。
一歩も引く気は無いエミヤはまるでひと振りの刃のように隙がなく、ただの凡人が己と睨み合うにしては不釣り合いの様子に違和感がまた泡の様に湧く。アキレウスが気を抜いた一瞬で、ようやく息が出来るようになったマスターが口を開こうとするのをエミヤは片手で制した。
「えっと…」
「いい、任せてくれ。君の言う事は正しい、しかしここの召喚システムはどの聖杯戦争にも記録されていない特殊なものでね。触媒を用意しても目当ての英雄を召喚できるとは限らない。事実、君も呼び声だけを頼りにここへ参上したのではないかね?」
口を開けば淡々とした語り口に、冷水をかけられたようにアキレウスの怒りも静まっていく。確かに自分も縁のある人物や聖遺物を頼りにこの地へ降り立ったのではない。これまでの触媒を頼りに英霊を呼ぶ聖杯戦争の固定概念に縛られていた事を指摘され、アキレウスは思わず唇を噛む。
己が誤りを認識してくれた様子にふっと肩の力を抜いたエミヤは、後ろでこちらを窺う少年へ安心させるように微笑んだ。
「高名なサーヴァントを揃えられない理由を理解してくれたのなら有難い、だからあまりマスターを責めてやるな」
「…ああ」
アキレウスが素直に頷くのを見て、食堂にもざわざわとした話し声が再開される。扱いがわかりやすいのか、難しいのか微妙なところにロビンフッドはため息をついて構えを解いた。
マスターの気遣わしげな視線に素知らぬフリをしたエミヤは、理解は得ても微妙な顔をしているアキレウスへ恭しく頭を下げた。
「改めて歓迎しよう、ギリシャの大英雄アキレウス。君のような名高き戦士が来てくれて、とても有難い」
─────
ギリシャ神話に名高い大英雄アキレウスが召喚された報はカルデアを瞬く間に駆け巡った。時に苦々しい顔をするサーヴァントがいたけれども、戦力不足かつこれからどんな特異点が待ち受けているかわからない現状、有力なサーヴァントは代え難い。
召喚直後は小競り合いを起こして少しギクシャクした仲も、持ち前の裏表ない性格が幸いしてすぐに受け入れられた。数日後にはまるで結成当初から居たサーヴァントのように馴染み、アキレウスはマスターと軽口を交わしながら圧倒的な力で立ちはだかる敵を屠るのだった。
今世の現界も順風満帆、現代の新しき世界に好奇心を大いに満足させながら、レイシフト中のアキレウスがぐっと伸びをした時。ふと、目の端に映る赤い色に目を奪われる。それは何の変哲もない木々に実った林檎、ツヤツヤとした実が木漏れ日を照り返していた。林檎を見れば以前は同じギリシャ神話の英霊を連想しただろうに、今は違う人物を脳裏に浮かべている。
それは目にも鮮やかな赤い外套を纏った弓兵の事だ。初日に自分から突っかかって以来とんと姿を見ていない。最初は姿を見れば苛立つだけだと、せいせいした気持ちでいたアキレウスもここまで顔を見ないと気になってくる。心の小さな抵抗を無視してマスターに聞いてみれば、エミヤという弓兵は大体食堂にいると言う。
だから一度狙って食堂に居座ってみたのだがそれも空振りに終わり、結果アキレウスの中には確信じみた答えが出来た。恐らく、いやきっと自分はエミヤという英霊に避けられているのだ。自分にとってはいい事のはずが、日を重ねるにつれてどうにも複雑な気持ちが増してくる。楽しい生活の中に残る一つのしこりに唇を尖らせたアキレウスは、今日もレイシフトが終わるなり早足で食堂に向かうことを決めるのだった。
一方その頃、食堂では夕食の準備が進められていた。レイシフトの予定が無い者は余暇を過ごすカルデア内で、有志のサーヴァントは自ら家事に勤しんでいる。その中の筆頭、英霊エミヤは茹で上がったパスタをカゴに開けている途中でピクっと顔を上げた。
突如動作を止めた相方に触発されて、同じくキッチンで家事をこなすブーディカがあたりを探る。すると、すぐにカルデアへ次々に増えるサーヴァントの気配に気づいてエミヤの様子にも納得した。
「…そろそろレイシフト組が帰ってくるな。ここは任せた、ブーディカ」
「エミヤくんが気にすることじゃないと思うんだけどな」
「無闇な諍いは避けるべきだろう」
エプロンを脱いでぱたぱたと簡単な片付けをしたエミヤは、自分が誰から逃げているのか知っているブーディカに苦笑する。毎度の事ながら人類最速と名高い男から巧みに逃げているエミヤへ肩をすくめ、早速身を屈めて姿を消そうとしている同僚に声をかけた。
「もう…エミヤくん、お弁当いる?また一人でレイシフトする気でしょ」
まんまと考えていることを言い当てられ、驚いたエミヤは何でもお見通しというような自信満々のブーディカと目が合う。マスターたちを優しく見守る眼差しと同じものを向けられて、くすぐったい気持ちになるエミヤが顔をほころばせた。
「貴女には敵わないな、ブーディカ。心遣い感謝しよう、だが今日はすぐ戻る予定だ。遠慮しておく」
そう言って食堂から出て行くエミヤの背を見送ったブーディカは、数分後気のない振りをしてエミヤを探すアキレウスの追求をはぐらかすのだった。
─────
その日、ザァザァと滝のような雨が地上に降り注ぐのを見て、嘆息したエミヤは今も外で辺りを見渡しているアキレウスへ声を張り上げた。
「ここで救援を待つしかないようだ!君も体を冷やす、戻ってきたまえ!」
エミヤの声に鞭のような豪雨の中でも反応したアキレウスはぬかるんだ地面をものともせず、一足飛びに洞窟へ戻ってきた。同じサーヴァントでも目を見張る身体能力へ舌を巻いたエミヤは、視線に気づいたアキレウスから顔をふいっと背ける。
やはり避けられている…向けられた背にもやもやしながらアキレウスはぐっちょりと濡れた服を絞り、びしょびしょの髪をかきあげた。
アキレウスが召喚されてから早一ヶ月、出現する特異点やそれに付随する歪みを順調に修復していたカルデア一行は、とある山に派遣されていた。そこも特異点が消えた以上緩やかに修復される運命だったが、何の悪戯か予想以上の淀みを抱えてしまったのだ。溢れ出る悪意ある生物たちは一回のレイシフトでは駆逐し切れず、一旦撤退して体制を整える事となった。
今度こそ任務を完遂する為に、二回目は有力なサーヴァントが動員された。それはエミヤも例外ではない。久しぶりのマスターを伴っての戦闘に、喜び勇んだエミヤはチームにアキレウスがいた事で表情が凍りつく。組まないでくれと口に出した事は無いが察してもらいたかったな!と胸の中で転がり回ったものの職務に忠実なエミヤは背中に突き刺さる視線を無視してオーダーに応えたのだった。
だが、エミヤが大人の対応をしても相手はそう上手く行かなかった。ようやく再会出来た顔にアキレウスはチラチラどころか、ジーと熱線を浴びせ続ける。なんとも戦いづらいことこの上なかったが、気づかないフリをした事が仇となったのか…
増加したもやもやをぶつけるように闘争心を燃やしたアキレウスが敵を深追いするのを、見かねたエミヤも続いたことで、結果的に二人孤立してしまったのだ。鬱蒼とした森をめちゃくちゃに走り抜け、気づいたら帰り道がわからずに頭上では雷雨が轟くとは、大の英霊が二人揃って何をしているのか頭が痛くなる。
幸いは魔力の供給路が途切れていない事、ならばカルデアのモニターでは自分らの存在は認識されているのだ。つまりこの激しい雨さえ止めばマスターたちが迎えに来てくれるだろう。
槍で黒く湿った土を削りながら戻ってきたアキレウスが近くの石に腰掛け、忌々しげに空を見上げる。つられて曇天を見たエミヤも色が濃くなった外套を絞れば、足元にはすぐ水たまりができた。
「ったく、雨如きに情けねぇ」
「私たちがはぐれたのは雨のせいだけじゃないだろう。マスターの命令を聞かず敵を追い回すから森の中で迷うんだ」
「あぁ?」
アキレウスのぼやきにすかさず小言が飛び、思わずトゲのある声が出てしまった。するとまだまだ言いたい事はあったらしきエミヤは静かに口を閉ざし、アキレウスの目の前を無言で通り過ぎていく。狭い空間でわざわざ衝突する事は無いとの冷静な判断だろうが、今のアキレウスには正直堪えた。
「…や、怒ってるわけじゃねぇけど。お前の言う通りだよ」
ぼそっと付け加えられた言葉にエミヤが小さく顔を上げるのを見て、アキレウスの心にはやはり期待が湧いてしまう。もちろんアキレウスは男に好かれたい訳では無い。好きな対象は美女であり、むくつけき男に嫌われようと屁でもない…はずだった。
早い話がアキレウスは生前に至るまで、ここまであからさまに味方から壁を作られたことがない。敵ならば呪われた事があっても、まさか味方という自身な懐にいる者から距離を置かれるのは初めての経験だった。
さらにそれが自らの勘違いが原因なのも輪をかける。だのに相手があまりにも物分かりよく、自分にとって都合のいいように動かれるものだから複雑なのだ。
この期に二言、三言、言葉を交わせれば…と思わぬ展開に胸を踊らせたアキレウスが口を開こうとしたその時。
「君はここに居ろ。この洞窟は深そうだ、少し見て来る」
服を絞り終えたエミヤがすくっと立ち上がり、洞窟の暗い喉奥に向かってスタスタと歩き始めるではないか。出鼻をくじかれたアキレウスが止めようとする間もなく、足を早めたエミヤは外の光が届かない洞窟へ姿を消してしまった。
投影したランプの明かりを頼りに、真っ暗な道を手さぐりに進む。逃げ込んだ他のエネミーはいないか、この洞窟はどこに繋がっているのかを調べに歩き出したエミヤは、少しすると背後から聞こえる足音に振り向いた。
「…何か?」
「別に」
するとそこには、案の定武器を肩に担いだアキレウスがいる。そっぽを向いて気楽に口笛を吹いている姿に、神代の英霊はつくづく理解不能だ…と心の中で呟いたエミヤはさらに歩く速度を増した。気まぐれならすぐに振り切れるだろうと、楽観視していたエミヤの予測は早い段階で外れることになる。
段々と速度を上げ、終いには全力で走ってもアキレウスは延々と付いて来たのだ。走りながら後ろを二度見、三度見したエミヤだったがよりによって対アキレウスでの徒競走の根比べは部が悪い。
しばらくすると洞窟内をぐるぐる走り続けたエミヤは土壁に背を預けて、涼しい顔で息一つ乱していないアキレウスをゼェゼェと恨みがましく見上げていた。
「何故ついてくる?!」
「俺が何しようと勝手だろうが!」
「君はまったく…」
やけくそ気味に叫んでみれば、相手は俺のどこが悪いとむしろ問いただすような勢いで胸を張るものだから怒る気力も鎮火してしまう。さすが歴史に名を残す豪胆な英霊だ。がっくりと肩を落としたエミヤはどんな理不尽を言われても、仕方ないなと笑って許してしまいたくなるアキレウスの顔に観念して、とうとう完全に腰を下ろす。
間髪入れずに隣へいそいそと収まった名高い英雄にふっと笑ったエミヤが、近くの地面にランプを置いた。人体の名前の由来にもなっている大英雄と拳一つ分の距離ほどしかない位置で隣り合って座る日が来るとは、つくづくカルデアとは興味深い機関だ。
思わぬ縁にエミヤがしみじみランプの中の火を見つめていると、じじッと灯りが揺れた。
「『赤いアーチャー』…」
風の主は明かりに照らされた何の面白みもない土壁を見ながら口を開く。騒動の発端となった呼び名を聞いて渋い顔をするエミヤの方に顔を向けたアキレウスは、自身の長い脚を立てて肘置きにすると、素直に首を傾げて見せた。
「あんたの呼び名だろ?」
「私がそう呼んでくれと言った事は無い。ここには同じクラスが多いからな、特徴をあげつらえただけさ」
初日以来、アキレウスもカルデアのルールを調べなかったわけではない。特異な状況故に同じクラスで複数召喚が可能な場。そこでの呼び分けはシンプルに真名を使うしかない。しかし聖杯戦争経験者の中では、真名の開示は自殺行為だと常識になっている。ならば抵抗心が消えるまで便宜上本人の特徴を添えたクラス名で呼び合うのは何らおかしなことではない。
以前案内をしてくれた茶髪の男も、『緑』のアーチャーと呼ばれていた時期があったそうだ。何の落ち度もなく、ルールに従って生きていた者を勝手な勘違いで吊るし上げてしまった罪は重い。
素っ気なく答えたエミヤは目の前で深々と下げられるアキレウスの頭に目を丸くした。
「…かつての非礼を詫びよう、俺の勘違いで悪かったな」
プライドの高そうなアキレウスが謝罪を口にし、恐らくエミヤがいいと言うまで地面を見ていそうな姿には正直言葉を失うほど驚いた。しかし、エミヤはすぐに柔らかく目尻を細めるとどこまでも素直で真っ直ぐな男の肩を掴んで起こさせ、気にするなという風に首を振った。
「気にすることではない、私も知り合いがいると喜び勇んで向かった先に別人がいたらショックを受ける」
冗談めかすエミヤの小慣れた様子にアキレウスもつられて笑顔を見せ、凝り固まった空気はゆったりと流れていく。
ようやくわだかまりが消えて、アキレウスは横目でエミヤを見つめるとどの国籍にも当てはまらない風貌に首を傾げた。褐色の肌に白い髪、中東の者かと思えば肌質は驚くほどきめが細かく、顔立ちもよく見れば本人の落ち着いた雰囲気と相反するようにどこか瑞々しさがある。
「お前は何の英霊だ?」
好奇心を刺激されたアキレウスが、前のめりになるようにエミヤへ問いかける。するとようやく壁が消えたと思った相手は、一転白い睫を伏せると気を引き締めるように背筋を正してしまった。
英雄同士自らの武勲を競い合うのは誰もが好むこと、ちょうどいい挨拶代わりだと口にしたアキレウスは目の前で左右に振られる首に目を白黒させた。なにせエミヤはカルデアでも一、二を争う優秀な戦士だ。彼がマスターに心から頼りにされている理由は家事ばかりではない。時として主力を、時として支援をと巧みに立ち回り戦果を得る腕前は、英雄を星の数ほど見てきたアキレウスをして感心するものがあるのだから。
「…何の英霊でも無い」
「戯言を、ここに呼ばれるからには成し得たことがあるはずだ」
「私には何も築き上げたものは無い。…強いて言えば、か弱き者を殺し続けた殺人者…だな」
ぐっと白い歯が唇を噛み、苦虫を噛み潰したような顔で吐露された答えにアキレウスは目を丸くさせる。そして眉間にシワを寄せると、吐き捨てるように言葉を継いだ。
「反英霊か…」
「そんな所だ。だから君ほどの人物がわざわざ気を使うに足る人物じゃないんだよ、私は」
色が変わる様にがらりと変わったオーラへいっそエミヤは清々しさを感じていた。守るもののために戦った英雄と、いつしか守りたかったものを殺し続けていた反英霊は水と油。交わるどころか、いっそ交わってはならないと考える。さっぱりとした気性の者が相手ならそれはなおさらだ。
これでいよいよアキレウスとの縁は切れるだろう。なんて短い繫がりだったのか、既に解けた結び目をぼんやりと見ていたエミヤは次の瞬間肩を強引に掴まれて、ハッと顔を上げた。
「ナメるなよ」
鋼色の瞳いっぱいに広がったのは、牙をむき出しにして地の底から響くような低い声で唸るアキレウスだった。二度と交わらないと思っていたエミヤの心底驚いた眼に舌打ちをしたアキレウスは、放るようにして手を離すと肘置きにしていた脚であからさまに貧乏ゆすりをする。
「一目見ればそいつの性根が腐ってるかどうかくらいわかる。この期に及んでまだ隠し立てするというのか?」
「…間違いは言ってない。本当に、私は英霊と呼ばれるのもおこがましい男なんだ」
じろりとこちらを睨む陽光色の眼光に肩をすくめたエミヤは、どうやら自分を随分買いかぶっているらしき男へ幻想を砕くように冷たく否定を返した。結果はどうであれ今まで己がしてきたことは虐殺だ。それを今更綺麗ごとで修飾する気はさらさらない。
それでも納得がいっていないアキレウスに、ため息をついたエミヤは仕方なく『抑止力』という穢れた掃除屋について口を開いた。
エミヤの話が終わった洞窟内は、静寂に包まれていた。時折遠くから雨音がポツン…と響く音だけが二人の間を流れる。自身が英霊の座に至るカラクリを語ったエミヤは、それきり口を閉ざしてしまったアキレウスを横目に見る。
また彼を落胆させてしまっただろうか、そっと肩を落としたエミヤが火の勢いが弱まり始めたランプに手を伸ばした。
「…昔、お前と似た奴に会った事がある」
するとこれまで沈黙を貫いていたアキレウスがおもむろに口を開く。ランプに伸ばした手を止め、エミヤの灰の目の中で小さな火がチラチラと揺れた。おぼろげに揺れる虚像のようなそれを見つめるエミヤに振り向いたアキレウスは話を聞いてから渦巻いていた思いを口にし、眉を潜ませる。
「だが、お前は奴よりも理解し難い。奴は憎しみを捨てたと言った。しかしお前はそもそも憎しみを持たなかったと言う」
「…嘘も何も、本当に恨んでいないからな」
アキレウスの探るような言葉に対し、ため息交じりに応えたエミヤはランプの小窓を開けて灯りを調整する。もう話すことはないとでもいうような態度に、アキレウスは思わず片眉を上げた
ただ人を助け続けた男の末路、それは残酷なまでに救いがなく、理解者もない茨の道。それを前にして地獄に追いやった者たちを恨んでないとは、これを詭弁と言わずして何という。自身は洞窟に入ってこれまで、言葉を真剣に重ねてきた。だのに相手は明らかな嘘で片づけを始めようというのだ。
「貴様…っ」
あまりにもお粗末な有様にアキレウスがとうとう腰を上げ、作業をするエミヤを鋭く見下ろした。丁度調整を終えたエミヤの色が抜けた髪を、暖かな火が照らす。そっと小窓から手を抜いたエミヤはアキレウスを見上げることなく真っ暗な洞窟の壁をぼぅと見つめると、いつかの夜に見た粗末な独房の壁と似ている土の肌へゆっくりと首を振った。
「…満足だったんだ、本当に。一人でも多くの人を助けたかった。だから自分に出来ることを続けたんだ」
その時、ようやくエミヤに嘘偽りはないと察したアキレウスへ瞬間頭を殴られたような衝動が突き抜ける。ただ人を救いたい、なんだこの男は…本当に人なのか。
自身が知っている神も貢ぎ物が無ければ重い腰を上げることはないだろう。今まで出会ってきた神、人…何ものにも当てはまらない心の有様にアキレウスはゾクッと背を跳ねさせ、茫然とエミヤを見つめる。
さらには自身を殺人者と貶めるエミヤに、とうとうアキレウスはいてもたってもいられず拳を握った。己が仕掛けた問答で、むしろ真っ暗な迷宮に迷い込んだのはアキレウスの方だった。
「それは、英雄と呼ばれるに足る行為ではないのか?俺の耳には、生前でも出会ったことがない尊い心に聞こえる」
「もし本当にそうと感じたのならはっきり言わせてもらおう、誤解だ。俺はいつの間にか臨んだ姿とは似ても似つかない場所にいたんだよ。……少し話過ぎたな。やはり君は人好きされる人物のようだ。ついつい長話が過ぎてしまう」
しかしそれもあっさりと首を横に振られ、渡した梯子は地に落ちる。だが最後に垣間見た苦々しげな顔はこれまでの人当たりのいいものとは異なり、アキレウスは多くの言葉をぶつけて得られたほんの少しの素顔の欠片を握りしめた。
すぐに普段通りの体に戻り、つい口を滑らせてしまったことに自分でも意外そうにエミヤは顎を撫でる。ここまで長話に興じる気は正直まったく無かった。それが相手に求められるがまま答えていたら思わぬ深層にまで踏み込ませていたのだ。
これも神に愛された者のスキルなのか…満更冗談でもなさそうに胸中で呟いたエミヤに、往生際の悪い男は追撃を加えた。
「では最後に聞かせろ、お前の求める英雄とは何だったんだ?」
「これが最後だぞ。……正義の味方さ。アキレウス、君たちは誰に聞こうと文句なしの英雄だろう。武勲を立て、民に恵みを持たせる存在だ。私はそんな者たちになりたいとは言わない。ただ…そうだな、君たちが去った後、宴の会場は誰が直すと思う?」
「それは…」
突然言葉を切り、謎かけを挑むように問を返してきたエミヤへ面食らったアキレウスは思わず言葉を詰まらせる。どうやら考えたこともなかった様子にふっと笑い、天性の英雄に血反吐を吐く様な努力を重ねて小指一本ようやく至ったような男は眩しそうに目を細める。
「私は英雄譚のインクにもなれなかった者たちに手を差し伸べたかった。…ふふ、もうこんなつまらない話はやめようか。この洞窟に先は無さそうだ。魔力の節約に睡眠でもとろう」
答えを待たずに投げて寄こされた毛布は温かく、アキレウスが顔を上げた時にはとっくにエミヤは背を向けていた。その鍛えられた背に何故か、どうしようもなく悔しさを感じたアキレウスは、背中を見せる意地も張れなかった。
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手こずった時代の歪みも修復され、カルデアにはまたつかの間の平穏が訪れた。新たな特異点の洗い直しは管制室の優秀なスタッフに任せ、瞬きのような休日を得たマスターが食堂に向かう。
今日も変わらず居る赤い外套のアーチャーに、レイシフト先で調達した茶葉をふるまってもらうのもいいだろう。先日、彼は戦場に復帰した矢先に本隊とはぐれて孤立するという幸運Eぶりを見せつけてくれた。マスターらも大層気を揉んだ事件も、古参にして多方面に秀でるエミヤに心配は無用だったらしく、再会するなり変わらない笑みを見せてくれたのを思い出す。
確かその時にはアキレウスも一緒で、再会した時にはどこか二人の間に壁はなくなった雰囲気を感じて未熟なマスターながらにほっとしたのだ。あの時の事をエミヤにまだ詳しく聞いていないと思いながら、マスターは食堂の定位置になっている席を取った。
「エミヤ―!」
するとカウンターの方向から聞こえる声に顔を上げる。そこには身を乗り出して調理場にいるエミヤへ声をかけているアキレウスがいるではないか。ほんの数日前まで接点のせの字もなかった二人の急激な展開にマスターは目が零れ落ちんばかりに見開いて、カウンターに向かった。
「手合わせしようぜ、暇だろ?」
「残念ながら暇ではないな、今日は食堂当番なんだ。ほら、アキレウス。マスターに場所を開けてくれないか?」
「おっと、悪いな。また後で来るぜ」
皿を拭きながらげんなりと応対していたエミヤは、アキレウスの背後に見えたマスターをこれ幸いと引っ張り出す。しつこく誘っていたアキレウスも食堂の本来の意味を思い出して頭を掻き、すぐに場所を開けた。そして手をひらひらとさせながら向けられた背へ密かに嘆息したエミヤは目を白黒させているマスターに、言いたいことはわかると言いたげに深く頷いた。
「ず、ずいぶん仲良くなったね」
マスターの呆然とした感想に肩を落とし、エミヤはカチャカチャとティーポットを用意していく。エミヤ自身ここまで垣根を超えられる心当たりがなく、肩をすくめるしかなかった。やはり理由は二人きりで取り残された洞窟の夜しかないのだが、どう思い出してもアキレウスの琴線に触れた自覚はエミヤにない。
神代の英霊は複雑怪奇だ…と呟いたエミヤはあっという間に用意したティーセットをトレイに乗せ、マスターの席まで運んでくれる。
「私に脳筋に好かれる要素などないと思いたいのだが…」
「アキレウスって脳筋なのかな?」
「そうでなければかまってちゃんの大型犬だ。マスター、再三頼んでいるが今度こそ決めてくれよ」
カチャンとテーブルにトレイを置いたエミヤがチラリと流し目を加えてくるのを見て、マスターは曖昧な笑いを浮かべた。つい先日も一人でレイシフトしたエミヤから収集した魔力リソースをもらったマスターは、彼が言わんとしていることがわかる。
「あーアタランテを召喚するって話ね、頑張るけど出来るかな」
アキレウスが召喚された日から、何か思うことがあったのかエミヤは時間を見つけては一人で戦場に赴き、召喚時に必要な資源を集めてくるようになった。一人のサーヴァントが持って来れる量はたかが知れていても、毎日のようにコツコツ重ねたことでマスターの手元にはまた英霊召喚を望める程度の準備は整いつつある。
恩も義理もない相手のために休日を返上してせっせと働くエミヤにマスターも複雑な顔で唇を尖らせた。それを素知らぬ顔で受け流し、準備したティータイムのセットにエミヤは満足そうな顔をしている。
これだけ見返りを求めずに人のため働けるものが世界に何人いると思うのか。言っても聞かないことをこれまでの付き合いでとうに知っているマスターは、入れてもらった世界最高ランクに薫り高いお茶へ贅沢に口をつけた。
「以前渡した素材で召喚サークルを起動させるに足るはずだ。今度こそ召喚してくれないと、彼が変な勘違いを加速させる可能性が…」
あくまで今のアキレウスの興味はアタランテの代替品であると言うエミヤは、くどくどと長い語りをしていた口を突如止めて肩をがっしりと掴む手にゆっくり振り向いた。そこには今の今までマスターの用が終わるまで待機していたアキレウスがにっこりと笑っており、凍り付いたエミヤの首根っこを持って余裕綽々に歩き出す。
「用は終わったな?マスターよ、こいつ少し借りてくぜ」
「あ」
マスターが何か言う前にすたすたと歩き始めたアキレウスに引きずられて、どんどん小さくなるエミヤは最後まで悲痛な声を上げていた。
「エーミーヤー!行くぞ!」
「頼んだぞマスター!」
多分アタランテを召喚してもこれはどうにもならないと思ったが、一人取り残された賢いマスターは残された紅茶のカップをただ傾けるのだった。