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夜明けのコーヒー(隠語)/Novel by 凍護@コメント嬉しい

夜明けのコーヒー(隠語)

8,021 character(s)16 mins

まだくっついていないエド(→)エミと作家サーヴァント、シェイクスピアが悪ノリしてます

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今日も今日とて作家サーヴァントのたまり場になっている書斎。
それぞれの定位置に腰掛け、なにかに追われているように紙とペンや液晶画面で猛然と文字を書き綴る様子をゆったりとタバコの煙をくゆらせながらアベンジャーの巌窟王が眺めていた。巌窟王は作家の修羅場の鑑賞者でありながら時折床に捨てられた没案を拾い、ゴミ箱に捨てては新しいコーヒーを継ぎ足すなど小さなサポートに当たっている。
またに地のそこで呻く亡者のようなう゛ぁぁぁぁ…という叫びが流れる書斎に、コンコンと軽やかなノックが響いた。
「シェイクスピア、ちょっと」
そして入ってきたのはアーチャーのエミヤ。
新しいコーヒーのポットを片手に持ちながらニッコリと笑う顔はどこか黒いものを混じらせていて、名指しで呼ばれたシェイクスピアは呼ばれた理由を察し背中に冷や汗を流した。
ペンを置いたシェイクスピアの元へ近づいたエミヤが、ゆっくり腕組みをすると尊敬する世界にも名高い作家を笑顔で見下ろす。ちなみに瞳は笑っていない。
「あなたは言いましたね?巌窟王がマスターにバレンタインのお返しでコーヒーを入れたと?」
「言いましたな」
「そして巌窟王はコーヒーを入れるのがうまく、振る舞うのも好きだから頼んでみるといいのではないかと?」
「ええ」
「夜明けのコーヒーを頼めばそれは喜んでもらえるだろうと、言いましたよね?」
「はい、セリフの指定も致しましたな。『夜明けのコーヒー』と」
さらさらと滞りなく進む事実確認。
淀みなく一問一答を繰り返したエミヤは、ここまで追い詰めてもまったく悪びれないシェイクスピアへとうとうピキリと額へ青筋を浮かべた。
「…で、夜明けのコーヒーの意味することとは?」
「男女または恋人が夜を過ごす隠語ですよ」
「……あなたが矢避けの加護を持っていたら!!!」
エミヤ同様にニコッとしたシェイクスピアの笑顔をしばらく見つめたエミヤは瞬間崩れ落ちて、ステータスの低い作家サーヴァントを呪った。
エミヤの心から悔しそうな叫びにシェイクスピアが高笑いを響かせる。相手が普段の喧嘩相手の某アイルランドの英雄ならば、間髪入れずに発動していた固有結界の魔力の行き場がない。
「はははは残念ですな!私のような作家サーヴァントに固有結界なんて使った日には目も当てられません!弱いものいじめはいけませんぞ!」
「この前はクリームパフ、今度は夜明けのコーヒー…よくもこんな下らない隠語をご存知で…。何故こんな馬鹿馬鹿しいことをするのです?」
げんなりとしたエミヤは僅かに痩せたように見える。サーヴァントに体重の増減はないが、そう見えてしまうほど憔悴しているのは確かだ。
その理由は明白、チラとエミヤが原因へ視線を向けるとコーヒーを楽しむ復讐鬼は素知らぬ顔。
この頃のエミヤが悩まされているのは意味を知らずに隠語を口にしてしまい、降りかかる巌窟王エドモン・ダンテスからのセクハラだ。
補足すると隠語を言わなくとも妙に付きまとわれているのだが、シェイクスピアに(不本意な)誘い文句を吹き込まれてからさらに悪化してしまった。まさに黒幕である。
「吾輩も物書きで生計を立てたものですから。理由ですか…それは単に貴方は、マスターやマシュ嬢に次ぐ純粋な読者でありますからな。どうしても気になってしまうのです」
「はぁ…?」
ひとしきり笑った後ニコニコとしたシェイクスピアからの返答に、意味を掴みかねたエミヤがぱちくりと目を瞬かせる。
口にするのもはばかられるような隠語を何食わぬ顔して教えてきたものとは思えないシェイクスピアの表情。
それを見て、これは作家という崇高な職へ携わる者からの好意であり、自分の考えている嫌がらせやその類ではないのかと、エミヤが己の下世話な勘ぐりを恥じようとしたその時。
「その気持ち、俺もわからんでもないぞ」
一旦文章を保存したアンデルセンがソファの背もたれへ肘をついてこちらをのぞき込む。
もうひとりの世界的作家にああやはり…とエミヤがほだされかけた刹那、見合ったシェイクスピアとアンデルセンの顔へ締切に追われる者の悪どい笑みが浮かぶ。
「作品を見てきっとこんな物語を書く人は素敵な人に違いない…!と、星の輝きを閉じ込めた瞳の読者にキャーキャー言われるのも悪い気はしないものですが、そんな読者にありのままの姿を見せ、夢を叩き潰すのも一興なのです。おお、これぞ作家として誰もが陥るジレンマ!甘美な蜜はいつも毒!」
「こんな素敵な物語を書く人がこんな穀潰しだとは思わなかった?当たり前だろうが!!夢を見るのは本の上で留めてもらいたい、作家なんてものはすべからく締切という魔物から逃れるためにペンを握ってるに過ぎないんだからな!」
「ロマンチックな展開?伏線回収?ふふふそんなものは幻想、締切直前の現実逃避に自作を読み返して、たまたま見つけた文字をリサイクルしたに過ぎないのですよ!」
「貴方達がどんな人物なのかよくわかりました。少なくともマシュには絶対この事を言わないよう肝に銘じてください」
ベラベラと流れるように語り合ってはハハハと笑い合う締切の幽鬼たちへ、手をかざしてストップをかけたエミヤは額に手を添えて頭を振る。
言葉を紡ぐことに関して世界有数の2人の何たる無駄遣いか。とどのつまり、やはりエミヤは一読者としておちょくられていたのだ。
もう思い出すのも難しい昔、図書室で読んだシェイクスピアとアンデルセン童話の感動が砂と消えていく。
また一つ摩耗が進んだエミヤがぶんぶんと首を振って気を確かに持つと、やり取りを他人事のように見つめるエドモンへ視線を向けた。
確かにシェイクスピアは黒幕だが、台本というのは演者がいなければ幕が開くことはない。
意味を知らなかったとはいえ誘った自分も悪かろう。しかしそれでも高名な巌窟王がこんな陳腐な誘惑に引っかかって襲いかからなければ、エミヤの胃も痛まなかったのだ。
「ともかく、シェイクスピア氏が私に下らないことを吹き込む理由はわかりました。だとしても、何故巌窟王ともあろう方がそれに乗ってくるのかがわからない。貴方ほどの人物であればわかるでしょう?」
瞳にこもってしまう多少の恨みがましさを感じながら、エミヤは混ぜたくなる皮肉を懸命に我慢して傍観者の巌窟王へ水を向ける。
それでも僅かに混ざる言葉の棘に、タバコの煙をふぅと吐き出した巌窟王がようやくエミヤの方を向く。
真っ直ぐにこちらを見つめる赤い瞳はここ最近ですっかり見慣れてしまった。感情の読めぬ怨恨の炎が何を言うのか、構えているエミヤを瞳の中に収めた巌窟王は不意にニヤッと笑った。
「当たり前だ」
「当たり前!?」
さらっと言われた確信犯宣言にエミヤからつい素っ頓狂な声が上がる。
口もぽかんと開いてしまった間抜けな顔に、滅多に見れない表情をしっかり網膜へ焼き付ける巌窟王はくっくと肩を揺らした。
「あのような隠語で誘う者がいるものか。今日日、深窓の令嬢でも少しはひねりのあることを言うだろうな」
シェイクスピアよりもさらにタチが悪い胃痛の発生源へ、エミヤはつい最近の癖で胸を抑えながらピクピクと動いてしまう眉の動きが止められない。
冷静に、冷静に…相手はあの巌窟王エドモン・ダンテスなのだから。きっと崇高な理由があるはず。復讐鬼が深夜に自分の部屋へ夜這いを仕掛けに来たり、気づけば能力を使って部屋に不法侵入を図っていたり、スキンシップが激しかったり、愛の告白をすることにもきっと理由があるのだ。
「ではなぜ勘違いだとわかりながら私の寝室に忍び込むのですか?いよいよ人の寝室に忍び込むのが趣味だと錯覚するのだが」
「クハハハハ!!知れたこと!起きた瞬間のお前の驚いた顔が面白いからに決まっているだろう。いくら復讐鬼に落ちようと、まだ遊びは捨てておらんのでな」
カルデア名物の高笑いをしながら言われた理由とやらに、とうとうエミヤの纏う空気ヘ殺気が交じる。
ぶるぶると怒りに震える手へ集まる魔力を必死に抑え、散々自分の平穏を乱しまくっている相手へ某金ピカに感じる感情と似たものを感じながらエミヤは歪な笑顔を向けた。
「……ははは、それは愉快ですね」
「ああ、寝起きのお前の顔はそれはもう!筆舌に尽くし難い可笑しさだ!鳩が豆鉄砲を食らったような気の抜けたぽかんとした顔が特にな!」
『巌窟王じゃなければ殴りかかっていた』、後のエミヤは語る。


それから数日後、エミヤが巌窟王相手にとうとう武力行使を本気で視野に入れているという風の噂を聞いたシェイクスピアは書斎で見合っている2人を横目で窺う。
以前のようにコーヒーのお代わりを持ってきたエミヤが呼んだのは渦中の巌窟王。呼び声に快く答えたエドモンと、テーブルを挟んで真正面に座ったエミヤの晴れやかな顔にシェイクスピアは理由をどことなく察していた。
何故かの巌窟王がここまで執着してくるのか、それは少し考えてみればわかることだ。
良くも悪くもああいう手合いは人の好き嫌いがはっきりしている。
そしてなぜ同性相手の自分に好意を示すのか謎に思うなら、わざわざあの巌窟王が自分に好意を示す理由を考えてみればいい。それは幼児にもわかる簡単なパズルだろう。
元は空回りばかりする巌窟王を見かねて協力をしていたが、一応自らが気付きの火種にガソリンを注いだものとして興味深く様子を見る。
「やっと巌窟王が私にちょっかいをかける理由がわかりました」
「ほぅ?聞こう」
やっと来た、とうとう来た!シェイクスピアはついガッツポーズしてしまいそうになる腕をぐっと堪える。
しかしそれほどに長かったのだ。ここまで露骨なアピールは今どき決まり切ったテンプレ恋愛小説でも無いほど、巌窟王が情熱的なアプローチをしていても長かった。
くわえていたタバコを灰皿に捨て、巌窟王が続きを促す。
理由はわかってもらえても返事がまだ残っている。2人の行く末がどうなるのか、固唾を呑んで見守る書斎メンバーの耳に聞こえたのは信じられない一言だった。
「私が天草四郎に近い外見をしているからでしょう?貴方はルーラー、特に天草四郎へ他者にはない興味を示している。恐らくそれによって無意識に混同してしまっているのではないだろうか?」
どこか晴れやかに、そしてしょうがない人を見るように、エミヤが胸を張って自分が導き出した理由を口にする。
瞬間凍りついた書斎の空気に、シェイクスピアとアンデルセンは猛然とダッシュで逃げた。
触らぬ神に祟りなし、たかが星2サーヴァントが星5サーヴァントの怒りに巻き込まれたらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかであるからだ。
ドタバタと書斎から消えた作家コンビにきょとんとするエミヤの視界へ、向かい側の巌窟王の肩が僅かに、いやだんだんと大きく揺れていくのを見た。
「クッ……ハハックハハハハハッ面白い、やはり長生きはするものだ。…よもや、俺を地獄へ墜した奴らに匹敵する怒りを感じることとなろうとはな!」
言い切る前にテーブルへ拳を振り下ろす巌窟王に、冷静さの失われた姿へ動揺を見せるエミヤは眉を下げた。
「た、たしかにあの天草四郎と私のようなものを同列に語るには思い上がりがすぎたな。しかしそれ以外の理由なんて思いつかない…」
さらに追い打ちをかけてくる今は憎らしい口を、手をかざして止めたエドモンは体中から魔力の炎を迸らせ、書斎を黒々とした色へ埋めていく。
「口を閉ざせ、貴様の言葉に意味は無い。我が怒りの炎の中で、泣き叫ぶがいい!!」
そして瞬間エミヤを取り囲んだのは何人ものエドモン。魔力による分身という巌窟王の特異能力だと気づいた時にはエミヤはソファに引き倒され、見上げた天井と黄金の瞳のエドモンに司会は埋め尽くされた。
「なっ何を…っ!?」
静止を求めるよりも早くエミヤに伸びる手、手、手…。
咄嗟に伸ばされた手は押さえつけられ、足も封じられ、それでも残っているエドモンの手はおもむろにエミヤの体にフィットした武装へと行き着く。
「は?え?ちょっ!?あああハハハハハハ!!!!!やめっ!!あははははは!!!」
次の瞬間書斎から廊下にまで聞こえてきたのはエミヤの大爆笑。
複数のエドモンに無防備な体を全身余すところなくくすぐられ、滅多にない笑い声を大いに響かせるエミヤへ先に脱出した作家サーヴァントはそっと手を合わせた。

時折エミヤが咳き込んで、涙を浮かべても終わらなかったくすぐり地獄が終わった書斎でシェイクスピアが漂う煙に顔をしかめた。
その主たるエドモンはもう2桁に突入した苛立ち紛れのタバコをすぱすぱと吸っていたかと思うと、眉間にこれ以上ないほどの深いシワを刻みながら復讐の炎によって手のひらの上で燃やし尽くす。
「壮絶でありましたな」
「はっ、あの程度で住んたことに心から感謝してもらいたいものだ。マスターに止められていなければ、より深く、魂の奥に刻みつけるようにしっかり思い知らせたというものを」
「…いやはや、あそこまで鈍いのも珍しい」
エドモンの言わんとすることは察しているシェイクスピアは、巌窟王のなけなしの温情によって、貞操が守られたとは夢にも思わないだろう弓兵のことを思った。
事実は小説より奇なり、また時に現実とは小説よりも厳しい。身分違いの悲恋も可愛く見える巌窟王の恋路に、シェイクスピアは心の中のメモ帳を開いてネタを書き留めた。

Comments

  • meichi
    June 19, 2018
  • hino
    May 6, 2017
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