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Une Cuillère à Café/Novel by 肋屋

Une Cuillère à Café

2,864 character(s)5 mins

「たった小さじ一杯で」
‐‐‐
短文が続くので少し読みづらいかもしれません、すみません。
表紙はこちらからお借りしました【illust/61080840

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俺には味覚がない。
正確には味覚を奪われた、と言うべきだろうか。

‟復讐者”
憎悪と怨念。それは時として絶大な力を行使するための駆動力となる。
俺は触れるものを死へと至らせる毒の炎を手に入れた。
だが世界には必ず摂理があり、その摂理こそが抑止力となる。
つまり何事にも代償は付き物ということだ。
俺の場合それは味覚であった。
だが、どうでもいい。
サーヴァントである今、食事を必要としなければ俺の目的にはそのような機能はいらない。


「エドモンの淹れるコーヒーって美味しいよね」
カップに入った黒い液体を啜り、目の前の少年はつぶやく。
共犯者。導く者。マスター。
正直者でお人好し。実に‟人間らしい”男だ。
俺が最も憎むはずの存在が最も身近なものになるとはな…皮肉なものだ。
「それは何よりだ。」
「やっぱりフランス人だから?ほら、フランス料理とかも煌びやかで、味も美味しいし…?」
空のように澄んだ蒼をした瞳がこちらを向く
その瞳は少年の清廉さをよく表していた。素直で安直でどこまでも透き通った蒼。
俺の黒い炎に吞まれることのない、真実の蒼。
「はっ…どうだろうな」
「うーんそっけないな~」
空になったカップを少年はテーブルに置くと、「また飲みに来るね」と言い残し少年は部屋を出て行く。
俺は自身の淹れたコーヒーの味など知らない。他者の反応を見るほか知ることができない。
まぁ、別段文句も言われていなければ自分が飲むわけでもない。
もう片方のカップに淹れた黒い液体を一気に飲み干す。口を通るのはただの液体であった。
もちろん味もなく、本来この液体が発するはずの芳しい香り感じることはなかった。
ただ流れるように‟何か”が喉を通る感触しかなかった。
「ハッ……くだらんな」
時折訪れるこの感覚…刹那、とあの作家は形容するだろうか。それはファリア神父を失った時と似通ったものであった。


「ねぇ、エドモン!食堂行こう!」
「…はぁ?」
コーヒーを淹れてやった次の日、少年は蒼の瞳を輝かせながら部屋を訪れた。
「しょ・く・ど・う!今日はエミヤがお菓子作ってくれるんだって」
「エミヤ…あぁ、あの弓兵」
少年曰くあの弓兵が料理を作るという話を聞きつけると食事好きの猛者どもが一堂に会するらしい
「で、なぜ俺だ?他の奴を連れて行けばいいだろう」
騒がしいところは好まない。その上食事ともなれば…俺にとっては意味もなさない。
「いや、ほらエミヤの作ったお菓子ならフランス人のエドモンも納得する味かな~と」
「結構だ、遠慮する」
「まぁそんなこと言わないでさ!何なら令呪使っちゃうよ?」
右手に刻まれた赤い刻印をちらつかせながらにやついた顔をこちらに向ける。
全く、安直すぎるのも考え物だ。
「チッ、分かった。だからそんなくだらないことで令呪を使うな。」
破天荒で突拍子もない…実に我が共犯者らしい。
不本意ではあったが少年と共に食堂へ向かう。

味覚を持たざる者に食事を振舞ってどうする?それに意味はあるのか?
少年は知らない。知る必要などない。知ったところで、何になる?

食堂に着くと数多なる英霊たちによって賑わっていた。
喧騒を掻き分け少年に外套の先を引っ張られながら席に座らされる。
「おや、これは珍しい来客だ。君が食に興味を持つとはな」
黒のタブリエールを着た褐色のサーヴァントが白いアシエットを運びながらこちらへ向かってきた。
噂の赤の弓兵、エミヤ。
「エミヤの料理を食べさせたかったんだ!エミヤのケーキはきっとフランス人も頬が落ちるくらい美味しいし!」
嬉々とした表情の少年に対し弓兵はどこか茶化すような口調で言った。
「これはこれは、とんだプレッシャーだな。マスターの期待に応えられているといいのだが」
そっと慣れたと手つきで置かれたアシエットに乗っていたのはフランス菓子の中でも有名なタルト・タタン。
「まさか本場のフランス人に食べてもらえる日が来るとは、光栄だがいささか緊張するな」
東洋の英霊と聞いたがその背丈は俺よりもずいぶんと大きい。
だが体躯に見合わないどこか柔和な雰囲気を醸し、苦笑をしつつも期待の眼差しをこちらに落とす。

上に乗っている林檎はよく煮詰められており、生地も程よい加減で焼かれていた。
見た目だけなら間違いなく一流といっても過言ではない。
だがその味は、俺が判断できるものではない。
フルシェットの先をタルト・タタンに食い込ませ、サクッと音を立てながら一口大に切る。
そっとフルシェットを口に運び口内へ押押し込める。だがそこに広がるのはただの‟感触”。
丁寧にキャラメリゼされた林檎の甘味を感じることもなければ、生地の芳醇な香ばしさを感じることもなかった。
そして伽藍堂の体にはあの時の刹那がまたしても響く。

(寂しい…とでも言いたいのか?)
空虚、それでありながら確かに質量を持った不可思議な感情が体の奥で静かに燻る。

違う!違う!違う!!こんなくだらない感情など俺の中には存在しない!
復讐の化身である俺に!このような生臭い感情などありはしない!

何度も自分自身で否定を繰り返す中、ふと口の中に甘くも苦い、独特の香りが広がった。
それは突然でありながらもどこか懐かしい香りであった。
「…ラム?」
分かるはずのないこの体が確かに感じ取った微かな変化。
「よく気付いたな。隠し味にラム酒を使用しているのだが、流石本場の人と言ったところか?
いや何、違いが分かってくれる人がいるというのは嬉しいものだな」
マスターは全く気付いてくれなくてな
そう言う弓兵は溜息を付きながらも口角は少し上がっていた。


そうか、あぁそうか!!!そういうことか!!!
「クハッ…クハハハハハハハハッ!!」
可笑しい。なんて馬鹿げている。これは神の信託か?運命の導きか?
いや、この場所へ連れてきたマスター、お前に感謝するべきかもしれないな?
「ラムは苦手だったか?すまなかった…せっかく来てくれたんだ、違うものを」
「いや、いい。頂こう!お前の料理は実に…興味深い」
アシエットを下げようとする褐色の腕を掴み止める。

「流石エミヤ…フランス人をも呻らせるその手腕…」
「いや待てマスター、呻らせるというより何故か笑われているぞ?」
「いや、でもエドモンご機嫌そうだし?」
「そうか…?ならいいが。」
傍らで二人が不毛なやり取りを繰り広げる中もう一度タルト・タタンを口に含む。
そしてやはり、口腔に広がるのはあの時の懐かしい香り
俺が生命として再び目覚めたときの香り
復讐鬼、エドモン・ダンテスの始まりを意味する香り

赤の弓兵、エミヤ。
俺に第三の人生を与えた男よ。


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