どうかあなたに祝福を
FGO金赤弓です。赤弓こじらせすぎて激しくオリジナル解釈まじりですので、ご注意ください。友人と盛り上がった末の妄想なのでに新幹線クオリティです(汗)
- 59
- 67
- 2,248
どうかあなたに祝福を
何度だって君に恋をする
最近ここカルデア内である事が流行っている。
「恋ダンス」
耳に残りやすい音楽と、可愛らしい振り付けで女性職員やサーヴァント達の間であっという間にひろがっていった。
特に娯楽の乏しい最近。楽しそうに練習しては、お互いの出来を披露しあっている。
そう。
観ている分には大変微笑ましいが、まさか。
まさか。
「我の為に、舞うがよい。」
その当事者に自分がなる事など在りえないと、この英雄王はわからないのか。
「残念ながら私にダンスの素養はない。英雄王たる貴方を満足させられる踊り子をご所望ならば他をあたってくれ。」
痛む頭を抱えたい気持ちを嫌味にすりかえ変え、遠まわしに全否定してやった。
ついでに席から立ちあがり早々にこの場から立ち去ろうと食べかけの食盆ごと背を向けた。
それがいけなかったのか。
珍しく自室ではなく食堂で昼食を所望した英雄王に付き添ったのが運の尽きだったのか。
「毎晩あれほど愛らしく舞っているではないか。」
わざとらしく甘さをたっぷり含んだ声音で英雄王は攻撃してくる。
「我の褥でな。まさか忘れました等とはとほざくまい。」
所々でモノの落下する音や、食器の割れる音がする。
(なんで今日に限ってこんなに人がいるんだっ。)
親父、ごめん。貴方に救って貰ったこの命。世界を救う為に使いたかった。
でも今ほど誰かに殺意を持ったことはない。…主に自分をだが。
どんどん青くなる自分を絶対心底楽しんでいる。
絶対的支配者である英雄王の顔は弱った獲物を仕留める狩人のそれだ。
「あれ程可憐な生娘もなかなかおらんぞ。いまさら求愛の踊りの1つや2つ簡単ではないか。それとも我の命令が聞けぬと申すか。」
追撃の手が止むことはない。
さすが最強とまでいわれた英霊。もう己に出来る反撃手段は脱兎の如く走り去る事だけだった。
「そういう事だ。あれは頭の先から爪の先。存在すること自体が我の所有物だ。凡百のお前たちと仲間ごっこをさせている我の寛大さを努々忘れるでない。」
全身深紅の礼装に身を包んだ男がその弓兵の階級に見合った身軽さを遺憾なく発揮して走り去った方向を見定めた後、英雄王はその場に居合わせた全員に冷たく言い放った。
「それさえ忘れなければ、今暫くは好きにさせておいてやる。」
それだけを言い残し英雄王は、逃げた獲物を仕留める為に軽やかな黄金の響きだけを残して廊下の奥へ姿を消した。
残されたカルデアの職員や英霊達が暫くの間そのネタで生きていくのはいうまでもない。
忘れられない過去がある。
正義の味方に憧れた男が最後まで捨てる事のなかった、いや捨てる事の出来なかった唯一の過去。
自分の元となった人間が最後を迎え、英霊に昇華してからこれまでの幾月。
摩耗した記憶の中でそれでも消えることのない大切な日々の思い出の、その中でも一際鮮明な映像。
今と少しも変わる事ない尊大な態度と高貴な出立ち。ここに召喚されて彼と再び逢いまみえた時、きっと自分は堕ちていたのだ。
2度目の恋に。
始めの頃こそ認められずに毎晩寝むれず、疲れて帰還したマスターや英霊の夜食作りに精を出したり施設内の環境整備をしたりと、おかんスキルを発揮して誤魔化していた。
そんな風に距離を置いていたが、レイシフト先で思わぬ失態から重傷を負い、何とか一命と繋いでくれたのが同じ戦場にいた英雄王の行動だった。
(救命の為とはいえ、その魔力を譲渡する行為が、まぁあれなのは流石に…。)
その行為のただ中で記憶の共有という単なるネタばれ的告白が切っ掛けとなり、紆余曲折の末英雄王とそういう関係になれた。
多少強引ではあるが自分の気持ちを認めてしまえば後は楽だった。どんな気まぐれか英雄王が自分に飽きて興味がなくなる迄は側にいる事を許されているのだ。
彼は生まれながらの王。それも並みの王ではない。世界最古、最大の英霊。言動が少し…いやかなり俺様でも許されてしまう。同じ男としての土俵からして違うのだ。
「だからといって許せる事と許せない事くらいあるだろう!あんなにも大勢の人間の前で恥ずかしげもなくっ!」
怒りに任せて投げつけたクッションから零れ出た羽が宙を舞ってはゆっくりと堕ちていく。八つ当たりしたそれは、持ち物が極端に少ない自分にと英雄王が特別に誂えさせた細やかな刺繍が見事なもので、口には出さないがかなりお気に入りだった。普段ならば決してしない行為だが今は…。
「全く、何が気に食わぬか理解できんぞ。」
「っ!?」
気付かなかった。
いつ扉が開いたのかさえ分からなかった。
背後に立つ男はまだ楽しむ余裕があるというのか、その瞳は愉悦を含んでいる様に見えた。その眼光から逃れたくて背後の壁に背中を預けて俯いてしまった。
「貴方に羞恥心を求める方が馬鹿だった。俺などどうせ飽きれば破棄される程度の価値しかない、いやそもそも価値なん
てない。世界が効率よく続いていく過程で不必要なものを排除する為だけに組み込まれた歯車程度の存在だ。」
自分で言っておいて今更思い知った。額にあてていた掌に移した先にある自分の指先。己の物である筈の実体のなんと肉薄なことか。
そう。
この身は英霊と至る為に世界に捧げた供物。過去も現在も未来すら自分から捨てた。
笑いしか出てこない。そんな身で神代の英雄と共に在れると錯覚するなどなんて幼稚な考えだろう。
「愚かだな。実に愚かしい。」
頭上から降ってきた声は驚く程に静かだった。
その声音が優しかったら。
怒りを含んでいたら。
失笑であったなら。
自分は顔を上げる事などできなかっただろう。
「貴様が馬鹿なのは今に始まったことではない。愚直なまでに己を律してきたからこその今の在りようなのだ。」
感情を伺い知ることのできない口調で王は告げる。
決して他者にひざを折る事を良しとしない筈の英霊は、嘘の様に容易く自分の前に片膝を立て、視線を絡ませてきた。
「そもそも何を思い悩むことがある?世界の富は須らく我の所有物だと申したであろう。然らばその世界に隷属しているお前が我の物である事など明白極まりない理であろうに何故それがわからん。」
「…はい?」
小首を傾げる様まで愛らしいことよ。などと呟いる英雄王の言葉に思考が追いつかない。
「そもそもここにいる連中は我とお前の関係など既に知っているわ。」
「なんだとっ!」
「当たり前だ!我より先に召喚された程度の些細な事で自慢しおって。全くもって怪しからん。だから思い知らせてやったまでの事。」
もう何をどうしてどうやったのか、聞く事すら恐ろしい。寧ろ知ってしまったら最後。きっと自分の存在ごと抹消したくなる様な回答が返ってきそうだ。
「いい加減機嫌を直せ。いつまでもそうして弱っているともっと酷い事をしてやりたくなる。」
(最悪だ、この男!)
王たる逸材が全員彼の様では些か困るが、こと眼前の英雄王に限っていうならばこれが正しのだ。
余りに急転直下すぎて何故こんな状況になったのか思い出す事すら面倒くさい。というかしたくない。
先程まで沈んでいた気分が少しずつ戻ってきた。其のことで取り戻しつつあるいつもの少し皮肉屋な表情で王にむかって顔を上げた。
「そうだ。笑え。怒れ。泣け。お前に必要な事はもっと己の感情や思いを全面に出すことだ。」
「今の私にこれ以上必要な事なのか?」
この英雄王ほどではないが、自分とて人並に感情を表現してきたつもりだ。まぁ他者にそれがどう捉えられてきたかはわからないが。
他者を見ていない様に言われるが、王としての資質なのか彼は人の本質を正確に見抜ける。
「当然だ。まぁ褥の愛らしさは公衆の面前に出さずともよいが。」
前言撤回。殴り倒す。全力をもってその口ごと駆逐しよう。
そう決意した。
その目にはいつもよりまだ3割程度足りないが、強い光が戻りつつあった。
「そうだそれでよい。雑種には雑種の意地と矜持があるであろう。その強さは時に如何なる強敵をも打ち砕く。
野に咲く花には素朴な愛らしさが。大輪の華にはそれに合った誇りが。道端の石ころでさえ時には金剛石に勝る可能性が宿る。全く退屈しないことよ。」
何とも強引な話だ。だがそう語る英雄王の言葉には真なるモノの価値をその身で知るからこその重みが籠っている。
「可能ならばそれらと共に我の宝物庫に並べておきたいところだが、それでは些かつまらんからな。」
特別の自由をあたえてやろうと英雄王は尊大に言い放った。
「全くこちらの人権は完全無視なのか。」
ゆっくりと立ち上がった。何時までも座り込んでいるのは性にあわない。自分には歩く為の足も武器を振るう力も、そして誰かの為に料理を作る腕もある。ならばできる事をするまで…
「ところで、何故急にあんな話を私に振ったんだ?」
そう。
もともとこんな面倒くさい話になったの原因は全て今カルデア内で流行っている‘恋ダンス‘なるものが原因だ。
普段たいして興味がない素振りで傍観する筈が、何故今日に限ってあれ程話題に乗ったのか。じっとその顔をみれば英雄王は心底馬鹿にしたような顔で見返してきた。
「理由などない。なにやら面白そうだと思ったからだ。」
それがどうした。という顔で返された。
「…そうか。」
そもそも在りもしない理由で自分はこんなにも一喜一憂し精神をすり減らしたのか。もう怒りを通り越して疲れしかない。
「では逆に聞くが。何故そんなにも怒り恥ずかしがった?」
「私は貴方とのこの関係が皆に知られていると知らなかったからだ。それに…知られたくなかったというか…。」
最後の方は聞き取れないくらい小さい声になってしまった。
「ほぅ。」
「そもそも私の一方的な思いだと思っていたしだな…。」
(くそっ!なんだってこんな告白めいた展開になっている!?)
もう自分では収集がつかない。つけられない。もう後は天に運をまかせよう。折角立ち上がったのにまた膝から崩れていきそうだ。
「今のところはこれ以上問うまい。そうだな、続きはその身を貪るうちに聞けるであろう。」
不吉な言葉が聞こえたと逃げを打つ前にがしりと腕を掴まれて引きずられていく。
もちろん行き着く先は快楽地獄。
個人所有にしては贅沢すぎる大きなベッドに強かに背を打ち付けた。代わりに先程まき散らしたクッションの中から飛び出したまま片付けられかかった羽毛が再び宙を舞った。
「目を瞑らんか、痴れ者が。王の前で不敬であろう。」
堕ちてくる羽とともに愉悦交じりの言葉が堕ちてくる。
もうなにも考えず。
今は
これから与えられる快楽にのみ浸ろう
それが
いま自分にとって最善すべきこと
‘何度でもお前に恋をする’
影が重なる瞬間に確かに聞こえた呟きだけがいつまでも記憶に残り
後はすべて真白の彼方