磨耗の果ての召喚
五次アーチャーこと、みんな大好き赤い弓兵さんが第四次に参戦、という既に使い古されたテーマでお届けします。/Fate各作品のネタバレだだもれ要注意。/エミヤさんはセイバークラスで切嗣がマスター。よってアルトリアは登場しません。/おおむね原作通りの展開を予定していますが、予定は未定です。/ここのエミヤさんは磨耗の果ての魂の消滅5秒前。聖杯戦争が終わったら完全消去の運命です。/その前に何かあるといいねということで、宜しくお願いします。//小説デイリーランキング21位&13位獲得!感激のあまり蟲を吐きそうになりました。現実では緑茶を吹きました。ありがとうございます。
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終わりの始まり
赤い世界に、彼は一人立ち尽くしていた。
時の流れすら意味を持たない英霊の座では、どれだけそうしていたかと自問するだけ無駄というもの。
目はうつろに開かれていた。
そこに映るのは血の色を写した空に、ひび割れた大地、突き刺さる剣、剣、剣。
気づけばまた、知らぬうちに/確かに見知った剣が増えている。
記録を紐解けばどこで手に入れたものか識ることもできようが、彼は気に留めなかった。剣の本質は把握している、使い手の技量も理解している。ならばその経緯など必要ない。
増え続ける剣の対価は、彼自身の損耗。個としての存在を削り、記憶を際限なく失った果ての姿。
それが今の彼だった。
――ここはどこだっただろう。
……自分の世界。
――自分とは誰だっただろう。
……思い出せない。
とりとめのない思考はこぼれ落ちる。
だが、それもどうでもいいことだった。
――やるべきことは成した。
――あとはもう、終わりを待つだけ。
何をしたのかも、何が終わるかも自覚せず、彼はただひたすらに立ち続ける。
と。
ふと、彼は自分が呼ばれたような気がした。
それ自体は珍しいことではない。彼は使役されるモノ。召喚に応じ、与えられた仕事をこなす。それ以上でも以下でもない。
しかし、呼び声に違和感があった。いつものように有無を言わせぬ力ではない。呼びかけるような、請い願うような。
彼は首をかしげた。呼び声は無視しようと思えばできるほどの影響力しか持っていない。必ずしも「自分」を呼んでいるのではないのだろう。事実、声は彼の世界に響いた後、呼びかけの波紋をゆっくりと外界に散らしてゆく。
――珍しいことだ。選択権が与えられるとは。
常ならば、呼ばれたと知覚した瞬間に仕事の場に立っているものを。
彼はぼんやりと思う。
応える義務はなかったが、それでも呼ばれたのだ。習慣化した条件反射のように、彼は呼び声に意識を向ける。
彼がそれを受け入れたことで、呼び声は存在感を増す。魂が引きつけられる。
強制された「仕事」ではない以上、本来であればその場には魂から分身を落としこむだけだ。
だが磨耗しきった彼の魂は、すでに一片の分身を生む余裕すらなくしていた。今ここで魂の一部を切り離すような真似をすれば、本体ごと消滅しかねない。
――是非もない。
彼は苦笑めいた表情を浮かべ……久方ぶりの感情の動きに自身でも戸惑いながら……召喚の重力に身を委ねた。
渦を巻く魔力。
行く先を指し示す光。
彼はただ、整えられた道を歩くだけでよい。
長くもない道のりはすぐに尽きた。
出口は光の奔流、彼は思わず目をそばめ――
衛宮切嗣は召喚の魔方陣から現れた青年の姿に、眉をひそめた。
場所は冬の国、アインツベルンの城。祭壇の間。
傍らには妻であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンが、同じように不審の視線を注いでいる。
「サーヴァント、セイバー。聖杯の寄る辺に従い参上した」
まぶたを落としたまま、青年が言う。まるで台本を読み上げるような、抑揚のない低い声。
「問おう。貴方が私のマスターか」
開かれた瞳は、無機質な鋼の色をしていた。
アンリミテッド・ブレード・ワークス ではありませんか? 英語ですとUnlimited Blade Worksとなります