エミヤの杯/zero
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「ケリィ、愛に目覚めるの巻」「イリヤ奪還編」
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一応腐向け。色んな物が腐ってるので腐向け。というより、マーボー向け。本編は一般向け、Extraは…
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アンケの結果ごとのプロット。
①ロビンルート:所謂Fateルート。なぜかアーチャーとして召喚されてないエミヤさんの謎に迫る
②アタランテルート:所謂UBWルート。今作におけるある人物の正体に関して
③ケイローン先生:所謂プリヤルート。バサカルート+夢幻召喚! 衛宮さんちに先生が加入
④ダビデ:他ルートで失敗する、ギルによる士郎の懐柔を成功させる話。聖杯のチートぶりを見せつける話とも。
⑤アチャ子。士郎ハーレムルート。
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冷静になって考えたら、全てのルートを見なければ伏線の消化不良っぷりがマズい上に、個別展開をうまい具合に回収した統合ルートなんて書ける気がしない。
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一年を通して積雪が止まない冬の森。
辺り一面の白い世界に黒い影が一つ。それは、衛宮切嗣であった。
根源にすら到達可能な万能の願望器、聖杯を巡る戦いで、切嗣はそれが世界を呪う泥であることを知った。
それ故に、切嗣は泥を湛えた奇跡の釜を破壊し、呪いを一身に浴びた。
呪いは切嗣の肉体を蝕み、アインツベルンの結界を破ることすら儘ならない。
幾度目か、数えるのも飽いた。
遠い地に残してしまった、愛娘の奪還は今回も失敗に終わるように見えた。
そこへ、聞こえてきたのは、少年の声。
―――爺さんが遠い場所に居ます。危険なことをするそうです。さて、どうしますか?
切嗣が振り向いた先に居たのは、あの時、救った子供。
その瞳は、その時と同じ、絶望のみを映していた。
「士郎―――」
「爺さん?」
きょとんとした顔でこちらを見つめる瞳には先ほどまでの陰りはない。
今まで通りの、普通の子供と、何ら変わりない―――。
「お帰りなさいませ、切嗣様」
切嗣の思考を遮るように現れたのは、白いホムンクルスだった。
***
衛宮士郎。
出会った頃こそ気づかなかったが、彼にも魔術の素養があった。
しかし、士郎の使える魔術は強化と投影のみ。
基本的な魔術すら使えないという有様である。
切嗣自身も真っ当な魔術師ではないため、まともな指導はできなかった。
尤も、切嗣は士郎に魔術師として生きることを是としておらず、教えるつもりは毛頭ない。
ならば、彼はどのようにしてここへやって来たというのだろうか。
ホムンクルスに連れられて、冬の城へと続く道を歩む途中に尋ねたが、要領を得なかった。
気が付いたらここにいた。
それだけだった。
物理的には不可能である。では、魔術的にはどうだろうか。
と、考えても、彼は転移などという高等な魔術は使えない。
万が一、士郎にそんなことが可能だとしよう。
しかしながら、それを起こした際に生じる魔力の奔流に切嗣が気が付かないはずがない。
士郎には魔術を使った痕跡はない。
公園にふらりと遊びに行ったような感覚で、士郎は海をも超えた地に居るのだ。
もう一つ、解せないことがある。
あのユーブスタクハイトが結界を解き、切嗣と士郎を招き入れたことである。
案内人のホムンクルスに戦意はなければ、武器を持っている様子もない。
感情のない無機質な瞳で二人を客間に通し、温かい紅茶を渡した。
城内は聖杯戦争に旅立った時から何も変わりはなかった。
士郎は西洋の城が珍しいのか、全てを魔術に頼り切った構造が珍しいのか、どこか落ち着かなさそうに辺りを見渡している。
「どういうつもりだ?」
「私には理解しかねます」
睥睨するような視線も、人の形をした魔術回路には無意味だった。
しばらくすると、部屋のドアが少し開かれる。
視線をドアの方へ向けるが、人の姿は見当たらない。
そう思ったのが束の間、勢いよくドアが開かれ、小さなものが切嗣へと向かってくる。
「キリツグっ!」
ルビーのような瞳に涙を浮かべて、愛娘、イリヤスフィールは切嗣に抱き着いた。
「イリヤ…」
最後にあった時と変わらない姿。
それは、生まれる前から施されてきた調整によって、これ以上の成長は見込めないという事実を嫌というほどに実感させた。
イリヤは切嗣を強く抱きしめた後、士郎に目を向けた。
「キリツグ、その子は?」
「士郎って言うんだ。イリヤの、弟だよ」
「よろしく」
士郎は自分と同じくらいの身長の「姉」にぺこりと頭を下げた。
イリヤは照れ臭そうに頬を赤らめて微笑んだ。
「そろそろ宜しいでしょうか」
無機質な声が部屋に響き渡る。
暖かな空気が一気に冷え切ったかのような感覚がした。
「ユーブスタクハイト様は貴方と会うつもりはありません。用件だけ伝えます」
それもそのはずだろう。
4度目の聖杯戦争で勝利を目前にしておきながら聖杯を破壊したのだから、当然である。
「”それ”を置いて去るのであれば、イリヤ様を連れて帰っても構いません」
切嗣は、その言葉の意図が理解できなかった。
”それ”というのは恐らく士郎のことであろう。
しかし、まともな魔術も扱えない士郎と、聖杯の器であるイリヤとではどう考えても釣り合わない。
価値があるとすれば、その身体に埋め込まれた聖剣の鞘。
それならば、鞘だけを置いていけと言うはずであるし、アインツベルンならば、同等の聖遺物を手に入れるのは容易いであろう。
それでも釣り合わない。天秤は士郎に傾くはずがない。
士郎には、アインツベルンにとって切嗣には予想もできない価値がある、というのか。
裏切り者の切嗣を城内に迎え入れ、イリヤを手放すのも惜しくもないほどの、何か。
何れにせよ、切嗣は試されている。
血の繋がりもない士郎か、呪いに侵された身体に鞭打ってまで奪還しようとした愛娘か。
巨大な魔術工房である城内に案内したのも、二人を連れ帰るという選択肢を消すためであろう。
結界すら破る力のない切嗣には、二人を無傷で脱出させることは不可能である。
「―――イリヤ様を連れて帰るにせよ、帰らないにせよ、”それ”は置いてもらいますが」
冷たい視線が士郎に向けられる。
切嗣はアハト翁の目的が見えなかった。
士郎には何かがある。それだけは確信した。
これは、何て単純な天秤であろう。
二人を選べば、確実に切嗣は負ける。
イリヤを見捨てたのならば、士郎すら守りきれずに負けるであろう。
士郎を切り捨てた場合、確実にイリヤは救われる。
これが切嗣への罰であるならば、合点はいくが、イリヤを手放すのは少々やりすぎではある。
「いいよ、爺さん」
静寂を切り裂いたのは士郎であった。
「俺はきっと、あの時死んだんだ。爺さんは一人でここに来て、その子を連れて帰る。俺なんて、最初から居なかったんだ」
士郎は理解していたのだ。
子供には広すぎる屋敷に、長期に渡って一人残してまで求めていたものを。
それが、士郎一人の犠牲で手に入るのならば、己がどうなっても構わないというのだ。
―――お前が切り捨ててきたものほど、本来何があっても守るべきものではないのか。
ああ、そうだ。
奇跡なんて存在しなかった。
より多くのものを救うために全てを切り捨ててきた。
それでも得られたものは何もなく、本当に大切なものは何だったんだろうか。
「いや、士郎も一緒に帰るんだ。アハト翁、イリヤも士郎も渡しやしない!!」
切嗣は叫び、使い古された銃を構えた。
***
力の差は歴然だった。
アインツベルンの魔術工房に、戦闘用のホムンクルス。
こちらは無力な子供が二人、己は枯れ果てた魔術師殺し。
士郎とイリヤに目立った外傷はないものの、切嗣の肉体は既に限界を訴えていた。
あと少しで外の世界に手が届くというのに。
守りたいものが何か気が付いた時には、もう遅かったということなのか。
このまま何もできずに何もかもを奪われて終わるというのか。
それが堪らなく、悔しかった。
ふと辺りを見渡すと、そこはかつて切嗣とアイリスフィールがセイバーを召還した所であった。
ここから、Fateは始まっていたのだろうか。
全てを失う、絶望の物語。
―――目の前にヘンテコな模様があります。絶体絶命のピンチです。さて、どうしますか?
声が、聞こえた。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
それは、3年前に切嗣がこの場所で紡いだ言葉。
座から英霊を呼び出すための、言霊。
膨大な魔力が奔流し、ホムンクルスもその動きを止めた。
「―――さて、事も有ろうにしがない掃除屋を喚んだ大馬鹿者は、一体どこの誰かね?」
切嗣の目の前に現れたのは、赤い外装の青年だった。
◆◆◆
次回予告(?)
士郎「勝負だ、アーチャー」
アーチャー「無論、負けるつもりはない」
イリヤ「覚悟は良いかしら?」
士郎・アーチャー「じゃん、けん―――」
30分後
アイリ「きゅ、きゅっと。ご飯当番は、士郎くん、アーチャーさん、アーチャーさん、士郎くん、アーチャーさん、士郎くん、アーチャーさん、で合ってるかしら?」
アーチャー「ああ、問題ない」
士郎「それで合ってるよ。アイリさん」
切嗣「…まだやってたのかい? 食事当番決めジャンケン」
アイリ「そうなのねぇ。やたらとアイコが続いて勝敗が決まらない上に、7回もやらなきゃいけないから大変なのよ」
イリヤ「明日はシロウが当番なのね。嬉しい!」
次回
「英霊エミヤ、サーヴァント(メシ使い)になるの巻」
「運命の歯車は廻らない」
「サーヴァント(メシ使い)の朝は早い」
どうしてこうなった!