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正義の味方がカルデアに来た話 14/Novel by 蓮見

正義の味方がカルデアに来た話 14

9,695 character(s)19 mins

20代の衛宮士郎とエミヤがカルデアに来た話。

ただ今、スランプ中です。もしかしたら、突然削除するかもしれません。
前回も沢山読んでいただきありがとうございます。素直に嬉しいです。

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何故だ。何故だ。
何故、彼等はその目を向けるのか。

「はっ──!」

ガウェインの剣先がアンリマユの横腹を掠める。その際、僅かに崩れたその態勢に、エミヤは畳みかけるように矢を放った。その軌道は一瞬にして、アンリマユとの距離を縮め、もうすぐそこまで来ていた。

「チッ…!」

ガキン、と弾かれる音。奇形の二振りでその矢を回避するも、その直後には太陽の剣が再び彼を襲う。

息を吐く暇も無い程に、彼等の攻撃は止まない。更に、アンリマユの右足は酷い火傷をしているのだ。…いや、それは大きな問題ではなかった。己の身体が傷つくことなど、大したことではない。それよりも、今自分が憤っているのは。

「アーチャー!」

「あぁ!」

ガウェインとエミヤが目配せをし、今度は同時に攻撃をしかけて来る。聖杯の泥が彼等の前に立ち塞がろうとも、ガウェインが再びそれを焼き尽くす。何度も。何度もだ。

──馬鹿かよ、こいつら…!

アンリマユは二人の英霊を睨みつけた。
今、間違いなく自分は有利な状況だ。例え、相手が二人であろうと聖杯を手にしている限り、その呪いは自分に味方する。サーヴァントである彼等がそれに怯まないはずがない。しかし、そんな状況にも関わらず、アンリマユの心は穏やかなものではなかった。

今、彼の目に映るもの。それは、彼が生前憎んだものでもあった。

「──偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグⅡ)!」

「──転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!」

二人は叫ぶ。その瞳に希望を映しながら。

凄まじい魔力が螺旋状の剣と、燃ゆる炎の波へと形を帯びて、アンリマユへと放たれる。諦めなど微塵もない彼等の攻撃が真っすぐへと向かって来るのだ。

その光景に、嫌気が差す。

これだ。この瞳。この正義の名のもとに自分を悪だとするその瞳が心底憎い。それは生前何度も見てきた。何度も己に向けられてきた。今では、自らこの世全ての悪(アンリマユ)だと名乗るほどだ。そんな名に身を置くことになった状況を今更どうこう言うつもりはない。だが、それでも、英霊となったこの身体でも記録として残っているものがある。

生前、名も無き少年が大勢の村人から受けた数え切れぬ非道な虐待、暴行、迫害。それは、貧しい世の中の為に必要なものだと、正義とされた。そして、その少年は今までただの村人であったはずなのに、突然、必要な悪とされたのだ。
それがどんなに苦しいものだったか。少年は成す術もなく、山の頂にある洞窟の中へと独り幽閉されてしまった。その暗闇の中で、気が遠くなるような拷問のような痛みが続く。人間として扱われないだけでなく、片目、喉を潰され、四肢は指を全て切り落とされ、残った目も閉じないように目蓋を固定されるという責め苦を受けた。そして、肉親であった者に指を切り落とされた時点で彼の精神は崩壊したのだ。迫害を受ける度に、少年は血を流し、涙を流し、そして遂には、己が何者であるかさえも失った。片目となってしまった彼の目に映るもの。洞窟の先に見える光。その光に何度も何度も願った。祈っていた。誰か助けて、と。

しかし、そんな少年の願いは叶うことはなく、彼は独り静かにその命を終えたのだった。そんな消えゆく命の間際に、強く抱いたもの。それはただ一つ。──復讐。

「あ''ああァ──!!」

「!?」

突然、聞こえた叫び声。そんな声にエミヤとガウェインはアンリマユへと警戒しながら視線を向ける。叫びを上げ続ける彼には二人の攻撃が今にも届く距離にまで近づいていた。しかし、それは突然闇に消えた。

「何っ…!?」

思わず、エミヤとガウェインは声を漏らす。彼等の攻撃は聖杯の泥に飲み込まれた訳ではなかった。それは、突然視界から消えてしまったのだ。そして、すぐに彼等は異変を感じ取る。

「……」

そこに、アンリマユは静かに佇んでいた。彼の片目は映し出す。化け物の瞳を。

「!?」

エミヤはその瞳に一瞬、体が硬直してしまう。吸い込まれるような闇の瞳。その時、感じてしまったのだ。彼の憎しみと切なる何かを。その所為だろうか。その隙に、聖杯の泥が目の前に迫っていたことに気づかなかったのは。

「しまっ──」

エミヤの視界は暗闇に染まる。
しかし。

「エミヤ!!」

少年の声が聞こえた。次の瞬間には、少女の背中。

聖杯の泥が少女の持つ盾に塞がれる。その盾を境にして、黒き呪いは裂けるように流れてゆく。彼等の立つその地は呪いに侵されることなく、固有結界の赤土を保っていた。その光景に、エミヤは動けないまま大きく目を見開く。

「マスター!マシュ嬢!」

ガウェインが少年と少女へ安堵の声をかけた。その声に、藤丸は足を踏み出す。

「二人共、遅れてごめん」

彼はその一言を口にする。その姿は明らかに魔力を消耗し、今にも倒れそうだった。ボロボロになった魔術礼装が辛うじて、彼の身体を守っている。苦痛に歪んだその顔が、彼の意地でその地になんとか踏みとどまっているように見えた。しかし、彼と共にいたはずの、弓兵の姿が見当たらない。

「マスター…。彼は…」

ガウェインはその意味を理解する。それと同時に、その意味を受け入れ、必死に前を向いている少年の心情も理解した。僅かに震える手を必死に握りしめて、それでも彼は前を向いている。
そんな少年の背中を見つめていたエミヤに、彼は言った。

「…もう大丈夫だよ、エミヤ」

その直後。エミヤの背後からゆっくりと、もう一つの気配が近付いて来る。そして、彼の前にその姿を見せた。それは、一人の男の背中。

「アーチャー」

聞き慣れた声。その呼び名を今まで何度も聞いてきた。その声で自分を呼ぶ男は一人しかいない。
男は背中越しに瞳を向けている。それは、少年の頃から変わらなかった。その真っ直ぐに向けられた瞳があまりにも眩しくて、自分が思っていた以上に込み上げてくるものがあった。しかし、それを隠しながらエミヤは答える。

「…たわけ。遅い」

相変わらずの素っ気ない返事。けれど、その声に安堵が含まれていることを知っている男は小さく笑った。

そんな男の身体は、いつ生命を終えてもおかしくない状況だった。焼け破れた魔術礼装。僅かに残った魔力。露わになった皮膚からは、いくつも血が流れ落ちる。一部の肌は、重度の内出血を引き起こしていると思うほど青黒く変色し、酷い有様だった。凄まじい呪いを受けたその身体は見ていて苦しい。それでも、彼は生きている。衛宮士郎は、確かに生きていた。

「立香から話は聞いた」

士郎は優しい声をエミヤに向ける。

「お前の判断は間違えていない」

その言葉に、エミヤは一瞬動きを止めた。
それは、エミヤが今、藤丸と契約していることを指しているのだろう。それは、かつて士郎自身が助言したことだ。
しかし、エミヤも士郎との契約を破棄することに何の躊躇いもなかったかと言えば嘘になる。これでも、自分は士郎の傍で正義を貫き、そして彼の行く末を見守るつもりでいたのだ。それを、彼が苦しんでいる最中、手放した。それが全て彼を助ける為だとしても、そんな自分の判断に、実は罪悪感も抱いていたのだ。けれど、今の士郎の言葉でそれは消え失せていく。相変わらず、この男の言葉はいつでも自分に強く突き刺さる。

そんなエミヤを安心するように見つめた後、士郎は前方の闇を見据えた。これから、挑む相手へと強い瞳を映しながら。

「…アンリマユ。お前の中身も俺は知っている」

その彼の言葉に、アンリマユは化け物の瞳を反応させた。

「いい加減、お前の中身を見せたらどうだ。その醜い感情を。いや、かつて理不尽に受けた人間の黒い感情を。それを恨みながら死んだ少年の想いを」

その瞬間。一気に空気が変わった。

莫大な魔力がアンリマユを纏う。禍々しい黒い魔力が勢いよく彼を包み込んでいく。

「!?」

藤丸は霞む視界の先で、その光景に息を呑んだ。
自分達が今、相手にしようとしているものは一体何だ。英霊であるはずなのに、それ以上に目の前の存在に潜む何かに身体が震える。冷たい空気。痛いほどの殺気。呼吸すら忘れそうになる。

「先輩!」

マシュが藤丸の前に立ち、盾を構えた。しかし、肌に突き刺さる異常な殺気が彼等の不安を搔き立てる。

「俺を見たか…。それで一体何を思う。衛宮士郎」

静かに。威圧的に。その声は少年の姿をしたアンリマユから問われる。だが、その口調は今までの彼とは別人だった。少しずつ、彼の身体が変化していく。アンリマユを形成していたその器が闇に覆われる。そして、次第にその闇が晴れたかと思えば。

「…なんだ…これ…」

藤丸は思わず呟いた。その場にいた誰もが、その光景に目を疑う。

それは、もはや人と呼べるものではなかった。
化け物。その表現が相応しい。

アンリマユであったその存在は、人間の形から異形の化け物へと変わっていたのだ。全身を黒い魔力で覆い、獣のような四肢と鋭い瞳。その存在が現れた瞬間、藤丸達は思わず死を連想してしまう。

「マスター!下がっていてください!」

ガウェインはその脅威を感じると、素早くその剣に魔力を込めた。

「──転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!」

そして、彼は息を吐かせぬ速さで宝具を放つ。それは勢いを増して目の前の化け物へと向かっていく。

──これは、まずい。

しかし、ガウェインは内心焦りを感じていた。目の前にいる存在。それは今までの英霊とは違うものだとはっきりと感じていたのだ。この戦いを長引かせる訳にはいかないと、何故か直感する。

──このままでは、マスター達は…!

だが、迫りくる焔に黒い存在は身動き一つしなかった。むしろ、それは攻撃を受け入れるように見える。

「待て!今すぐ下がれ!ガウェイン卿!」

エミヤがその異様さに気付き声を上げた。そんな声を聞きながら闇の化け物は嗤う。

「いや、そいつの判断はある意味間違えてはいない。だがな──」

次の瞬間。アンリマユである化物の身体は瞬く間に焔に包まれた。轟々と赤く燃えるその中に、黒い化け物は確かに燃やされていく。けれど、何かがおかしい。

「あぁ、そうだ。この痛み。この苦痛!そんなものを俺は、ずっと受けてきた…!」

燃やされていく焔の中、その声だけが不気味に響く。

「はははっ…!いくぜ!てめぇの自業自得だ!!」

すると、アンリマユは高らかに叫んだのだ。

「逆しまに死ね!──偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)!!」

その瞬間。

──カチリ。
何かが音がした。噛み合わさったものが反転するような。全てを覆すような。それは、まるで、夢から覚める合図のように聞こえた。

「…っ!」

突然、赤くなる視界。熱く焦がれるような温度。それが何故かこの身体に突き刺さる。理解が追い付かない程、この異変を目の当たりする。だから、藤丸は目の前の光景を信じたくはなかった。信じられなかった。

何故、今自分達へと焔が向かって来ているのか。
何故、その迫り来る焔を前にガウェインは静かに見つめているのか。

「ガウェイン!!」

その太陽の背中に藤丸は叫ぶ。マシュの盾も間に合わない程、その焔はすぐそこまで来ていた。一変にして、それは絶望に変わってしまったのだ。

「…マスター。ここは私に任せて下さい」

しかし、彼の声は穏やかだった。温かな瞳がこちらを見て微笑む。

「何言って…!」

「私はまだやるべきことがあります。けれど、この身体は遅かれ早かれ、もう持たないでしょう」

静かに、彼はそう言った。宝具を何度も放って来た彼の魔力はどちらにせよ限界を迎えていたのだ。その言葉に藤丸は口を開きかけた。しかし──。

ふと、緑色の外套を纏った弓兵の姿が頭に過ぎる。それは、ここに至るまでの別れ。

少しずつ消え失せていく弓兵の身体。
あの時、その光景を藤丸は唇を強く噛み締めて見守っていた。衛宮士郎を助ける為に、聖杯の泥を浴びた彼はその魔力を殆ど消耗し、霊基を保てなくなったのだ。それを、藤丸も分かっていた。いずれ、この最期を迎えることは理解していた。覚悟はしていたはずなのに。

そんな藤丸に消えゆく彼は真っ直ぐと向き合っている。

『──マスター。そんな顔しないで下さいよ。これでも、俺は納得しているんですから』

そう穏やかに言った彼は、藤丸の頭を優しく撫でる。そんな彼に、マシュは何も言えず、ただその最期を見つめていることしか出来なかった。

『マスター。俺が前に言ったこと、覚えてるか?』

その問いに藤丸は強く頷く。その目を滲ませながら。その答えに弓兵は満足そうな顔をすると、もう一人の存在へと目を向けた。そこには、未だに瞳を閉じたままの衛宮士郎の姿。その男は傷付きながらも聖杯の呪いに抗い、懸命に僅かな命を繋いでいたのだ。静かに聞こえる呼吸が、まだ彼が生きていると言っている。その姿を確認すると、弓兵は藤丸へと最期の言葉をかけた。

『大丈夫ですよ。マスターなら大丈夫。俺はマスターの強さをちゃんと知ってますから』

『うん…』

さらさらと、次第に消えゆく彼の身体。それでも、彼は笑う。

『後は頼んだ。マシュ』

『はい…!』

まるで星屑のように。その身体は音もなく、美しく。
そして――ロビンフッドは消滅したのだった。


 「ガウェイン!!」

あの時の言葉は忘れない。ロビンの覚悟も忘れはしない。
藤丸は太陽の背中を見つめながら覚悟を決める。そんな彼が思い出すのは、以前、ロビンフッドが伝えた言葉。

『──消えていった仲間や人々を想うのであれば、今を生きる為に、未来を掴む為にその犠牲を糧にしろ。それが覚悟ってもんだ』

──あぁ、そうだよな。ロビン。

藤丸はその目を逸らさず、ガウェインの姿をしっかりと見つめた。もう、その手に令呪はないけれど。それでも、せめて己の英霊の覚悟を見届けるくらいは出来る。それが、マスターである自分が出来ること。彼等を信じ抜くことだ。

「ガウェイン!!頼んだ!!全力でその力、ぶつけろ…っ!!」

藤丸は託す。その覚悟を乗せて。
その想いに彼の英霊は力強く答えた。

「お任せを!!マスター!!」

円卓の騎士は、高らかに声を上げる。その声と共に、太陽の剣に光が差し込む。残り僅かな魔力を振り絞って、一人の騎士はその誇りを掲げた。
最期まで主を守り抜く。今度こそは完璧に。それが、私の誇りだ。信念だ。

灼熱の焔が絶望と共に迫りくる。その熱さに視界が歪む。身体が痛みで悲鳴を上げている。しかし、円卓の騎士は堂々とその場に立っていた。

「…っ!」

そんな後ろ姿をエミヤと士郎は目に焼き付けた。かつて、見覚えのある少女の背中。少女でありながら、騎士王でもあった彼女。その背中を見てきた。その強さを知っていた。それが、今何故か重なって見えたのだ。それは円卓の騎士であるその信念、誇りがそうさせたのか。ただ、彼等はその背中見届けることしか出来なかった。なぜならこれは──。

「──転輪する(エクスカリバー)──」

今、真っ向勝負が始まる。

向かって来る灼熱の焔を上回る程の光。それが、全てガウェインの持つ剣へと集まっていく。眩い太陽の光。この一撃に全てを懸ける一人の騎士。
そう。これは──彼が抱き続けた信念だ。

「勝利の剣(ガラティーン)──!!」

その直後。赤い焔を飲み込む白い光。激しい衝突の振動。突き刺さる程の熱さ。
それが、この場を全て支配する。

「はぁぁぁぁっ──!!」

その勢いは止まることなく。揺らぐことなく。

輝く光を帯びた彼の信念が真っ直ぐへと切り開いていく。それは闇を。絶望を。そして、その先にいる悪を。

「──っ!!」

アンリマユは目を見開いた。
その光──太陽の光は全てを飲みながら、この身体へと突き進んで来る。何の迷いもなく。穢れなく。
その光景に、唇を噛み締めた。皮肉にも、それは生前望んでいたものでもあった。洞窟の暗闇の中、小さくなるその生命を必死で繋げながらも切に祈っていたもの。

太陽の光。それは、希望。

それが今、真正面から向かって来ている。その光をこの身はずっと待っていた。待ち焦がれていたのだ。
けれど。

「驕るな!!人間──!!」

その憎悪が。叫びが。この光を拒絶する。

「そんなもので、俺を──この世全ての悪を消せると思うな!!」

それは、化け物が叫んだのか。それとも名もなき少年が叫んだのか。長年抱き続けた復讐心はもはや消えることはない。アンリマユは再びその憎悪を露わにする。そして、遂に太陽の光はアンリマユの身体へとぶつかった。

「はぁぁぁぁぁ──!!」

抵抗する衝撃にガウェインの身体が強く軋む。更に、彼の身体は少しずつ消えかけていた。それでも──。

「ガウェイン!!」

藤丸の声が背後から聞こえる。それは、何一つ迷いのない声。己という英霊を信じ、全てを託した少年の声。それに至るまで、決して楽な道のりではなかったはずだ。その小さな身体で傷つき、踠き、苦しんできた。

『──初めまして。ガウェイン。俺は藤丸立香です。これから人類の為に一緒に戦って下さい』

初めて出会った時、少年はすでに孤独と戦っていたのだ。人類最後のマスターとして。彼は常に笑顔で英霊と共に傍にいた。時にはマスターとして望むべきではない、無茶なことをすることもあったが、それは彼らしさだと認識していた。そんな少年と幾度、共に戦い、過ごしてきた。それで、この少年を理解しているつもりだったのだ。

──しかし、それは間違いだった。

ガウェインは太陽の光の先を見据えた。その先には闇がまだ生きている。まだその憎悪を燃やし続けている。

──あのように。

『──ガウェイン!!』

先程の少年の真っ直ぐな瞳を思い出す。
いつもの優しい瞳でありながら、後悔、悲しみ、絶望を乗り越え、その奥に強さ、覚悟を確かに持っていた。そして、それは紛れもなく生きることを知った瞳。その瞳に、少年の──藤丸立香という人間の本来の心を見た気がしたのだ。

──あのように、生きる少年を自分は知らなかった。

ガウェインの宝具がアンリマユを追い込んでいく。光が、信念が、想いが悪を飲み込まんとする。

「はぁぁぁぁぁ──!!」

すでに、彼の身体は限界だった。それでも、彼はその一撃に全てを込める。光と闇が交わり、この世界を揺るがす。それは、世界終わりかそれとも始まりか。

そして──遂に、それは決着を迎えたのだった。

視界が晴れる。
藤丸達が見るのは、その終わり。崩れていくそれは、悍ましいものだった。

「…ガウェイン…」

思わず声が出る。その名を呼ばれた騎士はゆっくりと振り返った。しかし、その表情は分かりづらい程、彼の身体は殆ど残っていなかった。それでも藤丸はその言葉を綴る。

「…あとは、任せて」

「―…」

声にならない騎士の声。けれど、藤丸は彼が何を伝えようとしているのか分かった。徐々に流れていく星屑が藤丸の頬を掠める。その一瞬、柔らかな声が聞こえた気がしたのだ。

『──貴方なら大丈夫です、立香』

いつも傍にいてくれた騎士の声。それがいつもより遠く聞こえてしまうのは、きっと気のせいではないのだろう。徐々に太陽の騎士の欠片が消えていく。そして、彼の口元が穏やかに笑ったのを見届けた後、彼は完全に消滅したのだった。

「──ありがとう」

少年は小さく呟く。そして、前に瞳を向けた。その先には、闇を纏う化け物。その身体は炎に焼かれ、血を流し、魔力を消費しながらも、不気味なほどにその足で未だに立っていた。ガウェインの渾身の宝具をもってしても、その闇は完全に焼き払われなかったのだ。まるで、ガウェインが放った宝具をそのまま弾き返すように、アンリマユはその身を焼かれながらも、太陽の力をねじ伏せてしまったのだった。しかし、藤丸はその現実を直視しながらも、その瞳はまだ希望を映し出している。なぜなら──。

パリン。

次の瞬間、何かの割れる音が強く響き渡った。

「!?」

アンリマユ目を見開く。

「…これで、前に進めるよ」

藤丸がそう言って見つめるのは、その終わり。崩れていくそれは、悍ましいものだった。
そう。彼の瞳に映るのは、崩れていく聖杯。黒い呪いを生み出していた円環が歪な形へと変わり、流れ出ていた泥が消滅していく光景。

「…馬鹿な」

アンリマユは獣の口を強く噛む。それは紛れもなく、ガウェインが残した爪痕だった。
黒い円環だった聖杯は、その形を徐々に消滅させていた。アンリマユの味方をしていた大きな力が今まさに消えてゆく。その証拠に、聖杯から受けていた恩恵、魔力が自分の身体から失われていくのが分かった。

「馬鹿な…!」

その光景を見ながら、アンリマユは叫ぶ。ガウェインという英霊は、最期まで彼らに希望を残しながら散ったのだ。その事実に、アンリマユは声を震わせる。

「人間如きに!!俺の──私の聖杯が…!!」

聖杯の破壊。それは、予想していなかったのか、今まで見せていた彼の余裕はどこにも無い。その姿に、藤丸は失った英霊達を思い浮かべながら問いかける。

「そんな聖杯はいらない。…さぁ、アンリマユ。この戦場で最後に残っているのは、俺達かお前か、どっちだろうな」

それは、かつてアンリマユが藤丸へと言い放った言葉。その言葉にアンリマユは逆上する。

「ぬかせ…!!聖杯が無くとも、この特異点は私のものだ!!この特異点から!!世界から!!人類を消滅させる…!!」

聖杯が今、完全に消滅したにも関わらず、アンリマユの魔力は僅かに減ったに過ぎないのか。彼から放たれる威圧感と絶望に、いくら強がっていてもその足が竦みそうになる。更に、聖杯の泥を浴びたこの身体は悲鳴を上げていた。次第に歪む視界に、浅くなる呼吸。それでも、ふらつく身体を必死に奮い立たせ、藤丸はその瞳で先に立つ闇を強く睨み付ける。いや、それで精一杯だった。

「そうか…。それがお前の望みか」

すると、そんな藤丸の隣に衛宮士郎が立った。その声は冷静に、静かに。それでありながらも、どこか寂しい声。その若さで何度も戦場を潜り抜けてきた彼は、聖杯の泥を浴び、傷ついた身体でも尚、化け物を真っ直ぐ見つめていた。

「それが、あの少年の願いか」

「黙れ!!」

士郎の言葉をアンリマユは強く拒絶する。

「同情するつもりか?その哀れみの目で私を見るのか人間。人間など己の欲望を満たすばかりの生き物だ。その愚かで浅ましい生き物が、この世すべての悪(アンリマユ)を生み出した根源だというのに…!!」

彼のその声は、塵積もった声無き叫びに聞こえた。

士郎の言う、名も無き少年。それが今のアンリマユに自我として残っているのかは定かではない。今まで、衛宮士郎の少年の姿を殻として被り、飄々とした態度で人間を俯瞰し殺して来た。それが今、彼はただ一人の誰かの意志で話しているように見えてしまう。

士郎は、そんな彼にゆっくりと口を開いた。

「あぁ、そうだな。お前の言う通り、人間は愚かなのかもしれない。いつだって、正しいとは限らない。迷いながら、絶望しながら…それでも、その生を繋げていくんだ」

その眼差しは強く、先の闇へと告げる。

「だから終わらせよう。この戦いも。その願いも。お前の復讐も」

そして、男は両手に見慣れた短剣を造り出した。

「──これで、最後だ。アンリマユ。全力で相手してやる」


Comments

  • みのり
    June 6, 2019
  • あんちょび

    お待ちしておりました!! 今回も面白かったです! 続き楽しみに全裸待機してます!

    May 24, 2019
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