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正義の味方がカルデアに来た話 13/Novel by 蓮見

正義の味方がカルデアに来た話 13

9,263 character(s)18 mins

20代の衛宮士郎とエミヤがカルデアに来た話。

今回も短いですが、続きました。
内容も佳境ですね。なんとか完結出来るようにぼちぼち書いていきたいと思います。

前回の話も沢山読んで頂きありがとうございます!本当に嬉しいです。読んで頂ける方がいるからこそ、創作意欲も湧いて来ます。
拙い文章ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。

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「──決めに行くぞ!マスター!」

その男の背中は叫ぶ。
赤い外套を靡かせながら、彼はその内なるモノを創り出そうとするその光景は、弓兵というよりもまるで魔術師だった。
藤丸は思わずその姿に釘付けになってしまう。それは、あまりにも彼の背中が憧れの背中と同じに見えたからだ。

──そんな彼が今、創り出そうとしているのは、きっと…。

そう。
その赤い男は、あの赤髪の男でもあり。別人でもある。
だが、そんな彼らが抱く信念は…理想は何一つ変わらない。

「──I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)」

一つの詠唱が戦場に静かに落ちる。
それは、初めて聞く詠唱。
凛とした声がこの場を支配していく。
強く、確かに、揺るぎなく。

藤丸はそんな彼が紡ぎ出すものに聞き覚えがあった。
──俺は知っている。

藤丸はただ、その男の背中を見つめていた。

「──Steel is my body, and fire is my blood. (血潮は鉄で、心は硝子)」

赤い信念と共に広がる魔力がアーチャーを中心にして、この世界を揺らぎ始める。

「…!」

その異変にアンリマユもすぐさまに気付くと、少年は面白そうな表情を浮かべたのだ。

「…ようやく、アンタの中身を見せたな」

今、世界が変わる。

「──I have created over a thousand blades. (幾たびの戦場を越えて不敗)」

今から創り出そうとするもの。
それは、男が抱くものだ。

バチバチと電気が走るように、一人の男の足元から地面が変幻し始めた。
それは、足元だけではなく彼らを覆う空さえも。

「──Unknown to Death. (ただの一度も敗走はなく)」

彼の中身を、その心を映し出すように。
そしてこれは、彼が走り続けた最果てでもある。

彼が詠唱を紡ぎ出す度に、絶望にも似た常闇の空が次第に茜色へと変わっていく。眩しいほどの茜色は、強い信念を現すかのように赤色にも見えた。

「──Nor known to Life. (ただの一度も理解されない)」

そして。
これは、彼の孤独でもある。

その空には、固く機械的な存在。
ゆっくりと重く回り続ける歯車の数々。

「──Have withstood pain to create many weapons. (彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)」

そんな空の下には、赤土に佇む一人の男。
その地には、数え切れない程の剣が突き刺さっている。
それは、戦場の跡のように、痛々しく、虚しく。

「──Yet, those hands will never hold anything. (故に、その生涯に意味はなく)」

だが、彼はその瞳を強く光らせている。決して揺らぐ事は無い。
例え、彼が歩んで来たその生涯に意味はなくとも。

「So as I pray, unlimited blade works──!(その体は、きっと剣で出来ていた)」

そして──。
今、ここに。
一人の男の心象世界が完成したのだ。
それは、エミヤという英霊の固有結界。

「…──」

誰もが皆、一瞬息を飲む。

それは、聖杯や聖杯の泥ごと包み込み、この世界を完全に覆すほどの巨大な固有結界。
人々やその村から完全に引き離し、今この世界には汚染された聖杯とアンリマユ、藤丸達しかいない。

茜色の空に浮かぶ重く回る歯車。
地平線まで見える赤土の地に無数に突き刺さる剣の数々。

その世界を──藤丸は視界の隅々まで映し出した。
以前見た"もう一つ"の世界に良く似たそれは、冷たく、痛々しく、苦しく、虚しいものだった。
だが、どうしてか。
それは、泣きたくなるくらい温かく、優しく思えてしまうのだ。
きっと、それはこの"エミヤ"という英霊を知り、この男の信念を感じたからだろう。

今──そこに立つ男の背中が"二人いる"ように思えてならないのだ。

エミヤはそんな藤丸へと肩越しに一瞬視線を向けると"行け"と目で合図を送る。
もう既に作戦は始まっているのだと。
それに気付いた藤丸は溢れそうになる感情を抑えて、強く頷くと走り出して行った。

そんな藤丸をアンリマユはチラリと見たが、敢えて見逃したのかその場から動かない。
あの少年のことだ。どうせ瀕死の赤髪の男を助けるつもりなのだろう。だが、それには同情しか湧かない。遅すぎたのだ。あの大量の呪いを直に受けて生きている人間なんて見たことがないのだから。
それよりも、だ。

「…やっぱり。アンタもあの男と同じようになーんにも無いな。つまらないくらい空っぽ。何が正義の味方だ」

アンリマユは再び視線を戻す。
エミヤへと挑発を選んだらしい彼は嬉々として話し出した。そして先程の発言だ。

「そうだな。だが、それでいい。生憎、私は不器用な方でね。このくらいの方が何か掴めるものがあるというものだ」

だが、エミヤはそんな挑発もさらりと流しては静かにその両手に干将・莫耶を生成する。

「それよりも、貴様はどうなんだ?その中身は身動きが取れない程、溢れかえってるんじゃないのか?アンリマユ、と言うくらいだ。その中身は悍ましいもので一杯じゃないのかね?」

どこまて分かっているのかは、知らないがエミヤのその言動にアンリマユの瞳は一瞬冷めたものへと変わった。
それと同時に、彼の本性が少しだけ露わになる。

「…戯言を抜かすなよ人間。貴様などの分際で俺を語るな」

それは、悪の神として名を馳せる程の威圧。
あの飄々とした少年は人間らしく見えるが、やはり神の名を持つだけはあるのだろう。それが、殻の身体を借りたものだとしても。

エミヤは両手の短剣を握り直す。

「アンリマユ。それはこちらの台詞だ。貴様などに私を──正義について語るのはやめてもらおうか」

その言葉に思わず笑みがこぼれる。
アンリマユは歪んだ笑みを浮かべると、その一瞬。

「…っ!」

強く鳴り響く金属音。

「ハッ!言うねぇ!オルタのアンタも気に入ってたけど、アンタもアンタで殺し甲斐があるってもんだ!!」

気付けば、目の前には奇形の二つの短剣。
いつの間にか距離を詰めてきたアンリマユがそれを手にして殺意を剥き出しにしていた。
干将・莫耶で防いだエミヤだったが、その彼の瞳に悪態を吐く。

「…まるで獣だな」

アンリマユの瞳はギラギラとして、殺す事を心底楽しんでいるように見えた。子供が新しい玩具見つけて興奮するように。彼もまたエミヤの存在に同じような感覚なのだろう。

「はぁ?何言ってる人間。それはアンタだろ」

その間にも、息をつかせない程の連撃をしながら彼は言う。

「馬鹿みたいに正義の味方ごっこか?その信念を貫くことに、俺は狂気を感じるぜ。どんな事があろうとも、己の正義を信じるその揺るがぬ精神」

「…くっ…!」

一撃一撃が素早い。
こんな小さな身体でも一撃が驚く程、重い。
更に彼は小柄な身体を活かし、その素早さを最大限に引き出している。
その為か、こちらの攻撃に手ごたえを感じないのだ。干将・莫耶の一撃が決まる前に彼はその打撃を去なしてしまう。

「俺に言わせれば、アンタの方が獣だ。いや、化け物だな」

その言葉が冷たく落ちたと思えば、エミヤの背後には聖杯の泥。

「さぁ、喰われてしまえ」

アンリマユが静かに口にする。
だが──。

次の瞬間には、数え切れない程の剣がエミヤを庇うかのように、聖杯の泥へと重なり突き刺さった。その拍子に一瞬だけ隙が出来ると、エミヤはその場から離れる。

「忘れたのか?ここは私の固有結界だ」

そして、彼は宙に身体を投げ出しながらも、その手には弓を握りしめていた。
鷹の目が青い少年を捉えたかと思えば次の瞬間、光の速さで幾つもの矢が放たれる。

「チッ…!」

アンリマユはすぐにその身体を勢いよく後退させては、次々と矢を回避していく。
そして、一旦体勢を整えた後、彼はエミヤを見据えて叫ぶ。

「ちまちまと面倒だな!これならどうよ!」

すると、アンリマユの声を合図に聖杯の泥が先程とは比べ物にならないくらい、大量にエミヤへと向かっていく。
目前には暗黒の闇。
それが這いずるように、津波のように迫って来る。その闇に何が潜んでいるのかは分からない。だが、一瞬でも触れれば確実に死に至るのだと思わせる程の禍々しい魔力の塊。
そんな光景をエミヤは冷静に見つめていた。
そして、彼は一歩下がると小さく呟いた。

「──頼んだ。円卓の騎士」

「えぇ、承りました」

「⁉︎」

エミヤの背後から突然現れたのは、一人の騎士。太陽の瞳を持つガウェインだった。
彼は後退するエミヤとは反対に、その身体を前に出す。そして、すれ違い様にガウェインはエミヤへと笑いかけた。

「貴方のその強い信念。それに恥じないよう、私も円卓の騎士として全力でこの剣を振るいましょう」

「それは光栄だな。あの騎士王の下で奮ったその力が見れるとは」

そんな彼に、エミヤは一人の少女を思い浮かべ小さく笑うとガウェインの背中を見守る。

「…セイバーか。もう一人増えたところで一緒に呑み込めば変わりないってのにな!」

アンリマユはもう一人の英霊の存在に一瞬驚くも、すぐに標的を捉えると聖杯の泥を操る。
だが、それに怯むことなくガウェインはその闇を捉えては、己の剣に手を掛けた。

「──いいえ。私は円卓の騎士。守るものがあれば、この剣と共に駆け抜けましょう。この身が動くのならば、盾になりましょう」

生前。
円卓の騎士と謳われながら、守れなかったものがある。

「真なる騎士とは己の誇りにかけて、信念に従いその命を燃やすもの。それが、護るべきものの為ならば尚更のこと」

ガウェインは長く共にしたその剣を強く握り締める。
すると、スゥ、と剣に光りが灯る。
それは星のような輝きではなく、熱く燃えるような光。

「アンリマユ、と言ったか。貴方にはその信念があるか」

かつて、己の果たせなかった忠義。
未熟な自分が招いてしまった主の死。
それらを全て悔やんだ。
今度こそは完璧な騎士であろうと誓ったのだ。
小さな主を守り通す為に。彼の行く末を見守る為に。
──そして、今自分はここに立っている。

「──我が名は円卓の騎士が一人、ガウェイン!手にするのは、太陽の光を持つ剣ガラティーン!今、この時を以ってこの闇を焼き払おう!」

彼は力強く叫ぶ。

「転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)──!」

その声と共に、ガウェインはその剣を振り抜いた。
それは、たった一振り。
だが、それで十分だった。
空気を切るような音が聞こえると思った瞬間に、それは全てを支配したのだ。

「…!」

眩しい程の陽炎が目前に映る。
轟々と、ギラギラと。
その清廉潔白な騎士が抱く頑なな意志を表すかのように、それは焔々と燃えていた。
地を這う暗黒の泥は跡形も無く、その炎に呑み込まれていく。
溶けるように、焦がれるように。
その聖杯の泥はまるで音にならない悲鳴を上げるようにその黒い魔力を少しずつ消失していた。
そして、彼等が立つ地は闇が消え、エミヤの固有結界の地だけが残ったのだ。

「──人間如きが」

更に、その炎はアンリマユにも届いていた。
一瞬、その青い少年の顔には黒い化け物の瞳が映る。だが、それはすぐに消え失せてしまう。
辛うじて急所を逃れたアンリマユはその身体を僅かに後退させた。その足からは血が流れ落ちている。彼の右足は酷い火傷を負ってしまったのだ。それでも、彼の素早さが格段に落ちることは無い。傷なんて慣れているとでも言うように、相変わらずの素早さで再び嗤う。

「それで好機を掴めたと思うなよ?あんなもの、何度も作り出せるんだからさ」

ほら、とアンリマユは頭上に見える暗黒の円環からドロリ、と意図も簡単に黒い呪いを落とす。

「ギャハハ!どう?無制限に出てくる呪い!残念だったな?アンタの渾身の宝具は無意味に──」
「ならば、その度に宝具を放つまで」
「──は?」

思わずアンリマユはその耳を疑った。
聞き間違いだろうか。
その男は今、何と言ったのか。

「何を驚く事がありましょう。私は言ったはずです。守るものの為ならば、この身を燃やすと。その言葉通り。私はハナからそのつもりです」

「なに。それ程、時間はかからないさ。私も全力で行くつもりだからな」

そう言ってガウェインの隣にはエミヤの姿。
そして、彼等はその瞳を向けて強く言い放ったのだった。

「「我々の覚悟を見くびるなよ、アンリマユ」」





「──先輩!ガウェイン卿の宝具が来ます!急いで下さい!」

「マスター!ドクターの指示は、この辺りだ!」

幸運というべきか、アンリマユの追跡を逃れた藤丸は今、マシュとロビンフッドと共にいた。エミヤとガウェインと離れ、ロビンフッドの宝具の一つ──顔の無い王を使用している藤丸達は、地に這う聖杯の泥の近くまで辿り着いていたのだ。
念の為、と聖杯の泥に気配を感じさせないように彼等は姿を消しながら衛宮士郎を探す。そのおかげか聖杯の泥もこちらを攻撃する素振りは見られない。だが、悠長にしている暇はない。一刻も早く衛宮士郎を助け出さなければ、彼の命は危うい。それに、マシュが先程言った言葉。
ガウェインの宝具が来る。

「わかってるけど…!見当たらない!」

この作戦は、ある意味無謀だった。
天才と言われるダ・ヴィンチが提案した作戦。
それを口にするのは簡単だ。
エミヤの正体に気付いた彼女は、彼の宝具もある程度予測出来ていた。そして、彼の宝具を使い村人達を切り離すことを提案。その後は、アンリマユをガウェインとエミヤが足止め或いは聖杯の破壊。
その間に藤丸、マシュ、ロビンフッドは顔の無い王を使用しながら泥に埋もれた衛宮士郎を助け出す。
ただし、それは戦闘をしているガウェインやエミヤの攻撃がこちらに影響を与える可能性もあったのだ。それに、アンリマユがいつ気が変わってこちらに攻撃してくるかも分からない。
常に危険と隣り合わせの作戦。
だが、そんなものは藤丸立香にとって関係の無い事だった。今までのレイシフトではそれが当たり前だった。それを彼の英霊と共に乗り越えて来たのだ。

「先輩!時間がありません!私の盾で先輩やロビンさんを守れても、姿が見えない衛宮さんまでは…!」

「マスター!」

迫り来るガウェインの宝具の炎。
アンリマユへと放たれた攻撃だったが、僅かに溢れた炎がこちらに向かっている。
しかし、それは想定内だった。本気で撃ち合っている彼等の攻撃がこちらに向かって来ても何もおかしくはない。ダ・ヴィンチからもそれは指摘されており、ガウェイン達もそれを理解していた。そんなマスターの安全が確保されない無謀とも言える作戦に一瞬たじろぐ彼等。だが、藤丸はそれを止めをしなかった。
それは、藤丸も彼等と同様に覚悟を持って今、この場に立っていたからだ。

──絶対に助ける…!!

藤丸は更に聖杯の泥に近づくと、その足を泥の中に踏み入れた。

「マスター⁉︎」
「何やって──⁉︎」

まさかの行動にマシュとロビンフッドは驚愕する。

「大丈夫!俺…っ!毒には少し耐性あるし…!」

顔を苦痛に歪めながらも藤丸はその足をどんどん進めて行く。

「馬鹿!!それは毒なんてもんじゃない!!今すぐその場から離れろ!!」

ロビンフッドが怒号にも似た声で藤丸を呼び止めようとする。
だが、藤丸はその声を聞き流す。そして、少年は叫んだ。

「俺は!大丈夫!!無理はっ…しないから!!すぐに戻るから…っ!!だから──」

衛宮士郎という男は、いつでも強い覚悟を抱いていた。
エミヤという英霊は、いつでも強い信念を持っていた。
そんな二人の背中が瞳に焼き付いて離れない。

生きる事を蔑ろにしていた自分が今、彼等に出来ること。
それは──。

「だから──俺に言わせて…っ!!衛宮さんに"生きろ"って!!」

その少年の瞳には諦めなど微塵もなかった。
自暴自棄なんてものも勿論無い。
ただ、ただ純粋に。彼は人を助けたいだけなのだ。

「──…」

そんな一人の少年の姿を、マシュとロビンフッドはその瞳に焼き付けた。
そして、改めて彼の覚悟と信念を思い知る。
そうだ。この藤丸という人間はそんな少年だった。目の前に人が倒れていたら、当たり前の如くその手を差し伸べるのだ。人を助けるのに理由なんていらない、なんて言いながら。
そんな少年を自分達はマスターとして、いや…一人の人間として誇らしく思う。
この人の英霊で良かったと。

「──分かりました。先輩は決して無理をせず、衛宮さんの救出に全力を尽くして下さい。私はガウェイン卿達の宝具や攻撃が来たとしても必ず皆を守ってみせます」

「マシュ…」

「私は盾です。この盾は大切な人を守る為にこそ、その力を一番に発揮出来る。…だから、安心して下さい。貴方の背中は、このマシュ・キリエライトが絶対に守り抜きます」

にこり、と強さも秘めながら優しく笑う彼女。
その笑顔は常に自分の隣に在り続けてくれた。
そのおかげで、この震える足も今まで進む事が出来たのだ。
藤丸は改めて彼女の存在に感謝しながら、その足を進めようとした時。彼の隣にはもう一人の存在が。

「ロビン…⁉︎」

思わず藤丸は声を上げてしまう。
それもそのはず。英霊である彼が藤丸の隣に立っているということは、彼もまた聖杯の泥に足を踏み入れているということを意味していた。
英霊が聖杯の泥に触れるということは、つまり。

「駄目だ!ロビンはこの中に入っちゃ──」
「あのねぇ。マスターが頑張ってるのに、その英霊がただ見ている訳にはいかないでしょ」

元々少なかった彼の魔力が少しずつ消滅していくのが分かる。
藤丸の姿を露わにする訳にはいかないと、顔の無い王を起動している彼の魔力は、側から見て明らかに大幅に減少していた。

「──最期まで付き合いますよ。マスター」

「……」

ふと穏やかに笑った彼の表情に言葉が出てこない。
そう、彼もまた自分と同じように覚悟を決めているのだ。
それを無下に出来ない。出来るはずがない。

「…うん」

藤丸は、たった二文字の言葉を絞り出すのが精一杯だった。
その代わり拳を強く握り締める。
それは、彼の覚悟も、その先に待ち構える結果も受け入れなければならないからだ。この苦しみや胸の痛みが少しでも紛れる訳じゃないけれど。それでも、彼は耐え続けるしかない。

「マスター!今すぐ体勢を低くして下さい!数秒後には宝具が来ます!」

マシュが盾を構えて背後にいる藤丸達へと呼び掛ける。その声に慌てて藤丸は体勢を低くする。
すると──。

「──いた」

「…え?」

藤丸の小さな声を聞き逃しはしなかったロビンフッドはすぐさま彼の視線の先を追う。
その視線の先には、僅かに見える人の手のようなもの。
聖杯の泥の隙間から微かに見える肌色。それは、指先のようにも見えた。

「いた!!見つけた…っ!!」

切迫詰まったような声が藤丸の口から漏れる。
ロビンフッドもその存在を確かに確認すると、素早く藤丸を脇に抱えてその足に力を込める。そして、力強くその地を蹴った。

「うわ…っ⁉︎」

「く…っ!」

流石、英霊と言うべきか。
その速さは人間である藤丸には到底出せないものだった。あっという間にその目標に近づくと、ロビンフッドは苦しそうにその膝をついた。

「ロビン…!」

「いいから…!早く、あの男を…っ、…!」

思ったより魔力消費が激しいのか、ロビンフッドの呼吸は荒く、肩で息をしていた。たった僅かな時間で顔色も良くない。それ程、この聖杯の泥が英霊に及ぼす影響の強さを表していた。

藤丸はそんな彼を横目に、男の指先が見える泥の中に思い切り自分の手を突き入れた。

「衛宮さん!!」

「先輩!!宝具来ます!!衝撃に耐えて下さい!!」

背後からはマシュの声と共に、炎の熱さを感じる。それに反し、暗黒の泥の中は手が裂けるくらいに冷たい。

「──っ!」

今見えるのは僅かな指先だけ。
手探りで衛宮士郎の体を探す。
その間にも、自分の身体がおかしくなりそうだった。
裂けるように痛い手。頭に響く誰かの叫び声。それに抗うかのような声。それらが一気にこの身体へと流れ込む。
だが、藤丸はその手を止めない。無我夢中だった。助けたい。助ける。その一心だけでこの身体を突き動かしていたのだ。

「先輩──!」
「マスター──!」

痛い。苦しい。辛い。
けれど。
それでも。

『──俺は衛宮士郎だ。これからよろしくな』
『──マスターは一人じゃない。その負担は俺にも背負わせてくれ』
『──一緒に戦おう。"立香"』

優しく笑う赤髪の男。
初めてその男と出会った時。
最初に抱いた感情がある。
それは──まるで正義の味方だと思える程の憧れ。

「衛宮さん──!!」

藤丸は叫ぶ。

その憧れという感情は、共に戦場に立ち、いつしか彼と肩を並べられるようになりたいという目標に変わった。
そして、彼の英霊の正体を知ったのだ。
その赤い弓兵は、紛れもなく別人のようでもあり、紛れもなく"あの男"だった。

「貴方は──!」

きっと。
彼等のこの出会いは一時のものなのだろう。
それでも、俺にとってそれはかけがえのないものだ。

二人の正義の味方。
それは、どちらとも欠けてはいけない。
何故だか、心からそう思ってしまうのだ。
だから──。

「──生きて!!死んじゃ駄目だ!!」

まるで子供のような我儘。
そんな願いを叫びながら、藤丸は彼を探す。

──そして。

次の瞬間。
眩い光と共に、地を這っていた聖杯の泥が消し飛んだ。
灼熱の炎が聖杯の泥に触れたその一瞬。
瞬きをする暇もなく、太陽の炎は暗黒の泥を焼き払ってしまったのだ。

パチパチ…と焼け音だけが静かに響く。
そして、先程まで蠢いていた泥の光景はなく、更地になった地が見えるだけ。
しかし──。
その地に一つだけ、不自然な場所があった。
そこには、一人の少女の姿。
盾を持つ彼女の背後には焼け跡が一切無い。そして、その場所にいたのは、その少女──マシュのマスターである藤丸と彼を庇うかのように側にいたロビンフッド。
そして──。

藤丸の腕の中には、衛宮士郎の姿があった。

Comments

  • 佐倉真宵

    続き楽しみに待っています

    April 23, 2019
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