NetflixのWBC独占放送の機会に知っておきたいテレビ番組を居酒屋で流す場合の著作権処理
「”複雑な気持ち…"菊池雄星がWBCのNetflix独占配信に胸中を吐露"こんなことは初めて"商用利用も一切NGで嘆く野球居酒屋」という記事を読みました。WBCがNetflixで独占放映されることで、野球居酒屋で中継映像を流すことが不可能になったとのことです。本稿では野球中継に限らず、一般にテレビ番組を居酒屋や定食屋等で流す場合の権利処理について解説します。著作権法の規定がわかりにくいこともあり、誤解されている人も多そうなトピックです。
テレビ放送等を(リアルタイムで)一般客に視聴させる行為は著作権法上は「伝達」と呼ばれます(上映ではありません)。伝達に関する権利制限規定として、38条3項がありますが、この条文がちょっとわかりにくいです。
38条3項 放送され、有線放送され、特定入力型自動公衆送信が行われ、又は放送同時配信等(放送又は有線放送が終了した後に開始されるものを除く。)が行われる著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。
大雑把に言うと「放送される著作物は非営利・無料であれば許諾なく伝達してよい、通常の家庭用受信装置を用いてする場合も同様」という書きぶりですが、この「同様」がどこまでを指すのかがわかりにくいです。
① 通常の家庭用受信装置を用いてする場合は、非営利・無料であれば許諾なく伝達してよい
② 通常の家庭用受信装置を用いてする場合は、許諾なく伝達してよい(仮に営利目的でも許諾不要)
のどちらかという問題ですが、正解は②です。そもそも、仮に①だとしたら、「通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、~」の部分はあってもなくても同じなのでおかしいですね。
ということで、居酒屋や定食屋、さらには、ホテルのロビー等に家庭用のテレビを置いて放送番組を客に視聴させる行為は(営利目的でありますが)自由に行えます。本来は違法だが大目に見られているというパターンではなく、そもそも合法です(仮に著作権者がやめさせようと思ってもできません)。なお、どこまでが通常の家庭用受信装置なのかという解釈上の問題はあるでしょう。
ちなみに、この条文がわかりにいのは人間だけではないようで、生成AIも間違えたりしています。ChatGPTに聞くと、
Q「営利目的でテレビ番組を客に見せるのには許諾が必要ですか?」
結論から言うと、原則として許諾が必要です。
1. 法的根拠(日本)
日本の著作権法では、映画・テレビ番組は「著作物」に該当し、
公衆に見せる行為(上映)には著作権者の許諾が必要とされています。
ポイントは次のとおりです:
家庭内視聴 → 問題なし(私的使用)
店舗・事務所・飲食店などで客に見せる → 公衆への上映に該当
入場料を取っていなくても → 営利営業の一部であれば原則許諾対象
つまり、「テレビを設置して通常放送を流しているだけ」でも、
営業上の利益につながる形で客に視聴させる場合は原則アウトです。
と思いっきり初心者のような間違い方をします。なお、再現できないですが、Goolgle検索の「AIによる概要」でも「家庭用テレビ受像機による伝達では非営利であれば可能」といった誤解を招く回答をしてきました。
なお、38条の規定とは、別に100条という規定があります。
第百条 放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。
これにより、「影像を拡大する特別の装置」を用いた場合には(仮に非営利・無料であっても)放送事業者の(「著作権者の」ではない点に注意)許諾が必要です。なので、パブリックビューイングのような形態は勝手にはできません。なお、ここでも、どこからどこまでが「影像を拡大する特別の装置」なのかという問題はあります。業務用の大型スクリーンが該当するのは確かとして、量販店で売っているようなプロジェクターはどうなのでしょうか?
さて、Netflixによる中継は著作権法上は放送ではなく自動公衆送信にあたります(リアルタイム配信という外部から見た目は一緒でも間が放送電波なのかネット(IP)なのかで扱いが異なります)ので、38条3項の規定は適用されません。したがって、権利者の許諾が必要になり、どういった条件になるかは当事者どうしの合意になります。
そして、今回は、Netflixは飲食店での商用利用は認めないという立場を取ったので、野球居酒屋としては断念せざるを得なくなったという流れです。素人考えですが、Netflixもちょっと高額の商用ライセンスを設けた方が結果的に得になりそうな気もするのですが、経営判断なのでいたしかたないでしょう。