正義の味方がカルデアに来た話 9
20代の衛宮士郎とエミヤがカルデアに来た話。
今回はあまり内容が進んでないですね…。もしかすると、今後加筆修正を行うかもしれません。
衛宮士郎とエミヤを何かの形で幸せにしたいと思って書き始めた話が、まさかここまで続くとは自分でも驚きですよ。
マイペースに更新出来たら良いなと思います。
前回の話も沢山読んで頂きありがとうございます!こんな妄想だらけの話ですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
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セイバーオルタが消え去った後、藤丸達は暫くその場に留まっていた。
星屑の欠片が散り散りになり、茜色の空へと消えていったあの光景。それは、不思議と目に焼き付いた。曉の燃えるような光を受けて、冷酷を浮かべていたはずの黒い騎士王の横顔に、藤丸は彼女の一部を知った気がしたのだ。
冷たい王が最期に残したのは、少女らしい顔。
そんな彼女が小さく呟いた一人の男の名に、彼等しか知り得ない繋がりがあるのだと気付く。
それは確かに彼を想う声だった。
だが、それ以上の事は分からない。知り得る事は出来ない。
その黒い騎士王はと呼ばれた少女は、もうこの場にいないのだから。
「…先輩、あのセイバーオルタは…」
隣に立つマシュが同意を求めるように、こちらへと視線を向ける。彼女も気付いているようだった。
「……」
英霊ともなれば、今までの莫大な歴史があるのは当然だ。それは、良くも悪くも彼等だけの記憶。
かつて従えていたであろうマスターとの邂逅。そんな可能性もゼロではない。あの黒い騎士王がマスターの名を気にかけていたのは、やはりそういうことなのだろう。
だが、それは彼等だけのものだ。こちらが興味本位で踏み込んで良いものではない。
いや…正直に言えば、自分だって非常に気になる。気になって仕方がない。そんなお年頃だもの。
──だけど、大切な人を想うような…あんな顔を見せられたら何も聞けないよね。
まるで片想いをしているかのような少女の顔に、こちらも流石に何も言えなくなる。
壊したくはない。彼等の積み上げた繋がりを。
「…うん。でも、それは彼等だけの繋がりだから、そのままにしておこう」
藤丸は優しく笑って返事をする。
「先輩は優しいですね」
「相変わらずのお人好しと言いますか…」
それを聞いたマシュとガウェインが微笑む。
藤丸の性格を理解している彼等には分かりきっていたが、やはり藤丸立香という少年は温かい。
「そうかな?──それより、まだ戦いは終わってないよ。早くロビン達の援護に…」
「いや、それはもう必要ない」
藤丸が気を引き締めて、新たな戦いへと目を向けた時、聞き慣れた声が彼の言葉を遮断した。
「ドクター!」
マシュが呼びかけると、彼等の前にDr.ロマンの姿がホログラムとして浮かび上がった。
「それについては問題ない。…良い報告だよ、藤丸君。クー・フーリンオルタはロビンとカーミラによって倒された」
「本当⁉︎良かった…!」
吉報を聞いて安心したような藤丸。だがそれに対して、Dr.ロマンの表情は固い。
それを読み取ったガウェインが真剣な眼差しで問いかけた。
「…ドクター。まだ他にも報告する事があるようですね」
「……」
彼の問いに、一瞬言葉を詰まらせたDr.ロマン。
その瞳が僅かに揺らいだと思えば、彼はゆっくりと口を開いた。
「…ごめん、藤丸君。君が僕を信じて任せてくれたっていうのに…間に合わなかった」
「……え?」
重い口を開いたDr.ロマンはモニター越しに険しい表情をしていた。その表情には、後悔、悲しみ、懺悔。それらの感情が隠れているように見える。
その瞬間、藤丸は理解した。
理解したくはないが、分かってしまったのだ。
「……な、にがあったの?まさか…」
彼の声が小さく震える。
マシュやガウェインも静かにドクターの返事を待っている。
「ドクター。それについては、俺から話しますよ」
「⁉︎」
突然、藤丸達の背後から聞こえたのは彼等が良く知ってる声。
「…ロビン…」
そこには、今にも消えてしまいそうな程の魔力切れをした緑の弓兵が立っていた。いや、ボロボロのその身体はかろうじて立っているという表現が正しいのだろう。
そう。彼は一人だったのだ。
「……っ、」
その光景に藤丸は思わず口を噛み締めた。
それが意味するものは、もう分かっている。
覚悟していたことだ。
でも、けれど──。
「…なんて顔してるんですか、マスター」
呆れ顔をするロビンに労いの言葉をかけたいのに、息が出来ない。口が開かない。
信じたい。嘘だ。そんなわけない。
そんな感情がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「先輩…」
マシュが心配そうに見つめている。
「マスター、悪いな。戦いには勝ったんですけどね…あー…もうそんな顔するなって」
気まずそうなロビンに対し、藤丸は必死に溢れ出しそうになるものを堪えている。
──そういうところが、まだまだ子供なんだよなぁ…。
見ているこっちが辛くなるような程、少年は耐えている。マスターとして、その振る舞いは本来望ましいものではないのだが、その弱さこそが彼の優しさだと充分に理解しているロビンは、そこでようやく口を開いたのだった。
「マスター、よく聞いてくれ。…カーミラはバーサーカーとの戦いで消えた。俺を庇って、体を貫かれて」
「っ!」
その言葉に藤丸の瞳が悲しみで大きく揺れた。
マシュやガウェインも同じく動揺をしてしまう。
「…そん、な…」
ロビンの言葉に呆然と立ち竦む藤丸。
そんな彼の隣に立つマシュは静かに藤丸へと視線を向けた。
──望まなかった現実を突きつけられた少年は、今何を思うのだろう。
これまでにも過酷な闘いはあった。幾多のレイシフトを行い、その度に様々な困難と対峙してきた。それでも、彼は仲間と共に闘い抜いてきたのだ。その過程で決して考えなかった訳じゃない。きっと、彼だって頭のどこかでは最悪な事態を考えていたはずだ。…仲間を失うということを。
しかし、今までの藤丸立香という少年は、誰かを失うこと、命が消えていく事に過剰なまでにも阻止しようとしてきた。それは、自分を犠牲にする程までに。
そんな彼が一番避けたかった仲間を失うという現実が今、目の前にある。それを藤丸が受け止められるのかマシュは心配していた。
「…カー…ミラ…」
藤丸が小さく呟く。
その瞳は徐々に悲しみから虚しさへと変わっていくのが分かった。そして、次には後悔、自責へと移るのだろう。
「……」
ロビンはそんな彼を静かに見つめていた。
その瞳はただ優しいものではなくて厳しさを含んだもの。しかし彼の口からは穏やかに、けれど力強く言葉を紡ぎ始めた。
──今、彼に伝えなければならないことがある。
だってこれは、カーミラの想いも込められているのだから。
「…マスター。動揺して悲しむ気持ちも分かる。自分の未熟さを憎みそうになるのも理解出来る。だが、言わせてもらうぜ。アンタの覚悟はそんなものだったんですか?誰一人として犠牲を出さずに、このレイシフトが終えられるとでも思ってたんですか?」
「…っ、」
「ロビン…!」
ロビンの思いがけない言葉にドクターが制止しようとするが、彼は気にすることも無く、その口から問い訊す。
「確かにアンタはお人好しだ。それがマスターの弱さでもあり強さでもあることは俺だって重々承知してるさ。けどな、ここは戦場だ。いつでも誰かの命が消え、いつでもアンタがおっ死ぬ可能性だってある」
「……」
「それでも、アンタが手の届く限り誰かを助けたいという思いを抱いているのも知っている。そんな中で消えていった誰かを、命を、いつでも思い続けるなとは言わない。でも、それは後悔じゃない。決して自分を責めるものなんかじゃない」
ロビンの瞳が藤丸へと真っ直ぐに向けられる。
かつて生き抜いた者が英霊となり、今を生きる者へと向けるもの。それは──。
「自分が生きる為だ。消えていった仲間や人々を想うのであれば、今を生きる為に、未来を掴む為にその犠牲を糧にしろ。それが覚悟ってもんだ」
「…っ!」
藤丸の瞳が大きく見開いた。
その瞬間、先程剣を交えたあの黒い騎士王が言わんとする事を思い出す。
──貴様は何があろうとも、その正義を貫けるか。
「……」
拳を握り、深呼吸を一つ。
己の胸が貫かれたように軋む。それは、呼吸をする事さえ苦痛な痛み。
けれど、その痛みは覚えていなければならないものだ。それを抱きながら自分はこれから幾度なく前に進めなければならないのだから。
藤丸は口を開いた。
「そうだね」
彼は再び前を見る。
竦みそうになる足に喝を入れる。
もう迷わない、なんて言えないかもしれないけれど。もう立ち止まらない、とは限らないけれど。
それでも。それでも、俺は──。
「──何があろうとも、俺は自分の正義を貫き通すよ」
その信念は、誓いは…この未熟な自分の唯一の芯。決して無くしてはならないものだ。
藤丸は、いつの間にか流れていた涙を拭う。
あの黒い騎士王に。
茜色の空の下に佇む、憧れの背中に。
自分は胸を張って、笑って答えたいから。
「皆、こんな俺だけど力を貸して欲しい。未熟なマスターだってことは分かってる。でも、俺は…大切なものをこれ以上無くしたくはない。大切な誰かを失いたくはない。俺は──これからの未来を皆と一緒に歩んで行きたいんだ」
──それが、俺の正義。
それはごく当たり前の願い。
そんな事を願うなんてまるで子供みたいな我儘だ。けれど、それは藤丸立香にとっては大切な願い。人類消滅という絶望の状況の中で、当たり前の事を変わらず願い続ける彼は決して弱くはない。未熟ではない。むしろ、それは──。
マシュは安心したような瞳を彼に向けた。
「…先輩は未熟ではありません。私はそう断言出来ます。カーミラさんを想って流れた涙も、自分の弱さを自覚しながらも前を進むことをやめないことも、それは決して恥じる事ではありません。それは──先輩の強さです」
「マシュ…」
「ふふ、確かにマスターは力強く皆を率いるような先駆者とは言い難いですが、それでも我々にとっては強い人です。貴方のその優しさが希望なんです」
「…ガウェイン…」
「そうですよね?ロビン?」
藤丸が僅かに濡れた瞳を我が英霊達に向けながら見つめていると、ガウェインが今まで黙っていたロビンフッドへと催促する。
「あー…それを俺に振るなんて分かってやってんですかねぇ?いや、天然?どちらにせよタチが悪いわ…」
彼はガウェインに向けて嫌味を一つ溢した後、視線を少しずらしながらバツが悪そうに答えた。
「…まぁ、俺だってマスターの頑張りは認めてますよ?いや、むしろ人間にしては良くやってるなって思ってますって。あのカーミラだって、アンタの事を凄く気にかけてたし…。…あー、悪かった。少し言い過ぎた。俺もマスターの事はちゃんと強いって…」
「ありがとうロビン!!!」
「だぁぁ!?びっくりした!!急に抱きつかないで下さいよ!?」
ただえさえボロボロの身体なんですから!とロビンの慌てふためく声が頭上から聞こえる。そんな声を聞きながら、見慣れた緑色の外套に顔を埋めて、再び溢れそうになる涙を隠した藤丸は笑う。
もう大丈夫。自分は一人じゃないと知っている。だから、カーミラ。待ってて。君だけ一人にはしないから。
この特異点を終えたら──、またカルデアで会おう。
*
創り上げられたこの茜色の世界の下、正義と悪が対峙する。
それは世界の理なのだろうか。この世はその形、形勢を作り出す。悪があれば善があるように。悪人がいれば善人がいるように。それはつまり、悪があってこその正義だと言ってもおかしくはない。
そう。誰かの言葉を借りるのであれば、それはこの言葉が分かりやすいだろう。
かつて、あの男が言い放った言葉。
『──喜べ少年。君の望みはようやく叶う』
それは、衛宮士郎が抱く正義の味方という歪な信念を見抜いた故の言葉だ。
「…っ!」
「たわけ!!集中しろ!」
アーチャーの怒号が飛んで来てすぐに意識を現実に戻す。
──何故、今になってあの男の言葉を思い出したのか。
「く…っ!」
士郎は素早く後退しながら、アーチャーオルタの銃弾を警戒していた。だが、彼の逃げ行先を見越したかのような銃弾が次々と飛んで来る。それは、容赦なく死を想像させる程の威圧。
「惨たらしく絶命しろ!!」
先程のアーチャーオルタと同一人物なのかと疑う程、目の前の黒い弓兵は嗤いながら二丁の銃を慣れた手付きでアーチャーと士郎を追い詰めていく。
そんなオルタの前にアーチャーが立ち塞がろうとするも、オルタの銃口は士郎にも狙いを定め、隙あらば士郎も殺そうとしていた。
「よっしゃ!俺も援護しますかね!ていうか、俺も早くそいつを殺したくて仕方がなかったんだけどさー!」
更に最悪なことにアンリマユも傍観の構えを止め、本格的に参戦し始めたのだ。彼の視線の先には勿論、衛宮士郎。
「──…っ!」
これはマズイ。
即座に危機を察知した士郎はオルタとアンリマユから距離を取る。だが、それは同時にオルタと対峙している我が英霊、アーチャーとも離れる事を意味していた。
この先は、己一人の力でなんとかするしかない。
すると、士郎は突然声を上げたのだった。
「アーチャー!お前は自分の戦いに専念しろ!その代わり、オルタを食い止めろ!マスター命令だ!!」
士郎がアーチャーへと強い口調で言い放つと、それを背後から聞いたアーチャーは不敵に小さく笑って答えた。
「…了解した、衛宮士郎。だが、貴様こそ無様な結果を出してみろ。その時は、今度こそ私がお前を殺す」
それは彼らしい言葉。
その意味を理解している士郎は、後退する足を止めた。
そして、真正面から迫り来るアンリマユを見据えて彼はこう呟いたのだ。
「──同調、開始(トレース、オン)」
その刹那。
士郎の両手に造られる。
「…!」
アンリマユは彼の手に現れたものに見覚えがあった。それもそのはず。それはたった数分前に見たのだから。
ただし、それは赤い弓兵が持っていたのだけれど。
──こいつ…⁉︎
「…何故、という顔だなアンリマユ。だが、お前に話す事は無い」
士郎の瞳は真っ直ぐに闇の少年を見据えたままだ。彼は両手に造られた干将・莫耶を構えて佇んでいた。その姿は、確かに戦う意志を表している。
──正気かこの男。最弱とはいえ、英霊を一人で相手するつもりかよ。
「お前の相手は、この俺だ!!」
衛宮士郎は茜色の空の下、この戦場で叫ぶ。
強くしっかりと宣言したその意志は固く、それは…まるで正義の味方だ。
「……」
その瞬間、アンリマユの瞳が更に暗闇へと変わる。
──あぁ、やっぱりな。アンタと俺は決して相容れない存在だ。
「キシシシ!!じゃあ、お望み通り!!真っ向勝負といこうぜ──っ!!!」
そんな嬉々とする声と共にアンリマユの両手に現れたのは、右歯噛咬と左歯噛咬という二つの奇形の短剣。
彼もまた、士郎と同じように二つの短剣を武器としていたのだ。
それが、士郎の持つ干将・莫耶と激しく交わる。
──アンタが正義なら、俺は悪なのだろう。それは、揺るぎない形だ。それを今更どうこう言うつもりは無い。
けれど──。
かつて、暗闇に差し込む光を切望した名も無き少年はもういないのだ。
…彼は全てを剥奪され、その命すら失ってしまったのだから。
「…っ!」
「そらっ!ほいっと!どうしたァ⁉︎正義の味方さんよ!!」
さすがに、最弱とは言えども彼は英霊だ。
人間離れした身軽な動きで、息をつく暇もなく短剣の軌道が読めない連撃を繰り出していく。一度でもその攻撃を受ければ、ただの人間である士郎の身体は軽い怪我だけでは済まされない。
「正義の味方ってのは、誰でも助けるんだろ⁉︎ここの村人を!この世界を!」
この復讐心だけは、この想いだけは──。
笑いながらも鬼気迫るアンリマユの攻撃。
しかし、それをギリギリの所で受け止め、彼の攻撃を躱す士郎。彼もまた、ただ歳を重ねていただけでは無い。
「…っ!」
恐らく彼にとって世界で一番厳くもあり、一番の理解者である英霊から、容赦なく鍛えられてきたのだから。
──まだだ。隙ができるまで耐えろ…!
重く、鋭く。
アンリマユから次々と放たれる一撃に全神経を集中させる士郎。
彼の攻撃を受ける度に、干将・莫耶が壊されていく。だが、次の攻撃が来るよりも早く干将・莫耶を瞬時に創造し、攻撃を防ぐ。
それは何度も。何度も。何度もだ。
その光景にアンリマユは僅かに目を疑った。
士郎が行なっている事は、並大抵の事では無い。
更に言えば、たかが魔術師──いや、人間が行える所業では無いと言える程だ。
それなのに、彼はそれを瞬時に行い、英霊と確かに渡り合えている。
「…はは、本当に化け物かよ」
アンリマユは密かに呟いた。
ここまで戦える人間なんて聞いた事がない。
ましてやただの人間が、だ。
そんな奴が、ここまで戦えると言うことは、それは余程の覚悟と努力の賜物なのだろう。
「……」
何故だか。苛々する。
そして、一瞬だけ。一瞬だけ…あり得ない感情が湧いてしまった。
そんな少し動きが鈍くなったアンリマユを士郎が見逃す筈は無かった。
「ふ──っ!」
干将・莫耶を両手に音も無く、アンリマユの懐へと入り、何度もその二振りが馴染む程に訓練してきたであろう、彼の素早い動きがアンリマユの首に届く。
「…⁉︎」
だが、アンリマユは直ぐに反応して後退する。
まさか、人間に首まで狙われるとは──と思いきや、次に彼は目を見開いた。
頭上には幾つもの剣が己を狙っている光景。
数え切れない造られた剣。
それを認識した瞬間、それらが追い打ちをかけるかのように、ただ一人の敵を目掛けて一斉射撃を開始した。
息をつかせない程の攻撃。
それは士郎も同じだった。
「──…なんだお前」
今にも迫り来る剣の嵐の下、小さく呟いた少年の声。
それは士郎の耳には届かない。
「なんだお前。…"誰だ貴様は"──」
あぁ、なんだコレは。
確かに己は苛立っているのに、この身体はそれを抗っている感覚。
依り代にしたこの身体は間違いだった。何故か余計な事ばかり考えてしまう。
「何だ…?」
士郎は僅かに眉をひそめた。
剣が降り注ぐ隙間から僅かに見えた暗闇。それは、アンリマユが立っていた場所だった。
その暗闇に何故か嫌な予感がする。
直感的にそう感じた士郎は一旦距離を取った。
だが──。
突然の爆発音。
「⁉︎」
それは、ただの爆発音では無い。魔力が異常なまでに急上昇し、明らかに異様なものを含んでいるものに思えた。
少し離れた場所にいたアーチャーでさえ、オルタと対峙しながら背後でそれを感じ取る。
──何だ。今の音は…。
音が聞こえたきた方向には衛宮士郎とアンリマユがいる場所だ。
そして、爆音と共に感じた先程の魔力は士郎のものでは無かった。
「……」
一瞬だけ嫌な想像をしてしまいそうになる。
更に、それを助長させるかのように、今まさに衛宮士郎との魔力の繋がりが弱くなり始めたのだ。
だが、すぐにそんな思いを振り切ったアーチャーは目の前の黒い弓兵へと意識を向けた。
そこには殺意しか持たないただの殺戮者化とした男が一人。
この男も侮れはしない。少し前の彼とは変わってしまったかのような言動。
「…今の音は。いいのか?アンタのマスターとやらがそこにいるんじゃないのか?」
心配しているような台詞を口にするも、それは全く感情が無いものだ。
「フン。貴様が心配する事ではないさ。生憎、私のマスターはしぶといだけが唯一の取り柄でね。…あぁ。諦めの悪さとも言えるが」
アーチャーが冷たくそう言い放てば、オルタも同じようにその金色の瞳を冷たく向けた。
「それは頭が悪いのか、それとも根性が悪いのか」
二つの静かな殺意がこの場を支配する。
そして、アーチャーは慣れたように瞬時に干将・莫耶を創造し、両手に握ると静かに口を開いた。
「…貴様には分からんだろうな。いや、忘れてしまったと言うべきか。己の信念を貫こうと無様でも足掻きながら、自分の信じた道を進む…。例え、それが地獄だと知っても尚、歩む事をやめないあの男の──その覚悟を」
それを語る彼の瞳は、確かに暖かい。
決して、それを直接あの男に見せることは無いのだろうけれど、それでも知っている。
まだ少年だったあの男が見せた覚悟を。信念を。
──自分は確かに認めのだ。
ならば、自分も英霊としてマスターを信じ、己の務めを果たすだけだ。この先も、自分はあの未熟者を見届けるつもりなのだから。
「さぁ、続きといこうか。全霊でお相手しよう」
*
「こっちだ!藤丸君!」
少し離れた場所では、Dr.ロマンの声が藤丸達をとある場所へと誘導していた。
何故か慌てた様子のDr.ロマンに藤丸はその足を休める事なく尋ねた。
「ド、ドクター?どうしたの?突然、場所を移動するなんて…」
彼の問いにマシュやガウェイン、ロビンも同様な表情をしている。傷だらけな彼等だったが、少しの休息を入れた後、まだ動ける程の体力と魔力は取り戻したようだ。
「いいかい?藤丸君。僕達、カルデアは特異点において、マスターである君の存在を常に監視し存在証明をしている。そうでなければ、君の存在があやふやになり、君の生命に関わるからだ」
モニターに映るDr.ロマンはいつになく真剣な表情だ。それは、切羽詰まった顔とも言える。
「それは知ってるけど──」
「突然、消えたんだ」
藤丸が何を今更という表情を浮かべた時、Dr.ロマンがはっきりと口にしたのだ。
「それは、衛宮君でも例外では無い。僕達はマスターである衛宮君も同時に監視していた。…けれど、さっき突然、彼の存在が消えたんだ。いくら探しても見当たらないんだよ…!」
その事実に藤丸は一瞬、目の前が真っ暗になる。
「…え──」
「とにかく今は急いでくれ!最後に衛宮君を確認した場所へ行って、君達で直接状況を確認して欲しい!」
「了解です!ドクター!」
すぐにマシュが返答をすると、彼女は隣にいる藤丸へと言葉をかけた。
「大丈夫ですよ、先輩。衛宮さんは…きっと無事です」
そう言って、小さく震える手を優しく握ってくれる。もう情けない姿を見せる訳には…と、隠していたつもりだったが、どうやら彼女にはお見通しだったらしい。
藤丸は、そんな温かな手を静かに握り返す。
──祈りにも似た思いを抱きながら。