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正義の味方がカルデアに来た話 8/Novel by 蓮見

正義の味方がカルデアに来た話 8

10,902 character(s)21 mins

20代の衛宮士郎とエミヤがカルデアに来た話。

なんとかやっと…続きを書けました。今回もようやく、一つの戦いに決着が着きましたね。妄想が色々と爆発してますが…。Fate初心者なので、そこは温かい目で見て下さると嬉しいです。
今回は彼等の関係性を妄想するのが個人的に一番楽しかったです。

前回の話も沢山見て頂き、ありがとうございます!いつまで続くのか自分自身も分かりませんが、気力があれば多分続くと思います。

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──それは、いつのことだったか。

この体に記録されている、微かな出来事。
それは、オルタという体には似つかわしくない程の温かな記憶。
黒い騎士王として暗黒の聖剣を握り、静かな殺意を向け、目の前に対峙する少年を見据えた先に、誰かを思い出しそうになるのは何故だろう。

「貴様がマスターか」

「……」

冷めた声と瞳に怯むことなく、こちらを真っ直ぐに見つめる少年。
それは、優しさを含みながらも強さを秘めた瞳だ。

セイバーオルタは、僅かに瞳を細める。

──その瞳には、見覚えがあった。

『────』

記憶の片隅で誰かの声が聞こえる。
だが、それは一瞬の出来事ですぐに消え失せてしまう。
分からない。知らない。未知なもの。
けれど、自分でも不思議なくらいに、それは不快なものではなかった。いや、寧ろそれは温かな何か。

「…名を聞いておこう」

「…!」

突然の黒い騎士王からの問いに、藤丸は一瞬、戸惑いながらも警戒する。
目の前に立つ彼女は、今にも鋭い剣を向けて来そうな勢いなのに、どういう心境なのか己の名を尋ねてきたのだ。だが、無下に出来る訳にもいかず、隠す必要も無いと判断し、彼は素直に口を開いた。

「…藤丸立香だ」

「リツカ…」

何かを考えるようにゆっくりとその名を復唱した黒い騎士王。それは、何かを確かめるようにも見えた。

すると、彼女は自嘲気味に笑ったのだ。

「──今更、私は何を…」

それは、ほんのささやかな時間。
何かを振り切るような、押し込めるような声色が彼女の口から漏れる。無表情な彼女が僅かに表情を崩した理由。それは、きっと彼女しか理解出来ないのだろう。けれど、何故だか藤丸はそんなセイバーオルタに人間らしさを感じたのだ。

そして、気が済んだのか今までのやり取りを無かったかの様に、彼女は再び黒い聖剣を握り直した。

「さぁ、剣を握れ。盾を構えろ。…未熟なマスターとやら。その信念たる瞳は否定はしない。だが、それはあまりにも脆い。それでも、貴様はその瞳を私に向けられるか?」

答えろ、と黄金の瞳が──、一人の騎士が問う。

「……」

その彼女の言葉に、藤丸はすぐに理解した。
それは、自分を馬鹿にしているのではなく、あくまでも彼女なりの信念、誠意の問いだったからだ。
そして、藤丸立香という人間を見限ることも無く、真っ直ぐに捉え、ただ純粋に尋ねたのだ。

──貴様は何があろうとも、その正義を貫けるか、と。

その瞬間。
ふと、脳裏に一人の人物を思い浮かべた。
それは、今まで見てきた一人の男の背中。

茜色の空の下、赤土の地に佇むあの姿が頭から離れない。
いつでも誰かを救おうとする、あの真っ直ぐな瞳が忘れられない。

「──あぁ。俺は、生きることを諦めない。そして、誰かを助けることも諦めたりはしない。それだけ、分かっていれば充分だ。…それだけ、信じていれば俺は前へ進める」

黒い騎士王の問いに、少年は真っ直ぐに答えた。
それは、嘘偽りの無い覚悟の言葉。

「……」

古い記憶の片隅に、明るい赤茶色が見える。
さらりと流れるそれは、柔らかな髪。
その人の口元はいつも笑っていた、と思う。
その人の瞳はいつも優しく向けてくれていた、と思う。
それ以上は、分からない。知らない。…いや、もう知らなくていい。

セイバーオルタは、その瞳に影を落とした。

「──そうか。ならば、その信念諸共、我が聖剣が蹂躙してやる」

「…!マシュ!ガウェイン!」

彼女の黒い聖剣が禍々しい魔力に包まれる。
──宝具を撃つ気だ。
藤丸が叫ぶと同時に、二人は前に出た。

セイバーオルタがその一撃を撃つ前に、マシュが鋼鉄の盾を構え、ガウェインが先頭を切る。

「はぁああ──っ!!」

ガウェインは渾身の一撃を黒化した騎士王へと振り落とす。
だが、それをすぐに受け止めて薙ぎ払うセイバーオルタ。

「…くっ…!」

跳ね返されたその身体は、その勢いを利用して翻しては体勢を整え、再び連撃を放つ。それは、息をつかせない程の連撃。
しかし、黒き聖剣はその刃を全て受け止め、弾き返していく。彼女から繰り出される剣筋は恐ろしい程、正確にガウェインの急所を再び狙っていた。

「はぁっ──!」

二人の騎士の剣が互いの息の音を止めようとしている。
一撃、そして再び一撃を。
それを幾度となく繰り返しながら、ガウェインは確実に擦り減らしていた。
その身体はマスターである藤丸によって回復したものの、それは一時的なものだ。完全ではない。じわじわと再び彼の体力、魔力、それら全てが削られていく。
その証拠に、彼は目の前の王の剣に少しずつ押され始めていた。
そして、遂にセイバーオルタの剣がガウェインの心臓部へと向けられた時。

「ガウェイン卿!」

ガウェインの前に、一人の少女が立つ。
その小さな背中が、貴方を守ると叫ぶように。

今まで受け止めてきた、あらゆるものを背負い、その少女は逃げ出す事もなく、沢山の想いを込めて盾を構えた。

華奢な身体に不釣り合いな程の重い大きな盾。
それを構える少女の手や足は僅かに震えている。
だが、彼女──マシュ・キリエライトは逃げない。その恐怖に打ち勝とうと、彼女の瞳は強くどこまでも真っ直ぐだ。

「…くっ…!」

盾を通して、金属の衝撃音と手に伝わる振動。
たった一撃で、ビリビリと痛みを含んだ黒き聖剣の威力は、一人の少女の足を竦ませるには充分だった。
マシュは己の手足に力を込めて耐える。

「マシュ!」

「大丈夫です、先輩…っ!」

耳に届く藤丸の声が彼女を心配している。
しかし、マシュはその声よりもはっきりと叫んだのだ。

「まだいけます!」

──以前の彼女ならば…藤丸と出会う前の彼女ならば、この状況に耐えれただろうか。

「先輩!ガウェイン卿!今すぐ私の背後に来て下さい!──宝具、来ます!」

──いや、それは無理だったとマシュは確信していた。

彼女の忠告通りに、セイバーオルタの黒き聖剣は膨大な魔力に包まれる。

「──卑王鉄槌。極光は反転する」

セイバーオルタは静かに口を開く。
視線の先には、一人の騎士と少年、少女。

一瞬、その光景が僅かに歪んだ。
薄れていた記憶が、彼女の瞳に何かを映し出そうとしていた。その先には、二つの存在。それは、ぼやけて殆ど見えないが…小柄な一人の騎士と赤髪の少年のように見える。

──邪魔だ。

しかし、それを彼女はすぐに振り切り、遠くへと押し込めた。
何か分からない"それ"は、不要なものだと。
それが何なのか理解した瞬間、何かが壊れていくと己の直感が警鐘を鳴らしている。

──あぁ、ならば。この時をもって、"それ"も全て切り捨てよう。

そんな彼女の瞳に光は無い。
この奥底に感じる違和感も、何故だか不快ではない懐かしさも──。

朧げな二つの存在。
彼等の瞳が何も言わずに、こちらを見ていた。

──全て、この一振りで消し去ろう。

そして、その想いと共にセイバーオルタは聖剣を振り上げたのだった。

「光を呑め! 約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)──!」

「…っ!」

一瞬にして、目の前の光景が全て黒に染まる。

黒い聖剣から放たれたそれは、瞬く間に轟々と渦を巻きながら、闇が勢い良くこちらに向かっていた。全てを呑み込もうとするその闇は、まさしく絶望。

そんなものを今から受け止めようとするのは、たった一人の少女。

「先輩…っ!お願いします!」

──以前の彼女ならば、この状況に耐えれただろうか。
いや、それは無理だったとマシュは確信していた。
何故なら──、

「令呪を以て命ずる!!──魔力解放!!宝具、展開!!」

一人の少女に寄り添うのは、一人の少年。
彼の手に浮かぶのは、マスターである証の令呪。赤く光るそれは…まるで灯火だ。

藤丸立香の声で、マシュの瞳に希望が宿る。

そして、真っ直ぐに前を向き、その場に留まる彼女は高らかに声を上げた。

「真名、開帳───私は災厄の席に立つ…」

彼女に不釣り合いだった盾が、瞬く間に更に大きく広がりを見せる。マシュの言葉に反応し、共に大切なものを守らんとする、それは正しく彼女の相棒。

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷──」

そして、マシュの背後に温かい光を纏いながら、何かが現れる。
その光景に、セイバーオルタは僅かに目を見開いた。

「顕現せよ!!──いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)!!」

マシュ・キリエライトは叫ぶ。
大切なものを守る為に。
大好きな人達を助ける為に。

その心は一切の穢れも無く、迷いも無い。
彼女の想いは純粋で無垢だった。

そして、彼女の背後に現れた白亜の城──キャメロットは、彼等を見下ろすかのように現れ、鉄壁の守りを展開した。
それは、目の前に迫り来る闇を全て受け止める程の巨大な城壁。

「…キャメロット…」

その光景に思わず、ガウェインが小さく呟いた。
見覚えのある──いや、忘れもしない我が故郷。それが、今この場に現れたのだ。

美しくもあり、強さを秘めた重厚な白亜の城。
それを、勢いよく呑み込まんとする黒き闇。

黒い騎士王と円卓の少女。
二人の宝具が激しくぶつかり合う。

「はぁぁぁぁぁ──!!!」

余りの衝撃の強さに、白亜の城の守りが軋んだ。
鋼鉄の盾が弾き返されそうになる。
それを支える手が、腕が悲鳴を上げている。
視界には恐怖と絶望の闇が己に牙を向けている。

黒い騎士王の頑な意志がそこにあった。
全てを破壊するのだと。
初めから、何も無かったと思えるくらいに、かつての故郷──キャメロットを消し去るのだと。
そして、その下に立ち塞がる少女と少年に重なる朧げな何かを切り裂くのだと。

「はぁぁぁぁぁっ──!!!」

「…っ…!」

一つ、また一つ。
マシュの身体が押されていく。
だが、負ける訳にはいかない。この身は、マスターである彼を守り抜く為に、どんな困難も耐え抜くと誓ったのだから。

──だから、先輩。
安心して私の背中を見ていて下さい…!

「マシュ」

その時だった。
ふと、盾を持つ彼女の手にもう一つの手が重ねられる。

「大丈夫、俺は傍にいるから」

それは、暖かくて優しいもの。
しっかりと支えるように触れた彼の手は、彼女の小さな手を覆うように握られている。
それと同時に気付いてしまった。
彼の手から伝わる小さな震え。
それは、彼の僅かな強がりなのだろう。

「…──」

マシュはマスターである藤丸立香を見た。

「大丈夫だよ、マシュ。一緒に戦おう」

そこには、引き攣った笑顔を見せながらも諦めてはいない瞳をした少年の姿があった。

──あぁ、そうだった。

マシュは眩しそうに目を細める。

藤丸立香という少年は、弱いのだ。
魔術師として特に優れている訳でも無く、戦闘が得意でも無い。
怖くて、不安で、本当は泣きたい筈なのに。
けれど、彼は決して逃げはしなかった。
今までのレイシフトでも、藤丸という少年は誰かを助ける為に動いて来た。ちっぽけな命でも手を差し伸べ、届かなければ後悔し、嘆くのだ。

そんな彼をずっと見てきた。
ずっと見てきたからこそ、彼の強さも知っている。

「──はい、先輩」

例え、どんな絶望的な状況であろうとも、

「一緒に戦ってください」

一度でも、その希望の灯火を絶やすことはなかったのだから。

「…っ、」

セイバーオルタの顔が歪む。
彼女に見えているのは、もはやマシュと藤丸では無い。
その光景に重なる誰かの姿だ。

「…誰だ。消え失せろ」

冷たい金色の瞳で睨みつけても、その視線の先の揺らぐ面影は何も言わない。
ただ静かにこちらを見ているだけ。

「消えろ、私は知らない、…失せろ!」

黙ったまま佇む面影に苛立ちを募らせたセイバーオルタは、思わず声を上げてその手に握る黒い聖剣を再び振り上げた。

「…っ、⁉︎」

突然の第二波の攻撃に藤丸とマシュの身体が軋む。まだ小さな二人の身体は、歯を食いしばり必死に耐えている。
すると、彼等の背中を支える手が触れたのだ。

「⁉︎」

肩越しに視線を向けると、マシュと藤丸を見守る太陽の瞳。

「お二人だけではありませんよ。私もお伴しましょう」

傷だらけのガウェインが優しく微笑む。
彼の大きくて暖かな手。それは、まるで太陽のように安心を与えてくれた。

「ありがとう」

今度は優しく笑顔を見せた藤丸。
そして、彼は前の敵を見据えたのだ。

盾と白亜の城の城壁を轟々と押し寄せる闇。
身体を恐怖で震えさせる程の音と威力。
それらを全て受け止めよう。そして、全て跳ね返そう。
まだ、ここで死ぬわけにはいかないのだから。

「はぁぁぁ──!!!」

人類最後のマスターとして。
藤丸立香というただの少年として。
生きることに必死な人間として。

『──立香。君は生きるんだ』

かの赤髪の青年の声が後押しするように頭に浮かんだ。

そうだ、自分は一人じゃない。
隣には、いつも自分を支えてくれる少女。
背中には、何があろうとも自分を守ってくれる英霊の騎士。
そして、未熟な自分について来てくれる沢山の英霊達。
自分達の帰りを待ってくれているドクターやカルデアの皆。

誰もが皆、この先の未来を──人類の未来を信じている。

だから、決して負けはしない。

「──重ねて令呪を以て命ずる!!魔力最大限解放!!」

藤丸立香は、全身全霊を込めて再び叫んだ。

「宝具威力最大!!!」

マスターの片手が赤く輝く。
全身の血を震わせるように。
生きる為に、生命を繋げるように。

次の瞬間、キャメロットも白く光り輝いた。
彼等に応えるかのように完璧な護りを築いて。

そして、勢いを増した白い光が黒い闇を跳ね返していく。

「いけぇぇぇぇ──!!!」

「────っ」

目を開けることもままならない程の純白な光。

人類の未来を。
生命の希望を。

それらを信じ、前に進んで行こうとする彼等の想いが真っ直ぐに向けられる。

──あぁ、そうか。お前は…

セイバーオルタは迫り来るその光を、静かに見つめていた。

その光の中、確かに見たのだ。
同じ顔をした未熟な少女の騎士王。
そして──優しい笑顔を見せる…かつての彼を。

『──セイバー』

次の瞬間。
眩い光と共に、大地を揺るがす程の爆音が響き渡った。

「…っ、」

その衝撃と共に荒れた旋風が藤丸を襲う。
満身創痍の身体が吹き飛ばされそうになるが、彼の傍にいたマシュとガウェインが支えてくれたおかげで、なんとかその場に留まった。

「…セイバーオルタは…⁉︎」

藤丸は身構えながら、あの黒い騎士王の姿を探す。先程の衝撃で、まだ視界には土埃が舞っているせいか、よく見えない。また攻撃を仕掛けてくるかもしれないと、マシュとガウェインは警戒した目を向けていると、静かな声が聞こえてきた。

「…未熟なマスター」

「⁉︎」

藤丸達は声が聞こえてきた方へすぐに身構える。
徐々に土埃が晴れて、その姿が露わになっていく。その視線の先には、剣を下ろした黒い騎士王の姿。そんな彼女の聖剣は既に魔力を失っていた。

「…貴様は本当に脆いな」

そう呟いた彼女の瞳。
それは、静かに穏やかだった。
殺意の無い金色の瞳が真っ直ぐに藤丸達へと向けられている。

「だが、それでも足掻くか」

何かを思うように彼女は少し目を伏せて、言葉を紡ぐ。

「…あぁ、そうだ」

そんな彼女に藤丸は視線を背ける事もなく、はっきりと答えた。

──あぁ…やはりそうか。

セイバーオルタは納得したように藤丸の姿を見て思う。
彼は、似ているのだ。

目の前の光景。
藤丸の姿と、かつての赤髪の少年の姿が重なって見えた。

何故忘れていたのだろう。
呆れるくらいにお人好しだったことを。
優しくて真っ直ぐなその温かい瞳を。
誰かを救おうと必死な思いと──その覚悟を。

『──俺はね、セイバー──』

朧げだった少年の姿が蘇る。

──それは、いつのことだったか。
この自分ではない、もう一人の自分に向けられた光景だったかもしれない。
些細な言葉に過ぎなかったかもしれない。
けれど──。

懐かしい彼の声。
彼は、はっきりとその言葉を口にしたのだ。

『──俺はね、セイバー。正義の味方になりたいんだ』

そう優しく笑った少年。
その姿が酷く眩しく見えたのを覚えている。

「…そうだったな」

少し柔らかな声色がセイバーオルタの口から溢れた。

──あぁ、そうだった。

セイバーオルタの金色の瞳が僅かに灯る。
そして、彼女の目の前に立つ彼の姿をその瞳に焼き付けた。

「──こういう男がいたのだったな」

見守るような眼差し。
それが黒い騎士王の今の思いを表していた。
それを全て知り得る事はない。彼女の中で何かが変わった…いや、答えを得たのだろうと藤丸は思う。

すると、セイバーオルタの身体が少しずつ消え始めていることに気付いた。
星屑のように彼女の身体が、この世界から消えていく。

セイバーオルタは戦いに負けた。
その事実だけがこの状況を示していた。
だが、彼女はそれだけでない。それだけではない思いを持って座に還れるのだ。

流れていく星屑を追って、ふと空を見上げると、茜色に染まった空がこの世界を覆っていた。
その光景に、セイバーオルタは思い出す。そして、小さく尋ねた。

「最期に、教えてくれないか」

「…え?」

空を見つめたまま、彼女は問う。

「…この世界を造った人物の名を」

その言葉に藤丸は、ハッとした。
まさか、彼女は──。

「衛宮さん…。衛宮士郎というマスターです」

「──…」

その瞬間、セイバーオルタの瞳が揺らいだ。
薄々気付いていた。
もしや、と思っていた。
だが、けれど。

その男の名に、何故か泣きたくなる。
その男の名に、懐かしさが込み上げてくる。
そして──。

この時代に遭遇した、もう一人のマスター。
その赤髪に一瞬だけ視線を向けたものの、自分は彼を見ていなかったのだ。

──赤髪の青年。
かつての面影を残した、青年の姿。
その姿に自分は気づかなかったのだ。
彼は、初めて自分を見た時に一瞬、悲しそうな瞳を向けていたというのに。

「……」

茜色の空の下、赤土の地に佇む黒い騎士王。
彼女の身体は、キラキラと輝いてこの世界から消えようとしていた。
その姿を見つめる藤丸とマシュ、ガウェインは何も声を掛けない。
何故なら、彼女のその表情は余りにも──大切な人を想う少女の顔だったからだ。

「…強くなりましたね、シロウ」

その声は酷く優しいものだった。
冷たい瞳だったものが、最期には少女の瞳へと変わる。
初めて口にした彼の名に、黒い騎士王は小さく微笑んだ。

そして──彼女の身体は静かに消滅したのだった。





──衛宮士郎は、その瞳に正義を灯す。
それは、少年だったあの頃から変わらない。
隣に立つもう一人の自分、アーチャーもそれは同じだった。

「──手応えはあった。だが、これで終わりではない筈だ」

「分かってる」

地面が崩れ、土埃が舞う光景に警戒しながら衛宮士郎とアーチャーはその瞳を鋭く先へと向けていた。

先程、アーチャーが放った偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)。
それは、確実にアンリマユとアーチャーオルタへと放たれた。不意をつかれた彼等は、確かにその攻撃を受けた筈だった。だが、当のアーチャーはその警戒を解いてはいない。
手応えはあった。しかし、致命傷までには至っていないという顔だ。それには士郎も同じようで、あのアンリマユと名乗る少年にはまだ何か隠されたものがあると感じていたのだ。

パラパラと衝撃音の余韻だけが静かに聞こえる戦いの跡地を静かに見つめる二人。
すると、アーチャーが思い出したように口を開いた。

「ところで、衛宮士郎。貴様の魔力はまだ残っているのか?貴様は未熟なマスターだからな。そうあちこちと動き回られては、誤って撃ち抜くかもしれんぞ」

「それをお前が言うのか?アーチャー。この俺を容赦なく鍛えたのは誰だよ」

冗談とは言い難い、淡々としたやり取りをする彼等はあの頃とは変わっていない。
相変わらずの皮肉屋が未熟者のマスターを貶す光景はきっと、この二人の性格上変わりはしないのだろう。
だが、そんな彼等にも少しだけ変わった事がある。

「──来るぞ、衛宮士郎」

「あぁ、気を抜くなよアーチャー」

すると突然、二人の表情が変わった。
彼等が見据えた先には、先程の崩れた地面に重なるように覆われた瓦礫。
それが僅かに動いた気配がしたのだ。

そして、その瓦礫の中から静かな殺意が溢れて来る。
──やはり、まだ生きていたか。
アーチャーは内心、苛立ちを感じていた。
ただえさえ、未熟な自分という存在がマスターとして傍にいるのに、それを嘲笑うかのように現れた黒い弓兵。
あの姿を見る度に、憤りを感じてしまう。いや、その感情はむしろ──。

ガラガラと音を立てて瓦礫から現れるかと思いきや、突然放たれたのは一つの弾丸。

「…⁉︎」

それは、真っ直ぐに衛宮士郎へと向かっていた。

「下がれ!!」

それに気付いたアーチャーが叫ぶと同時に、数コンマ数秒で己の手にはあの陰陽二振りの短剣──干将・莫耶が造型される。そして、それを手にした彼は、我がマスターを庇うかのように素早く立ち塞がり、その短剣で銃弾を弾き返した。

その瞬間に、この場は緊迫した空間へと変わる。

「…邪魔なんだよなぁ、そいつ」

そんな空間に聞こえてきたのは、少年の声。
そして、遂に瓦礫の中から彼等は再び現れたのだった。

黒い弓兵と全身刺青を入れた少年。

「…っ、」

士郎とアーチャーは構える。
その表情は堅く、僅かに息を呑む。
何故なら、そこには相変わらず嫌な笑顔を見せる少年に対して、表情を無くした黒い弓兵の姿。
彼は、その姿を少し変化させていたのだ。
それはアーチャーと似たような黒い外套を身に纏い、金色に輝く傷のような刺青が身体に浮き出た姿。
その姿に士郎は、マスターとして瞬時に理解した。

──霊基を変化させたか。

カルデアに来て、Dr.ロマンから教えてもらっていた。自分達の世界とは少し異なり、この世界では英霊が霊体化するだけではなく、時にはその霊基を基にしてその姿を変化させる事があると。その場合には、以前の姿よりも更に成長している可能性があるのだと。

すると、黒い弓兵は静かに笑い始めた。

「…あぁ、この身体が崩れる感覚は…良い」

まるで開放感を感じているかのような口調で小さく呟いたアーチャーオルタ。明らかに様子が変わった彼に、士郎は眉をひそめた。

──なんだ、これは…。

今までの彼の仕草から見えていたものとは、違う彼に少し戸惑いを感じてしまう。
何故だか嫌な予感がする。この胸騒ぎは一体なんなのか。
そんな士郎の思いを煽るかのように、アンリマユは怪我一つ無い身体で黒い弓兵の隣に立っていた。

「ははっ!良かったなアーチャー。どうやらセイバーもバーサーカーも消えちゃったみたいだし、後はアンタだけが頼りだぜ」

「⁉︎」

彼の口から出てきた言葉に士郎とアーチャーは反応してしまう。
セイバーとバーサーカーが消えた。つまり、藤丸達が彼等を倒したのだ。
良かった、と素直に喜びたいところだが士郎は藤丸達の安否も気掛かりだった。
…それに、セイバーとバーサーカー。彼等に対するこの感情は単に敵対心だけでは無いと気づいていた。出来れば、刃を向けたくは無いと心の何処かで思っていた。戦わずして済む可能性も抱いていたのも事実。
しかし、彼等は既に自分の知っているあの二人では無かったのだ。
…セイバーは、こちらに視線を向けつつも自分に気付いてはくれなかったのだから。

士郎は拳を握り締めた。

いや、もうそれは良い。
この平行世界と自分達の世界は別物だ。あのセイバーとバーサーカーも彼等のもう一つの側面だと理解している。
今は戦うことに集中しろ、衛宮士郎。
かつて、未熟な自分を信じてくれていたあの少女──騎士王に己の正義を貫くと誓ったのだから。

「──気は済んだか、衛宮士郎」

そんな自分の思いも見透かしたような言葉がふと、頭上から投げ掛けられる。
その先を見れば、呆れつつも確かに彼もまた何かを思う瞳をしていた。

「あぁ、悪い。大丈夫だ」

士郎は揺らぎそうになった瞳に再び正義を灯した。
この男、アーチャーを見る度に何度も喝を入れられている気分になる。いや、実際彼の口からは何度も嫌味を含めた叱咤が飛んで来るのだが。
けれど、そんな彼の思いも知っている。

──衛宮士郎とアーチャー。
相変わらずの皮肉屋が未熟者のマスターを貶す光景はきっと、この二人の性格上変わりはしないのだろう。
だが、そんな彼等にも少しだけ変わった事がある。

「いくぞ、アーチャー」

「…あぁ」

お互いの理想も、本音も全て曝け出して刃を向けたあの日から。
彼等は自分自身の存在を、相手の存在を確かに認めていた。そして、気付いたのだ。
──エミヤシロウは、間違えてはいなかったのだと。

正義を灯す二つの瞳が黒い弓兵とこの世全ての悪へと向けられる。

その姿にアンリマユは反吐が出そうになった。
気持ち悪い。苛立つ。
身勝手なその想いに、残酷な現実を叩きつけたくなる。

「…アーチャー。お前は何の為に戦うんだ?」

隣に立つ黒い弓兵に少年は静かに問う。
すると、アーチャーオルタはその表情を歪ませて答えたのだった。

「さぁ?何だったかな?…悪いなアンリマユ。かつての理想も目的も、もう忘れたよ」

その言葉にアンリマユは口元に弧を描いた。

「いや、それで良いアーチャー。ただの人殺しに堕ちたアンタの戦い、俺は楽しみにしてるぜ」

ここには、理想も希望も持たない戦いがあるだけ。そんな戦いをする自分達は正真正銘──ただの人殺しだ。
それに、この戦いは自分の我儘だ。
この醜い復讐を成し遂げる為の、名も無き誰かの屈辱を晴らす為の戦いだ。

だから、目の前に立ち塞がる二人の正義の味方に抱くのは嫌悪のみ。彼等は己の信念を──自分の正しさを信じている。
その静かに灯す強い意志に、アンリマユはただ思うのだ。

──あぁ、アンタらは俺なんかよりずっと化け物だよ。

Comments

  • kazu

    セイバー!😭

    May 27, 2024
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