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正義の味方がカルデアに来た話 7/Novel by 蓮見

正義の味方がカルデアに来た話 7

12,122 character(s)24 mins

20代の衛宮士郎とエミヤがカルデアに来た話。
・衛宮士郎とエミヤは主従関係。
・FGOは第一部設定。
・藤丸達はアーチャーの真名を知らない。勿論、士郎との正体も知らない。

このシリーズも長くなったので、簡単なあらすじ。

Dr.ロマンのSOSを察知し、平行世界からやって来た士郎とエミヤ。
彼等はカルデアの事情を知り、藤丸達と協力する事になる。
とある特異点へと先にレイシフトした藤丸、マシュ、ガウェイン、ロビン、カーミラは特異点で敵と遭遇する。
その敵とは、アンリマユ、エミヤオルタ、アルトリアオルタ、クー・フーリンオルタだった。危機的な状況に追い込まれた彼等を助ける為に、士郎とエミヤが後から駆け付ける。
そして、今彼等はオルタ組と戦闘中という内容。

今回の内容で、一つの戦闘に決着が着きました。ようやく…ですね。戦闘描写苦手なので、可笑しな部分があっても温かい目で読んで頂けると有り難いです。

前回も沢山読んで頂き、評価もありがとうございました!書く気力が湧いてきます!

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茜色の空の下。
赤土の上で鳴り響く互いの剣。

かつての主君であった彼女──いや、騎士王は見覚えのある騎士と己の剣を交えていた。
時には体に打ち付けるような鈍い音、時には金属が擦れる音を耳にしながら騎士王は、その冷たい金色の瞳を目の前に立つ男に向ける。

その男は騎士王の一撃を受け止める度に、苦しい表情をしていた。
それは、徐々に傷付いていく身体の痛みに耐える表情だけでは無いと己の直感が告げている。

「貴様、酷い顔だな。私と戦う気が無ければ、今すぐ立ち去れ。貴様の相手などしている暇は無い」

その言葉に、一瞬顔を強張らせたガウェインだったが、彼女と一旦距離を取り、手にしていた剣を握り直す。

「…私には分からない。貴女は、確かに我が王であって、正確にはそうでは無い。それは理解しています。貴女は、もう一つの側面と言えば良いのでしょう」

以前、カルデアのDr.ロマンから聞いた事がある。
英霊にはオルタナティブという別の側面を持つ彼等が存在するという事を。
その言葉の通り、これまでのレイシフトでそんな彼等を実際に見てきた。
そんな彼等を見て、ふと思う事があったのだ。

「…ですが、国を思う気持ちは変わらない筈だ。王と自ら名乗る貴女が、何故無差別に民を殺しているのか私には理解出来ません」

アルトリア──あのアーサー王という人物は、心底我が国を想い、繁栄を願い、守り戦い続けてきた。
それは、彼女の信念であり、彼女の王としての誇りだ。

「いくら貴女がオルタとは言え、その根底にあるものは変わらない筈です。私は貴女にも、その心はあると──」
「黙れ」

その一言と共に振り上げられた剣を間一髪で受け止める。

「…っ!」

瞬く間に間合いを詰めて来たその剣は、ガウェインに黒い殺意を向けていた。

「何勝手な事をベラベラと。貴様の言うそれは酷い妄想に過ぎん。甚だしいにも程がある」

ギリギリと黒い剣を押し付ける彼女の瞳に、光は無い。

「私が国や民を想う王だと?笑わせるな。そんなもの、この世界に必要は無い。神を敬い、神が世界を支配していると信じ、人さえも生贄として捧げる馬鹿げたこの世界には、騎士王など要らぬ」

剣が激しく弾かれた音がする。

「この国…いや、この世界は腐っている。それを断ち切るには、民や悪しき伝統を排除するだけだ。愚民は静かせるもの、徹底した統治、自由なき自由。それが王の生業というものだ。アンリマユが内心どう思っているのか知らぬが、私は私なりのやるべき事がある」

黒く染まった真っ直ぐな剣先がガウェインに向かっていく。

「それが分からぬ貴様は、今此処で朽ち果てろ」

目の前に見える金色の瞳に慈悲は無い。

「…っ!」

彼女の剣を躱せる程、彼の身体に余裕は無かった。脇腹に受けた傷からは、ずっと鮮血が流れ落ちていく。
ならば、真正面から受け止めるしか無い。
全身に力を込め、迫り来る一撃に耐えようと身構えた瞬間。

「貴様は、甘いな」

彼女の姿が一瞬消える。

「⁉︎」

そして、直ぐに理解した。
これは──フェイク…⁉︎

「遅い」

背後から冷たい声が投げかけられる。
その声に反射的に背後を振り返れば、金髪の下に鋭い金色の瞳。
強く射貫くような彼女の双眼が獲物を捕らえる。

「消え失せろ」

完全に不意を突かれたガウェインの背中を守るものは無い。
それが意味するものは、ただ一つ。

──…あぁ、申し訳ありません。マスター。

脳裏に浮かんだのは、優しい少年の顔。
いつでも彼の英霊として、一人の騎士として傍にいたつもりだった。守っていたつもりだった。
だが、それは己の傲りだったのだろう。

──私は"また"、己の主君を守れないでいる。

伸ばした手は、聖剣を手にした金髪の少女に届かない。
円卓の騎士として身を置きながら、自分は何一つ守れなかったのだ。

「さらばだ、ガウェイン」

だから──、

そんな過ちは、もう繰り返させはしない。


ドスッ、と鈍い音が静かな空間に落ちる。

ボタリ、ボタリ。
紅い滴が赤土に溢れては、その地を更に赤く染め上げる。

「貴様…」

セイバーが見つめた先には、黒い剣に流れる血。そこには、確かに背後から彼の胴体を貫いた光景。そして、ガウェインが己の身体が貫かれても尚、片手で剣をしっかりと握り締めている光景だった。

「…ガハッ…!…私は…まだ消える訳には…、いかない」

チッと舌打ちをするセイバーオルタ。
口から吐血しながらも、彼に力強く握り締められた剣先は、その先を貫けないでいた。

躱せないと判断し、自分の身体を犠牲にしたという訳か。その自己犠牲精神は認めよう。だが、くだらない。

「フン。憐れな程、必死だな」

わざと挑発するように問いかければ、この場において場違いな表情をして彼は答えたのだった。

「えぇ…そうです。私はマスターをお守りする為ならば、我が身など構わない。…今度こそ、今度こそ…私は主君を守り抜いてみせる」

笑顔でそう宣った男。
それに、酷く苛立ちが湧き上がる。

「…瀕死の身体でよく吠える」

そう呟くとセイバーは剣を勢いよく引き抜いた。その拍子に、ガウェイン身体からは大量の血が溢れ出す。

「…ガ…ッ…!」

そして、一度距離を取り、再びその黒剣を握り直すセイバー。ガウェインもまた剣を構えるが、負傷した手と体で上手く力が入らない。

──…血を流しすぎたか。

視界がぼやける。流れ続ける鮮血。
おそらく、この身体は長くは持たないだろう。限界が近い。

だが、そんな事はお構い無しに目の前の黒い王は、決着をつけようとしている。

「──ならば、その言葉通りその身をもって消え失せるがいい!」

彼女の剣身に黒い渦が巻き上がる。
そして、その剣を下から振り上げると、禍々しい黒い魔力を解き放ったのだ。

迫り来る黒き一撃にガウェインはその四肢に力を込める。

身体を支えろ。
視線を逸らすな。
魔力を溜めろ。

ここでセイバーオルタを食い止めなければ、藤丸立香が危険に晒されるのは目に見えている。

「…く…っ、」

口から流れ落ちる血は止まらない。
呼吸の仕方さえ忘れそうになる。
だが、その唇を噛み締め、必死に己を焚き付ける。

「…私は…、俺は──!」

全身へ魔力を込めていく。
それでも宝具が撃てるか分からない。だが、どちらにせよこの身が消滅するのは免れないだろう。

「マスターを守る為に…っ!」

赤く染められた手で、その剣から全身全霊の魔力を放とうとした瞬間──。

「今助ける!ガウェイン!」

ふと聞き慣れた少年の声。

「援護します!ガウェイン卿!」

そして、目の前に立つのは盾を構えた少女。

その光景に目を見開く。

直後、少女が持つ盾に黒き魔力が直撃し、凄まじい勢いと衝撃音が彼女の表情を歪ませる。

「…くっ…!」

渦巻く黒い魔力が盾諸共押し進めようとするが、彼女はこの先へ通させまいと、必死に耐えていた。

「頼む!マシュ!まだ耐えてくれ!」

「はい…っ!」

思わぬ光景に動けないでいたガウェインの元に、一人の少年が駆け寄ってきた。
その姿にガウェインは戸惑ってしまう。
何故なら、彼等にはロビンとカーミラ嬢を任せた筈なのだから。

「マ、マスター!何故!?何故こちらに来たのですか!!」

思わず大声で叫んでしまう。
こんな危険な状況で、現れていい筈がない。
マスターなら尚更。
すぐに彼等を遠ざけるべきだ。

「マスター!今すぐに──」
「ガウェイン、死ぬな」

向けられたその一言に、全身が固まった。

「その身を覚悟で戦っていたんだろ?でも、消えないでくれ、ガウェイン」

「マ…スター…」

もう話すのも苦しい。
肺が機能しているのかも分からない。

そんな姿を見て藤丸が血だらけのガウェインに触れる。
その時、今にも泣きそうな程、辛い表情をしているのが見えた。
それは、初めて見る顔だった。

「俺はね、皆を助けたいんだ。それは勿論、ガウェイン達も含まれてる。ロビンもカーミラも、マシュも助けたい」

彼の言葉と共に身体が温かくなっていく。

「それは、誰かの命が消えていくのが怖いから。だから全てを助けたい。──今までは、それだけしか考えてなかったんだ。人類最後のマスターとして、自分を犠牲にしてでも救わないと、って思ってた」

呼吸が少し楽になる。
魔力が戻っていく。

「でもさ、衛宮さんに言われたんだ。自分一人で戦わなくていい。仲間を信じろ。…ちゃんと"生きろ"って」

ぼやけていた視界が鮮明にはっきりと映し出される。

「…ガウェイン。だから、消えるなんて俺が許さない。俺達と一緒に生きて戦って欲しい」

そう言った彼の瞳は、愚直にも真っ直ぐで。
今までの藤丸立香とは違っていた。
そんな彼を見て何故だか、泣きそうになる。
そして、理解した。
これが本来の藤丸立香なのだと。

いつの間にか、身体の傷は癒えていた。

「はぁああ──ッ!」

マシュの声が響く。
押し潰されそうだったその盾は、一度も黒い魔力を背後に通すこと無く、完全にセイバーオルタの一撃を弾き消したのだ。

「…その盾は…」

先に立つセイバーオルタが呟く。
そして、マシュに潜む存在を理解した。

「──そうか。"貴様"も私に刃向かうというわけか」

スッと再び黒い聖剣を握り直す。

「良かろう。ならば、次の一撃で全てを喰らい尽くすまで」

先程とは、比べ物にならない程の黒い魔力が彼女の剣身へ集中されていく。

「ガウェイン!マシュ!」

しかし、藤丸は怯まない。
高らかに叫んでは、その先の闇をしっかりと見据えた。

もう迷いは無い。
彼は何を守り、何を貫き通すべきなのかを知っている。

その眼差しに気付いたガウェインは僅かに口を綻ばせた。

藤丸立香の声が戦場に響く。

「──いくぞ、二人共!反撃だ!」





「あれは…」

ロビンフッドは目を細めた。
距離を置いた先には、カーミラとクー・フーリン オルタが対峙している。先程まで二人はせめぎ合いの攻撃を繰り返していたが、今では静けさを含んでいた。

──空気が変わったか。

戦況を瞬時に理解した彼は、カーミラの方へと視線を向ける。彼女の口元には手を添えた仕草。

「…はいよっと。"合図"が来たわけね」

一人小さく呟くと、彼はその身に纏う緑の外套を深く被る。そして、瞬く間にその姿と己の気配を消したのだった。


──空気が変わる。
それが示すものは、生きるか死ぬか。
今まで殺気を含んでいたその場が、静寂に包まれる。

それを理解しながらもカーミラは佇んでいた。

これは、知っている。身に覚えがある。
英霊として幾度なく戦ってきたが、この空気はやはり良いものではない。
殺気、嫌悪、憎悪、憤怒、怨根。
生前、それらの感情ばかりが自分の周りに渦巻いていた。それ故に、その感情に敏感で、その感情を当たり前なのだと思っていた。
けれど──。

目の先にいるクー・フーリン オルタが赤黒い魔力に包まれる。

「──全呪解放。加減はなしだ」

そして、その禍々しい魔力が彼を包み込んだかと思えば、彼の姿は変化していた。

それは、まるで獣。
全身に鋭い爪や棘、刃が無数に付属した紅の甲冑を身に纏い、怪物のような姿が露わになる。
更に、その顔は赤黒い鎧に隠されて表情が読めず、不気味さを醸し出していた。

「絶望に挑むがいい…」

赤黒い獣が静かに吼える。

「──噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)!!」

ゾクリ、とその威圧感に身体が一瞬、止まりそうになる。
全身に狂気を纏い、こちらに向かって来る姿は間違いなく狂獣。全てを切り裂き、殺すこと、戦うことに微塵も躊躇なく真っ直ぐに走り抜けるそれは、死をもたらす怪物にも思えてしまう。

──だが、それを素直に受け止めるほど、自分は真っ直ぐな人間では無い事を知っている。

その瞬間、ヒュンッ、とカーミラの横を一本の軌道線が飛んでいく。
背後から放たれたそれは、見慣れた矢。
一本の矢がクー・フーリン オルタへと勢い良く向かっていったのだ。

「それは、もう通用しないと知っているはずだが?」

それを見切った彼は、こちらに突進しながら全身の鎧で弾き返した。
そして、何事もなかったかのようにカーミラへとその凶器化した鎧を突き刺そうとする。

彼女の首元へ鋭い爪や棘が届く寸前。

「──いや、それで良い」

姿の見えないロビンフッドの声が響く。

「…⁉︎」

すると、クー・フーリン オルタが目を見開いて動きを止めたのだ。

「いくら強い外装、攻撃を放つ奴でも内側から攻撃されちゃあ、少しは効くでしょ」

「…⁉︎…貴様!」

彼の内側から何かが蝕むのが分かった。
小さかったそれは、先程から何故か膨大な量を増やしては勢い良くこの身体を食い尽くす。
まるで暴れる蛇のようにそれは広がっていくのだ。

「──くたばりやがれ!祈りの弓(イー・バウ)!」

「…ッ…⁉︎」

ロビンの言葉を合図に、狂獣の身体は内側から何が爆発するように所々から血が噴き出した。

すると、彼の身体は、一瞬だけ巨大な緑樹に包まれる。

その瞬間、彼は理解した。
これは、この内側に潜んでいたものは──。

「…毒か…。それも、この猛毒は…ッ!」

この毒は知っている。
ケルトの人間なら知っていて当然だ。

「イチイの樹…!!」

口から血が流れる。身体が思うように動かない。

ロビンが静かに"ご名答"と笑う。

──そうさ、狂獣。
これは、イチイの樹の猛毒。
そして、俺の宝具でもある。

祈りの弓。
標的が腹に溜め込んでいる毒を瞬間的に増幅、流出させる力を持つ。標的が毒を帯びていることで、その毒を火薬のように爆発させる。
それは、矢が標的へかすり傷どころか矢を弾いたり受けたりして防いだとしても、その矢はトリガーの役割を果たし、その効果を発動させるのだ。

今まで奴へ何度も矢を放っていたのは、気付かない程度の毒を忍ばせる為。
それは、全てこの瞬間の為だ。

『貴方は私が合図したら、宝具を撃ちなさい。後は私の番よ』

──さぁ、カーミラ。
俺はアンタの指示通りにしたぜ。
次はアンタの番だ。


グラリと視界が揺れる。
思った以上に身体中の猛毒は広がっているらしい。出血も止まらない。
だが、クー・フーリン オルタはその足や手を止めようとはしない。

「…面白い!!だがな、そんなもので俺を止めた気になるな…!!皆殺しだ!!」

彼は笑いながら、その戦意は失わない。寧ろ、殺意が増しているようにも見える。
勢いは軽減したものの、再びカーミラの首元に狙いを定めた。

「──そうね。私もそう思うわ」

だが、それはこちらも同じこと。

「だから、私も手を打たせてもらったわ」

カーミラの瞳が静かに覚悟を見せる。

「…!」

この女…、魔力が増えている…⁉︎
クー・フーリン オルタはいつのまにか彼女の魔力が増えている事に気付き、ハッとした。

「そうか…やってくれたな。"吸血鬼"…!」

ニヤリ、と彼女の口元が歪む。

「──えぇ、今まで魔力をありがとう。ご馳走様」

口元に手を添える仕草。
それは、クー・フーリン オルタから魔力を奪い、完全に満たされた事を示す合図。
彼女は今までの攻撃の際に、魔力を奪っていたのだ。

「さぁ、死になさい」

彼女が手にしていた杖を振るう。

「──全ては幻想の内、けれど少女はこの箱に」

静かな詠唱と共に、彼女の頭上に現れたのは巨大な塊。
それは、拷問器具。所謂、"鉄の処女"だ。

「──幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)!!」

その直後、大きな扉を開いた鉄の処女は勢い良くクー・フーリン オルタを飲み込んでしまった。

ガキィィン──、と金属音が静寂した空気の中に響き渡る。

「…はぁ、はぁ…」

完全に狂獣を閉じ込めた拷問器具を見つめながら、カーミラは肩で息をしていた。
あのバーサーカーと接近戦をし、さらには魔力の消費も激しい状況に、流石の彼女も余裕が無いらしい。いつもの凛とした佇まいが崩れている。

「こうも上手くいくとはねぇ」

スッと、彼女の隣に現れたのは、緑の外套を脱いだロビンフッド。

「俺の働きぶりも、なかなかのもんだったでしょ?」

彼も軽口を叩いてはいるが、その表情は固い。つまり、彼も余裕が無いのだ。

「煩いわね。無駄口叩いてないで、」
「◼️◼️◼️◼️◼️──!!!」

「…っ⁉︎」

その瞬間、全身に悪寒が走る。
二人は身構えて目の前の鉄の処女へと向き直ると、その光景に息を呑んだ。

ガチャン、ガチャン──!!

鉄の拷問器具の内側から響き渡る絶望にも似た音。

「…おいおい、嘘だろ…」

思わず弱音を漏らしてしまう。
それもそのはず。なにせ、彼等は全て出し尽くしてしまったのだから。

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️──ッ!!!」

獣、いや怪物の雄叫びが聞こえる。

そして、金属音と共にその巨大な扉が僅かに隙間を開けた。

「…!!!」

そこに見えたのは、血走った瞳。
必ず殺す、という揺るぎない信念を貫く瞳だ。

「クソ!奴が出て来る前に仕留めるぞ!!」

ロビンが苦い顔をしながら、その隙間に向けて連続で矢を放つ。
だが──、

「◼️◼️◼️◼️◼️──ッ!!!!」

彼の咆哮で、全ての矢を弾き返してしまったのだ。

ビリビリと恐怖がロビンとカーミラへと伝染していく。

「…く…っ!」

負けじとその先を見据えれば、血だらけの怪物がゆっくりと鉄の処女の扉を開いていくのが見えた。

「させない…っ!!」

カーミラが残りの魔力を振り絞って再び扉を閉じようとするが、赤黒い怪物はそれを上回る力で抉じ開けようとしている。
一体、どこにそんな力があるのか疑問に思うが、ロビンは"あぁ…"と嫌に納得してしまった。

「…まだ…俺は、止まって…いない…!」

獣の瞳を見つめながらロビンは警戒する。

「そうか…そうだよな…。アンタは狂獣でもあり狂王だ。勝つことは王を証明することであり、アンタにとって生きることは、獣の如く死に至るまで全力で駆け抜けること」

そんな奴にとって、自分達の策なんて関係無いのだ。

「…吸血鬼。まだアイツの魔力は奪えるか?」

「無理ね…。もうあのバーサーカーも殆ど魔力は残っていないし、私も奪うだけの余裕は無いわ」

鉄の処女が消えかけているが、ギリギリの所でカーミラがそれを防いでいる。だが、それも時間の問題だろう。

これが所謂、絶望の淵に立つというやつだ。
ロビンは乾いた笑いを零す。

「殺す…!貴様らを…!殺す…皆殺しだ…!」

完全に理性がぶっ飛んだクー・フーリン オルタは獣の欲望で動いているようにも見えた。
ギチギチとその扉を少しずつ開いていく。

「──仕方ねぇ。俺が行くか」

ふと、溜息と共にロビンが静かに呟いた。

「…どうする気?」

カーミラが問えば、ロビンは面倒だと言わんばかりにその足を進めて行く。

「もうこの状況じゃ、どうしようもないでしょ。シンプルに殺し合いだっての。アンタは引き続きあの狂獣の足止めをよろしく」

「ちょっと…⁉︎」

カーミラの制止も聞かずに彼女の傍から離れ、真っ直ぐにその闇へと向かう。

ロビンは、すぅ、と小さく息を吸った。

──俺の得意な罠や仕掛けも何も無いこの状況。おまけに、致命傷を負いながらも戦意マックスな理性がイかれた狂獣。…普通に考えりゃあ、俺が圧倒的に不利。

「でも…」

ロビンの瞳が"英雄"のものへと変わる。

そして、その足を踏み込んで真っ直ぐに突進した。
彼の手には隠しナイフ。

脳裏に蘇るのは、やはり我がマスターの姿。

「あの甘ちゃんマスターが悲しむからな!!悪いけど、俺達にも生き抜かなきゃならねぇ理由があるんだよ!!」

「皆殺しだ…っ!!」

次の瞬間、ガチャンッ、と鉄の扉からクー・フーリン オルタの片腕が現れる。

「これ以上は…出させない…!!」

カーミラは唇を噛み締める。

だが、彼は吼えてしまった。

「──噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)!!」

ガチャン──ッ!!

遂に、再びその姿を顕にした怪物。それと同時に消えていく鉄の処女。
そして、彼は己に向かって来るロビンを見据えた。

直後、振り落とされるナイフが狂獣の腕に突き刺さる。だが、それは簡単に振り払われてしまう。
ロビンはその反動を利用し、素早く身体を捻らせ一旦後退した後、休む暇なく矢を連続で放った。

血を流し続ける赤黒い狂獣は吼える。
その矢よりも早く、己の凶器の鎧をロビンへ向けようとする。
それに気付いた彼は緑の外套を被り、完全に気配を消した。

「それで躱せたと思ったか…!!」

だが、狂獣はその場一帯に攻撃を繰り出した。その鎧は鋭い爪、棘を突き刺すように攻撃していく。しかし、それだけでは無い。
更に、突き刺した所を基点に四方へ無数の棘が伸びるという、ゲイ・ボルクそのもののような性質も備えていて、広範囲を狂獣の鎧が埋め尽くしていたのだ。

「…⁉︎…」

「そこか!!」

その攻撃を受けたロビンは、その気配を狂獣に感じ取られてしまった。
そして、畳み掛けるように彼へと鎧の爪を切りつける。辛うじてそれは掠めた程度に留まるが、その威力は想像以上のものだった。

「…ガハッ…!」

馬鹿力かよ…!
内心、悪態をつきながらその場を急いで離れようとするが、その鎧は彼を追う。
恐らくこの攻撃をまともに受ければ、終わりだろう。

「野郎…っ!」

後退しながらも、連続で弓を射るロビン。
先程から毒入りの矢を放つも、既に全身に猛毒が回っている彼の身体にとってそれは些細なことなのだろう。

だが、負ける訳にはいかない。
泥臭くてもいい。無様でも良い。
何としても、勝たなければならない。

「…っ!」

ロビンの頬を棘の鎧が掠める。
その際に、血が飛んでいく。

次の瞬間、グラリ、と視界が歪んだ。
当たり前だが、こちらも魔力が殆ど残っていないのだ。

傾く自分の身体。
ロビンは飛びそうになる意識を必死に留めようとする。

まだ、やれんだろ…!俺…っ!
倒れるな…!

生前でも、こんな戦いがあっただろうか。
決して正統な戦い方とは呼べない己の戦。
身を潜めて罠や仕掛け、破壊工作を得意としたやり方で戦うのがロビンフッドという英雄だ。

だが、今はそれとは真逆の戦いをしている。
正面から敵に向かい、小細工無しの戦い。

──あぁ…、俺らしくもない。

…でも、何故だろう。

ダンッ、と力強く己の足を地面について、倒れそうになるその身を支える。

そして、彼は不敵に笑ったのだ。

──何故だろう。この戦い方は嫌いじゃない。

「まだ耐えるか…!!殺す!!」

「──それは、こっちの台詞っての!負け戦は嫌いなんでね」

その言葉にクー・フーリン オルタは構える。
僅かに理性を取り戻したのか分からないが、その鎧の奥にある表情が変わった気がした。

「…最後に問おう。貴様は何故、戦う。王になる訳でもなく、戦いを好む訳でも無い。…ならば、貴様が戦う理由はなんだ」

それは純粋な問いだったのか。
それとも、己の戦い振りを見て馬鹿にしているのか。

だが、そんなことはどうでもいい。
ロビンフッドが戦う理由。
そんなもの、生前から変わらない。

「なに、俺はただとにかく生き抜いて、その結果、誰もが温かい何かが残ればいいってだけさ。まぁ、そんなものは綺麗事で夢物語みたいなもんですけどね」

戦が当たり前の時代に生まれた自分は、そう思いながら戦い続けてきた。

「……」

クー・フーリン オルタは彼の答えに何も言わない。
彼と自分は余りにも違っていたからだ。
彼は…ロビンフッドは──自分の為ではなく、人々の為に戦ってきたのだ。

「…やはり、貴様はここで殺す」

今度は静かな殺意が突き刺さる。

「そうだな。そりゃ、俺も同意見だわ。アンタはここで倒させてもらう」

これが本当にお互い最後の一撃だろう。

全身に毒が周り、傷から血を流し続ける狂獣。
いくつも傷を負い、魔力なんて殆ど空の弓兵。

互いの足が勢い良く前へと突進する。

「────!!」

それは、一瞬だった。

ロビンフッドの眼前には、赤黒い鎧。
次には、噴き出す血飛沫。
視界が真っ赤に染まっていく。

──…あーあ。やっぱり慣れない事なんてするもんじゃないな…。悪いなマスター…。

遠退く意識の端で、そんな事をぼんやりと思いながらロビンの身体は傾いていく。

このまま消えるのだろうと覚悟していると、突然、彼の身体はガシリと掴まれた。
そして、彼の耳に聞こえてきたのは叱咤する声。

「…しっかりしなさいよ!ロビンフッド…!!」

「…⁉︎」

その声に、目を見開く。

「な…アンタ…」

目の前の光景にロビンは息を呑んだ。

「なに勝手に諦めてるの…!最期までその目を開いて戦いなさい!!」

目の前には──、

狂獣の鎧に胴体を貫かれながらも、ロビンの身体を掴み、真っ直ぐに瞳を向けるカーミラの姿。
その胴体、口からは大量の血が流れている。

「吸血鬼の女か…!」

クー・フーリン オルタは彼女の行動を予想していなかったのか、完全に不意を突かれた状態だ。

すると、カーミラは己の胴体に貫通している狂獣の鎧を離さまいと力強く掴んだ。そして、彼女は叫ぶ。

「…さぁ…何やってる、の…っ!!今のうち、に…反撃なさい…!!」

青白い肌が鮮血を浴びて、余計にその紅色が映える。

「な、にやって…」

「さっさとしなさいよ…!仮にもアンタ…"英雄"でしょ…!!」

カーミラが口を開く度に大量の血が溢れていく。

その言葉に、ハッとする。
ロビンフッドは弓を構える。僅かに残った魔力を込めて。

そして──、

「…悪いな、狂獣。この戦…俺達の勝ちだ」

ヒュンッ、とカーミラ越しに静かな一本の矢を放った。

「──…!」

ドス、と鈍い音が響く。
それは、確かに狂獣の心臓部を貫いた音。

「……」

己の心臓に刺さった矢を見るクー・フーリン オルタ。
そして、だらりとその身体から力を抜く。
それはもう、戦う意思は無いという事なのだろう。彼は負けたのだから。

その証拠に、少しずつ狂獣の身体が消え始めていた。

「…あぁ、そうだな。俺の負けだ」

ボロボロと崩れていく彼の顔を覆っていた鎧。
その下に見えたのは、穏やかな表情だった。
それは、非常にわかりにくいが満足した表情のようにも見えた。

「認めるしかねぇな。…俺はここまでだ」

彼の身体は、星屑のように小さく輝きながら消えていく。
それを無言で見つめるロビンフッドとカーミラは、彼の言葉に静かに耳を傾ける。

彼は、ようやく走り抜けたのだ。
己の信念に従って。

そして、ようやく走り抜けたその先に、彼は思い出したように、一つの感情を抱いた。

「…あぁ、そうだな。…久しぶりに楽しかった」

キラキラと光る星屑が流れていく。
その光景は、今までの戦いから想像も出来ない程、穏やかなものだった。

そして──、その言葉を残し、クー・フーリン オルタは完全に消滅した。

静かな風が流れる。

「…ふざけんなっての。こっちは必死だったってのに」

もういなくなった彼へと、ロビンが小さく呟いた。勿論、返事はない。

「…カハッ…!」

すると、狂獣が消滅して気が緩んだのか、カーミラが血を吐きながらロビンへと倒れ込んだ。それを慌てて受け止めた彼は、カーミラへと視線を向ける。

「大丈夫か…⁉︎何やってんだアンタ!そんな無茶する馬鹿でしたっけ⁉︎」

普段ならば絶対に見られない程、明らかに戸惑っているロビン。
その表情を見ながらカーミラは小さく笑う。

「…うる、さいわね…。勝算があった…。だから、行動したまでよ…」

貫かれた彼女の胴体から流れる血は止まらない。
その姿を見てロビンは後悔してしまう。

「でも、アンタが前に出る必要は無かった。それは、俺の役割でも──」
「馬鹿ね…胸を張りなさい」

瞳を細めた彼女の表情は吸血鬼でも冷酷な貴族でも無く、それはまるで──。

「貴方はあの戦に…勝ったの。…それで良い。英雄ならば、このくらい、の…事、耐え、なさい」

徐々にその声に覇気がなくなっていく。

「…私は慣れて、る。こんな…結末…今更、だ、わ…」

「それに…、マスター…あの子、が生きて、いれば…それで良い。あの子だけは…」

ゴボッと吐血する。
限界が近い。

「…もういい。喋るな。俺の魔力を奪え。少しは楽に──」
「嫌よ…。貴方も、殆ど空のくせに、…何言ってるの、かしら…」

ふふ、と小さく微笑んだ彼女にロビンは苦しくなる。
──覚悟をしていたのは、俺よりも彼女の方だったと。

「…少し、疲れたわ…。マスターに、よろ…しく頼む…わね。彼は、…何があっても…、生き抜かなきゃ…」

カーミラの瞳から光が消えていく。
それを見たロビンは彼女の手を握る。
それは、最期の時は孤独を与えまいと、彼なりの優しさなのだろう。

「…あぁ。おやすみ、カーミラ」

初めて聞く彼の優しい声。
──その声に彼女は満足そうに笑って瞳を閉じたのだった。

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