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正義の味方がカルデアに来た話 6/Novel by 蓮見

正義の味方がカルデアに来た話 6

10,619 character(s)21 mins

20代の衛宮士郎とエミヤがカルデアに来た話。

続きました。自分でもビックリです。
相変わらず、衛宮士郎と藤丸立香の関係性に妄想が止まらなかった…。
藤丸君達と関わる事で、少しでも衛宮士郎とエミヤが幸せになれば良いな。

オルタ組との戦闘はまだまだ続きそうです…。
他にも沢山書きたい場面もあるのですが、気力が…。

前回の話も沢山見て頂き、ありがとうございます!拙い文章ですが、お話を楽しんで頂ければ幸いです。

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──今思えば、そこは孤独な場所だったと思う。


「よう。アーチャー、やっとお目覚めか?」

瞳を開けて先ず視界に映り込んだのは、暗闇。
そして、その暗闇に紛れて聞こえて来るのは、まだ幼さが残る少年の声。
数回瞬きをして暗闇に目が慣れてくると、目の前には黒髪の少年が一人立っていた。

彼はその小さな身体全身に刺青を施し、赤い布を巻き付けているだけという、なんとも怪しげな格好だ。

「他の二人はもう目覚めてるぜ」

その言葉をぼんやりと聞きながら辺りを見渡せば、ただの暗闇だと思っていたこの場所はあちこちに岩壁を認め、洞窟らしき所にいるのだと認識する。
そこで、ようやく自分の状況が理解出来た。
──そう、自分はこの少年に召喚されたのだと。

「…お前が俺を呼んだのか。名は?」

アーチャーの口から出る言葉は淡々としていてまるで感情が無い。
それは、人間の真似事をするようなロボットにも見える。

「無愛想な奴だなぁー。あの二人も俺に冷たいし。何?俺くじ運悪いの?」

アーチャーの態度をサラリと流す少年は、表情をコロコロと変化させる。そんな姿を見ながらアーチャーは何も言わず、ただ彼を観察していた。

一目見て、彼が人間ではない事はすぐに理解した。
自分を召喚した少年。
おそらく彼は自分と同じ英霊だろう。だからといって、特にこの少年にさほど興味は無い。
ただ自分を召喚した相手というだけ。
戦いにおいて、効率良く戦う為に利用するだけの存在というだけだ。
だが、これからこの身はいつも通り戦いに投じる事になるだろう。この少年と共闘する場合もある。…ならば、自分を召喚した相手の名前くらい把握しておくか、と冷めた目で見つめていると、少年はケラケラと屈託なく笑ったのだった。

「うわ、お前性格歪んでるな〜!」

こちらの思考なんて全て読み通しだと言わんばかりに、少年は笑っていた。

「…それは悪かったな。だが、この性格は変えられない。お前のくじ運が悪かったと思え」

別に気分を害した様子もなく、アーチャーはただ淡々と答えるだけだ。
そんな彼を見て、更に少年は笑う。

「ギャハハ!そして捻くれ者ときた!俺にそっくりじゃん!良いね〜!気に入ったぜ、アーチャー!」

何故か再び笑い出した少年は、アーチャーの肩をバシバシと馴れ馴れしく叩いている。

「俺はアンリマユだ。これから仲良くやっていこうぜ」

ニカッと子供らしい笑顔を見せた彼の姿に、何故かアーチャーはどこか懐かしい感情を抱いた。だが、それは一瞬の出来事でその感情はすぐに消え失せていく。

「話は終わったか?」

すると、少し離れた所から女性の声が聞こえてきた。

「坊主。どうやら、そいつで最後みたいだな」

次には男性の声。

──実は、ここに召喚された時から自分以外の気配には気付いていた。
だが、その気配に対して別に殺気立つ必要は無いと判断し、今まで黙っていたのだ。その理由は、少年が言っていた二人の存在。

「全く…。アンタらも少しは俺に愛想良くした方が良いんじゃねーの?呼んだのは俺だって事忘れてない?」

呆れたように溜息をついたアンリマユ。
彼の視線の先には、黒い二人の英霊が立っていた。

「本気か?アンリマユ。王たる者、そのようなものは不要だ」

一人は黒い剣を手にした女性。
おそらくセイバークラスであろう彼女は、暗闇の中で一際目立つ金色の瞳を冷たく向けている。その瞳は先程の彼の言葉に対して不機嫌を顕にしていた。

「…同意見だな。戦いの中で、それは無意味だ」

そんな彼女の隣には獣に似た甲冑を身に付け、紅く光る槍を持つ男が鬱陶しそうにその鋭い視線を向けている。

「……」

そんな二人の姿を見たアーチャーは、何故だか違和感を覚える。
初めて出会った筈なのに、二人に対して"違う"と思ってしまったのだ。

「どうした、アーチャー。覚醒したばかりでまだ本調子ではないか」

心配しているわけではない、ただアーチャーの実力がどの程度のものか知りたいだけの黒い騎士王が問いかける。

「…いや。問題ない」

「そうか」

短い会話を交わした後、黒い騎士王は興味が失せたのかその視線を別方向へと向けた。
その横顔は、洞窟の入り口から漏れ出す闇夜の月明りに照らされて幻想的な美しさだ。

──俺は…、この光景をどこかで…?

そんな彼女の横顔を見つめながら、アーチャーは何故か頭の奥で小さな違和感を拭いきれないでいた。
すると、そんな様子を知ってか知らずかすぐ傍にいたアンリマユが小さく呟く。

「一生忘れない光景ってあるよな」

「…アンリマユ?」

意味がいまいち読み取れなかったアーチャーが不思議そうな表情を向けると、アンリマユは一瞬別の少年に見間違える程、優しく微笑む。だが、それはすぐに消えてしまい、今までと同じ笑顔へと移り変わったのだった。

「この洞窟から見える景色はどうよ?ここは山の頂に近い場所にあるんだ」

彼は少しずつ足を進め、セイバーとバーサーカーの側を通り過ぎ、ゆっくりと洞窟の入り口まで近付く。
そして、この薄暗い場所の外に広がるその光景を見下ろしたのだ。

視界に映るのは、点々と地に栄える小さな村々。
鮮やかな緑色が広がる生気ある森や草原。
その脇には、さらさらと穏やかに流れる河。
そして、その大地を見守るようにこの世界を優しく覆う星々と月夜。

──それは、静かに生命が息吹く景色だった。

「────……」

「どうした坊主」

背後に立つバーサーカーとセイバー、そしてアーチャーが身動き一つしない彼の態度に眉をひそめている。

「…いや、」

かつて、自分が生きていた世界。
人里離れた山奥の洞窟に幽閉され、理不尽な人の悪意を全てこの小さな身体に刻まれ続けた少年。
お前には自由が無いのだと手足を鎖で繋がれても尚、その少年は暗闇の洞窟の中で、その先に溢れる僅かな光に希望を抱いていた。

いつか再びその世界で生きるのだと。

「…なんだ…」

その身が尽き果てるその最期まで、少年はその暗闇の先に差し込む光に焦がれていた。
何度も己の眼を潰されようとも、その光景は決して忘れる事は無かった。

「外の世界はこんなにも──…」

だが、そんな彼に救いの手を差し伸べる者は誰一人としていなかった。
この世全ての悪を全て一身に浴びた、ただの少年は、孤独な死を迎えてその人生を終えたのだ。
──醜い復讐心だけを残して。

アンリマユは口元を歪ませる。

「なんだ…なんだよ…!外の世界は…!こんなにも、くだらないものだったのかよ…!ギャハハハ!!」

あれほど焦がれた外の世界。
それは、あまりにも小さかった。
生き生きとしたその全てが気持ち悪くて仕方がない。

「アンリマユ…」

少年の背中を見つめる三人の英霊は、それ以上は何も言わない。それは、これからやるべき事を理解したからなのだろう。
彼等はただこの少年に従うだけだ。

「あー…愉しみだなぁ」

その嗤いは止まらない。
英霊として再びこの世界に生まれた時から決めていた。覚悟していた。

この世全ての生命に終止符を。
この世全ての人類に復讐を。

かつて焦がれたこの世界に、もう未練は無い。

「さぁて、人間共に絶望ってやつを見せてやろうか」


──あの時見た少年の顔は、ようやく自由を手に入れたような笑顔だった。



「衛宮さん、俺はもう大丈夫です」

ぼろぼろと溢れていた涙を拭い、泣き腫らした目で強い意志を見せる藤丸。
その表情はやはり幼さを残しているが、今までと確実に違っていた。

覚悟した顔、と言うべきか。
何を守り、何を貫き通すのかを己の中で確信したような顔だ。

ふと、彼の強い瞳にあの時の自分が重なる。
見覚えのある顔付きが変わった赤髪の少年が今、目の前に立っているのだ。

それを見た士郎は僅かに口元に弧を描く。

「…もう大丈夫そうだな、立香」

わしゃわしゃと彼の柔らかな髪を撫でれば、少し恥ずかしそうにする藤丸。その光景を見てホッと胸を撫で下ろすマシュ。

「さて、そろそろアイツの援護に行かないと」

「アーチャーさんの所ですか?」

「あぁ。今頃、"何をしてるんだ未熟者が"って怒ってるだろうから」

マシュの問いかけに苦笑いで答える士郎。
相変わらず彼等の仲は悪いのか良いのか分かりづらい。

「そうだ、ドクター。村人達の避難状況はどうだ?」

いつでも対応出来るように待機していたのか、士郎の声に反応して瞬時に目の前の空間へとDr.ロマンの映像が映し出される。

「そうだな…。それほど村人達の人口は多くはないが、彼等は突然の事にパニックに陥っているみたいだ。君達が助けたあの少年が避難を促しているみたいだけど、完全に避難出来るまで早くても後15分弱ってところか」

険しい表情をしたDr.ロマンに対し、士郎は数秒間思考を巡らせる。
出来れば村人たちへ被害を出したくはない。これからこの戦場は更に過酷になっていくだろう。早急に対策を講じなければならないが、なにせ今は三箇所同時に戦闘が繰り広げられている状況だ。些細な対策で防げるわけがない。

…だが、一つだけこの状況を打開する策を自分は知っている。

「15分弱…そんなに待てないな。…よし、仕方ないか」

何かを決めたのか、士郎は徐にその片手を前に突き出した。

「…衛宮さん?」

その行動に不思議そうな瞳を向ける藤丸とマシュ。Dr.ロマンもモニター越しで疑問符を頭に浮かべている。

「本当は切札として残しておきたかったんだけど…」

「え?」

ポカンとした藤丸の顔を見て、士郎は小さく微笑んだ後、その表情は真剣なものへと変わっていった。

そして、彼の口から紡ぎ出されたのは一つの詠唱。

「──体は剣で出来ている」

その瞬間、衛宮士郎の体は膨大な魔力に包まれた。

「⁉︎」

突然の桁外れの魔力に思わず、藤丸とマシュは身構えてしまう。

「──血潮は鉄で心は硝子。幾たびの戦場を越えて不敗」

次第に彼の周りにはバチバチと荒立つ光と風が強く吹き荒れ始めた。

「…なっ⁉︎」

その光景にDr.ロマンは自分の目を疑った。
彼が今行おうとしている事は、まさか──。

「衛宮君…っ⁉︎…君、それは…!」

だが、そんなDr.ロマンの声を聞き流し、士郎は瞳を閉じて己の中から何かを引き出そうとしていた。

「──ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし」

片手を前に出したまま、その口は静かに紡ぐ。

「──担い手はここに独り、剣の丘で鉄を鍛つ」

すると、突然の膨大な魔力の存在に、今まさに戦闘中の英霊達も気づき始めた。

「何…⁉︎」

「この魔力…!まさか…あの男か…⁉︎」

「ほぅ…。面白い」

各々で戸惑いや警戒、興味を示す英霊達の中で彼の英霊である赤い弓兵は聞き慣れた詠唱を静かに聞いていた。
その口からは相変わらずの未熟者に対し、いつものように皮肉が溢れる。

「…たわけ。魔力不足になっても知らんぞ」

そして、徐々にこの戦場が、光景が、世界が変化し始める。

「──ならば我が生涯に意味は不要ず」

この地すらも変化を促すかのように、彼の足元から地面へと何本もの光の筋が走り出す。

「──この体は、」

彼の体に浮かぶのは体中に流れる魔術回路の光。

「無限の剣で出来ていた──!」

そして、その強い瞳を開ける。
直後、瞬きすら出来ない程の激しい風と、炎にも似た赤い光が衛宮士郎を中心に勢いよく放たれたのだった。

「…っ⁉︎」

傍にいた藤丸とマシュは余りにも眩しい光に、一瞬目を閉じてしまう。
だが、すぐにその瞳を開けると──。

「……う、そ…」

「こ、これは…」

目に映る光景に言葉が出てこない。

空気が変わる。
音が変わる。
色彩が変わる。
この場所全ての感覚が変わっていた。

──そこは、もう別世界だった。

小さな村だった筈のこの場所は、既に全く違うものへと変わっている。
村人や小さな家々の存在は無い。
その代わりに、今この場所に見えるのは茜色の空と赤土の荒野。

「…初めて見た…。これが…固有結界…」

Dr.ロマンが驚愕と感嘆を混ぜた声を小さく漏らす。

──そう。
今、彼らがいる場所は衛宮士郎が作り出した固有結界。
それは、その術者の心象を具現化した世界。
魔術師が扱う魔術の中でも最高峰とも言える魔術だ。並みの魔術師が行えるモノでは無い。
しかし、それをこの衛宮士郎という男は生み出したのだ。

「……──」

藤丸はその世界を目に焼き付ける。

そこは、あまりにも殺風景だった。

茜色の空に、地平線の先まで見える荒野。
その地には無数の剣が突き刺さっている。

お世辞にも鮮やかな風景とは言えない。美しいとも言えない。
それは、荒れ果てた光景と言うべきか。
まるで戦場の跡地にも見えてしまうそこは、延々と続く苦痛に耐えているようにも感じてしまう。
…その世界は余りにも痛々しかった。

──これが、あの衛宮士郎という男が内包する世界だというのか。

「…これで村人達は安全だな。此処には俺達や英霊しかいない」

ふと、この世界の主である彼を見れば、その瞳は愚直にも真っ直ぐに前を向いていた。

「衛宮、さん…」

茜色の空の下で荒れた赤色の大地に佇む彼。
その姿に、何故か胸が締め付けられる。

「だが、気を抜くなよ。この固有結界はそう長くは持たない。それに、俺が君の英霊まで援護出来るかと言えばそれは難しいな。勿論、俺に追撃する機会と余裕があれば話は別だけど…」

そんな彼は、淡々とこの戦場を俯瞰している。
いや、違う。その瞳は──。

「でも、安心してくれ立香。俺は必ず──」
「戦います」

それは、当たり前のように口から出た言葉。

一瞬、意表を突かれた顔をした士郎は藤丸へと視線を向けた。

「衛宮さんは、アーチャーさんの所へ行って下さい。俺は自分の英霊を援護します。大丈夫ですよ。さっきみたいに考えも無しに突っ走る真似はしませんから」

だから安心して戦って下さい、と彼は笑ったのだ。

そこに見えるのは、強い瞳の奥に潜む憧れにも似た感情。
その言葉は、決して強がりから出たものではなく、藤丸自身が強く抱いた本心だ。

──そうだ。
俺は衛宮士郎という正義の味方に憧れている。
弱き者を助け、強き者を挫く。
全ての人々を助けたいと願う男。
そんな彼に理想を重ねる自分。

けれど、今。
その感情以外にも感じたものがあったのだ。

──それは、自分もこの人と肩を並べられる存在になりたいという願望。

「…立香」

だって、目の前に立つ彼は今まで一度も諦めた瞳をしないのだから。
いつでも、何かを救おうと必死で真剣な眼差しをしているのだから。

ならば、自分もただ彼を見ている訳にはいかない。
守られてるばかりじゃいられない。

俺は、この人のように──。

「──俺は、"生きる為"に戦います」

「…!」

偽りの無い真っ直ぐな瞳。
それは、かつての嘘で塗り固められた瞳では無く、正真正銘、藤丸立香という少年の瞳だ。

生きる為だと彼は言う。
その言葉には、皆と共に生きるという意味も含まれている。
救うべき対象へと自分を勘定に入れなかった彼が、今変わろうとしていた。

「だから、安心して下さい。俺には皆がいます。それに──」

今度は子供のように笑ってみせた藤丸。

「衛宮さん、知ってます?男なら誰でも正義の味方になりたいって思うんですよ。俺だって貴方のようになりたいんです」

「──…」

脳裏の片隅にあった古ぼけた記憶。

縁側に並んで座る大人と子供。
憧れた男の願いを引き継いだ幼い子供が純粋な瞳で笑う映像。
それは忘れもしない、あの月下の誓いだ。

『──しょうがないな。じいさんの代わりに俺が正義の味方になってやるよ』

子供が真っ直ぐに口にした言葉。
それを聞いた男の顔を、自分は今までもはっきりと覚えている。

──あぁ、そうか。…切嗣。
今ならアンタの気持ちが痛いほど分かる気がするよ。

これまで自分の行いに、立ち止まりそうになる事もあった。
信じるべきものが信じられなくなりそうな時もあった。

けれど──、

目の前に見える少年は、かつての自分。

こんなにも…誰かのそのたった一言で希望を見出し──救われるんだな。

士郎の口から小さく言葉が溢れる。

「…あぁ。安心した」

その表情は、かつて憧憬を抱いたあの男と同じ顔をしていた。





「…へー、これが固有結界ね〜」

突然変わった世界にアンリマユは面白くない顔をしていた。

あの赤髪が内包している世界。
それがこの荒れ果てた世界だ。
正義の味方面した男の中味は、意外にも…いや、予想通りまるで何も無かった。

「ほらみろ。正義の味方なんて馬鹿らしいものを目指すから」

誰に対して言っているわけでもない。
ただ、なんとなく自分の思いを口にしていないと、この体が苛立つように思えてしまったのだ。

「アーチャー、さっさとその赤いキザ男を始末してくれよ。お前ならそれくらいの攻撃なんて大丈夫でしょ」

「……」

今、対峙している赤い弓兵は、黒い弓兵の背後に佇むアンリマユへと静かに視線を移す。
その手に魔力を込めた弓矢を持ちながら。

「あらいやだ。怖い、怖い!…って事で、アーチャー!あとは任せた!」

茶化すような態度で我が英霊の背後に隠れる少年。人をおちょくる事に慣れているのか、怖いと言いつつもその顔は笑顔だ。

だが、その少年の笑顔はもう一人の男の声で変わることになる。

「──アーチャー。待たせたな」

「……!」

ふと聞こえた言葉。
その言葉にいち早く察知した黒い弓兵は、その視線を声の先に向ける。

「ここでお前の力を見せてみろ。俺も援護する」

それは、戦場に立つ紛れもないあの男の声。

黒い弓兵が視線の先に一人の男を捉えたと同時に、素早く銃を発砲しようとその手を突き出した瞬間。

「…何…⁉︎」

黒い弓兵は我が目を疑った。
それは、大地に突き刺さっていた無数の剣が、全ての剣先をこちらに向けながら宙を浮いている光景。
それは、大量に浮かぶ剣がこちらをじっと見ているように思えて、不気味でならない。
そして、それらは瞬く間に一斉にアーチャーとアンリマユへ放たれていく。
それは、まるで無数の弾丸。

「はぁ⁉︎なんだこれ⁉︎面倒だな!」

これには流石に予想していなかったのか、アンリマユは己の体を器用に捻らせ、宙を飛び回るなど、回避に徹する。その横では、黒い弓兵が二丁の銃を素早い手捌きで、降り注ぐ剣の嵐を撃ち落としていた。

だが、それにも限界はある。

「アンリマユ!貴様は退がれ!邪魔だ!」

「そんなにはっきりと言われると流石の俺も傷付くんだけど!!」

悪態を吐きながらも、最弱な英霊と宣う少年を庇うように交戦する黒いアーチャー。

そして、ようやくその視線の先にとある人物を捉えた。おそらく、彼はこの無数の剣を操る人物だろう。
そこには、強い意志を示した双眼が見える。

「貴様か──」

剣の嵐の威力が弱まった隙を見て、黒い弓兵は殺意をその視線先へと向ける。それは、標準を狙い定めた瞳だ。
──だが、

「たわけ。遅い」

それは黒い弓兵に言ったのか。
我がマスターに言ったのか。

その直後、赤い弓兵の指が弦から離れる。

鷹の目がその先の闇を捉えた。

「偽・螺旋剣──!」

膨大な魔力を含んだ巨大な矢が放たれる。
それは、まるでドリルに似た形の矢が渦を巻き、禍々しい魔力と共にこの地を砕く勢いで飛んでいく。
その速さは、飛行跡には魔力の光が線を引く程の閃光で、一瞬で目的地に着くものだ。

「な──」

アンリマユの瞳には、魔力の光を帯びた一矢しか映らない。
避けようもない程に、それはすぐそこまで来ていた。

「────!!」

次の瞬間には、その大地は爆音と共に崩壊していた。

砂埃が立ち込め、ガラガラと崩れていく大地を暫く見下ろしていた赤い弓兵は、ゆっくりとこの世界の主である男へと意識を向けた。

「…今頃お出ましかマスター。未熟者の貴様が私の戦いについて来れるか?」

相変わらずの嫌味を含めた言動に、もう慣れたと言わんばかりに、マスターであるその男も挑発をするかのように即答した。

「──何言ってる。ついて来れるか、じゃねぇ。てめぇが俺について来やがれ」

茜色の空の下、戦場に立つ衛宮士郎は真っ直ぐな瞳で力強く告げたのだった。





遠くの方で爆音が聞こえ、その威力を示すかのように大地が揺れている。
その原因は勿論、先程別れた衛宮士郎と彼の英霊であるアーチャーだろう。

藤丸は一瞬、その方向に視線を向けたが、直ぐに視線を戻す。

「ドクター。俺とマシュは先ず、比較的に近い場所にいるガウェインの援護をする。その間、可能な限りでいい。ロビンとカーミラの様子を見ていてくれないかな。何かあったらすぐに知らせて欲しい」

「僕はそれで良いけど…君は本当にそれで良いんだね?」

モニターに現れたDr.ロマンは少し心配そうに見ている。

「うん。あのロビンやカーミラの事だから、何か策を練っているかもしれない。そこに俺が無闇に行っても足手まといになるだけだと思う」

「先輩…」

淡々と冷静に答える藤丸を見て、マシュは先程の彼と同じと思えない程、彼の変わりようを感じていた。

「それに俺は二人を信じてるからね!」

そして、ニカッと笑った彼の笑顔は今までに見た笑顔とは違う、実に少年らしいものだった。

「…そうですね。…はい!先輩、私も信じています!」

思わず釣られて笑う彼女の表情も、まるで幼い少女のようだ。

そんな二人にDr.ロマンは温かな瞳を向けていた。
それは、成長していく彼等を見守るような瞳。

「──そうだね。うん、了解だ。こっちは任せてくれ。…僕も君達を信じているからね。君達、全員の帰還をこのカルデアで待っているよ」

「「はい!」」

今までに見た笑顔とは明らかに違う少年と少女の無垢な笑顔。

──そうか、君達はそんなふうに笑うんだね。

その光景にDr.ロマンは救われる気がした。
それと同時に、衛宮士郎という男の存在に感謝したのだ。
一か八かの勝負だったが、彼を呼んで本当に良かったと、その目の前に見える二人の少年少女の笑顔を噛み締めた。





「なんだ。何か策があるかと思えば、攻守を取り替えただけか?」

所変わって、引き続き激戦を繰り広げるクー・フーリン オルタとカーミラ、ロビンフッド。
彼等は突然の固有結界の出現に一瞬は戸惑いもしたが、直ぐにその手は敵へと向けていた。

そして、今は前衛にカーミラ、後衛にロビンフッドという組み合わせで戦闘を続けている。

「あら?女が前に立つのは気に食わないのかしらね。男なんて扱いやすいものよ。私の背後に隠れて攻撃する程度で良いわ。…まぁ、前に出るとすれば盾になるくらいかしら?」

「おい!?今の聞き捨てならないんですけどねぇ!?」

散々の言われように流石のロビンも背後で反論を始める。

「…ったく、アンタが言い出したんでしょうが」

ぶつぶつ文句を言いながらも、その矢を射る手は休むことは無い。

──そう。あの時、カーミラから提案された策に自分はただ大人しく従っているというだけだ。

「その程度か」

カーミラが鉤爪や閃光弾など連続で攻撃し、バーサーカーの隙を見てロビンフッドが次々と矢を撃し続けるが、それを全て紅い槍で跳ね返す狂獣。

「チッ。意外にもガードが固い」

──しかし、そんな悠長に話している時間は勿論無かった。そんな中、彼女の提案は短いものだったのだ。

「…まぁ、それで勝利出来る可能性があるなら異論は無いですけどね」

ロビンフッドは構える。
バーサーカーとカーミラの攻防を冷静に見つめながら。
秒毎に変わる態勢、攻撃、二人の間合い。
それらを瞬時に見極め、判断し、己の矢が届く距離や隙を計算していく。
それは、並大抵のことでは無い。だが、それを可能にしているのはロビンフッドの経験とその眼だ。

流石、顔の無い王と呼ばれる事だけはある。
気配を消し、相手に気付かれないようにその矢を的確に射る。

「──見つけた」

再び、バーサーカーの死角を狙い定めて矢を放つ。

「…⁉︎」

だが、それは狂獣の脇腹を掠めただけで終わってしまう。ギリギリの所で回避されたのだ。

「今のは良い狙いだった」

しかし、焦る様子も無く淡々と戦闘を再開した狂獣は、流れるようにその槍をカーミラへと突き立てる。

「…クッ…!」

瞬く間に迫り来るその紅い槍は、確実に己の心臓部を狙っていた。それが届くまで、その距離僅かあと数センチ。
しかし、カーミラは手にしていた杖を振り、彼女とバーサーカーの間に頭身のアイアンメイデンを出現させ、その一撃を弾き返したのだ。

「良く防いだ、吸血鬼の女。…だが、次は無い」

先程とは違い、少し身構えたような体勢をとる狂獣。
それを見た瞬間、カーミラは警戒心を強めた。
きっと、彼は今までとは違う威力の攻撃を仕掛けて来るだろう。それが宝具であれば、比較にならない程の威力だ。

「えぇ、そろそろ終わりにしましょう。私も貴方の相手は飽きたわ」

だが、カーミラも怯むことは無い。
彼女も煽るような口振を見せながらも、その瞳は真剣そのものだ。
それは、何かを決めたような瞳にも見えた。

「しつこい男は嫌われるわよ」

口元に手を添えて、ニヤリと弧を描く。

──さぁ、ロビンフッド。
貴方が上手く動いてくれる事を期待しているわ。

Comments

  • タークと

    かっこいいいいい

    April 6, 2023
  • 森ピー
    August 9, 2018
  • ピスタチオ
    August 3, 2018
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