コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

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第一部
1話


 生まれた時から自分が異常だと知っていた

 自分にはここと少し違う日本で生きた記憶がある

 前世の記憶を持ったが故に父にも母にも素直な子供らしい子供にはなれなかった

 気味が悪い子供だったと思う、それでも愛してくれた父母には感謝とそれより強い後ろめたさを覚えた

 

 転生し新しい人生を歩むようになってから分かったことがある

 自分は人を見下し軽蔑し、自身を特別視する唾棄すべき精神性を持っている

 その事は幼稚園で小学校で中学校で高校で感じた

 自分の周りにいる同年代の、年齢を考えれば極めて当たり前な行動の一つ一つに軽侮の念を抱き心に壁を作った

 自分の周りにいる大人の、自身を子ども扱いする事への反発と教育という形で当たり前のように内心に影響を与えようとする事に気持ち悪さを感じた

 だから努めて文句のつけるところのない姿を装った

 前世に人に誇るような何かはない

 前世は平々凡々といえる物か、あるいはそれ以下であった

 それでも自分は同年代よりは精神的に年上だと思い込みその中に没する事に嫌悪感を覚えた

 幸いと言って良い事に、今世の自分の身体はその思い込みを否定しないだけのスペックを持っていた

 身体を動かすことも、頭を回すことも、前世の自分よりも少ない努力で確かな結果を出した

 またその努力を阻害するものが今世にはあまりなかった

 漫画もゲームもアニメも自分からすれば20年30年は昔のもので「往年の名作」か「忘れ去られたような作品」ばかりとなる

 知っている作品や忘れ去られたそれらに今更熱中出来ようはずもなかった

 当然のようにそれらの作品を通して繋がる少年らしい友人付き合いにも失敗した

 

 

 自分を異常だと知るそれが、自分を特別だと信じる事にすり替わっている事に気づくのは早かった

 前世においては特別だと思えるような何かがなかったのだからそんな自分への違和感が大きかったのだ

 だけどそれに気づいた所で何の意味もない

 自分はこのまま前世よりだいぶ恵まれた人生を、自分を特別だと信じる事の裏返しである身勝手な孤独感を抱いて過ごすのだろう

 そんな事を思っていた

 高校三年生の夏まで

 

 

 

 

 息子には友もいないし浮いた話もない、居るのは愛猫だけと信じている節がある母に

 いもしない友の伝手で泊まり込みの短期バイトに出かけると嘘をついた事に後ろめたさを感じたのは3週間ほど前の事

 いつも両親には後ろめたさを感じて生きてるが今回に限っては許してもらいたい「転生者オフ会に行ってきます、そこでちょっと修行してくるから」なんてとても言える物じゃない

 更に詳しく話せば、偶然たどり着いた【ネット掲示板】で【前世の話】で盛り上がって【ここがゲームの世界】っぽいから【修行】してきます? 今までも何度も行われてきたオフ会っぽいから安心してね? 

 これでにこやかに送り出す人の親が居たら見てみたいものだ

 何せ行こうとする自分でも半信半疑なんだから

 悪魔がいるだとかメシア教っぽいものが存在するとか霊能があるとか、ペルソナがどうだとか東京大破壊だとか

 そういうのはまだわからない

 だけどはっきりしてる事は一つある

 今世には存在しない「女神転生」の内容を知っている自分と同じ転生者が存在する

 それは同郷人で、同じ境遇で、同じ孤独を知ってる人かもしれない

 人間関係にあまり積極的じゃない自分では話し掛けることすら怪しいものがある、友人なんてできないだろうという確信もある

 それでも行きたいと思った

 

 

 

 前略 おふくろさまお元気ですか。

 俺は今死んでいます 富士山の山中にて

 

 

 失敗した失敗した失敗した失敗した! 

 最初は良かった

 富士山の登山路からちょっと外れたところにコテージがあって

 そこに100人くらい自称転生者たちが集まって飲み会という流れになった

 自称転生者と思っていた存在たちから自称が取れるのもそう時間はかからなかった

 最初は多少怪しんでいても、いざ会話をしてみれば変な宗教だの思想だのに被れてる風に見えないまともな人たちが多かったし

 何より前世絡みの話が通じる! 

 例えばそれはまだ普及してないスマホが待ち遠しいだの前世で流行ってたソシャゲだの、今人気がある女優だか俳優だかが前世と同じように〇〇で捕まったりするのかなーとかそんな他愛もない話だ

 でもそれは前世を知らない人には絶対にできない話で、自分と同じ転生者だと確信するには十分なものだった

 オフ会に来た人たちは年齢や職業もばらばらで当然会話が合わないこともある

 だけどそれは普通の事で、前世を持っているとか自分が相手を内心見下してるとかそういうのとは一切関係ない事だった

 何でもない飲み会、日常的な会話、それだけで自分の心に温かいものを感じた

 あとやはり東京大破壊については懐疑的を通り越して半笑いな反応が多かった

 

 空気が変わったのはこのオフ会の目玉である「覚醒修行」をするために霊地とやらに場所を移してからだ

 立派な神社、これは良い、話には聞いていたけど立派なものだった、星霊神社というらしい

 何やら大量の荷物を運んだり掃除したり作業している方々(後に修業中の転生者だと知る)、これもいい

 問題は境内を飛び、歩く無数の一反木綿のような紙である

 掲示板に張られていた写真に写っていた式神だ、本当にあったしかもたくさん

 糸も何もついていないことは見ればわかる手を振りかざしても引っ掛からない、それが飛ぶ歩く、へたくそな顔が付いた紙が

 話ではこの式神は「ヒグマより強くて軽トラも受け止める」らしいが、あれが? 

 戸惑った顔を見合わせる転生者たち

 それが始まりだった

 

 

 オフ会主催者であり霊能力者である通称ショタオジから事前に説明は受けた

 霊地活性化の事、東京大破壊が起こる可能性の事、悪魔の強力さと未覚醒者が恐ろしく弱い事(何せ未覚醒者はレベル1ですらないという!)、覚醒する事のメリットとデメリット

 所謂【厳しい方の修行】と【普通モードの修行】の違いもしっかり聞いた、【死亡同意書】なる大変恐ろしい書類にもビビった

 だけど俺は厳しい方を選んだ

 この時点で東京大破壊や終末の事はともかくとして、世に霊能なるものがありメガテン世界っぽい事は信じざるを得なかった

 メガテンのスキルらしきものも見せてもらった、仲魔らしきものも見た

 なら覚醒しないという手はない、しないと遠からず死ぬだろう

 そして夏休みを利用してきた高校生の俺にいつ終わるのかも覚醒するのかもわからない【普通モードの修行】なんて出来ない、夏休みを完全に消費するのも惜しい

 ちゃっと覚醒してとっとと帰るべ

 そんな心積もりだった

 その前提には自分以外の転生者の存在を確認してもまだ残る「自分は特別だ」という根拠のない自信があった

 書類を全て書き込み、翌日の修行に備えてその日は早く寝るつもりだったが中々寝付けなかった、楽しみだったのだ、間違いなく愚かである

 当然のように後悔した

 

 

 

 

「という事があってね、辛かったんだ」

「なんていうか夢のようなありとあらゆる拷問を受けた」

「煮て焼いて食うとかもう軽いレベル、なんかもう訳分らんレベルの多種多様な死に方したの」

「説明聞いて、臨死体験位するかなーと思ってたけど死ぬのがスタートとは思わなかった」

 膝の上の猫のシロを撫でながら語る、猫に愚痴を言うのはちょっと寂しい奴な気がするが

 そうでもしなきゃやってられなかった、この子は賢い良い子だから話も聞いてくれてる気がする

 結局あの後凡そ十日間ほど死に続け、覚醒を果たしたのだ

 覚醒したのは良い、覚醒したのも別に特別時間が掛かった訳でもなかったのもよかった

 聞けば三週間位掛った上で最後は特別メニューまでやって覚醒した先達もいるらしい

 それに比べれば十日間ほどで済んだ俺はまあ順当だったと言っても良いだろう

 思い出すと今でも震え、頭を掻きむしりたくなる苦痛と恐怖、それが倍以上も続くなんて考えたくもない、三週間の人凄いと思った尊敬しちゃうかもしれない

 問題は

 

「覚えたのディアなんだよなぁ」

 ディア、女神転生においてHPを小回復させるお馴染みの回復魔法である

 この世界でも同じように回復させる効果があり、試しに手の甲を包丁で斬ってから使えば切り傷が跡形もなく消え去った

 大変有用な魔法であり、掲示板でも「当たり」扱いを受けている

 転生者は覚醒した際、大体一つは何かスキルを覚えているがそのスキルが何かは覚醒するまでわからずまた選べない

 そのスキルがディアだったのは運が良かったというべきだ

 しかしそれをぼやくのは

「ステータスタイプ『魔』で生き残れっかなぁ」

 これである

 

 修行中、ショタオジの仲魔たちから当然のように殴る蹴る斬る噛む等の暴行を受け

 当然のように叩き込まれた認識がある、それは「悪魔は強い」

 悪魔は純粋に身体能力が高く、身体も硬く、速く、人を殺す高い技能を持っている

 種族によっては更に知性を持つのも少なくない、と思う

 そんな悪魔相手に回復魔法一つでどうしろというのか

 延々自分に回復魔法をかけながら武器を振るって悪魔を殺す? 

 いや俺素人なんだけど? 武器の扱い知らんのだけど? 前世は普通の日本人でしかもデブヒキニートだったんだけど? 今世でも喧嘩一つした事ないんだけど? ぼっちだから数の暴力っていう人間の特技も活かせないんだけど? 

 ステータスやスキル以前に心構えとかそういうのが足らなくて下らない死に方しそうな気がしてならない

 覚醒して身体能力が上がったのは実感している、疲れにくくなったし視力もよくなった気がする、一回りどころではない存在としての「格」が上がったかのようなそんな気がする、全部気のせいかもしれないけど

 だけど悪魔に殴り合いして勝てるようなそんな風には思えなかった

 しかもステータスタイプ『魔』という判定を受けた

 今後レベルアップしても魔以外が特別伸びるというのはまずないという事である

 もちろんレベルが上がり格が上がる事での補正のようなものはあるそうだ

 だけど同レベル帯と比べれば競り負けるし、何なら自分より低いレベルにも普通に負けると思う

 自分の持ち味はあくまで魔の強さなのだ

 

 修行後、同じように覚醒した転生者同士でちょっとした交流会をした

 覚醒した彼らは自分がどの程度強さなのかの確認と、苦労して覚醒して得たスキルを誰かに自慢したい欲望に逆らえなかったのだ

 もちろん自分もドヤ顔したくて参加した、ドヤ顔続かなかったけど

 そこで何人かの力自慢たちを見た

 彼ら彼女らは確かに力強かった、もしかしたら悪魔相手と戦っても見劣りしないかもしれない

 そして何より【速かった】

 彼らの物理技は確かに悪魔に効きそうだと思った

 筋力が上がるという意味でなく、概念的に力や速が強くなるという意味をそこで感じた

 目に留まらぬ速さ、先手を取ることの優位性、それを見たのだ

 そして一方的に捕まってマウントポジションでフルボッコにされたりする自分の未来を垣間見た

 

 翻って自分はどうだろうか

 なるほど魔が高くなる、これは強い特徴かもしれない

 女神転生において確かに魔のステータスと伸ばす育成もあった

 自分が知ってる女神転生の一つ、デビルサバイバーでは「魔速」「力速」のどれかで伸ばすのが強かった思い出がある

 しかし自分には速はない、つまりあるのは魔だけであり、ならば自分は移動砲台のような存在になるだろう

 だけど自分には攻撃魔法がない、あるのは回復魔法である、これではどうしようもない

 ここまで悩むのには理由がある

 覚醒者には覚醒したことのデメリットが付いて回る

 そのうちの一つにこれがある

 曰く「【覚醒者】は【悪魔】に絡まれやすくなる」

 保有マグネタイトとやらが増えて悪魔にとってご馳走になるのだそうな

 さて自分、「魔が高いけど回復しかできなくて、火力不足で遅くて打たれ弱い」ははーんさては餌だなこいつ? 

 

 故に攻撃魔法が欲しかった

 そして通りすがりの修行してる人から聞いた

「覚醒すれば物理技一つかムド程度なら少しの修行で覚えられる」らしい

 ムド良いじゃないか、ムド良い……

 ムドは確率で敵を【即死】させる魔法だ、即死良いよね即死ぬんだぜ

 何より嬉しいのはムドは属性としては呪殺属性であり

 これは多くの種族天使の弱点とする属性であるというところ

 世にメシア教あらば必ずや天使が湧き、人々の自由と生命と尊厳を奪わんとするだろう、その時必ずやムドが役に立つ

 とりあえず天使の餌にされる事に抵抗するためにムド覚えよう! 自己防衛! ムドは良いぞ! 家庭に一つムドを! 

 ムド使ってお手軽にレベリングしてりゃそのうち良いスキルも生えてくるかもしれんしね

 そんなわけでムドの素晴らしさに心を打たれ

 ムド系得意と言ってたはずのショタオジにムドの修行を願い出たのである

 ムド系得意なんだからお手軽にムド使えるようにしてくれねぇかなーもう拷問は勘弁してなーとか思いながら。

 ところが修業を受ける前に軽い説明を受けそこで俺の思い違いを訂正する事になる

「覚醒した後なら少しの修行」(普通の修行(数年)と比較して少しである)だった、具体的には個人差あるが半年くらいとか

 それじゃ受ける意味ないじゃないか! 俺はこのままだと悪魔の良い餌だから武器になるムドが欲しいのに! と一瞬思ったが、良く知らない話しを進めたのは俺である

 それに一度受けると言ったのをやっぱなし、というのはちょっと恥ずかしいし、ヘタレたと思われるのもちょっと……

 という事で「夏休み終わる前に帰りたいのでさわりだけでお願いできませんか?」とお願いした、一緒に説明受けてた他の転生者たちから何言ってんだこいつって目で見られた

 なに、今回は軽い体験って事で本格的にムド覚えるのはまた後日でという考えでな? 

 

 

 結果だけ言えば修業をする意味はあった

 

 

 ショタオジはムド得意というだけあってムドの修行の効率化を出来ていたらしい

 自分より先に修業を受けてた覚醒者たちは何人もムドを覚えて山を下りて行ったらしい、人によってはムドを覚えてからアギの習得のため別のコースに移った人もいるとか

 だけど自分はなんか違う修業を受けた【厳しい方の修行+えげつない座学】って感じだった、詳しい内容は辛すぎて思い出せない

 これは何かおかしいのでは? と五日間ほどで音を上げたら原因が分かった、ちなみに五日間耐えたという事ではないギブアップを言うのに五日間かかったのだ

「さわりだけ教えて(最初の部分だけ軽く教えて)」と思ってたら「さわりだけ教えて(要点だけ教えて)」と受け止められてた

 日本語として正しいのは後者である、まさかの言葉の失敗であった人の言葉は儚い、その結果なんだかえぐい修行を受けてたらしい

 さてここで問題が発生した、五日間の修行で全く手ごたえを感じなかったのだそうな

 全く、これっぽっちも、俺がムドを覚える気配が、いやでも本来は半年の修行なんだから……

「君、ムドの才能ないみたいだね」

 えー……

「というわけでハマの方はあるかもしれないからハマの修行してみよう」

 

 

 ハマ、破魔属性のムドみたいな奴である

 これも相手を即死させる、違いは属性の違いでこれは天使には効かない

 だけど種族悪霊とか種族幽鬼とかにはよく効いたような気がする

 女神転生において破魔に強い悪魔は呪殺に弱く、呪殺に強い悪魔は破魔に弱い傾向がある

 自分に呪殺の才能がないなら逆ならむしろあるかも? という発想だろう、ここまで親身に考えてもらってなんだか申し訳ない気になる

 そしてハマの才能を感じるほどムドの才能がなかったのだろうか

 ありがたくハマの修行、というかこちらは時間がなかったので軽く修行して手応えだけチェックしてもらった

「君、ハマの才能ないみたいだね」

 えー……

「というか攻撃魔法全般に才能がないのかもしれない」

 えっ

「ちょっと調べてみよう」

 はい……

 

 そういうことになった

 なかった

 

 

「その後、色々調べて最後にアナライズ使える人に見てもらったらスキルがディアの他に回復ブースタがあってさ」

 回復ブースタ、回復魔法の効果を高めるスキルだったはず、ゲームだとあまり使った覚えがない

 膝の上のシロの身体を毛の向きに逆らうように撫でるボサボサシロ、略してボサシロだ

 こうすると迷惑そうな顔するのが可愛い、好き

「回復特化じゃないかって話になって、そこで話し終わって帰って来たんだよね」

「今までも何人かそういう人いたらしいよ特化型」

「ステータスタイプ『魔』で回復特化とかどうすりゃいいんだろ」

 ボサシロになったのを改めて毛に沿うように撫でる、シロになった可愛い、甘噛みしてきたのも可愛い

 

「あと、せっかくオフ会行ったけど友達出来なかったよ、連絡先の交換とかもしなかった」

 あっシロが去っていく……

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