それは何気ない会話から始まった。
ウサギ:そういやそっちのチームって式神制作のツテあるの?
混世†魔王:ないですね。式神購入するお金がそもそも無いです。
ウサギ:式神技術の応用で作られたアイテムもあるから早めに動いたほうがいいよ
ウサギ:マヨナカテレビだと特殊仕様にしないと動かないしね
混世†魔王:マジですか。
ウサギ:ペルソナ、シャドウに詳しい技術者は少ないよ
ウサギ:なんならボクの行きつけを紹介しようか
混世†魔王:おねがいします。
ウサギ:じゃあ明日の夕方にそっちの支部に迎えに行くよ
ウサギ:混世魔王くん一人ね。複数で動くと気付かれるリスクが高い
混世†魔王:夕方ですね。気付かれるって誰にですか?
ウサギ:うちの支部のヌシに
『トラポート』
「さて、ようこそ巌戸台支部へ。受付に話を通してくるね」
他の支部の人間がうろついて問題があるわけではないが、彼はペルソナ使いだ。あの御方に気付かれないように動く必要がある。周囲の警戒を不死鳥推しネキに任せて動く。
受付のカジャ盛り親父ニキに話しかける。腰の爆弾の関係で事務や受付にまわることもある男だ。穏やかなのでわりと評判がいい。
「この少年、これ関係なんだけど今日はいないはずだよね?」
空中に指でPを描く。カジャ盛り親父ニキが混世魔王くんを見る目に憐れみが混じる。
「そうか。強く生きてほしい。なるべく人通りの多い通路を通るんだよ。
あの人はいないはずだけど、気まぐれに遊びに来る可能性もあるから手早くね」
カジャ盛り親父ニキの発言に混世魔王くんは困惑する。
「よっぽど危険な人物でもいるんですか?」
「普通なら危険性は高くないけど、君にとっては最悪の相手がいてね」
手帳を1枚ちぎり、イナバシロウサギの右前足を押し付ける。
『マッパー』
巌戸台支部の簡易マップが印刷されたので混世魔王くんに渡す。被捕食者の立場で逃走ルートを把握してないとか死亡フラグだからね。
「いいんですか先輩?」
「いいんだよ。案内掲示板レベルの地図だし」
「マッパーってそんな印刷魔法でしたっけ? 周辺を把握できる魔法だったような」
「できる気がしたからできた。ペルソナ使いなんてそんなもんだよ」
「あんまり先輩を参考にしちゃダメですよ」
「わかりました」
ひどい言い草である。「マッパーを出力できたら便利そう。イケる気がする」で実行しただけなのに。
話しながらも警戒しつつ支部内を歩く。後方を不死鳥推しネキに任せられるので多少の余裕はある。『警戒』スキルは敵意も殺意もない味方相手だと効果が弱まるので不死鳥推しネキに頼めてよかった。
「出会わないのが一番だけど、出会ったらなるべく刺激しないようにゆっくりと離れるようにね。
死んだふりは効果無かった。首を掴まれてそのまま連れて行かれてしまうからね」
「この支部にはヒグマでもいるんですか」
ヒグマならまだ対処できたんだけどねぇ。死んだふりした時は大変だった。ドアを開ける時の一瞬のかすかな緩みがなければそのままタルタロスに運ばれていた。
「式神技術者ってそこまで危険を侵さないと会えないものなんですか?」
「いや? 普通ならそんなに難しくないよ。私の式神は他で頼んだし」
「ペルソナ使いの特殊環境用だからね。
ペルソナ使いで生産研究職を目指す変人か、ペルソナ使いじゃないのにペルソナとシャドウを研究する変人に頼まなきゃいけないんだよ。そんな奴はガイア連合でも少ないからね」
「やあやあイナバニキ。我々の研究室へようこそ」
「やあタキオン。モルモットニキは居るかい? 一応連絡は入れといたんだけど」
「モルモットくんなら紅茶を淹れているところだとも。我々が迎えないと研究室に入りにくいだろう?」
白衣を着たウマ耳の式神少女が出迎える。促されて中に入るとテーブルに人数分の紅茶を用意する白衣の男がいる。
「では紹介しよう。モルモットニキ、彼が例の少年。頼ってきたら応じてやってほしい。
混世魔王くん、この白衣の男がモルモットニキ。ペルソナ使いじゃないのにシャドウ研究をしている変人だ」
「なるほどキミが。よろしく頼むよ」
「あ、はい、よろしくおねがいします」
モルモットニキはなかなかの狂人だ。
彼がモルモットを自称した際、多くの転生者たちが自分こそがモルモットくんだと名乗りを上げたのだが『身体が蛍光色に発光する飲み薬』をモルモットニキが開発し躊躇なく飲み干して発光したことによって彼こそがモルモットだと認められたのだ。
掻い摘んで説明すると混世魔王くんは頭を抱えてしまった。この世界にウマ娘ないし訳わからんよな。
ちなみにウマ娘がない理由としてはボクらの世界とは競馬の勝敗が変わってしまったからだ。シンボリルドルフに凱旋門賞を取らせた転生者、怒らないから名乗り出なさい。
それ以外にも競馬の流れがシッチャカメッチャカになった。この世界のアイドルホースと言えば『オグリキャップ』『ハルウララ』『ハリボテエレジー』である。この世界は狂ってる。
なおそんな状況でも有馬記念を3年連続3着というオンリーワンな記録を打ち立てた馬もいて転生者を戦慄させた。やっぱスゲェよナイスネイチャは。
一応の配慮ということでモルモットニキの式神はアグネスを付けないただのタキオンである。
「変人が、変人が多い……」
「ある程度の実力があると変人が多くなるからね」
「変人だから実力があるのか、実力があるから変人なのか。我々としても興味深いねぇ」
「たしかに」
混世魔王くんはボクと不死鳥推しネキを見て何故か納得をする。ホラ、フェニックスの神話的考察同人本なんて初対面で渡したもんだから不死鳥推しネキが変人だってバレてるじゃない。
「混世魔王くんは自分の性能限界の向こう側を見てみたくはないかい? 我々の研究成果を使えば性能の向上を見込めるんだが」
「流石に『それ』やると発狂しかねないから止めるよ。ちゃんと帰さないとスライムニキに叱られる」
「そいつは残念」
「我々としては協力してほしいんだがねぇ」
「かなりライトに発狂させられかけましたか俺?」
とりあえず概要だけ伝えておくか。
「耳を澄ませる時に目をつぶる。集中していると周りの音が聞こえない。誰でもやることだよね。
モルモットニキはこれを感覚器の性能に人間の脳の処理能力が追いついてないと考えたんだ。目をつぶったところで本来は耳の性能が上がるはずがないしね」
「というわけで我々は特別製式神とリンクして脳の処理を肩代わりさせる事で感覚器の得た情報をダイレクトに扱う事に成功した。
本来は無意識の違和感という形でしか受け取れない微妙な変化などを無駄なく得ることができるわけだ」
「元が自我のない式神とリンクしたから人格もコピーされたのは我々としても予想外だったよ」
つまりこのタキオンは「モルモットニキのコピーが式神の身体を得たからアグネスタキオンのコスとムーブをしてるだけ」である。名前からアグネスを抜いたのはこれが原因でもある。
「つまりもし俺がそれをやると」
「別の身体から自分の姿を見続ける事になるね。シャドウと違ってワザワザ醜い面を見せつけてこないけど消えたりもしない。
一般的には仲良くなるか殺し合うかアイデンティティ崩壊するかだね」
「絶対にやめときます」
その状況を便利だと感じるのはモルモットニキとショタオジくらいだと思う。
「ただいまー」
「おかえり。とはいえ先輩が彼を送迎に出てから2分たってないですが」
「トラポート持ちってそんなもんよ」
紹介もしたし、もしボクやスライムニキに何かあった時に頼むと伝えたので長居させずに混世魔王くんを帰したのだ。ハム子ネキなら第六感でペルソナ使いを察知してくる可能性を捨てきれなかったし。
「しかし先輩。やけにあの人の世話を焼きますね。何を企んでるんです?」
「フッフッフッ。もちろんただの親切ではないとも」
登る塔のあるタルタロスと違ってマヨナカテレビやメメントスの解決は現地での調査やヒラメキなので、ある日突然解決の目処が立つ可能性がある。
もしマヨナカテレビが解決したら混世魔王くんたちはどうする?
そのままマヨナカテレビに残るのは戦力の無駄だ。ガイア連合の支援も切れるのでこれは選ばないだろう。
よって東京のメメントス攻略に行くかここ磐戸台のタルタロス攻略に来るかだ。
「知らない場所に拠点を移すのと行ったことのある場所に拠点を移すのなら、大体の人は知ってる場所に来るでしょ」
そうなればタルタロス攻略の第二陣として挑むことになる。タルタロスに挑む以上、ハム子ネキの強引な勧誘にも怯えなくて済むだろう。
「そうなればタルタロス攻略の仲間の世話で手一杯で、戦闘能力のない一般通過兎を無理矢理タルタロスに連れて行くこともなくなるでしょ」
取らぬ狸の皮算用だが実際にマヨナカテレビ解決してからでは遅いので布石は打っておくわけだ。手間もないし。
「でも先輩。彼らはパーティそのままで来るんですよね」
「そりゃ向こうでトラブル無ければそのままだろうね」
「同じ場所の下層でリア充パーティが攻略するのをハムネキが見たら、先輩の首を掴んででも連れて行こうとするんじゃないですか? ハムネキのパーティは式神ですし」
…………………………………………………………あっ。
片や人間同士のパーティ、片や自分以外式神のパーティ。これはいかん。
混世魔王くん。いや、混世魔王さま。高レベルで頑丈だけど自分のパーティだと人数が多すぎる感じのメンバーを上手いこと勧誘してからマヨナカテレビを解決してくださいませ。
ほら、ゲームでも仲間が増えるとエントランスの待機チームとかいたじゃん? あんな感じでじゃんじゃん勧誘してから来てほしい。
実はジョーズマンはモルモットニキ製。