大狗型悪魔の爪をジョーズマンがチェーンソーで受け止める。その脇から弓道ニキの『連続撃ち』が決まり悪魔を怯ませる。
「うっし。追撃っすよ後輩ちゃん」
「『マカカジャ』よし。頼んだよ」
「やっちまってくだせぇ」
「いきますよ! 『アギ』!」
男3人からの声援を受けながら『マカカジャ』で火力の上がった火炎魔法が少女から放たれる。倒しきれずに悪魔が襲いかかってくるが全身鎧少女式神の鉄塊ちゃんと犬型式神のイヌヌワンによって再び足止めされる。
「もう一発! もう一発!」
「落ち着いて狙って。あせらないで」
「かっとばせー、後輩!」
「先輩たちうるさいです。『アギ』!」
2撃目できっちりと倒しきる。弓道ニキとカジャ盛り親父ニキがワッショイワッショイと後輩ちゃんを褒めている。『警戒』によって周囲に敵影が無いことを確認しながらボクも後輩ちゃんを褒め倒す。あ、申し遅れました。今回は武器密輸課の後輩ちゃんをレベリングに連れ回す話です。
ガイア連合武器密輸課の仕事は直接武器や人材を輸送するだけではない。職員の魔法使用回数の向上、移動魔法の性能改善、トラブル時の生存能力確保のためレベリングが推奨されている。キチンと申請すれば本人だけでなくパーティメンバーにも報奨金が出るくらいにはレベリング環境が整っているのだ。今回のパーティメンバーの弓道ニキとカジャ盛り親父ニキはレベリングサポートの常連の大ベテランである。
「どうすか。パーティとの連携攻撃で魔法の当てやすさはだいぶ変わるんすよ」
「はい。すごく当てやすいです」
「強化魔法の重要性はわかってくれたかな? 他の人たちとパーティを組むときはどんなバフデバフを持ってるかを把握してから動くようにね」
「ありがとうございます。威力が全然違うんですね。強化魔法の有無でかなり戦法が変わってきますよ」
「応援の重要性はわかってくれたかな?」
「いえ、それは別に」
ヨシッ! 先輩の意見に流されずちゃんと自分で考えてるな。もちろん応援だけしていたのはボクである。アイテムを消耗するほどの狩り場ではないし後輩ちゃんの魔法の練習も兼ねたレベリングなので本当にやることがない。『警戒』も探知能力のあるイヌヌワンと被ってる。攻撃しようかと聞くと「何もしないという仕事もあるんすよ」「ジョーズマンだけ前衛に置いて暇潰してて」「先輩って戦えるんですか?」というありがたい言葉を頂いた。泣きたい。
何事もなく何戦か終わり、次で昼飯前最終戦。カジャ盛り親父ニキの腰の回復のために小休憩中。親父を名乗るだけあって腰に爆弾を抱えた歳なのである。
「先輩たちって何でなんたらニキとかネキとかで呼び合ってるんですか?」
「ボクらは元がネット上の繋がりだからねぇ。オフ会のノリでハンドルネームみたいな名前を使いたいのよ。あと本名隠しの呪い避け」
「半分くらいネトゲ感覚で集まってる感じっすよ。後輩ちゃんも多分そのうち何かのきっかけで名前がつけられると思うっす」
スレでコテハン使ってない場合はその場のノリや特徴から周りが命名したりする。覚醒してレベリングするような人たちは大抵変人なので命名理由には困らない。
ちなみにボクはイナバニキと呼ばれてはいるが名字が稲葉でも名前が正男でもない。そういやこの世界にはマーくんいるんだろうか。今のシステムならパワータイプのペルソナ使いとして活躍できそうなんだが。
「ふう、もう大丈夫。新人教育最後のいつものをやろうか」
「じゃあ今回は弓道ニキとカジャ盛り親父ニキが伏せ担当でいきましょう」
逃走というのは基本的に緊急時に行われるものであり、訓練されていないと判断力が落ちやすい。特に悪魔相手の場合は飛行能力や遠距離攻撃魔法など注意すべき点が多くなる。転生者は基本的に才能の塊なので力押しになりがちで逃げる選択肢が選ばれにくい。いざ逃げるときには相応の強敵が相手なので不慣れな逃げ方では狩られてしまう。よって初心者のうちに逃走に慣らしておくといざというとき役に立つ。
「というわけだ。追いつかれないようにがんばろう」
「悪魔のグループを挑発して逃げる前に説明すべきじゃないんですかねぇ!」
後輩ちゃんとボクでペアを組んで手頃な悪魔を引っ掛けて逃走中である。噛んだチューインソウルを投げつけて笑うだけで釣れるとはチョロいもんよ。
ちなみに逃げ始めてから説明するのも新人教育の恒例なのでボクは悪くない。
「ああもう、『アギ』!」
「いいぞ! 相手に気持ちよく追わせない事の重要性をもう理解してるんだな!」
牽制しながら行きで通った道を逆走する。逃走時に知らない道を選ぶのは道の把握に判断力を奪われるので悪手。袋小路に着く可能性もあるので、避けるべきだ。
後輩ちゃんを誘導しながら最終コーナーの大外をまわる。コーナーの先で待ち伏せしていたメンバー(弓道ニキ、イヌヌワン、ジョーズマン)の『五月雨うち』『放電』『竜巻』によって追手は一掃される。おつかれさまー。
「迂闊に敵を深追いするとこうなるから敵を追うときには気をつけるんすよ」
「それじゃお昼食べに帰ろうか」
後輩ちゃんからのへんじがない。ただのしかばねのようだ。いや会話できないくらい息が乱れているだけなんだけどね。
磐戸台支部の食堂にて午前中の反省会がてら昼食。トラポート持ちなので気軽に支部に行き来できるのが嬉しいところ。
「午前中レベル上げおつかれさまでした」
「「「おつかれさまです」」」
「後輩ちゃんは特に大きな問題点は無かったから普通にレベル上げてけば普通に強い移動砲台型後衛になりそうだね」
「まずは装備と式神を揃えるためのマッカ稼ぎからっすね」
「武器密輸課は経験値は稼ぎにくいけどマッカは稼ぎやすいから、まずは地道な密輸かな」
「頑張ります」
彼女は戦闘力が高いぶんトラポートの性能はあまり高くなかった。しばらくは磐戸台支部での仕事は後輩ちゃんにまわして他の支部の仕事をあさるとしよう。
そんな予定をたててると話は式神についてに移った。
「式神はこだわりがなければ女性型がオススメだね。他より装備が良すぎる。中にはあえて男性型にして女性用装備をさせようとする人もいるけど」
「うーん、でもみなさんの式神で女性型って鉄塊ちゃんだけですよね?」
「それぞれそれなりの理由があるからね」
ボクの式神『ジョーズマン』がサメ人間。カジャ盛り親父ニキの式神『イヌヌワン』が犬。弓道ニキの式神『鉄塊ちゃん』が全身鎧の少女。鉄塊ちゃんもゴツい全身鎧なので女性型の恩恵があるかと言われれば微妙なところである。
「さすがに妻と娘のいる身で女性型式神は家庭崩壊の危機だよ。後輩ちゃんと同じくらいの年頃のJKだから君のお父さんが突然美少女を家に連れ込むのを想像してみてほしい」
「間違いなくアウトですね」
「影時間対応かつ戦闘力だけ要望だしたらサメ人間が届いた。コイツのサメ部分はアストラル体だから非覚醒者には見えなくて奥の人間が見えるらしいよ」
「適当な要望じゃ駄目ってことですね」
「美少女がゴツゴツの鎧を着てるのが最高に好きだからっすね」
「澄んだ瞳で言い切りましたね」
一応『萌え』ではなく『燃え』らしいので許してやってほしい。
「あとは後輩ちゃんの能力とどう組み合わせるかかな。前衛を任せるかダブル後衛で他のパーティに前衛を任せるかとかね」
「『アギ』系以外だと何覚えてるんすか?」
確認してみると『アギ』『マハラギ』『トラポート』『不屈の闘志』を持っていた。うちのウサギにも見習ってほしい戦闘力である。後輩はボクを超えたんだ。
「実はかなり昔の先祖の縁でエジプトのフェニックス様から加護を頂いてるんですよ」
「へえー、フェニックスとは有名なところから加護貰ったんだねぇ」
フェニックスと言えばかなりの大御所だ。燃える不死の鳥として鳳凰や朱雀、火の鳥という有名どころの派生を生み出した大元。日本においても「不死鳥のごとく蘇った」という表現はサブカル文化だけでなくスポーツでも使われるくらい有名だ。下手な日本神より知名度補正がありそうな強力な悪魔である。強い。
「フェニックス様に恥じないようにがんばりますよ!」
やめて! メシア教と多神連合との戦争で、エジプトの街を焼き払われたら、エジプト神話の神殿まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでエジプト神話! あんたが今キレて無差別マミー化呪詛を撒き散らしたら、多神連合との同盟はどうなっちゃうの? 信仰はまだ残ってる。ここを耐えれば、メシア教に勝てるんだから!
次回、「エジプト神話死す」 デュエルスタンバイ!