正義の味方がカルデアに来た話 3
20代の衛宮士郎がエミヤと共にカルデアに来た話。Fate初心者が妄想を長々と書いてます。
今回は、藤丸君がメインです。私的には衛宮士郎とエミヤを活躍させたいのに、そこまで話が進まないという現実…。そして、また新たに英霊を登場させました。ありがちな組み合わせかもしれませんが、個人的に登場させたかったんです!
前回のお話も沢山の評価ありがとうございます!本当にビックリですよ…!
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藤丸達がレイシフトで降りたったのは、とある時代の古びた村だった。
そこは年季を感じる建物が点々と建ち並び、時代背景がまだ分からなくとも、一目見て貧しい環境であるとすぐに分かる程の古びた村。だが、人々の生活の気配を感じるあたり、どうやらここは村としてまだ成り立っているらしい。
「なんだか寂れた村みたいだね」
藤丸は辺りを見回しながら呟くと、同じく周りを警戒しているロビンフッドが神経を尖らせる。
「今のところ、この辺りに魔力は感じないですよ」
「はい。同じく敵性反応はありません」
彼の言葉に武装したマシュも頷く。
一体、ここはどこなのか。
目に映るのは何の変哲も無い寂れた村。上を見上げれば晴天が広がり、それは特に不自然な様子も無く、これはどこにでもあり得る一つの光景のように思えた。むしろ、平和な光景と言っていいだろう。
「なんて、馬鹿みたいに眩しいの…」
そんな光景の中、降り注ぐ陽の光に普段出歩かないカーミラがうんざりした表情をしている。手で軽く顔を隠しているが、その顔色はただえさえ白い肌が更に血の気が引いたように見えた。
「貴方、ちょっとそのマント貸しなさいよ」
「はぁ?嫌ですよ」
「……」
「って、オイ!勝手に引っ張らないでくれます⁉︎」
この眩い陽の光に嫌気がさしたのか、隣にいたロビンフッドの特徴とも言える緑色の外套を無言で引っ張り始めたカーミラ。それを、必死に回避するロビンフッド。いつもの如く、二人の間で小さな戦いが繰り広げられる中、ガウェインはいつもの戯れだと黙認して藤丸へと声を掛けた。
「マスター。もう少し先に進んでみますか?」
そう言うと、彼は村の奥へと視線を向けながら藤丸へと判断を委ねる素振りを見せる。その視線の先には、人の姿はまだ見えないが確かに小さく人の声が聞こえていた。
「ここの村人でしょうか…」
マシュが少し警戒しながら藤丸へと目配せすると、彼はドクターへ状況確認の為に通信を取り始める。
「ドクター。一応、確認したいんだけど、この場所がどこか分かる?俺達、村の奥に進もうと思って…」
いつものように呼び掛けるが、返事はすぐには返って来ない。
「ドクター?」
聞こえなかったのだろうか。
もう一度、今度は大きめの声を上げて呼び掛ける。すると、数秒後Dr.ロマンの反応が返って来た。
「…あ、あぁ!ごめん!藤丸君。今、君達がいる場所だね?申し訳ないけど、それはまだ僕にも分からないんだ」
何故か慌てたような声に気まずそうな表情で、Dr.ロマンは笑って見せる。もしや、いつぞやみたいに自分達に隠れて甘いお菓子でも食べていたのでは…と、一瞬怪しんだ藤丸だったが、とある人物の姿を見てその可能性はすぐに消え去った。そのDr.ロマンの隣には、もう一人のマスターである青年。衛宮士郎が真っ直ぐにこちらを見つめて立っていた。
「無事に移動出来たみたいだな。皆、問題はないか?」
優しい声で呼び掛ける彼。
Dr.ロマンと今まで何かを話していたのだろうか。レイシフトをする前に比べて、自分を見る彼の瞳が何か変わっているような気がした。いや、厳密に言えば変わったと言うよりも何かが確信に変わったという表現が正しい気がするのだが。
「はい、今のところ大丈夫です」
「そうか。だが、無茶だけはしないでくれよ」
「…そうですね。でも、俺はマスターです。皆に何かあればマスターとして動きます」
「藤丸君…。君ねぇ…まるで僕の話を聞いてなかっただろう…」
藤丸の言葉に頭を抱えながらDr.ロマンがガックリと肩を落としている。そのやり取りを今まで何度繰り返してきたのだろうか。ロビンフッドの言う通り、なんて頑固な少年なんだろう…と、Dr.ロマンは再び頭を悩ませる。そんなマスターに振り回される彼も、ある意味で可哀想な男だ。
「マスターとして、…か」
藤丸の言葉を聞いた士郎は、小さく呟いた。
「そうだな。うん…、君がそう思うのなら今はそうすればいい」
「ちょっと⁉︎衛宮君…⁉︎」
見守るような視線を送る士郎に、Dr.ロマンは嘘だろ⁉︎と言わんばかりの表情で声を上げた。まさか、彼が藤丸の後押しをするとは思わなかったのだろう。裏切り行為だ。
「まぁまぁ。ドクター、落ち着いてくれよ。彼の周りには心強い英霊もいるし…」
「そうだけど!そうだけども!君、さっき僕と話した事、忘れたわけじゃないよね⁉︎」
モニター越しで騒がしい二人を藤丸は不思議そうな表情で見つめている。どうやら、彼らは自分がいない間に何か大切な話をしていたらしい。それは、もう一人のマスターとしての仕事の話だったのだろうか。Dr.ロマンが何やら焦るように士郎に詰め寄っている姿が見えた。
「…マスター、何やってんですか。先に進みますよ」
すると、暫く動かないでいた藤丸にカーミラとの醜い戦いの末、なんとか彼の外套を守り抜いたロビンフッドが疲れた表情で先を促す。
「そうだね。とりあえず、情報収集をしようか」
それに素直に応じた藤丸は微妙な表情をしながらもDr.ロマンとの通信を一旦切る。彼とは情報を得た後、また連絡を取れば良いだろうとぼんやり思いつつ、その足を進めようとした。
その時。
先程の村の奥から聞こえていた人の声が、一瞬にして叫びにも似た声へと変わったのだ。
「…⁉︎」
「先輩!」
「…あぁ!皆、急ごう!」
その場の空気が一気に張り詰める。
藤丸達は、急いで村の奥へと駆け出していた。
叫び声が聞こえた場所へ近づくにつれて、感じる魔力が強くなる。これは、まさか。
目的とした場所に着くと、藤丸達は息を呑んだ。
彼らが見たその光景は、赤色。
炎と血で染められた赤い光景だった。
「助けて、…くれ…!」
「悪魔だ…!悪魔の使いが…ア"ぁ…っ、⁉︎」
何体ものゴーレムが蔓延り、血に染まった身体で逃げ惑う村人達。
その身体は、すぐにゴーレムによって次々と切断されては、無残にも地面に倒れていく。
多くの家は赤く燃え広がる炎で焼け、白煙は逃げ道を遮るように村全体を包み込んでいた。
「…っ、」
地面には、先程まで息をしていただろう人間がいくつも転がっている。
一瞬にして地獄絵図と化した村。
息をするのも忘れそうになる程の光景に、藤丸は無意識にゆっくりと足を進める。
助けなきゃ。
誰か生きている人はいないのか。
俺が助けないと。
普通ならば足が竦みそうになるところだが、一度何かを決めた彼は、躊躇する事なく進む足を止めずに地獄の中へと飛び込んで行く。
「先輩…っ⁉︎」
「マスター…っ‼︎」
藤丸達の存在に気付き、次々と襲いかかるゴーレム達と交戦しながらマシュ達は藤丸の離れて行く姿を捉えた。
突然の戦闘開始に藤丸の予想外の行動。それに対し、僅かに反応が遅れた彼らは内心焦る。
藤丸立香を守れ。
その一心で英霊の彼らは、すぐに行動を移した。
「俺が道を開ける…っ!マシュはその隙にマスターを追え!」
ゴーレムと距離を取るように、一度後退したロビンフッドは無数の矢で素早くゴーレムの群れを撃ち落としていく。
「後で我々も追いかけます!先ずは、マスターの安全の確保を!」
「仕方ないわね。ここは私達に任せなさい!」
マシュを後押ししつつ、ガウェインとカーミラは襲いかかるゴーレム達を返り討ちにしていくが、次々と現れる大量のゴーレムの群れが彼等の行く手を阻むように道を塞ぎ、動けないでいた。
「了解です!ここはお任せします!」
マシュがロビンフッドによって僅かに開いた細い道をゴーレムの攻撃を避けながら走り出して行く。
「先輩!先輩…っ!どこですか⁉︎」
走りながら叫ぶマシュ。その瞳は大きな不安で揺れている。赤く燃え広がる炎と白煙による視界の悪さ。更に、血の臭いが更に彼女の焦りを助長させていく。
「マシュ!ここだ!」
「先輩…!」
聞き慣れた声を確認し、安堵を抱きつつ急いで彼の元へ行くと、焼け落ちた瓦礫の側に藤丸の姿があった。この惨状を走り抜けた所為か、幾つかの傷は見受けられるが、彼はまだ無事だ。そして、藤丸の足元には瓦礫の下敷きになっている二つの身体が見える。それは、母親が少年を庇うように下敷きになっている姿。
「まだ息がある!この二人を助けよう!」
そう叫ぶ藤丸の瞳は、燃え上がる炎の色を写し込み、赤く焼けるようだった。使命にも似たその強い瞳にマシュは一瞬身体を強張らせる。
「マシュ!手伝ってくれ!」
「は、はい!」
重い瓦礫を持ち上げようとする藤丸に、マシュは慌てて加勢する。
「…!」
その触れた瓦礫は炎で燃やされた跡があり、湧き上がるような熱を帯びていた。思わず手を離しそうになったマシュだったが、今は緊急事態だ。すぐにその手を動かし始める。そして、そんな彼女の隣には、手に火傷を負いながらも我が身など関係ないとでも言うように必死に消えゆく命を救い出そうとしている少年の姿。
「もう少しだから!まだ、諦めるなよ!頼む!生きてくれ!」
その声は祈りにも似たもので。
「まだ死ぬな!」
苦しそうな表情で彼は叫んでいた。
「先輩…」
マシュは改めてその手に力を入れる。
「大丈、夫です…!先輩っ!…っ、私も一緒に助け、ますから…!」
そう叫ぶと、彼女は重くのしかかっていた瓦礫の一部を持ち上げ、その隙に藤丸は二つの身体を引きずり出す。その数秒後には再び同じ場所へとマシュの手から瓦礫が大きな音を立てて崩れ落ちた。まさに間一髪だった。
「おい!しっかりしろ!」
助け出した二人に対し、藤丸は直ぐに呼び掛ける。だが、その二つの身体はピクリとも動かない。
「目を開けてくれ…!頼む…!」
「…先輩、」
そこで、マシュは口を閉ざした。
…私は何を言えばいいのだろう。
彼の口から吐き出されるのは、生存を切に願う声。倒れている二つの身体の側で地面に膝をつき、必死に声をかける姿はまるで祈りを捧げている姿に見えると同時に、何かに縋りつくようにも見えた。
今まで見たことも無い、藤丸立香という少年の姿にマシュは思わず言葉を失ってしまう。これ以上、続く言葉が見つからないのだ。だって、その姿はあまりにも…。
必死な彼の姿に、彼女はただ立ち尽くすしか出来なかった。
「…ぁ…、がはっ!」
「…!」
すると、そのうちの一人が苦しみながらも意識を取り戻す。その身体は傷だらけだが、幸いにも致命傷には至らなかったらしい。
一人の少年がゆっくりと目を開けた。そこには、虚ろな瞳が見える。
「…大丈夫か?」
「……かあ、さん…は…」
少年は上手く回らない頭の中、無意識なのか掠れた声で藤丸へと母親について尋ねた。
「……」
藤丸は少年のすぐ隣に倒れているもう一人の身体に視線を向ける。それは、ただ地面に投げ出されたかのようにその場に存在しているだけだった。周りの空気が全て止まっている感覚。静止された空間に、母親であったその身体は静かに倒れている。
「…先輩」
マシュは目を伏せながら苦しそうな表情をしている。彼女のその仕草が全てを告げていた。
あぁ…、この感覚は。
ぞわり、と藤丸の身体に影が忍び寄る。
背後から静かに、冷たく、頭の天辺から足の爪先まで支配するような黒い何か。それは、心臓を鷲掴みしたように、今にも握り潰されてもおかしくない程に忍び寄っている。
この感覚を藤丸は知っていた。
瞳の奥で、フラッシュバックする。
無残にも足元に転がる47人の瀕死の身体。
哭き叫びながらその命を燃やされた少女。
燃えゆく炎の海の中で、唯一の生存者である少女が消えようとしている光景。
一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。
だが、彼はゆっくりとその口を開いて告げた。
「……君の、母親は…死んだよ」
その言葉を聞いた少年は、一瞬何を言われたのか理解出来ないようだった。だが、すぐに彼の瞳は大きく見開かれる。そして、何かを言いたいのだろうか口を開けては閉じてを繰り返すが、それは音にならない。
「…っ、!…!」
くしゃりと歪んだ顔に、瞳には次第に涙が溢れてくる。呼吸が速くなり、そして遂に少年はやっとの思いでその音を口から吐き出した。
「…あ、ぁあ、ああああああ…ッ!!!」
叫び声にも似た悲痛な泣き声が空へと上がる。
だが、この赤く染まった地獄にそれは無情にもすぐに掻き消されていくだけ。
ゴーレムの奇声と破壊の音。
そうだ。まだ、この地獄は続いているのだ。
「…マシュ、とりあえずこの少年を安全な場所に移そう」
「……」
「マシュ!」
「…は、はい…!」
腕の中で泣き噦る少年を抱えながら、藤丸は呆然としていた彼女へと強く呼び掛ける。今の彼は酷く不自然な程に冷静だった。
「マスター!」
すると、遠くの方からガウェインの声が聞こえてきた。視界に彼の姿を捉えると、すぐにロビンフッドとカーミラの姿も確認することが出来た。流石、今まで何度もレイシフトを経験してきた英霊と言うべきか、彼等はあのゴーレムの大群を軽傷で済ませ、こちらに向かって来ている。
「マスター!!アンタ、一体何考えて…!」
藤丸の元に辿り着くと同時に、怒りを露わにしたロビンフッドが説教を始めようとするが、その口はすぐに閉ざされてしまった。彼の視線の先には、傷だらけな身体で視点の合わない瞳で泣きじゃくる少年に寄り添うマスターの姿。その姿にロビンフッドは全てを察した。
…クソ。それじゃあ、何も言えないじゃねーか。
「…その少年は?」
「瓦礫の下敷きになってたんだ。なんとか助け出せたけど、彼の母親は…」
少し怒りを収めたロビンフッドの問いに、藤丸はその瞳を暗くさせる。彼の近くには、女性の遺体が転がっていた。それを確認した藤丸の英霊達は口を閉ざしたまま思う。
人の死など幾度となく経験し、見慣れている。この惨状に、ただの人間が助かる可能性は誰が見てもほぼ皆無に等しい。だが、そんな現実を何度も経験しても、何度も助けられなくとも、何度も後悔している少年がいる。それが、己のマスターである、藤丸立香という男だ。
「…結果は残念でしたが、マスターの行いは正しかったと思います」
静かに藤丸の前で跪き、その瞳を真っ直ぐに向けるガウェイン。それは、一人の騎士として忠誠を誓う姿。
「…全く、仕方がないわね。マスター、貴方酷い有様じゃない。手当てをしてあげるから、その子供と一緒にこちらへ来なさい」
呆れつつも、いつもの事だと諦めた様子のカーミラの表情はどこか優しい表情にも見える。それは、吸血鬼の様ではなく一人の女性としての顔だ。
「マスター、手当てが済んだら直ぐに此処を発ちますよ。残りのゴーレム達がいつこちらに気付くかわからないんで」
そう言うと、マスターを隠す為に緑色の外套の一部を藤丸と少年の身体に被せるように側に立つロビンフッド。彼はマスターの行動に対し、まだ何か言いたげな様子だったが、今の状況をどうにかする事が先だと判断したようだ。
「…うん。ごめんね、みんな」
「……」
申し訳ないように微笑む藤丸。
その姿を見てマシュは心の何処かで何か違和感を感じ始めていた。だが、それが何かはまだ彼女には分からない。
あの時、炎のように赤く染まった瞳で無我夢中に少年を助けようとする姿。それは、人として正しい。誰かを助けたいという思いは誰にでも湧き上がる感情だ。
けれど、あの時の先輩の姿はどこかが違うと感じたのだ。あまりにも必死なその姿は、使命感に囚われているような、自分というモノを捨て去り、人の命に固執しているような。それは、あまりにも異常なものに思えてしまったのだ。
…先輩、貴方は一体…。
「チッ。どうやら、奴さんがこちらに気付いたみたいですよ。吸血鬼、マスターの手当ては済んだか?」
「応急処置程度なら。…それより、私をその名前で呼ぶなんて、貴方余程死にたいのかしら?」
暫くマシュが一人困惑していると、ゴーレムの群れがこちらに向かっているとロビンフッドが警告する。だが、相変わらず相容れないカーミラが彼の言葉に静かな怒りを含んだ声色で言葉を返す。
「二人とも!喧嘩するなら、あのゴーレムへとお願いします!」
ガウェインが剣を持ち直しながら、今にもいがみ合いそうなロビンフッドとカーミラへと叫んだ。慣れたように仲裁役として二人を嗜める彼は、その間にも陽の光を浴びて剣へと力を増幅させている。
「今はあまり時間をかけたくはありません。すぐにカタをつけましょう。…マスター、宜しいですか?」
傷付いた藤丸と泣き喚く少年を背にして、ガウェインは立つ。ゴーレムが群がる光景を見据えたままマスターへと確認すると、藤丸は頷いた。
「あぁ、魔力は大丈夫。頼むよガウェイン」
「お任せを」
マスターの許可が出ると、彼の瞳は太陽の騎士の瞳へと変わる。彼の持つ剣はいつの間にか陽の光を浴びて、太陽のように輝いている。そして、その剣を晴天へと投げると、彼は声高らかに告げた。
「この剣は太陽の現身」
晴天の下に放たれた剣は、太陽の光を浴びて更に輝きが強くなっていく。
「あらゆる不浄を清める焔の陽炎」
輝きを増したその剣が、再び彼の手に落ちるとガウェインは腰を落として、視線の先を強く見据えた。
「転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!」
彼の声と共に、その剣は真横へと薙ぎ払らわれる。次の瞬間、強い斬撃が放たれたかと思うと、大きな爆発音を轟かせ、轟々と燃える炎が視界の全てを支配した。その一振りだけでゴーレムが群がる辺り一面は、瞬く間に太陽の灼熱で焼き払われてしまったのだ。もう目の前には焼けた荒野しか見えない。
「……」
藤丸は正面に立つ騎士の背中を静かに見つめた。
数百体ものゴーレムらが、一瞬にしてその頑丈な姿形を消されてしまう程の威力。灼熱の炎の光を浴びて佇む彼の姿は、正に聖騎士としての強さを示すと同時に、心底彼が味方で良かったと思える程の恐怖も抱かせてしまう。
「…相変わらずの馬鹿力な事で。オタク、加減っていう言葉知ってます?」
「ちょっと!火力押さえなさいよ!こっちが焼け死ぬかと思うじゃない!」
見事に敵を全て薙ぎ払ったというのに、ガウェインの宝具に対して文句を付けるロビンフッドとカーミラ。理不尽な言い掛かりに、なんでさ…と言っても良い場面にも関わらず、当の本人は気にも留めない様子で無事である彼らの姿を確認すると微笑みながら答えた。
「皆、無事ですね。では、一刻も早くこの場を立ち去りましょう」
いや、彼も彼だ。人の話を全く聞いていないのか、彼はロビンフッド達の苦情を綺麗にスルーしては無垢な笑顔で先を促している。なんだかんだ文句を言いながらも、この三人の英霊はバランスが取れているらしい。
「…やっと繋がった!君達、大丈夫かい⁉︎急に通信が取れなくなって焦ったよ!何かあったの⁉︎」
すると、一段落した頃に慌てた様子のDr.ロマンの声が焼かれた荒野に響き渡った。モニターに映し出された藤丸達の姿とその光景に、彼は一瞬目を丸くするが、すぐに冷静を取り戻す。
「…ゴーレムと交戦したんだね。その少年はそこの時代の人かい?見たところ、もうゴーレムはいないみたいだけど油断は出来ない状況だ。すぐにその場を離れよう。近くに他の村があれば、そちらに向かってくれ。君達がいる環境がまだ分からない以上、野営をするのはリスクが高いからね」
普段のふわふわした雰囲気とは違い、テキパキと慣れたように指示を出すDr.ロマンに皆、素直に従っている。それは、これまで幾度のレイシフトを支えてきた彼の実力はカルデアの誰もが認め、信頼しているからだろう。隣に立つ士郎も無言のまま、その成り行きを見守っている。しかし、ふととある人物に視線を移した。
先程から、何やら暗い表情のまま佇んでいる彼女。マシュだった。
…何かあったのか?
士郎は眉をひそめる。
彼女の表情は落ち込んでる訳でもなく、悲しんでいる訳でもなく。
「あれは、疑う目だな」
アーチャーの声が士郎の斜め上から落ちた。
「…お前、俺の心が読めるのか?」
思わず馬鹿な事を尋ねてしまう程、士郎はビックリした表情でアーチャーを見つめ返す。
「は?何を言っている。貴様は単純だからな。何を考えているかなど嫌でも分かるさ」
「はいはい。そうですか…」
眉間に皺を寄せて明らかに人を馬鹿にした目で見下ろす英霊に、僅かな抵抗のつもりで素っ気ない返事をする。
一瞬ドキッとした自分が情けない。それほどあからさまに感情を顔に出すタイプでは無いと自分では思っていたんだが、彼からしてみればまだまだ未熟だと言いたいのだろう。
本当、余計な一言が多い奴だ。
モニターに視線を移せば、藤丸達が他の村を目指して移動している最中だった。マシュも大人しく藤丸達と行動しているが、彼女の視線は時々、藤丸へと向けられては何やら悩んでいるようにも見える。
そして、ガウェインの腕で抱き上げられているのは先程の戦いで助けられた少年。今は心身共に疲れてしまったのか、目を閉じて静かに眠っている。それは、この現実から一時でも離れたいようにも思えた。
「…どこの時代にも争いは起こる、か」
ふと、小さく零したアーチャーの言葉。
斜め上から聞こえた彼の声は、いつもより弱いく聞こえるのは気のせいだろうか。
それに、士郎はその言葉の重みを知っている。
平行世界のこの場所でも争いは絶えない。
ましてや、自分がいた世界でも同じだ。
だが、ある男は願ったのだ。
『ー…それで、誰も泣かずに済むのなら』
ふと、隣に立つアーチャーを盗み見れば彼はモニターに映し出されている光景を静かに見つめていた。
「……」
白髪の下に見える真っ直ぐな瞳。
その瞳で一体いくつの争いを見てきたのだろう。その瞳で失っていく命に何度涙を流したのだろう。
「…アーチャー」
士郎は彼を呼ぶ。
「何だ」
いつものように短く答え、こちらに視線を落とした英霊。
彼との視線の距離はあの頃よりも随分と縮まっているが、悔しいことにまだ彼の方が高い。
…だから、少しの仕返しくらい良いだろう。
士郎は視線の先にあるアーチャーの頭を思いっきり撫でた。
「…っ⁉︎」
予想もしなかった士郎の行動にアーチャーは目を丸くする。その整えられた白髪は一部形を崩し、彼を少しだけ幼く見せた。
「アーチャー、忘れるな。今度は一人で戦うんじゃない。俺も一緒だ」
真っ直ぐな瞳同士が交差する。
アーチャーは僅かに目を見開いた。
目の前には眩しい程の衛宮士郎の瞳が自分を捉えている。
あぁ…相変わらず嫌な瞳だ。
かつて、赤髪の少年との戦いで向けられた瞳と同じ瞳。
あの時から、この瞳が嫌いだった。
この何もかも見透かすような、無垢で純粋な瞳。己の正義を貫くことに後悔の無い瞳。
自分とは違い、決して交わることの無いそれは目を閉じたくなる程に眩しく輝いている。
そうだ、その瞳が嫌いだった。嫌いだったのだ。
だが、この衛宮士郎という男と刃を交えた時。
美しい瞳だと思えてしまったのも事実だった。
アーチャーの口が弧を描く。
「たわけ。貴様なんぞ足手まといだ。その発言は、もっとマシになってから言うんだな」
「いだだだ!!頭がっ!割れる…!」
お返しだと言うようにガシリと士郎の頭を思いっきり掴みながら、その手に力を込めるアーチャー。
その表情は相変わらず彼らしい皮肉めいたものだったが、その瞳は穏やかだった。
*
藤丸達が去った後、ゴーレムらによって地獄と化した村は殆どが焼き払われてしまっていた。
その場所には、すでに生命の気配はない。無人となった村が無残にも残るだけ。
だが、そんな場所に足を踏み入れた存在がいた。
「…フン。余りに脆い」
無人の村を見渡しながら冷たくそう言い放つのは、白い肌に漆黒の甲冑を身に纏う女性。陽の光を浴びた彼女の金髪の下には、輝きを失った瞳が見える。その容姿は、あの騎士王と呼ばれる英霊と見間違える程酷似しており、そんな彼女の手には見覚えのある一つの聖剣。
「ゴーレムでも少しは役に立ったか」
まるで塵を扱うかの様な言い草に、彼女の背後に立つ男は口を開いた。
「あぁ。だが、よく見てみろ」
低い声でそう口にした男は、一瞬どこかの青髪のランサーを思い出させる顔立ちをしているが、今の彼は赤い魔術的な紋様の刺青を全身に彩り、腕と下半身には魔獣じみた甲冑を身につけ、背後には獣の様な尻尾まで生やしていた。そして、彼の手には至る所から無数の棘を生やして変質した魔の朱槍が妖しく光る。
「…どうやら、外部からの介入があったらしい」
チラリと焼き払われた跡であろう場所を見つめながら彼は冷静に答えた。その視線の先には、他の焼け跡とは違うものが見える。それは、明らかに別の炎で燃やされたかのような跡。単なる火事による焼け跡とは比べ物にならない程の炎と温度で燃やされたであろうその跡は、人間の仕業では無いことは明らかだった。
つまり、外部からの介入とは英霊の仕業。
その視線の先を同じように見つめながら、彼女は表情一つ変えず手にした聖剣を握り直す。
「まぁ、良い。他の英霊がいたとしても何も変わりはしない。我々のやるべき事は同じだ」
彼女の言葉に、晴天だった空が少しずつ陰りを見せる。雲に覆われ陽の光が薄れていく様は、まるでこの先の暗雲を示すように思えてならない。
平和に見えた光景が少しずつ歪み始めていく。
「おーい!セイバー!バーサーカー!村の様子はどうだった〜?」
すると、背後からこの場所には相応しくない明るい声が彼等へと呼び掛けた。その声の主は、隣にもう一人の男を携えて呑気にこちらに向かって来ている。
「…見ての通りだ」
セイバーと呼ばれた彼女が面倒だとでも言うように視線を焼き払われた村へと促せば、先程の声の主は楽しそうに荒れ果てた村を見て笑った。
「ヒュウ♪良いね〜!悲惨な末路!無惨な死!まさに予定通り!あ、でもなんか余計なものが入った感じ?いやー、俺は良いと思うよ?ますます面白くなりそうだし!大歓迎!」
あの地獄化とした焼跡と遺体の残骸を見て、この人物は顔を背けるどころか興味を示しては、相変わらず笑顔を見せている。それは、快楽さえ覚える程の笑顔。
「それで、お前らは何処に行ってた」
そんな人物を横目にバーサーカーと呼ばれた男が尋ねると、その人物の隣に立つもう一人の男が静かに口を開いた。
「周辺調査だ」
短く淡々と答えた彼は、バーサーカーの彼と相性が悪いのか無愛想な表情で返事をする。
その男は、短い白髪に輝きを失った金色の瞳を彼に向けている。そして、褐色の肌に漆黒の外套を纏い、手には双剣にも似た二つの拳銃を携え、それはどこかの彼を思わせるような姿をしていた。
「そうそう!アーチャーとちょっと近くを調べてたんだけどさ、また別の村を見つけちゃって〜!次はそこに行こうぜー!」
そう言いながら先程から楽しそうに笑い、セイバーとバーサーカー、アーチャーへと相変わらず無邪気に話しかけるのは一人の少年。
彼等の中でこの少年が一番表情豊かであり、一見すると彼が最も人間らしく見える。
だが、彼は他の三人と比べて明らかに異質だった。
少年の身体は全身くまなく刺青が施され、黒髪と褐色の肌には赤い布を身に付けているだけという簡素な姿。そんな彼は気さくで無邪気な笑顔を見せているが、実はその瞳の奥には深い闇が潜んでいるように思える。先程、彼が荒れ果てた村を見て笑ったのもその闇に近い感情からだ。
その感情とは、簡単に言ってしまえば復讐心。
「…本当、嫌なくらいに平和な世界だよ」
天を仰げばいつの間にか空は雲に覆われて、眩しかったはずの太陽は姿を消し、少しずつ闇が顔を覗かせ始めていた。
気持ち悪い程の生温い風が、生命の途絶えた村を静かに吹き抜ける。
その風を肌に感じながら彼は嗤う。
そして、憎しみと歓喜を以て彼は告げたのだった。
「さあ、こんな世界を殺しに行こうか」
アルトリアと士郎が会ったらどうなるんだろう?