正義の味方がカルデアに来た話 2
前回の続きです。20代に成長した衛宮士郎とエミヤがカルデアにやって来る話。
今回は他の英霊も少し出ています。なんとなく思い浮かべたのが彼等でした。本編は中々話が進みません…。次は士郎とエミヤが活躍できれば良いな。
そして、何度も言いますが、Fate初心者が妄想で書いた話なので色々と間違えているかもしれません。そこは温かい目で見て下さい。
前回の小説に沢山の評価をありがとうございます!書いた本人が一番驚いております…。まさか、軽い気持ちで書いた話がこんなに評価されるとは思ってなかった…。
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「俺は、衛宮士郎だ。これから、よろしく」
温かな瞳で、こちらに笑顔を向けた男。
先程、召喚されたばかりの彼の周りには未だに光の残像が小さく舞い散り、どこか神秘的なものを感じさせている。
それは、眩く、強く、この場にいた誰もが目を奪われる程の光景で、目の前に立つ藤丸はその光景を瞬きを忘れる程に強く瞳に焼き付け、心に一つの感情を抱いた。
それは、まるで正義の味方だと思えるほどの"憧れ"。
「…っ、」
目を僅かに見開き、その久しぶりの感情に戸惑いながらも、彼はゆっくりと口を開く。マスターとしての役割を果たす為に。
「…はじめまして。ようこそ、人理継続保障機関フィニス・カルデアへ。俺は、このカルデアのマスター、藤丸立香です」
そう言うと、藤丸は魔方陣の上に立つ男に近付き、片方の手を差し出す。
それを見た男は、藤丸が示した共同の挨拶を躊躇することなく、手に取って強く握りしめたのだった。
「あぁ、よろしくな」
この時、藤丸は久しぶりに人の暖かさに触れた気がした。
*
「改めて、歓迎するよ。衛宮士郎君」
あれから、場所をDr.ロマンの部屋へと移した彼等は、改めてお互いについて説明をすることにした。現在の時刻は、夜中の一時を過ぎており、真夜中に殺風景な召喚部屋で話すのも体に障るだろうという理由で、とりあえずDr.ロマンの部屋まで移動してきたのだった。
「僕は、このカルデアの現総指揮官兼、医師長のロマニ・アーキマンだ。君に最初に連絡を取ったのは、この僕だよ。あ、でも総指揮官と言っても、ある理由でこのカルデア内で一番高い階級が僕しか残らなかったっていうだけなんだけどね」
現総指揮官とは思えない柔らかな笑みを浮かべる彼は、衛宮士郎へと温かなココアを差し出す。それを受け取った士郎は、軽くお礼を言った後、部屋にいる人物を見渡した。そして、とある人物を見ては、うーん…と唸っている。
「どうしたんですか?」
隣に立つ藤丸が不思議そうに尋ねると、士郎は、気のせいだと思うんだけど…と一言述べた後、ダ・ヴィンチを見つめて彼の疑問を口にする。
「貴女をどこかで見たような…」
「私かい?」
苦笑いしながら問いかける士郎に、ダ・ヴィンチはキョトンとした顔だ。おかしいなぁ、私は君と会うのは初めてだけどねぇ〜?なんて、彼女が答えていると、藤丸はもしや…と、ある可能性に気づいた。
「あの…衛宮さん。実は…彼女、レオナルド・ダ・ヴィンチなんです」
「……え?…え⁉︎あのレオナルド・ダ・ヴィンチ ⁉︎…あ!まさか!…あのモナリザか⁉︎」
藤丸の言葉に、一瞬理解が出来なかったのか一拍、間を空けた後、驚愕の声を上げる士郎。
その反応に藤丸はやっぱり…と内心思う。衛宮士郎は、きっとダ・ヴィンチの姿を見て、あの誰もが知る有名なモナリザを思い出そうとしたのだ。藤丸自身も、最初に彼女と出会った時、同じ感覚になった事を思い出していた。
「ほほう?そっちの世界でも、私は有名なんだね〜!流石、私だ!そう!私こそが、あのレオナルド・ダ・ヴィンチさ!因みに英霊だよ!気軽にダ・ヴィンチちゃんって呼んでくれ!」
ふふん、と得意げな顔で自己紹介をする彼女に、士郎は戸惑いながらも改めてこの世界が平行世界だと実感していた。世界は広い、とは本当によく言ったものだと思う。なにせ、あのレオナルド・ダ・ヴィンチが女性の姿をしているのだから。
「あ、あの。私は、マシュ・キリエライトといいます。よろしくお願いします」
あまりにも想像していなかったレオナルド・ダ・ヴィンチの存在に半ば呆然となっていた士郎に、遠慮がちに挨拶をしてきた少女はマシュだった。
「え?あ、あぁ。よろしく。…って、あれ?君、その姿は一体…」
数秒遅れて士郎が少女の姿を確認すると、彼女の存在に違和感を覚える。今は、武装を解いている彼女だが、その華奢な体に秘める魔力にとても違和感を感じたのだ。
「はい、私は人間と英霊を融合させたデミ・サーバントです」
「…人間と英霊を融合…。この世界は、そんなことも出来るのか」
純粋に驚いたような、感心したような溜息が士郎の口から溢れる。どうやら、こちらの世界の方が魔術や技術が進歩しているらしい。これ程までに完璧な人間と英霊の融合なんて、今まで見たことが無かった。
…だが、士郎は思う。人間と英霊の融合。実は、融合だけであれば、ここの世界と比べて完成度は劣るのだが、自分も同じことが出来るのだと。
実際、今回の召喚の時に自分と彼の英霊を僅かな時間だが、融合させて英霊として召喚に応じたのだ。これは、衛宮士郎と彼の英霊だからこそ出来ることなのだが、普段はあまり使う機会はない。
そして、その融合していた"彼"を、ふと思い出す。
「そういえば、まだ俺の英霊を紹介していなかったな」
士郎がそう一言告げると、彼の隣には一人の男の姿が一瞬にして現れた。
「…!」
物音一つしない出現に、思わず驚く藤丸達。
突然、衛宮士郎の傍に現れた男。
その姿は、白髪に褐色の肌。
士郎と似たような特徴のある眉に、真っ直ぐと射抜くような強い瞳。
綺麗なほどに逞しい身体は紅い外套を纏い、彼は凛として佇んでいた。
紅く焦げるような強い信念の塊。
それが、藤丸が最初に抱いた感想だった。
紅い信念の塊が、正義の味方に寄り添うように佇んでいる。
今、彼の見ている光景にはそんな表現が相応しい気がした。
「皆に紹介するよ。彼の名は…」
「アーチャーだ」
そんな藤丸を他所に、士郎が何気なく自分の英霊の真名を告げようとした矢先、それは直ぐに彼の英霊によって遮られてしまった。まだ真名を明かして良いかどうか判断し兼ねている、というのが彼の英霊としての答えなのだろう。
「なんだよ…アーチャー。名前くらい良いだろ」
「貴様は本当に頭の弱い奴だな。それでよく己がマスターだと言える」
「そこまで言わなくても良いだろ⁉︎」
「たわけ!少しは後先考えて行動しろと言っているんだ!」
何故かアーチャーが現れた途端、士郎とアーチャーの口喧嘩が始まってしまい、Dr.ロマン達は初対面でその口喧嘩に割り込む勇気は無く、ただ見守るしか出来ないでいた。更に、藤丸はそんな二人に対し、ついさっきまで抱いていた憧れを返して欲しいと、複雑な表情で成り行きを見守っている。
だが、数分間お互いに言い合ううちに満足したのか、彼等は何事も無かったかのように、こちらに話を続けてきたのだ。側から見ればそれは、なんともいい迷惑なのだが、多分こんな彼等の口喧嘩は日常茶飯事なんだろうと藤丸達はこの短時間で冷静に察する。
「改めて紹介するよ。こいつが俺の英霊、アーチャーだ」
今度は英霊のクラス名で紹介され、アーチャーは藤丸達へと視線を送る。
「クラスはアーチャーだ。大体の事は、そちらのドクターから聞いている。マスターはご覧の通り頼りないが、私も微力ながら君達に協力しよう」
落ち着いた甘い声色に毅然とした表情で、そう答えた彼。その隣には、いつもの事だと呆れたように笑う彼のマスター。そんな姿を見て、決して彼等は仲が悪い訳ではない、むしろお互いに信頼しているからこその態度だと藤丸はすぐに分かった。言葉に表せない彼等から滲み出る雰囲気に藤丸はやっぱり憧れを抱く反面、羨ましいとも思う。
「さて、お互いの紹介も終わったみたいだし、これからの事を話してもいいかい?」
一通り、この場にいる人物について理解はしただろうと判断したDr.ロマンは皆に告げた。
「このカルデアに衛宮君達が来てくれたことで、マスターは二人に増えた。改めて感謝するよ。…そして、君達にお願いしたいことは一つ。今まで、藤丸君一人がマスターとして行ってきたことを、君達にも手伝って欲しいんだ」
その言葉を言い終わるかのところで藤丸を見たDr.ロマンは、今度は士郎へと視線を移す。
「それは、具体的に言うと?」
士郎の代わりに、アーチャーが尋ねた。
「一度、君達には簡単に話したと思うけど、特異点が出現した場所に英霊達とレイシフトをして、人理修復を行うこと。そして、ここにいる英霊達の育成や管理。時には、カルデア局員達との会議にも参加してもらうことになるかな。勿論、必要な魔力はカルデアから供給するよ」
Dr.ロマンの説明を聞きながら、士郎は藤丸を盗み見る。そんな彼の表情は何一つ変わらず、さも当たり前のようにその場に佇んでいた。
「言葉にするのは簡単だけど、なかなか大変なことを君達にお願いしているという自覚はあるんだ」
申し訳ないように話すDr.ロマン。
そんな彼の言葉に、今度は藤丸の言葉が続いた。唯一のマスターとしての彼が、士郎へと助けを求める。
「それでも、俺は助けたい。ここのカルデアにいる皆やレイシフトで関わった人達を、人類焼却の犠牲にはさせたくない。皆を助ける事が出来る可能性があるなら、俺は何も惜しまない。…だから、お願いです。貴方達の力を俺達に貸して下さい」
それは、ひどく真っ直ぐな瞳だった。
「……」
士郎はその瞳に、どこか懐かしさを覚える。
遠くを見るように、何かを思い出すように、思わず目を細めた。それは、そう…その瞳は自分もアーチャーもよく知っている。
誰かを助けたいという、その信念を貫こうと未熟な身体で足掻き、踠き、そして何かを失っている事に気付かず、走り続けたその瞳。
見覚えのあるその瞳が今、自分の目の前に立っている。
…なるほどな。これは…
士郎は少し目を伏せた後、ゆっくりと再びその瞳を開いた。
「勿論さ。俺達はその為に来たんだ。必ずここにいる皆を助けよう。人理修復を終えて…一緒に生きるんだ」
その言葉の意味をどこまで理解したのか分からない。だが、士郎の返答を聞いた藤丸は笑みを浮かべていた。
今は、まだ気付けなくていい。
その小さな体に大きな使命を背負う君が、いつか壊れてしまわないように。間違えた道を歩まないように。貫いた信念の果てに自分を憎まないように。
これからは、自分達が傍にいる。
そう心に秘めて、彼等は己の正義へと静かに誓った。
*
翌日。
その日は、珍しく食堂に朝早くから英霊達が集まっていた。わいわいと賑わう彼らの話題は、ただ一つ。昨夜、召喚部屋から大きな音がしたということ。つまり、新たな仲間がこのカルデアに加わったのではないかという事だった。
「そうなんですか?私は全く気付きませんでした」
「…アンタの部屋、確か召喚部屋から一番近かった筈ですけど?」
「色々な意味で貴方は大物ね」
食堂のとある一つのテーブルに座り、それぞれ朝食を摂っているのはガウェイン、ロビンフッド、カーミラの三人だ。
円卓の騎士の一人であるガウェインは、朝から高カロリーなメニューを注文し、たった今食べ終えたのかコップに注がれていた水を最後に飲み干した。その朝食の量に、彼の胃袋のタフさにやや顔を引きつらせながらロビンフッドとカーミラは静かにコーヒーを口にする。
「そこで、俺は思うんですけど遂に噂のもう一人のマスターが来たんじゃないんすかね?」
「あら?なぜそう思うのかしら?」
「いやいや…だって、今まで英霊を夜中に召喚した事がありました?なーんか、怪しいんすよねぇ」
「あぁ…言われてみれば、確かにそうね」
ロビンフッドの言葉にカーミラは、今まで気にした事も無かった事実に気付く。だからと言って、大した発見ではないのだが。
「それは楽しみですね!仲間が増える事は良いことです。これで、我がマスターも少しは楽に戦えるでしょう」
ガウェインが素直に喜びの声を口にすると、ロビンフッドは反対に疑いの眼差しで彼を見た。
「…アンタは相変わらずお気楽な人だな。俺はすぐには信用出来ませんよ。もう一人のマスターってことは、つまり外部からの協力者ってことでしょう?こんな雪に囲まれた偏狭な場所に、一体誰が好き好んで来るって言うんですか」
彼の意見は正しい。おそらく、このカルデアの多くの英霊達が皆、思っていることだ。
「アンタはどう思います?」
ふと、隣に座るカーミラに発言を促せば彼女は、まるで興味が無いかのようにコーヒーを味わいながら冷たく言い放つ。
「知らないわ、そんなもの。私達に危害を加えるなら拷問すれば良いじゃない」
「うへぇ…アンタもアンタで相変わらず悪趣味なことで…」
「拷問なんて!Mrs.カーミラ、貴方は気品溢れる美しい女性なのですから、そのような物騒な事を言ってはいけません」
「あら?流石、円卓の騎士様ってとこかしら。分かってるじゃない貴方。少しは見習いなさいよ、ロビンフッド」
「俺にも好みってもんがあるんで…って、痛ァ‼︎」
テーブルの下で思いっきりヒール付きの靴で足を踏まれたロビンフッドは思わず悲痛の声を上げてしまう。その声に、食堂にいた他の英霊達は一度不思議そうに彼を見るが、すぐに興味を無くし、再び其々の話へと戻っていく。
不意の激痛にテーブルの上で頭を垂れてうずくまるロビンフッドに、彼へ心配の声をかけるガウェイン。そして、何事も無かったかのようにコーヒーを飲むカーミラ。
今日の彼等はマスター、マシュと共にレイシフトを行う予定だった。
「あ、ガウェイン、ロビンフッド、カーミラ!ここにいたんだね」
その時、良く知っている声が食堂の入り口から彼らへと呼びかけた。
「マスター!」
その声に一番最初に気づいたガウェインが素直に呼びかけに応じれば、その場にいた英霊達がマスターこと、藤丸立香へと一斉に視線を向ける。その瞬間、食堂内の空気が変わった気がした。
「今日は、皆朝早いんだね」
食堂に訪れた藤丸は、いつもと変わらない笑顔を見せている。このなんとも言えない探るような緊張感を含んだ空気に、彼は気付いていないのか、もしくは気付いているが敢えて普段通りの態度に徹しているのか分からないが、藤丸は食堂内に足を踏み入れた。そして、そんな彼に数秒遅れて背後に現れたのは一人の青年。
「…!」
「マスター…まさか、その後ろにいる人は…」
「あら?」
誰もがその青年の姿を捉えた瞬間、ザワザワと騒いでは食い入るように青年へと視線を向け始める。英霊とは違う魔力を秘めた見た事も無い人物がこのカルデアにいるということは、つまり。
「うん、皆も噂は聞いていると思うけど、この人が俺達に協力してくれる、もう一人のマスターだよ」
「衛宮士郎だ。皆、よろしくな」
初めて見るもう一人のマスターという青年は、その赤髪のように明るい笑顔で挨拶をした。
その気さくな態度に好感を持てる者も少なからずいたようで、この場の空気が僅かに和らいでいく。
「貴方が我がマスターに協力して下さる、もう一人のマスターですか。初めまして、私はキャメロットの円卓の騎士の一人、ガウェインです。こちらこそ、よろしくお願い致します」
爽やかな笑顔で挨拶を交わす金髪の騎士に、士郎はまるでモデルや俳優みたいな英霊だな、と内心驚きつつも、その真摯たる態度は正しく騎士だと一人納得し、挨拶を交わす。
そして、そんな彼の横に近づいてきたもう二人の存在に士郎は気付いた。
「へー、アンタがもう一人のマスター…。一体何を企んでるのかは知らないっすけど、個人的にはさっさと出て行ってくれた方が有難いんですけどね」
「どんなマスターが来るかと思えば…まだまだ若いじゃないの。本当、大丈夫なのかしら」
金髪の騎士に並び立つのは、用心深い性格なのか緑色のフードを深く被った男に、緩やかに巻かれた白髪と透き通る白い肌を持つ、まるで吸血鬼のような女性。
想定内ではあるが、こうも真正面から歓迎されていないオーラを出されては流石の士郎も苦笑いで対応するしかない。
「ちょっと、二人共。急なことで戸惑うのは分かるけど、衛宮さんは俺達を助ける為に来てくれたんだから」
「助ける?」
険悪な雰囲気にマスターである藤丸が救いの手を差し伸べようとするが、逆に彼の言葉によって更にロビンフッドの機嫌を損ねてしまう。
「助けるって…随分とまぁ、上から言ってくれるじゃないですか。アンタがどれだけ優れたマスターか知らないっすけど、はっきり言って俺らにはアンタの手助けは要らないんですわ」
「ロビンフッド、マスターの前ですよ。その言葉は…」
ガウェインが流石にこれ以上険悪な空気を長引かせる訳にはいかないと判断し、疑いの目を向けるロビンフッドを制止しようとした時、士郎の隣にもう一人の姿が現れた。
「そうだな。確かにコイツは未熟者だ。だが、貴様も自分のマスターについて何も分かっていないんじゃないのかね?」
「あ、アーチャー…!お前…!」
彼の突然の出現に驚きながらも、余計な事を…と言わんばかりの表情をした士郎が思わず頭に手を当てる。きっと、彼はこの場を穏便に済ませたかったのだろう。だが、彼の英霊はそんなこと知ったことではないと火に油を注いでいる。
今度は別の新たな男の存在に再び英霊達がざわつき始めた。
「…アンタがこの男の英霊か」
アーチャーと呼ばれた白髪の英霊に、ロビンフッドは同族嫌悪に似た感情を抱く。よりにもよって自分と同じアーチャークラスとは…。
「如何にも。不本意だが、私がこの男の英霊だ」
「まだお前そんな事言ってるのか…」
ロビンフッドに問われ、不服そうに答えるアーチャーに士郎はいい加減にしろと内心溜息をつく。
「…何?あの二人、もしかして仲が悪いのかしら?」
そんな二人の様子を、今まで傍観していたカーミラは素朴な疑問を抱いた。てっきり、先程のアーチャーの態度は自分のマスターが貶されて怒って反論したのだと思っていたが、それはどうやら違うらしい。
「お願いだから、二人とも落ち着いてくれ!」
出会って早々、バチバチと静かに火花を散らすロビンフッドとアーチャーに、思わず藤丸は間に入り込み制止を促す。その隙に、士郎もアーチャーの腕を掴み、これ以上空気を悪くするなという視線をアーチャーへと送っていた。
「と、とにかく!今日はガウェイン達とレイシフトする予定だっただろ?早く行こう!ドクターとマシュが待ってる」
そう言って、彼らの背後に回りグイグイと背中を押しては移動を催促する藤丸。そんなマスターの行動に三人の英霊達は戸惑いながらも、先程の険悪な空気は少し和らいでいた。
「あ、衛宮さんはドクターと一緒に管制室で待機していて下さいね!まずはレイシフトの見学して欲しいってドクターが…」
「分かった。俺達は大人しく見学させてもらうよ」
バタバタと騒がしく食堂を出て行く藤丸達の後ろを、士郎とアーチャーがゆっくりと歩いて行く。そして、士郎はその去り際に、食堂内に残っている英霊達へと振り返った。
「朝から騒がしくして悪かったな。こんな俺達だけど、これからよろしく頼むよ」
最後に控え目な笑顔を見せて、彼の姿は消えていった。
そんな彼に対して、他の英霊達が戸惑いながらも友好的な感情を抱いたのは言うまでもない。
*
「準備は出来たかい?今回の特異点は、ゴーレムが蔓延る場所だ。ゴーレム自体は、そこまで強くはないけど、数が非常に多いみたいだ。くれぐれも皆、気を付けるように」
あれから、管制室に着いた藤丸達はマシュと合流しDr.ロマンの指示を確認していた。勿論、その場にはガウェイン、ロビンフッド、カーミラも参加し、先程の騒がしさから一変して彼等は今、大人しくDr.ロマンの話に耳を傾けている。
「そして、このレイシフトは特異点の下見だと思っていい。正直、僕にもまだこの特異点の原因と思われる要因が分からない。だから、深追いはしなくていい。危ないと思ったら、すぐに引き返すんだ」
そう念押ししたDr.ロマンは藤丸へと視線を向けた。
「な、何?ドクター…」
「分かったね、藤丸君。君が一番危ないんだから」
「大丈夫だよ、ちゃんと分かってるって。俺はただの人間だから、マシュ達に迷惑をかけないように気を付けるよ」
「はぁ〜、やっぱり全っ然分かってない!」
藤丸の返事に、思わず盛大な溜息を溢すDr.ロマン。
英霊に迷惑とかそんな話ではなく、君が危険に対して、無闇に飛び込んでいかないかを僕は心配してる訳であって…って、あぁ!もう!
一人ぶつぶつと呟きながら頭を抱えているDr.ロマンを他所に、彼の心配事を全く理解していない藤丸は不思議そうな顔をしている。
「あー…、ドクター。マスターに何度注意しても無意味っすよ。この男、頭固いですから」
そんな嘆くようなリアクションをするDr.ロマンにロビンフッドが見るに耐えなかったのか、呆れつつも助言をする。きっと、彼も幾度となく藤丸へ注意してきたのだろうが、全くその努力は報われず、彼も遂には諦めてしまったのだろう。
「ご心配なく、ドクター。我々が必ずマスターをお守りしますから」
そして、"お任せ下さい!"と自信を持って発言するガウェイン。その隣には、カーミラが腕を組んで溜息をついている。
そんな藤丸というマスターを知っている英霊の彼等は、レイシフトの際には常に誰かがマスターの側にいるようにしている。それは、事前に打ち合わせをした訳でもなく、気付いたらこうなっていた、というのが正しい。自然とそうなってしまったということは、つまるところ、英霊の皆は藤丸のことを信頼し、守りたいという事なのだろう。
「でも先輩、決して無茶だけはしないで下さいね」
藤丸の隣にいるマシュが優しく諭す。その言葉に、藤丸はいつものように笑って頷いた。
その光景を遠くから見ていた士郎とアーチャーは、お互いに視線も合わせず、ただ前を向いたまま何やら不穏な空気を醸し出している。
「…アーチャー。お前の気持ちも分かるけど、俺に殺気を向けるのはやめてくれ」
「いや、なに。かつて見覚えのある男を思い出してな。懐かしい思い出に浸っていただけさ」
「その懐かしい思い出に浸る度に、殺気を向けられる俺の身にもなれって言ってんの。こっちは、お前のその悪い癖に慣れ過ぎて感覚麻痺してきてるんだからな」
「それは良かったじゃないか。これで、いつでも貴様の首を狙っても問題はないな」
「本当、お前って捻くれてるなぁ…」
「貴様には一番言われたくないがね」
淡々と交わされる会話。だが、その内容は余りにも物騒なものである。しかし、これがいつもの二人の会話なのだろう。彼等は、口では憎まれ口を叩きつつも、その内心は正反対である事を彼等自身はよく知っている。
「では、今からレイシフトを始めるよ」
Dr.ロマンの言葉を合図に、カルデア局員は複雑な機械の操作を始めた。藤丸達も指定の場所に移動し、その準備が整うまで待機している。
そして、機械音のアナウンスが流れ始めた。
その言葉と共に藤丸達が立つ場所が次第に青く光り始める。
「無事を祈っているよ」
Dr.ロマンが優しく告げた後、青い光りは更に強く光り出し目の前が一瞬、真っ白になる。
「…!」
士郎は眩い光から思わず目を庇うように、腕を前に出した。
「行ってきます」
真っ白で何も見えない光の中で、藤丸の声だけがはっきりと耳に届く。
そして、次には高音の機械音が管制室内に響いたかと思うと、目を開けた時には既に藤丸達の姿はなかった。
「…消えた…」
士郎がその様子に驚いていると、Dr.ロマンは直ぐに大きなモニターで何かを映し出す。
「大丈夫だよ。藤丸君達の状況はこのモニターを通して見る事が出来るから。勿論、彼等との意思疎通も図る事は可能だ」
安心させるような明るい声が士郎の側に立つ。その数秒後、モニターには無事に特異点に降り立った藤丸達の姿が映し出された。
「なんだ、元気そうだな」
その姿に士郎は笑ってしまう。
モニターには、どこか古びた村に着いた彼等が未知の時代に動じる事もなく、Dr.ロマンと確認を取りながら着実に進んでいく姿が映っている。
そこには、確かに小さな少年が人類を救おうとする姿があった。
「…なぁ、ドクター」
「なんだい?衛宮君」
ふと、口を開いた士郎にDr.ロマンはモニターの状況を確認しながらも穏やかに答える。
「いつからだ。彼が壊れ始めたのは」
「…っ!」
ドクリ。
その言葉に、胸を一瞬で突き刺された気がした。
「…え、みや君…。君、いつから…」
僅かに震える声で、大きく見開かれた瞳で衛宮士郎を見る。
そこには、全てを悟った顔があった。
「いつからって…最初からだよ。だって、彼はまだ"一度も笑ってない"じゃないか」
笑っていない。
確かに彼はそう言った。
「……」
Dr.ロマンは動きを止める。
もう、駄目なんだと思った。
それは藤丸君の崩壊を隠し通す事でもなく、ドクターの自分が彼を助けることが出来ないと感じた事でもなく。
彼の崩壊がここまで進んでいた事に、絶望感を抱いたのだ。
「…話して欲しい。どうして、彼がここまで壊れたのかを」
カルデアにいる唯一のマスター。
それが、藤丸立香だ。
それに至るまでに、何があったのか。何を感じたのか。それを知らなければ、彼の崩壊を止めることは出来やしない。
衛宮士郎は、真っ直ぐにDr.ロマンへと向き合う。その彼の隣には、アーチャーも視線を向けはしないものの、彼のマスターと同じであるという事はすぐに分かった。
Dr.ロマンの口からは諦めたような、安心したような溜息が小さく一つ溢れた。
「…分かった。全てを話そう。このカルデアに何があったのか。藤丸君がなぜ一人でマスターとして戦っているのか。君達には聞く権利がある」
そうだ。だから、僕は君達へと助けを求めたんじゃないか。
Dr.ロマンは今度こそ、穏やかな声で話し始めた。
そして、思う。
…藤丸君の気持ちを本当に理解出来るのは、君達なのかもしれないね。
*
それから、Dr.ロマンは藤丸立香が一人のマスターになるまでの経緯を全て明かした。
当初は、藤丸の他に47人のマスター候補がいた事。
本当のカルデアの総指揮官は別の人物であった事。
レフ教授によってレイシフトルームが爆破されたが、マシュと藤丸は助かった事。
それが、今の藤丸立香を作っていた。
「…これが、僕が知っている全てだよ。藤丸君には本当に申し訳ないと思ってる。こんな強制的にマスターになれば、そりゃ誰だって壊れていくに決まってる」
悔やむように、吐き出すように全てを語ったDr.ロマン。彼の瞳はどうしようもない不安と後悔で揺れている。きっと、今までその想いを精一杯隠してきたのだろう。
「……」
士郎は静かに上を見上げた。
これから共に助け合いながら過ごすはずだった多くの仲間達の悲惨な姿。
総指揮官として、一人の少女として未練を残しつつも、全て失われてしまった彼女の死。
焼けゆく瓦礫の山に、目の前には命の灯火が今にも消えそうな少女。
そんな場所で何も出来ない彼は、ただ見ていることしか出来ない。寄り添うことしか出来ない。
それは、まるで…
「地獄だな」
アーチャーの声が静かな空間に落ちた。
そうだ。それは、まるで地獄。
かつての自分が理想に憧れ、歩んだ道。
「…そうだな。俺達は、その地獄をもう見た」
だからこそ。
藤丸立香という男を理解することが出来る。
彼が抱く歪んだ思いと似たような感情を知っている。
士郎とアーチャーは、あの時の彼の瞳を思い出す。
『皆を助ける事が出来る可能性があるなら、俺は何も惜しまない』
それは、酷く真っ直ぐな瞳をしていたのだ。
最初に藤丸立香という少年を見た時から気付いていた。
その瞳が本当の輝きを失いかけていることに。
彼が見せる笑顔に温かさが消えかけていることに。
彼はただ、マスターの役目を果たす為に動いているに過ぎないのだと。
それは、まるで人間を模したロボットのようだと思った。
遠い記憶の赤髪の少年と藤丸の姿が重なる。
けれど。
それを全て受け入れて、全部認めて、諦めずに、苦しんで、後悔して、自分に嫌という程に向き合って。
それでも、それでも、やっぱり。
『間違いじゃなかった』
いつか、そう安心して言える時が来れば良い。
だから、"俺は"…。
士郎は一度、瞳を閉じた後、隣に立つ彼に問いかけた。
「アーチャー、ここにも未熟者がいるみたいだな。お前ならどうする?」
「たわけ。言うまでもないだろう」
相変わらずの英霊に士郎は笑う。
「じゃあ、正義の味方として"皆"を助けないといけないな」
決して君一人が犠牲にならないように。
君も必ずこの手で助けてみせると、彼等は再び己の正義へと誓うのだった。
藤丸一人の負担半端ないだろうに「怪しいから信用できない」じゃなくて「怪しいから出てけ」ってこのロビンフッドヤバすぎだろ