高市政権の「イメージ戦略」はいったいいつまでもつのか

円安を止め、積極財政もやめるべきだ
2026/02/21 12:00
高市首相は聞いてくれるはずもないし、聞いてくれたとしても「なんか意地悪やなあ」などと言われてしまいそうだが、筆者が経済政策を提言する(写真:ブルームバーグ)
競馬をこよなく愛するエコノミスト2人による「東洋経済オンライン」の人気持ち回り連載を「会社四季報オンライン」でも掲載。今回は小幡績・慶應義塾大学大学院教授のコラムである。(最新のドル円相場はこちらです)

今回は、第2次高市内閣発足にあたって、包括的な経済政策提言を行っておこう。

高市早苗首相は、私の話など聞くはずがないが、野党の対案も心許ないので、金融政策・財政政策・消費税減税、さらには経済政策の行動原理などについて、備忘録としてここに記しておきたい。

異常な円安を止め、積極財政もやめるべき

【金融政策について】

これはもちろん日本銀行が責任を担っているが、日銀は、直ちに利上げを行うべきだ。景気を刺激もせず抑制もしない中立金利の推定レンジが1%から2.5%だとすると、その中間点の1.75%までは毎回利上げをしていく。

日銀が利上げ開始時に、「中立金利のレンジの中心値までは利上げする」と宣言して行えば、政策決定会合ごとに利上げすることによるペースの速さも、ターミナルレートの期待値の引き上げにはつながらないので、抑制的と言える。欧米のほとんどの中央銀行の政策金利は、それぞれの地域の中立金利のレンジの中心となっている。理論的にも現実的にも、最も妥当な目標金利水準である。

また、利上げの理由は、異次元緩和による副作用の解消であり、足元の景気状況とは独立に上げるということである。副作用の解消と景気調整としての金融政策とを分ける、という考え方を明確に示す。景気に影響を与える気配があれば、直ちに利上げをやめる。副作用とは、もちろん異常な円安であり、これにより、物価高騰の原因の半分を占めているとみられる異常な円安の解消を図る。

【財政政策について】

責任があろうがなかろうが、「積極財政が目標」というのはおかしいので、すぐにやめる。民間セクターに資金を流した場合と、それを公的部門で横取りして、政策的に投下した場合とで、長期的な経済成長に後者のほうが資するのであれば、そのような財政政策はすべて行ったらよい。資金の有効活用を政府部門、民間部門というカテゴリーに関係なく、資本の立場、日本経済全体の立場から、もっとも効率的な資本配分を日本全体として行うことだ。

政治は、常に、いわば自己実現のために日本経済の資金を使っている。自分勝手すぎる。選挙のため、というだけでなく「『ザイム真理教』でなく政治がやっている、わたしがやっている」、という姿を見せたいためにやっている。

財政支出がすべて失敗に終わると言える「2つの理由」

政府が民間よりもより良い投資ができるという事実があって初めて、政府の財政出動が経済成長に資すると言える。だが、21世紀に入ってから、そのような投資は、少なくとも日本では見たことがない。

「今度は違う、this time is different」というときは、必ず、今度も失敗するというサインであるが(ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授が著書のタイトルにして有名な言葉にしたが)、高市首相も、いままでと違う、と強調しているが、それは「今までにないほど無謀」という意味では正しいかもしれない。

これは皮肉でもなんでもなく、明らかに間違った考え方に基づいているからだ。現在の高市政権で、財政支出がすべて失敗すると言える理由は2つある。

第1に、政府が主導なのか、民間主導なのか、はっきりしないこと。はっきりしない、ということは、民間にリーダーがいるわけではない、ということになる。そして、政府主導で成功したプロジェクトは、21世紀のいわゆる西側社会(欧米および日本)には存在しない。

第2に、具体的な大規模プロジェクトが挙がっていない。積極財政という理念だけを主張し、具体的な主張がない。それは絶対やりたいプロジェクトも、絶対成功する自信のあるプロジェクトもないからだ。つまり、積極財政をやること、それをスローガンとして叫ぶことが目的となっている。

「責任ある積極財政」という言葉は、「気合いだ、気合いだ、気合いだ!」と叫んでいるのとほぼ同義なのである。

これこそ、太平洋戦争に負けた理由とまったく同じだ。『失敗の本質』という、一橋大学・野中郁次郎名誉教授のチームの名著があるが、誤解を恐れず私に言わせれば、同書ではあの戦争を失敗ととらえているが、ある意味「失敗ではない」ということだ。

なぜなら「勝つこと」ではなく、「やること」「戦争をすること」、それによる軍部の自己実現が目的の大半であったから、華々しく散って、歴史に残ったことについては大成功なのである。

高市政権の問題は、右傾化したことではなく、目的が歴史に名前を残すこと、承認欲求、自己実現ということだけが目的と、非常にはっきりしている点だ。だからこそ、ここまで、政略的に大成功していて、あとは華々しく散るもよし、抵抗にあって無念の悲劇のヒロインになるもよし、なので、ほぼ目的は達したので、今後、日本経済が沈んでも失敗ではないのである。

消費税減税について】

高市政権は、これは何でもいい、と思っているのではないか。消費税減税については、悲願でもあった、などと言ったり、自分に委任してくれ、などと言って衆議院を解散し、有権者はこれ以上ないというくらい委任したのに、自分だけでは自信がないから、野党を巻き込んで、国民会議の責任でやると言っている。まあ、内容はどっちでもいいのだ。だから、食料品消費税ゼロをやるかやらないか、予想できないが、予想しても仕方ない。

また、給付付き税額控除、というのも、ただの手法、手段の話であり、何のためにやるのか、ということだけが問題なのに、それについては何も言わない。だから、高市政権は、消費税減税にも、給付付き税額控除も、本当は関心がない、というのが正しい解釈だ。

「べき論」でいえば、やるべきという考え方はありえない。この先、消費税増税をどの程度にするか、については議論すべきであり、意見は分かれ、一長一短だろうが、現状から下げることはあり得ない。

明確なターゲットがない高市政権

【高市政権の経済政策の行動原理について】

これは実はわかりやすい。シンプルだ。だから強力だ。だからこそ、ここまで、異例の大成功をしている。

私に言わせれば、第1に、本当にやりたい経済政策はない。だからこそ、自由に政策へのスタンスの言いぶりを七変化にできるのであり、そのときそのときの、世論、マーケットの雰囲気に合わせて、超短期に調整できる。

これは、現代の変化の激しいマーケット、有権者の超短期の移り気の世界においては、非常に的確な戦術であり、自分の思いを政策に託する政権はすべてすぐに崩壊している。憲政史上最長だった安倍政権も、やりたいことをほぼすべて捨てて、自分では関心もなく理解もしていない(実際、政策に実体はほとんどなかった)アベノミクスは大成功したのである。

しかし、高市政権はそれよりもさらに、やろうとしている政策はまったくない。アベノミクスはめちゃくちゃでも、デフレ脱却という軸はあり、株価を上げるぞ、という明確なターゲットがあった。現政権は本当に何もない。だから、「積極財政」という理念だけ、つまりは、「打倒ザイム真理教」、という怨念を言葉に置き換えただけなのである。

だから、高市首相の選挙後の記者会見、あるいは18日の第2次高市内閣組閣後の記者会見でも具体的な政策の話は一切出ず、「責任ある積極財政」というスローガン的言葉と、死に物狂いで、何としても実現する、とか、頑張って戦います!という「気合いだ!」という言葉だけの会見だったのである。もはや自民党だけで衆議院の3分の2超を握り、何と戦うのかはっきりしないから、それもあいまいなままである。

要は、選挙でも、具体的な政策には一切触れず、戦う姿勢、気合い、はっきりとした言い切り方、というイメージ戦略だけで大勝したから、このまま、このイメージ戦略だけで行けるところまで行こうとしているのだ。

これは、マーケットで言う「噂で買い、事実で売れ」という鉄則の、事実が出てきてしまうと、売られてしまって、ブームは終わってしまうから、できるだけ事実は出さない、という戦略で徹底しており、これは見事というほかはない。

イメージ戦略はいつまで持つのか

それなのに、なぜ令和8年度予算は強硬に年度内成立を目指しているのか?

それは、ここに事実は1つも含まれていないからである。この予算は石破前政権のときに作ったものだから「中身は知らない、でも私は頑張って年度内成立させる。みんなできない、と言っている、国民に迷惑をかけないために、死に物狂いで私が成立させてやる」、ということなのだ。これは、まさに事実なしで、戦う姿勢、チャレンジする自分のイメージをアピールする絶好の機会なのだ。だから、固執している。

また、複数年度で予算を作る、というのも、打倒ザイム真理教、ということにすぎないが、しかし、本当にそれが日本経済のためになるのであれば、そんな複数年度という制度論ではなく、具体的に、まずその大型プロジェクトとは何か、具体例で説明しないと、普通は説得できない。

複数年度を説得したいなら、説得力のあるプロジェクトを挙げることから始めるのが、本気でやりたい人なら必ず取る必勝パターンである。何も言わないのは、何もないからであり、何か言うとイメージが崩れ、ぼろが出るからである。

このように、スタンスが明確で戦略的に非常にシンプルなので、ある程度までは、このまま行くだろうし、イメージ戦略は功を奏するだろう。問題は4月の米中首脳会談以降であろう。少し長くなってきたので、政策提言を網羅するのは、次回以降にしよう。

本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースや競馬論などを語るコーナーです。あらかじめご了承ください。

競馬である。

22日は、東京競馬場で今年最初のG1、フェブラリーステークス(第11レース、ダートコース、距離1600m)が行われる。

しかし、中東で2020年に「サウジカップ」という世界最高水準の賞金レース(1着賞金1000万ドル、約15億円)ができてしまってからは、超一流馬はすべてサウジに行ってしまい、フェブラリーステークスは、国際最高水準のG1レースではなく、すっかり「G2レベルのG1レースとなってしまった。

今年も、サウジカップでフォーエバーヤングが完勝、2連覇を達成し、3月28日に行われるドバイワールドカップの2冠を獲りに行っている。実際、サウジカップ創設以降は、フェブラリーステークスでは、前走G2I以下のレースで惨敗した(4着以下)の馬でも、本番は3着以内に入る馬が4頭も出ている。

フェブラリーSは「サイン馬券」に歯向かい「あの馬」で

したがって、今年のフェブラリーステークスは、前走、昨年の12月に行われたG1、チャンピオンズカップを勝った牝馬ダブルハートボンドが、史上初の牝馬の勝利を達成する可能性は十分と思われている。「サイン競馬」からすれば、女性初の総理である高市首相の解散戦略も大当たりだったから、「馬券も牝馬のダブルハートボンド」、ということになりそうだ。

もちろん、私は、これに歯向かうのであり、そのほかの2頭の有力馬、コスタノヴァかウイルソンテソーロで勝負したい。好みからすると、昨年の覇者コスタノヴァなのだが、次のドバイが目標で、まだ完調手前のようなので、ウイルソンテソーロを狙いたい。

彼は、昨年はサウジカップ、ドバイワールドカップと連戦したが、今年は何が何でもG1を獲るということで、国内にとどまり、ここに照準を絞ってきた。チャンピオンズカップではダブルハートボンドにハナ差惜敗したが、内容はこちらが上だった。2着の多い馬だが、今度こそ。

(※ 次回の筆者はかんべえ(吉崎達彦)さんで、掲載は3月7日(土)の予定です(当記事は「東洋経済オンライン」にも掲載しています)

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