手術における患者取り違えなど、患者への影響が重大で「確実に回避」できる12事象、発生時には各医療機関で確実に把握を―厚労省
2026.2.24.(火)
医療安全対策強化の一環として、患者への影響が重大で「確実に回避できる方法」が普及している12事象(ネバーイベント、例えば手術等における患者取り違え等)が発生した場合には各医療機関で確実に把握することが求められる―。
また患者への影響が重大だが「確実な回避」が必ずしもできない12事象(例えば、手術中の心停止等)が発生した場合には、当該医療機関で把握する努力が求められる―。
両者について、どういった事象が該当するかを再確認する―。
厚生労働省は2月13日に通知「病院等において把握すべき重大事象の類型化について」を発出し、こうした点を明確にしました。
医療安全対策のさらなる強化を目指す
Gem Medで報じているとおり、医療機関等における医療安全対策をさらに進めていくために「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」(以下、医療安全検討会)で具体的な方向を取りまとめ、これを踏まえた医療法施行規則見直しなどが行われます。
具体的には、次のような法令等の見直しが行われます。
(A)医療機関における医療安全管理体制の改善
(1)重大事象把握の質向上
▽医療機関の医療安全管理委員会などが「自院で発生した重大事象」を確実に把握できるように、「患者への影響度が高く、かつ回避可能性が高い12の事象」(手術における患者取り違えなどの、いわゆるネバーイベント)を「報告すべき重大事象」に含める(報告義務の対象拡大)
▽「患者への影響度が高いが回避可能性は必ずしも高くない12の事象」(手術等の侵襲的手技における術中心停止など)は、「報告すべき重大事業」に含めるよう努める(努力義務)
(2)報告分析・改善策立案の質向上
▽医療機関全体の安全管理を担当する【医療安全管理者】を「医療安全管理委員会と連携し、当該医療機関の医療安全に責任を持つ者、またはその責任者から指示を受けて業務を行う者」として、医療法の制度上に位置づけ、その役割等を明確化する
▽医療機関の規模等に応じて提供する医療内容や医療安全に係る資源が異なることなどを踏まえ、【医療安全管理者】には「医療有資格者であること」「特定の研修を修了すること」などを求めず、多くの医療機関が機能に応じて適切に医療安全管理者を配置できるようにする
▽大半の病院で医療安全管理者が既に配置されている現状、入院・入所施設を有する診療所や助産所でも医療安全管理委員会の設置が医療法で義務づけられていることに鑑み、「入院・入所施設を有する全ての病院等(病院・診療所・助産所)では【医療安全管理者】の配置を義務化」する
▽【医療安全管理者】には、必要に応じて「医療安全管理者指針に則った研修の受講」を推奨する(厚労省で、研修を受講しやすい環境整備を推進する)
▽継続的な学習の機会を確保し、医療安全管理者の能力を維持、向上させるため、「適切な医療安全管理者の継続学習の内容」に関して検討を行う
▽上記の【医療安全管理者】は、診療報酬のA234【医療安全対策加算】の施設基準で配置が求められる「医療安全管理者」よりも広義の概念となる(名称は同じだが、例えば下記のような違いがある)
→診療報酬の医療安全管理者には医療系資格保持が求められるが、上記の【医療安全管理者】には特段の資格要件はない
→診療報酬の医療安全管理者には医療安全管理の研修受講が義務付けられるが、上記の医療安全管理者には研修受講が推奨されるにとどまる(研修内容も異なるものとなる見込み)
新たに医療法の制度上に「医療安全管理者」を位置づける(医療安全検討会3 251029)
大病院等における「新たな医療安全管理体制」イメージ例(医療安全検討会4 251029)
中規模病院等における「新たな医療安全管理体制」イメージ例(医療安全検討会5 251029)
クリニック等における「新たな医療安全管理体制」イメージ例(医療安全検討会6 251029)
(3)管理者によるガバナンスの強化
▽医療機関で重大事象が発生した際に、管理者が適切にガバナンスを発揮し、対応を進められるよう「必要に応じて管理者が医療安全管理委員会等と連携しながら、個別の診療の継続の可否(手術の一時停止の必要性等)の判断を含めて、必要な対応を行える」ことを明確化する
(4)改善策への取り組みの強化
▽医療安全管理委員会で検討された取り組みなど現場に周知し、機能的に実践できる組織を構築するため、「医療安全管理委員会の構成員の役割、医療安全推進担当者の位置づけ、役割」などの現状を把握し、これらの明確化を検討する
(5)医療安全に係る外部からの支援の充実
▽各医療機関の有する知見や医療安全に係る資源を有効活用する観点から、「医療機関同士が相互に医療安全の取り組みを評価し改善する取り組み」(ピアレビュー)を特定機能病院も含めてさらに推進する
▽「複数の医療機関がネットワークを作り、医療安全に関する情報交換や相互支援等を行う取り組み」も、地域の実情に則して推進する
(B)医療事故調査制度の改善
(1)医療事故判断の質向上
(医療事故判断の記録整備)
▽各医療機関で、「医療機関が把握した全死亡・死産事例をチェックし、『報告すべき医療事故』に該当する可能性のある事例を抽出し、必要に応じて支援団体等へ支援を求め、最終的にその該当性を判断するまでのプロセス」を整備し、医療安全管理指針に記載すること、各プロセスにおける判断結果および理由等を記録し、保存することを義務化する
▽上記のプロセスには、センターからの伝達を含め、遺族等から「医療事故ではないか」と申し出があった場合に、それに対して「改めて医療事故への該当性を組織として判断し、その結果を遺族に説明する」プロセスが含まれるべきである
▽判断結果・理由ならびに遺族等への対応についても記録し保存することを義務化する
(管理者等の研修受講義務)
▽医療事故かどうかの適切な判断のためには、医療事故の判断に携わる者が制度を十分に理解していることが不可欠であり、「管理者等の医療機関で医療事故の判断に携わる者」に「医療事故調査制度に関する研修」受講を義務づける
▽研修受講は「管理者」が望ましいが、「管理者以外の者」が研修を受講する場合には、その者が「管理者の医療事故判断」を支援することを義務づける
▽研修受講義務は「病院、手術(分娩含む)を行う入院・入所施設を有する診療所・助産所」とするが、その他の医療機関でも「医療事故の判断に携わる者」に研修受講を推奨する
▽厚労省は「管理者が受講すべき研修」の内容を整理するとともに、管理者が研修を受講しやすい環境の整備に努める
▽管理者が「医療事故の該当性を判断する際の参考情報」を充実させるため、センターに蓄積された「センター合議」の事例を検証し、一般化・普遍化した情報を医療機関等に提供する
(2)院内調査の質向上およびセンター調査の透明性向上
▽院内調査の質確保のために、支援団体等(医師会、病院団体、大学病院など)が示す「院内調査にかかる指針」や研修等のさらなる充実を図り、院内調査の担当者に研修受講や指針等の活用を推奨する
▽センター調査の透明性を向上させる観点から、センターで一定の整理を行い、第三者を含めて議論した上で、将来的に「センター調査マニュアルの提示」(公表)を目指すとともに、参考例として「複数の架空事例報告書の作成・提示」を行う
▽センターは、その活動内容を、医療界を含め国民の理解が広く得られるような形で情報発信を進めていく
▽「センター調査結果報告書の公表」については、様々な意見があるため、論点を整理した上でさらなる検討が必要である
(3)再発防止による医療安全向上の促進
▽センターに蓄積された情報を再発防止へさらに活用していく観点から、センターの提言等について、の医療機関や学会等への周知・実装、企業による製品の改善・開発への活用等をさらに推進する
▽センター調査結果報告書についても一般化・普遍化したうえで、再発防止に活用することができることを明確化する
(4)支援団体による支援の充実
▽各支援団体に体制等の現状、今後の意向を確認した上で「支援団体を再整理」する
▽支援団体による支援体制をより強化するため、支援団体における医療事故判断や調査全般の支援を提供できる人材の育成を推進する
▽事例ごとに「適切な支援団体を医療機関に紹介・情報提供する」ために、各地方協議会が管内の支援団体の情報を把握できる体制を構築し、支援団体に対し「提供可能な支援内容や活動実績等を協議会と厚労省に定期的に情報提供する」ことを義務付ける
(5)国民への制度に関する周知促進
▽センターはもちろん、医療関係者、患者、行政等の幅広い関係者が協力して医療事故調査制度の普及啓発を推進する
▽医療に関する苦情・心配や相談への対応、医療機関、患者・住民に対し医療安全に関する助言・情報提供等を行う「医療安全支援センター」の普及啓発の中に「医療事故調査制度」を加える
今般の通知では、上記(A)「医療機関における医療安全管理体制の改善」の(1)「重大事象把握の質向上」に関するA類型とB類型について再確認を行っています。
まずA類型は、医療機関の医療安全管理委員会などが「自院で発生した重大事象」を確実に把握できるように、「患者への影響度が高く、かつ回避可能性が高い12の事象」について、院内で発生した場合に「院内の医療安全管理委員会等へ報告する義務を課す」ものです。
【患者への影響度が高く、かつ回避可能性が高い12の事象】(A類型)
(1)手術等の侵襲的手技(下記参照)における「患者、部位、手技または人工物の取り違え」
→手術室以外で行われるものを含む
→カテーテルや内視鏡を用いた検査・治療、中心静脈 穿刺、その他の穿刺(末梢血管穿刺等の軽微なものを除く)を含む
(2)手術等の侵襲的手技(同)における「意図しない異物の体内 遺残」
(3)薬剤または栄養剤等の投与経路間違い(経消化管/非経消化管投与の取り違え、または経静脈/髄腔内投与の取り違え)
(4)ハイアラート薬の過剰投与(インスリンの予定量の10倍以上の投与、高濃度カリウム液の急速投与、または抗がん剤の過量投与)
(5)既知のアレルギーまたは禁忌薬剤等の投与(下記参照)による死亡または後遺障害
→アレルギー・禁忌情報を把握した上で、リスク・ベネフィットを医学的に判断して投与した場合を除く
(6)意図しない不適合な血液または血液製剤/成分の輸血または臓器の移植
(7)放射線治療における照射線量の設定間違い、照射部位の間違い、または累積線量の誤認
(8)栄養剤等の注入前に検出されなかった消化管チューブの気道への留置
(9)気管切開チューブの迷入による死亡または後遺障害
(10)医療用ガスの取り違え、酸素投与が指示されている患者への無投与による死亡または後遺障害
(11)医療機器の誤使用または故障による死亡または後遺障害
(12)重大な検査結果(下記参照)の確認、伝達またはフォローアップの失敗による死亡または後遺障害
→検査結果には検体検査・画像検査・生理学的検査・病理学的検査が含まれる
→「重大性」の定義は各病院で設定する
A類型1(全医療機関で報告義務)
A類型2(全医療機関で報告義務)
「重大」かつ「確実に回避できる手段が確立している」事象であり、確実な再発防止に向けて「確実な報告、把握」にすべての医療機関が努めることが強く求められます。
また、B類型は「患者への影響度が大きい」ものの、「回避可能性は必ずしも高くない」(最大限の注意を行っていても生じてしまうことがある)事象で、院内で発生した場合には「院内の医療安全管理委員会等へ報告する努力義務を課す」ものです。ただし、特定機能病院では、このB類型事象についても「報告義務」が課されている点に留意が必要です(特定機能病院ではA類型12事象、B類型12事象の合計24事象について、院内で発生した場合に「院内の医療安全管理委員会等へ報告する義務」が課されている)。
【患者への影響度が大きく、回避可能性は必ずしも高くない事象】(B類型)
(1)手術等の侵襲的手技(下記参照)における以下の事象
▽術中心停止
▽大量出血(下記参照)
▽周辺臓器損傷(下記参照)
▽予定外の再手術
→手術室以外で行われるものを含む
→カテーテルや内視鏡を用いた検査・治療、中心静脈 穿刺、その他の穿刺(末梢血管穿刺等の軽微なものを除く)を含む
→「大量出血」については、各病院で明確な基準を設定する(例:術中ショックを伴った大量出血)
→「周辺臓器損傷」には、カテーテル治療における血管穿孔、消化管内視鏡における消化管穿孔を含む
(2)硬膜外麻酔または脊髄くも膜下麻酔に関連する血腫による死亡または後遺障害
(3)気道確保困難または食道挿管による死亡または後遺障害
(4)鎮静による死亡または後遺障害
(5)カテーテルによる検査または治療における高線量被曝(下記参照)
→各病院で明確な基準を設定する(例:3Gy以上)
(6)生体情報モニターのアラームへの対応に関連する死亡または後遺障害
(7)肺血栓塞栓症による死亡または後遺障害
(8)脳空気塞栓症
(9)分娩に関連する母体の死亡または後遺障害
(10)入院中の患者の自殺または自殺未遂
(11)転倒・転落による死亡または後遺障害
(12)ベッド柵による挟まりまたは拘束具の使用による死亡または後遺障害
B類型(特定機能病院では報告義務、一般医療機関では報告の努力義務)
医療機関におかれては、上記A類型・B類型の事象の内容等を院内スタッフに周知するとともに、A類型については「発生した場合に確実に報告する」、B類型についても「できるだけ報告する」体制および風土を急ぎ構築し、医療安全対策の充実に努めることが強く求められます。
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