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第80回都コンに向けて。「混声合唱とピアノのための『沈められたピアノ』」誕生エピソード。

今年の9月6日、2025年度第80回東京都合唱コンクールにて指揮・相澤直人、ピアノ・渡辺研一郎、そしてあい混声合唱団の皆さまによって、拙作「混声合唱とピアノのための『沈められたピアノ』」が初演されます。

本作品は、詩人・紫衣さんの詩集「旋律になる前 の(思潮社)」の最後の頁に載っている「沈められたピアノ」という詩を使わせていただき作曲した楽曲です。

その「沈められたピアノ」の誕生秘話を少しnoteに書かせていただこうと思います。

詩人・紫衣さんの作品との出会い

現代詩手帖を初めて読む

本楽曲を語るには、まず合唱のテキストとして使わせていただいた紫衣さんとの出会いがどうだったのかを語らねばなりません。一介の作曲科学生だった私が紫衣さんの作品と出会ったのは「現代詩手帖」でした。

時は遡ること2020年、コロナ禍の真っ只中で大学3年生だった私は、学校への登校が禁じられ、レッスンも全てオンラインという状況の中、詩を読むことに没頭していました。コロナ禍の厳しい状況で、作曲をしても、作品を演奏することができない(演奏会を開催することができない)という環境の中、せっかく時間があるのなら、合唱を書きたいと思っている自分の創作と密接に関係がある「詩」をたくさん読んでみようと、手に取ったのが「現代詩手帖」「ユリイカ」といった雑誌でした。

萩原朔太郎や中原中也などの詩を読んでいた私にとって、専門誌の投稿欄に掲載されているような詩はあまり馴染みのあるものではなく、特に改行や記号を要素として自由に扱っていたり、非常に難読な漢字を多用していたりする作品は、難解でありながらも歯応えがあるような、奥深くにある世界を掘り起こそうと一生懸命になっている作品のように思えました。

そして、その中読書体験の中で、ちょうど現代詩手帖賞を受賞された紫衣さんの詩を読んだのです。

一目読んだだけで「これは凄い作品だ」という直感がありました。

同時に何か旋律の香りがするような、響きが立ち込めてくるような直感がありましたが、当時の自分にはあまりにその作品の精度が研ぎ澄まされており、それに見合った曲を付ける術を持っていませんでした。そんな紫衣さんとお話しさせていただけるようになるのは、その翌年の藝祭がきっかけです。

藝祭2021

大学学部4年、コロナ禍でありながらも藝祭が復活。オンラインでの配信を中心に演奏会もわずか数件だけ行われることになりました。ちょうど大学を卒業する年ということもあり、最後の藝祭に作品を出そうと同期や後輩を誘って藝祭に応募。「Meraki」という団体で、40分ほどある作品「音楽朗読劇 Dream of the Little Mermaid」という作品を作曲し初演しました。

この作品は、当時自分が閉じ込められているような、苦しい生活の中での悲しみや孤独を、アンデルセン童話の人魚姫に準えて、作曲だけではなくストーリー部分の朗読台本も自分で手がけた初めての作品でした。

本作品は藝大での収録と生配信でインターネット上で公開。Twitterなどでどんな反応があるかなと、タイムラインを眺めていると、思いがけないことに紫衣さんが反応のコメントを寄せてくださったのです。

そこにお礼の連絡を差し上げたところから、お話しする機会をいただけるようになります。そうしたSNSでのやり取りの中で「いつか機会があれば、紫衣さんの詩に曲を書かせていただきたい」とお伝えし、快くご快諾いただくことができました。ではいつかその機会があれば……、と思っていた中、転機が訪れたのは2023年の冬のことでした。


突撃!相澤邸

相澤先生との再会

藝大作曲科を卒業して数年、作曲家として生活する日々の中で、相澤直人先生と再会したのは「EDITION ICOT オール新作演奏会 今を生きる作曲家の群像 VOL.2 邦人作曲家編」という演奏会でした。

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「作曲家全員集合」と書かれているけど、自分なんかが作曲家「全員」の枠に入っていいのかしら…!? と思っています。

ここで「再会」という言葉に引っかかった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

実は2020年のコロナ禍での藝大生活、副科合唱の新しい先生として来られたのが相澤直人先生だったのです。当時は残念ながら「合唱」の授業でありながら対面が叶うことはなく、座学や理論が中心。初回の授業で後期にはきっと対面でやろうと購入した「季節へのまなざし」の楽譜が思い出のように残っています。

そこから3年の月日が経った2023年10月5日、渋谷区総合文化センター 大和田さくらホールで相澤先生と再会したのです。打ち上げ会場ではコロナ禍の時のこと、音楽のことと話が弾み、コロナで止まっていた時間が動きはじめた時間のようでした。

これは、同時に憧れの作曲家・指揮者の松下耕先生との出会いの場でもありました。

突撃! 相澤邸

それからさらに月日が流れ、2024年11月某日、相澤先生のご自宅にお邪魔させていただいていました。

「今を生きる作曲家の群像 VOL.2」での出会いの後、相澤先生には合唱や指揮法のことなどで度々相談に乗っていただいていました。そんな中図々しくも「いつかどこかでご一緒することができないででしょうか?」とご相談していたのです。

そして……ついにその日がやってきました。新作の打ち合わせです。

家ではっさく先生からのお出迎えを受け、とっても美味しい(高そうな)オレンジジュースをいただきながら、新作の構想について相談しました。作曲の展望について話しながら「この詩が素晴らしいのですが……」と、紫衣さんの詩集「旋律になる前 の」より「沈められたピアノ」を相澤先生にお見せすると「すごく良いから、この詩の世界がどう音楽になるか見てみたい!」と仰っていただきました。

そこで私はすかさず、勝手に書き始めていた譜面をお出ししたのです。

「えっ!? もう書いてんじゃん!?(爆笑)」(by相澤先生)

そう、実はこの相談の前から自分の創作意欲が爆発し、「沈められたピアノ」の冒頭を作曲していました。どの詩を使うのか、はたまた委嘱についても、この段階で確定していた事実はありませんでしたが「やるならこれしかない!」と、思い浮かんだ響きを書き留めていたのです。

その譜面をお見せしながら、どのような編成にするか、続きの展開の部分をどうしていくか、どのような音を響かせるピアニストがいいかなどのお話をしながら、正式に委嘱としてオファーをいただけることになりました。

自分の溢れでてしまった勢いを受け止めてくださった相澤先生には感謝してもしきれません。

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相澤先生のご自宅で相澤先生、はっさく先生と。

あい混の皆さんとのリハーサル

苦悩の作曲

そうしていよいよ始まった作曲。素晴らしい詩と、素晴らしい演奏者が確定しています。

あとは思い切りのびのびと書けばいい……、と思いたいのですが、あい混声合唱団の前の委嘱作品の「アモール・ファティ」「人はかつて樹だった」といった名曲たちを聴くと、その楽曲のクオリティの高さ、演奏の素晴らしさから「これほどの情熱を持って取り組んでくれる人たちに『相応しい曲』を書かないといけない……」と、「やりたい!」と言ったは良いもののどうすれば良いんだと、呆気に取られていました。そして一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、だんだんと締切が近づいてきます。

「次の〇〇日に練習があるので、そこまでにできている楽譜をお送りいただけますでしょうか!」

と、相澤先生からのたいへん優しいラブコールをいただきながら、必死で曲を書き続けました。

紫衣さんの詩の世界を表現するために、私が選んだ編成は通常の混声合唱とピアノに、女声のSoli3声を加えた編成。通常の合唱曲よりもやれることがすごく多いですが、混声合唱とSoli群の役割の分担や、音量バランスの問題などに細心の注意を払いながら作曲を進めていきました。どのように書けば良いのかわからないと思ってしまうような瞬間もたくさんありましたが、そんな時に私を導いてくれたのは紫衣さんの詩「沈められたピアノ」でした。

この世界なら、こういう響きがするだろう。

この言葉なら、このような和音が鳴っているはずだ。

そんな感覚を、少しずつ音符の形で譜面に落とし込んでいきました。

こうして出来上がった「混声合唱とピアノのための『沈められたピアノ』」のデータを送りました。

あい混声合唱団の皆さんとのリハーサル

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自分が初めてあい混の皆さんとお会いした時。

そしてついにやってきた立ち会わせていただく初回の練習。

「あい混声合唱団」の皆さんは、自分がYouTubeで演奏を聴いてきた方々です。

「あっ! あの人、動画で見た人だ!」

と、思いながら演奏を拝聴していました。

コンクールより、2ヶ月も前でありながらすでにかなりのクオリティで演奏をしてくださったあい混の皆さんに、譜面に書ききれなかった思いをお伝えし、この日の練習は終了。

そして、第二回目の合わせには紫衣さんにお願いを申し上げ、同席していただけることとなりました。

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コンクール前であい混の皆さんと一緒に。

リハーサル会場の駅前で、紫衣さんと合流させていただき、お礼を申し上げながら色々と詩についてのお話を伺い、会場に向かいます。この日の練習場所は東京コンサーツラボ。「そういえば昔、現代音楽をここで何回も聴いたなぁ……」と懐かしい気持ちになりながら、会場に着くと、すでにピアニストの渡辺研一郎先生と合唱の皆さんの濃厚なセッションが展開されていました。

少しネタバレになりますが、今回初演していただく「混声合唱とピアノのための『沈められたピアノ』では、要所要所で「Ais」が使われます。これは私にとって特別な意味を込めて書いていたのですが、まさにその「Ais」をどのような質感で歌うかという話になっていたのです。渡辺先生は「11倍音としての距離を感じて」と仰っていたと思います。この音に込めた世界の中での質感や距離をどのように拾い上げて歌うのか、あい混の皆さんはとても丁寧に考えてくださっていました。

そして、相澤先生の指揮のもと、一つ一つコンクールに向けて丁寧に音楽を作り込む作業が始まります。このような場に同席させていただけることが、どれほど豊かな体験だろうかと、音楽家として幸せな気持ちになりながら、前回お伝えしきれなかったようなことを、紫衣さんと一緒にお話しさせていただきました。


第80回東京都合唱コンクール

そうして、いろいろな方に助けていただいて、今回作曲させていただいた「混声合唱とピアノのための『沈められたピアノ』」が、指揮の相澤先生、ピアノの渡辺先生、そしてあい混声合唱団の皆さんによって「第80回東京都合唱コンクール」にて初演されます。

どのような初演になるのか、本当に楽しみです。

そして、作曲という行為は一人では成立せず、紫衣さんのような詩人や、相澤先生をはじめとする演奏してくださる方々、多くの人に支えていただき、行えていることなんだと感じています。本当にありがとうございます。

皆さんぜひ、お時間がありましたら「第80回東京都合唱コンクール」で初演をお聴きください!素晴らしい演奏になること、本当に間違いなしです。

(2025. 9 .16.追記)
音源公開されました!

演奏情報詳細

2025.09.06(土) 東京都合唱コンクール
於:文京シビックホール 大ホール

大学職場一般部門 混声合唱の部 11番目(14:15〜予定)
指揮:相澤 直人 ピアノ:渡辺 研一郎

課題曲
G3 秋の午後(「光る砂漠」から)
矢澤宰 詩/萩原英彦 曲

自由曲
混声合唱とピアノのための「沈められたピアノ」【委嘱初演】
作詩:紫衣  作曲:内田 拓海


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内田拓海

1997年生まれ。神奈川県藤沢市出身。東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻在学中。6歳の時に学校へ行かないことを決意し、小・中学校の9年間をホームスクーラーとして過ごす。通信制高校に進学後、音楽経験がほぼゼロの状態からピアノと作曲の勉強を始め、2浪の末、東京藝術大学音楽学部作曲科へ進学。自身の経験から、鑑賞者にとっての“居場所”となれるアートの探求、創作活動を行っている。受賞歴に、令和5年度奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第3位、東京藝大アートフェス2023東京藝術大学長賞(グランプリ)など。著書に「不登校クエスト(飛鳥新社刊)」。

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コメント

1
 けいこ
 けいこ

『沈められたピアノ』初演おめでとうございます!詩と音楽がどのように響き合うのか、とても興味深く拝読しました。ぜひコンクールでの演奏を聴いてみたいです。

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第80回都コンに向けて。「混声合唱とピアノのための『沈められたピアノ』」誕生エピソード。|内田拓海
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