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『テミスの不確かな法廷』ダメな弁護士役で初ヒロイン 「自分の煩わしい正義感を肯定してもらえました」

芸能ライター/編集者
『テミスの不確かな法廷』に出演中の鳴海唯 (C)NHK

ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)を隠す裁判官を松山ケンイチが演じるドラマ『テミスの不確かな法廷』。彼と向き合って影響を受ける自称「ダメな弁護士」を鳴海唯が演じている。昨年は朝ドラ『あんぱん』や『地震のあとで』、『シナントロープ』など出演作が相次ぎ、今回はドラマで初のヒロイン。『宙わたる教室』の制作チームによる話題作で大きな脚光を浴びそうだ。

人と誠実に向き合いたいのが重なります

――弁護士役は以前から、演じたい職業のひとつと発言されていました。

鳴海 何となく自分のパーソナルに合っている気がしていました。私には正義感が強い部分や、曲がったことが嫌いだと思う瞬間があって。

――その正義感はどんなときに発揮されるんですか?

鳴海 正義感が強いと言うと外に向けるイメージがありますけど、私はちょっと違っていて、自分にウソをつきたくない想いが強いのかなと。人と誠実に向き合いたいところが、依頼人を守る弁護士の役に重なる部分がありそうだと、ずっと思っていました。

――日常で出る性格的なものなんですね。

鳴海 その想いはどこから来たのか(笑)、自分の無駄な正義感が時に煩わしくなります。良くも悪くも大人にならないといけないことは、やっぱりあるんです。そこでどうしても融通が利かない部分が私にはあって。真面目すぎるというか、いろいろなことに「ちゃんとしなければ」となってしまう。それが私生活ではイヤで、もうちょっと力を抜けたらいいのにと思うところも多々あります。でも今回、「何でもっとうまく生きられないんだろう」という自分を、肯定してもらえる役に出会えた気がします。

(C)NHK
(C)NHK

大人になり切れなくてもいいんだと思えて

――『テミスの不確かな法廷』で演じる小野崎乃亜について、「正義感と現実の狭間で揺れ動き、心が何度も折れそうになる。そんな瞬間は私自身も経験があり」とコメントされています。

鳴海 思い描く理想とは違う方向に自分が行ってしまって、「私は何のためにこの仕事をしているんだっけ?」と考え込むことがあります。小野崎も「裁判って何のためにやっているんですか?」と言うシーンがあって、すごく通じます。きっと私だけでなく、社会人として生きている方々が共感する部分ではないかと。

――そうですね。

鳴海 小野崎は東京の大手弁護士事務所にいて、ある事件をきっかけに心がポキッと折れて、弁護士を辞めるつもりで父親の地元の前橋に来ました。そこで特性を持った裁判官の安堂と出会い、大人になり切れなくてもいいんだと思えて、自分が信じた正義に猪突猛進することを許すマインドになりました。

実際の裁判を傍聴してどう落とし込むか

――法廷ものの作品も好きだったんですか?

鳴海 そうですね。以前から好きだったのは映画の『Winny』で、今回の作品に入る前は『それでもボクはやってない』を観ました。あと、まったく色は違いますけど、『リーガル・ハイ』や『HERO』も観ていて。シリアスさもポップさも私は好きなので、いろいろ参考にできればと思いました。

――弁護士役を演じるに当たって、事前に調べたこともありますか?

鳴海 そもそも弁護士とはどんな職業なのか? というところから学ぶことが膨大すぎて、取捨選択しながら準備しました。まず実際の裁判を傍聴して、ドラマにどう落とし込むかを考えつつ、弁護士さんの書かれたエッセイを読んだり、司法関係者の視点や心構えをネットで勉強したり。あとはエピソードごとに扱う事件の概要を、台本を読んで要約しました。小野崎もきっと弁護のために要約するので、そういうことを書いたノートをお守りのようにしています。

難解な台詞を流暢に話さないといけなくて

――実際の法廷を傍聴して、どんなことを感じました?

鳴海 基本的には淡々と進んで、弁護士も冷静でなければいけない。その現実と作品としてのエンタメ性のバランスは、今もずっと探っています。実際にいくつかの裁判を見ていると、被告人の方が感情的になって熱を帯びる瞬間もあるので。そこを膨らませたら、リアリティを持ちつつ面白いシーンになると思いました。

――「起訴事実への反証の方針と共に証人申請を行います」とか、法律用語も含む長台詞は大変ですか? 

鳴海 毎日追い込まれています(笑)。等身大の女性を演じるときの話し方と、法廷で裁判官に伝える言葉では、発声から変えるように意識していて。

――苦戦した法律用語もありますか?

鳴海 ほとんど全部が難しいです(笑)。今まで生きてきて言ったことのない難解な言葉を、ちゃんと意味を理解して流暢に話さないといけなくて。鍛錬が必要でネット辞書は欠かせません。私だけでなく、先輩方も皆さん必死なんです。毎日キャストの誰かに大変な長台詞があって、「頑張ってね」と声を掛け合うことで団結力が生まれています。

空気を過剰に察して疲弊してしまうので

――安堂が口にする「わからないことをわかってないと、わからないことはわかりません」という禅問答のような言葉は、理解できましたか?

鳴海 真実を突き詰めることの大切さを安堂流の言葉で言っていると、私は解釈しています。一度気になったことは、とことん調べずにはいられない。そんな安堂の特性が、小野崎に初心を思い出させた気がします。それで、また弁護士をやろうと思えたんじゃないかと。

――そうした安堂の言葉は、役を越えて鳴海さん自身に響いたりもしますか?

鳴海 今の時代、多様化が進む中で、生き辛さも感じていて。私は自分の意見を言うことに怖さがあります。安堂は場の空気を察せずに発言してしまいますが、私は逆に、空気を過剰に察して疲弊してしまうところがあって。ないものねだりながら、安堂の素直さに憧れる部分もあります。

変化球でリアルなシーンが生まれます

――安堂役の松山ケンイチさんの芝居から、刺激を受けることもありますか?

鳴海 物心がついた頃から、テレビや映画で拝見していた大先輩ですから。実は『どうする家康』でも1シーンだけご一緒させてもらって、そのときから変化球のお芝居をされる印象がありました。想像してなかった面白いアイデアを持ち込んでくださって、こちらも考えていたお芝居が変わるので、リアルなシーンが生まれて。毎回ワクワクします。

――1話でナポリタンを食べている安堂を、小野崎が追い掛け回すのも面白かったです。

鳴海 やっていても楽しかったです。安堂が席を行ったり来たりしながらナポリタンを食べるのは、松山さんのアイデアでした。あそこで作品のテンポがグッと上がりました。

――合間には演技の話をしたりも?

鳴海 全然違う話をしています。私は自分の体に無頓着で、健康グッズをたくさん教えていただきました(笑)。風邪の予防に鼻うがいがいいとか、眠くなりにくいサプリがあるとか。そんな感じでコミュニケーションを取っています。

法廷とのギャップで弱点も見せられたら

――小野崎のキャラクター的に意識することもありますか?

鳴海 1人で突っ走って時に空回りもしながら、法廷ではしっかり仕事をまっとうしたいキャラクターなんです。裁判のシーンとのギャップで、チャーミングさを見せることを大事にしています。

――先ほど出たように法廷では冷静に話して。

鳴海 法廷のシーンは緻密に描かれている中で、小野崎が様々な想いを背負って裁判に臨んでいる姿を表現したくて。それ以外では焦って挙動が大きくなったり、早口になったり。そのギャップで人間として弱点も見せられたら、面白いのかなと。

――小野崎は裁判官の安堂のことまで調べ上げて、喫茶店で待ち伏せして「内密の相談」を持ち掛けたり、手段を選ばないところもあります。

鳴海 弁護士の域を越えていますよね(笑)。

――鳴海さんも役のためなら、何でもとことんやったりしますか?

鳴海 最近、簡単な台詞でも自分の中でしっくり来てないと、口にできないことがよくあります。なぜこの人物はここでこういう発言をするのか。腑に落ちてなければ「何で?」と考えることを大切にしています。

役を覚えてもらうに越したことはないので

――前回の取材で「作品に出ていても鳴海唯だと気づかれないことが多い」という話がありました。前期の『シナントロープ』でも青髪で、またそんな感じだったでしょうか?

鳴海 知らないと私だと思われませんね(笑)。でも、役を覚えてもらえるのに越したことはないので、役者冥利に尽きます。ネガティブには考えていません。

――今回の小野崎の外見は際立ったところはありませんが、ポイントにしていることもありますか?

鳴海 去年はわりと前髪を作ってなくて、『あんぱん』でも特徴的な髪型でしたけど、今回は前髪を広くしました。キャッチーなキャラクターなのを、ルックでも見せたくて。あと、たまたまですけど茶色の衣装が多いです。衣装合わせのときに茶髪だったので、髪色ともマッチしていてかわいくて、演じるモチベーションを上げてくれます。

――弁護士役をやってみたかったとのことですが、弁護士になりたいと思ったことも?

鳴海 いやいや、恐れ多いです。カッコいい仕事だなと憧れてはいます。

――俳優以外になりたいと思った職業はありましたか?

鳴海 小学生の頃はパン屋さんになりたかったです。ただパンが好きだったので(笑)。あと、宇宙も好きで、宇宙飛行士になりたいと文集に書いたりもしました。

真っすぐになりすぎるのをポジティブに

――会見では鳴海さんの演技について、松山さんやプロデューサーさんから「真っすぐ」「誠実さを感じる」という話が出ていました。

鳴海 劇中で小野崎が「変わってる」と言われて「個性ということですよね? 褒め言葉ですよね?」と聞くシーンがあって、その台詞がすごく好きです。私は自分がガーッと集中すると真っすぐになりすぎてしまうところが、イヤだと思うことがよくあるんです。そこをポジティブに捉えられるようになりたくて。この作品をきっかけに、私自身もまっすぐさを個性と思いたいです。

――遠藤憲一さんからは「陰で相当の努力をしていると思う」とも言われていました。

鳴海 そんなことはないんです。当たり前のことしかやっていません。

――今回はドラマで初ヒロインと、どんどん脚光を浴びている中で、役者として自分の支えになっているものはないですか?

鳴海 去年場数を今までで一番多く踏ませてもらえたことが、自信に繋がればいいなと思っています。これからもそういう機会が訪れるように、地に足を着けて取り組んでいきます。

Profile

鳴海唯(なるみ・ゆい)

1998年5月16日生まれ、兵庫県出身。2019年に『なつぞら』でドラマデビュー。主な出演作はドラマ『Eye Love You』、『あのクズを殴ってやりたいんだ』、『あんぱん』、『シナントロープ』、映画『赤羽骨子のボディガード』、『アフター・ザ・クエイク』など。ドラマ『テミスの不確かな法廷』(NHK)に出演中。

ドラマ10『テミスの不確かな法廷』

NHK総合・火曜22:00~ 公式HP

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埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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