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○○ホイホイと御守り男【槍弓】2/Novel by 伊吹〜文章は気の向くまま〜

○○ホイホイと御守り男【槍弓】2

2,554 character(s)5 mins

ランサーサイド。

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カフェという不特定多数の人間が出入りする場で働いていれば、様々な人間を見る。
常連となると数は限られるがそれでも沢山の人間と、それこそ見るのではなく“出会う”。
だが接客業は、余程濃い関係を構築する営業職でなければ、スタッフ側からするとその出会いですら通常のそれより濃度が薄められた主観になる。
本当は、出会いと見るの間位の感覚だ。
知ってはいるけれど、知り合いではない。
そんな風にギャルソンと客という関係を満遍無く築いている生活で、何故あの男だけ気になるのかというと、ランサーには上手く説明が出来ない。

「恋ね?ランサー君」

変な裏声でそう言った、年子の兄へクッションを投げつけたのは昨日の事だ。

そうじゃない。
ただアレは昔自分が嫌になる位見てきた…父に、見せられてきた…類の人間と同じ様な…そんな気がしたのだ。
実に20年弱ぶりに見た…そういう表情の、人間。
記憶の明確なデジャヴと言ってもいいだろうか。
これを言えば、兄は心配するだろうし其奴に興味を持ってしまうだろうから言わない。
実際の所、自分にはそれが本当にかつて見てきた“それら”と同じかどうかは判らないのだから。
唯の気のせいかもしれない。

何せ自分は、兄と違って鈍感だから。



「いらっしゃいませ…久し振りですね」

気になっていた男が随分と久し振りにカフェへやってきた。
アーチャーというこの自分より年上(に見えないが年上だった)のスーツをきちんと着こなした会社員の男は、常連と言っても差し支え無いと思うが、来店の頻度にばらつきがあるので、準常連だなんて不名誉っぽいクラスに位置付けられている。
誰によってかって、このカフェの10代の女性アルバイト達にだ。

それにしても、今日は又顔色が悪い。
過労と言えばそれまでだろうが、それにしては此の店でのんびりコーヒータイムを堪能しただけで顔色が復活するのは極端ではないか。
始めはどんより偏頭痛を堪える様な表情のくせに
コーヒーとスコーンが半分になる頃には、随分と落ち着いた顔色になる。
帰る頃には眼精疲労が引いて来店時より目が大きく見える位。
随分スッキリしたものだ。

その帰るタイミングでランサーがお見送りになったのはその日初めてだった。
ドアを押さえ「又お待ちしております」と声をかけた時、
シャンと伸びていた男の背中が突然何か重い物を担いだ様に沈んだのだ。
急に猫背になった様に見えて思わず…手が出た。
かつてそうさせられていた時の様に。
兄がいつもそうする様に。

バン!

「った?!」

アーチャーは驚いた様に此方を振り向いた。
そりゃ、そう反応するだろう。
思いっきり背中をぶっ叩いたのだから。
それも自分で言うのも何だがそこそこガッチリした成人男性の腕力で。
だがこっちも思わずというか、衝動的にやってしまった事なので「猫背だと肩凝るだろ」とか下手な言い訳を並べて誤魔化すしか出来なかった。
それでも、アーチャーは随分驚いていたので上手く流されてくれた。
この時ランサーの中では、コイツこんなんで大丈夫かという余計なお世話と、小さな確信が出来上がっていた。
自分は鈍感だが、この男に限って言えばこれは“そう”なのだと。

「本当さ、もっとマメに来なきゃダメだぜ。あんた」

何でこんな事を言ってしまったのか。
この、こんなんで大丈夫だろうかという気持ちから出た言葉だったのかもしれない。
この男が“そう”だとしてもランサーがそんな甘っちょろい言葉を掛ける必要は無いのに。

『恋ね?ランサー君』

「うるせえ」

「ランサーさん何か言いました?」

暇つぶしにアーチャーその他を準常連とクラス分けしている大学生のアルバイトが、ランサーの独り言を聞き咎めてきた。
そう、独り言。
悶々とスッキリしないものを抱えるランサーの脳裏で気持ち悪い裏声を発する兄の幻影に対しての。

「や、何でもね。このコーヒー持ってってくれ」

「はあい」

それ以上は突っ込まず、素直にサーブへ向かったバイトを眺めて鼻だけで息をつく。

カラン

レトロで暖かな空気を醸す店のベルが鳴った。
来客の合図。

「らっしゃいませー」

考え事をしていたせいか挨拶が雑になってしまった。
今日は出ていないマスターが聞いていたら指摘されていたところだろう。
いかんいかんと身を引きしめ笑顔でドアの方向へ向き直ると、

「よお、ランサー」

別に笑顔を向けなくてもいい奴が来た。
兄のキャスターである。
何時もなら直ぐに笑顔が真顔になってしまうというのに、それでも今ランサーの顔が固まった様に笑顔なのはそのキャスターが人を連れていたからだった。
それも…

「キャスターさんいらっしゃいませー。って、アーチャーさんとお友達だったんですか?」

準常連でもきちんと何かのついでに聞いた客の名前は覚えているアルバイトが席への案内をしないがら問う。
そう、キャスターが連れているのはアーチャーだった。
真っ昼間の時間帯に来るのは初めてこの店に来て以来だ。

「いや、その…」

何故か慌てた様にモゴモゴするアーチャーは、キャスターにがっちり手首を掴まれ
半ば引き摺られている様である。

「まあな。最近な」

何か適当な事を言っているキャスターは「奥のソファがいいんだが」と図々しくも注文を付けている。
ランサーの居るカウンターの前を通り過ぎる時アーチャーと目が合った。

「やあ、ランサー。お兄さんだそうで…その…」

アーチャー自身もしかして今の状況を上手く整理出来ていないのかもしれない。
やっぱり何かモゴモゴしている。
先日も思った所だったがこの男は初見の見た目と雰囲気に反して押しに弱い。
そう、コイツこんなんで大丈夫か…というランサーの心配が今正に的中している最中と見た。
だが、ランサーだってそれ以上に状況が掴めない。

「どうぞごゆっくりー…」

笑顔は固まったままで、アーチャーの挨拶には適当な接客文句を繰り返す人形の様にしかなれなかった。




あとがき
短めのランサーサイド。
次は何で唐突にご都合主義でキャスターが絡んできたか。






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