政府は25日、日銀の審議委員に中央大名誉教授の浅田統一郎氏と青山学院大教授の佐藤綾野氏を起用する人事案を国会に提出した。任期は5年。両氏とも財政拡張や金融緩和に積極的な「リフレ派」寄りのスタンスとみられる。承認されれば、日銀の利上げに消極的な政策委員が現行の1人から2人に増える。リフレ色の強い高市早苗政権の意向を反映させた人事と言えそうだ。
「これは単なる人事ではない。日銀執行部の利上げ画策に対する『当面は緩和スタンスを維持せよ』という、強烈なけん制球だ」。元日銀審議委員の安達誠司氏は25日のリポートでこう指摘し、今回の人事から高市政権の強固なリフレ志向が垣間見えると分析した。
市場では「2人の審議委員のうち1人は金融・財政政策で中立的な人物が提案される」との事前予想が多かった。2人ともリフレ派で固めれば、金融緩和・財政拡張が更に加速するとの受け止めが広がり、急激な円売りと国債売りを誘発しかねないためだ。
だが高市政権が提示した人事案は、そうした穏健な見立てを吹き飛ばす内容だった。
浅田氏はリフレ派の経済学者で、金融緩和と財政出動を組み合わせた第2次安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を高く評価していた。2022年には、「現代貨幣理論(MMT)」が有効との論文を発表。MMTは過度のインフレにならない限り財政赤字を容認する理論で、当時リフレ派の一部国会議員に支持されていた。高市政権で政府の経済財政諮問会議の民間議員を務めるリフレ派の代表格・若田部昌澄氏との共著もある。
佐藤氏もアベノミクスを支持する立場だ。23年には自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の勉強会に講師として参加し、「円安は日本経済にとってメリットがある」「金融政策は当面現状維持が望ましい」などの持論を展開していた。
両氏が現在もリフレ寄りのスタンスを維持しているかは定かではないが、市場では「サプライズ」との受け止めが広がった。人事案が発表された直後に円は売られ、1ドル=155円台前半から156円台前半まで円安が進んだ。財政悪化懸念を反映しやすい超長期国債も売られ、利回りが上昇(国債価格は下落)した。
日銀法は政策委員として、総裁1人、副総裁2人、審議委員6人を置くと定めており、これら計9人で構成する政策委員会で、利上げや利下げなどの金融政策を決める。年8回開く金融政策決定会合では多数決が採用されており、審議委員にも総裁や副総裁と同じ1票が与えられている。
3月31日に任期満了となり浅田氏と交代する野口旭審議委員は元々はリフレ派。だが、25年12月に決めた利上げの際は執行部案に賛成するなど、最近では利上げを容認する姿勢も見せていた。6月29日に任期満了となり佐藤氏と交代する中川順子氏は、金融・財政政策に対し中立的として知られている。
今回の人事案が衆参両院本会議で可決、承認されれば、政策委員9人のうち2人がリフレ派となる。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「政策委員会のパワーバランスが大きく変わるわけではない。物価高を助長する円安が進行すれば、日銀は結局は利上げせざるを得なくなる」と分析。利上げを強くけん制した形の高市政権について「物価高対策を訴えながら金融政策では生活コストを押し上げる方向に向かっており、ちぐはぐな印象を受ける」と指摘する。【古屋敷尚子、大久保渉】