相似証明
版権元:Fate/Grand Order
注意事項:ネタバレ ねつ造 独自解釈
ネタバレを含むためFGOの期間限定イベントFate/Accel Zero Orderを終了されてから読まれることを強く推奨します。
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「はじめまして、というべきか」
顔を合わせて第一声、そんなことを男は言った。
背は高い。見上げると黒い肌に映える白髪に目が留まる。こちらはフードと包帯で隠しているものの、全く同じと言っていい色相だ。
自分のこの魔術の使い過ぎにより灼けた肌と褪せた髪。彼の色合いもきっと同じだろうな、と判断する。素肌を晒している男と自分では、性質は全く異なるようだったが。
「……あなたを案内するよう仰せつかっている。問題がないならカルデア内を見て回りたいのだがどうだろう? 用事があるならそちらが済んでからでも構わないが」
ドアホンを鳴らした場所から動かず、廊下に立ったまま声だけがかけられる。室内の照明はつけていなかったので、明度差のせいであちらから僕の姿をしっかりと視認するのは難しいはずだが、窺うように小首を傾けた男はこちらの瞬き一つすら見落とさずに拾い上げているように思えた。
アーチャークラスと聞いている。これくらいの暗闇など労せず見通せるのだろう。サーヴァントというのはどいつもこいつも化け物揃いで腹が立つな、と自分を棚に上げつつ返答のため口を開いた。
「案内は必要ない。この部屋からレイシフト装置までの道順は知っている」
「一度きりでか? それは結構。だが他に最低限食堂とマスターの部屋と診察室は知ってもらわなければ困る。ああ、それからあなたは機械にも詳しいだろう? うちのサーヴァントはどいつもこいつも生きた時代が古すぎて役に立たないんだ、機器関連の設備を教えておくからいざという時手を貸してくれるとありがたい」
邪険に扱うこちらの態度に気付かぬはずもないだろうに、柳に風と言わんばかりに畳み掛けられる。無遠慮な口振りに眉根が寄ったが、欠片も堪えた様子はない。
「マスターの部屋ならまだわかるが、食事も診察も要らないだろう」
「要らないな。だが、知っておくべきだ。というのも見てわかる通りカルデアの職員はある事故により激減している。自分勝手にはしゃぎ倒すサーヴァントたちがいなければあっという間にがらんどうだよ」
確かに召喚されてから今までの短い期間ですら、異常と言っていい数のサーヴァントが実体化して歩き回っているのを目にしている。
「要はマスターの精神衛生のための義務だな。揃いも揃って賑やかで三度の飯より酒が好きというようなどうしようもない連中だが、マスターはああいう騒がしいのが嫌いじゃないらしい。そこに栄養は不要だのサーヴァントは酒精で酔えないだの正論を言ったところで興ざめだろう? 素直に案内されておくことをオススメする。ここで私の誘いを蹴ったところで次はマスター直々にお誘いがくるだけだからな」
「…………」
言われて今回の召喚主のことを思い出す。確かにこのアーチャーの言う通りの未来が訪れる予感がしたし、それよりはまだこの男の案内の方が無駄のない効率的なものになると予想できた。
「わかった、出よう」
ため息混じりに腰掛けていたベッドから立ち上がる。案内人は一つ頷いて、先に背を向けて歩き出した。
端的で効率的だが、取っ付きにくいわけではない。
男の性格だろうか、愛想はないが気遣いが垣間見えるのは奇妙な感覚だった。煩わせまいと気を遣われているのがわかる。それが息苦しくも感じないのだから、案外彼との相性は悪くないのかもしれなかった。
「一つ聞いてもいいかな」
半歩先を歩いていた男は、一瞥の後に前に視線を戻しながら「なんだね」と返した。
「君もエミヤというそうだけど、」
一度言葉を切って反応を見る。
話を聞いていることを示すように首が僅かに縦に振られたが、それだけだ。前置きに特に身構える様子はない。これだったら正直に疑問を解消しようとしても、そう変なことにはならなさそうだ。安心を得て続けた。
「君は僕の先祖か何かか?」
一拍後に男が隣に並んだ。
前を行く彼が足を止めたからだった。追い抜かしても行く先に困るので習ってこちらも立ち止まる。見上げる目は瞬きを繰り返していて、パタパタと上下する睫毛までもが白く抜けていた。
見れば見るほどつくづく似ているが、一方で全く似ていないのも確かだった。この奇妙な関係性に理由を求めてたどり着いた一つの可能性がこれだったが、同名のアーチャーは数秒の驚きのあと思い出したかのように噴き出した。慌てて顔を背けている。
「いや、……いやいや。そう来たか」
何がどう来たのか知らないが、少なくとも笑いのツボには入ったらしく上下する肩が隠せていない。にやける口元を隠す手の平がわざとらしかった。
「…………どうも見当外れなことを言ったようで」
「待て、そう拗ねないでくれ。笑ったのは悪かった」
謝罪する声は真摯だったが笑いの名残で揺れている。
ここで機嫌を損ねるのもいかにもガキな反応で癪だったが、さりとてさっぱり水に流せるほど屈託のない性格もしていない。言わなきゃよかったな、と被ったフードを深くする。
「ンンっ。失礼した。我々に血の繋がりはないよ。そこは断言しよう」
目深なフードで視界から消えた男の声が弁明している。咳ばらいで気を取り直したのか、今度こそ笑いの気配はとれていた。
「そのようだね。僕に君の血が流れているのも君に僕の血が流れているのも想像がつかない」
無駄話を終わらせようとわざと踵で通路の床を叩き音を立てると、それを聞き咎めた男が止めていた歩みを再開させた。察しがいいようでなによりだ。
質問する前と同様に、半歩下がって追従する。この施設のデザインはどこも似たり寄ったりで、案内がなければ確かに新参者には不親切な作りだった。緩やかに円を描く通路を歩く。レイシフトの装置を置く中枢部を背中に、立ち寄ったことのないエリアに向かっているようだ。
「……私はほとんど無名に近しい存在だが、この名を持って召喚されたのにはそれなりの意味があると思っている」
先ほどの会話の余韻が過ぎたころ、ポツリと前の背中が零した。
「このカルデアには今アルトリアだのクー・フーリンだのが何人もいるだろう? 名称というのは象徴性を持つし、故に個人を指すものとは限らなかったりする。統合されるべき概念が別個の姿を纏って抽出されることもあるというのが、この召喚システムの特徴の一つであるが――」
無貌の王の方が我々を例えるのには適切だったかな、と呟きを挟みつつ続けられる。
「私はエミヤの名を預託されたから、そういう風に振る舞っているだけで、この名は元々私の持ち物ではない。あなたと私に類似点がありながらも絶対に重ならない存在であることの理由はこんなところだと思うのだが、これで疑問の答えになるだろうか」
男はこちらを見ないままだった。静かな声だ。どうやら先ほどの無礼の詫びのつもりらしい。
「興味深い話だな。特に、この名がどんな象徴性を持つのかってあたりが」
「……ふむ。これは私の私見だし、きっとあなたの気を悪くするが」
応じた傍からの不穏な前置きに眉を寄せる。別に今の質問も答えが欲しくて言ったわけじゃあないし、そこまで予想できているのなら沈黙という金をもっと大事にしてほしい。
が、そのあたり図太くできているらしい男は気にせず続けた。
「『正義の体現』――そういう名だと、思っている」
舌を打つ。
そもそも最初を辿れば自分ではじめた話題だったが、余計なことを聞いたものだ。時間が巻き戻せるなら十数分前の自分に何も語らず貝になっていろと教えてやりたい。
「ソイツはどうも、光栄だね」
八つ当たりに近かったがこの流れの半分以上は相手のせいだ。存分に皮肉をぶつけてやる。
前を行くアーチャーは吐き捨てた僕を一度振り返ったようだったが、苦笑して何も言わずにいることにしたらしい。こういう気遣いはできる辺りが、また腹立たしい男だった。