『みいちゃんと山田さん』を知的障碍者の支援職と読んでみた
『みいちゃんと山田さん』という作品を、まったく見たことも聞いたこともない、という方は今やこのマガジンの読者にはほとんど居ないのではないだろうか。
マガポケで連載を追っている。もしくは単行本を買ったことがあるというわけではないとしても、おそらくみなさんどこかで『みい山』の切り抜きを見たことがあるに違いない。今や『みい山』は令和最新のネットミームとして連日SNSでバズりにバズり続けており、Twitterを10分開いているだけで数回は『みい山』ミームに触れてしまうほどである。
さて、そんな『みい山』であるが、世間では「知的障碍者の現実に切り込んだ社会派フィクション」として受容されているようである。
実際にマガポケの作品コメント欄などを見ても「これが知的障碍の現実か…」だとか「作者の取材力すごすぎる!!」などと「一般には知られていない知的障碍者の現実をこの漫画で知った!!」というニュアンスのコメントを頻繁に目にする。さらに最近は知的障碍や発達障碍を持つ当事者を「みいちゃん」と呼ぶミームまで流行しているようで、本作とそれを取り巻くミームは障碍当事者の日々の生活にまで忍び寄っていると言えそうである。
しかし実際のところ、知的障害者の支援に携わる人々は本作をどのように受容しているのだろう。たとえば「リアルだ」とSNSでは絶賛されている作中描写は実際に知的障碍者の現実に即しているのだろうか。
そうした疑問を解消するため、本稿では知的障碍者支援に10年以上携わってきた専門職の方と一緒に『みいちゃんと山田さん』既刊5巻(+単行本未収録話)を読破し、読みながら色々とお話を伺ってみた。『みい山』と本作を取り巻くネットの熱狂に興味のある方はご一読いただければ幸いである。
今回お話を聞いた方
尚矢さん
大学で障がい児教育や歴史学などを専攻した後、知的者・自閉症児を対象とした入所施設、肢体不自由などを伴う心身障碍者向けの生活介護事業所やB型作業所などに勤務。通算10年以上知的障碍者支援に携わる。
障碍をテーマとした漫画作品の創作者としても活動中。代表作に『かわいそうなストラちゃんのおはなし』など。
Twitter : @Naoya_dentata
小山
というわけで、本日はよろしくお願いします。最近SNSでバズりにバズりまくってる『みいちゃんと山田さん』について、実際に知的障碍者の支援に携わってる方は『みぃ山』を読むとどんな感想を抱くんだろう?という素朴な疑問から本日はお話を伺わせて頂きました。よろしくお願いします。まず最初に、尚矢さんの簡単なご経歴から教えて頂いても良いでしょうか。
尚矢さん(以下「尚矢」)
よろしくお願いします。自分の経歴としましては、大学では障碍児教育などを専攻しまして、卒業後はまず自閉症などを対象とする入所施設で数年間勤務してました。そこはいわゆる、昔で言うところのカナー症候群と呼ばれていたような方向けの施設でして、利用者のみなさんは重度のASD(自閉症スペクトラム)と知的障碍を併発してる方が中心でした。
通所施設ではなく入所施設ですから、利用者さんは要するにそこの施設に住んでるわけですね。我々職員も利用者さんと同じ食堂で同じ食事をしますので、同じ釜の飯を食うじゃないですが、利用者さんの朝起きてから夜寝るまでをずっと見てたというようなところになります。
何回か異動もしまして、脳性まひなど肢体不自由を伴う心身障碍者の方だとか、かなり幅の広い当事者の方を対象とする施設で勤務していたこともあります。ただやはりどの施設も知的障碍を併発されてる方は多かったですね。なんだかんだ知的障碍に関わってる年数としては十数年やってきたという感じです。
小山
おぉ…。ゴリッゴリの支援職という感じですね。で、どうでしょう。『みい山』はやはり知的障碍というキーワードでバズりにバズってるところが大きいと思うんですが、知的障害を中心に支援職として現場に携わってきた方としては、『みい山』はどう映りますか?
尚矢
率直に、非常に強い憤りを抱いてます。知的障碍者にまつわるスティグマ(偏見)とネットの噂話をごた混ぜにして漫画という形にしたような作品で、明らかに当事者に対する偏見を助長してると思います。
小山
なるほど。いや、もちろん「多分そうなんじゃないかな…?」という予測の元に今回取材させて頂いてるので驚きはないのですが、やはりそうですよね。
最初からぶっちゃけた話をするんですが、実は私自身は『みい山』かなり好きなんですよ。というのは、教育虐待を受けた当事者である山田が自分とは正反対にいるみいちゃんという別の種類の当事者に救われる話…という本作のストーリーライン自体にかなり共感するところがあって、みいちゃんに惹かれる山田の気持ちとかもすごくわかってしまうところがあるんですね。
ただ、作中の障碍に対する描写にはちょっと首を傾げたくなる部分もありまして、「いや、これは当事者や支援職の方が見たら違和感を抱くんじゃないか…?」と感じる部分も確かに多いんです。でも正直なところ、知的障碍者の実像というのが私自身わかってない部分もあって、尚矢さんみたく「いやこれは違うだろ!」と明確にキレることもできないというか、モニョモニョとしたものを抱えながら楽しんでしまっている感じでして…。
尚矢
そこなんですよね。小山さんは対人支援の経験もおありなので違和感を抱けるところもあると思うんですが、「みい山」読者のほとんどは作中描写を100%リアルだと思ってるんですよ。でも、我々支援職の側からすれば「こんなのありえないだろ!!」とツッコミ入れたくなるようなシーンが本当に多いんですが…(苦笑)
1巻は「かなりリアル」
小山
具体的にどういうところが支援職の方から見て違和感があるのか。実際に一緒に単行本を読みながら探っていければと思います。まずは1巻ですが、こちらはどうでしょう。(ページをめぐりながら)
尚矢
1巻はかなりリアルだと思います。実は、最初に自分が1巻読んだときの印象はすごく良かったんです。しっかりとみいちゃん側の視点に立った上で、障碍を持っている当事者たちがうまく定型発達者と合わせられないことで虐げられてしまうという、グレーゾーンくらいの当事者の困難をすごく上手く描いていると感じました。
小山
同感です。1巻から2巻前半くらいまではかなり抑制的に描かれてますよね。みいちゃんが簡単な漢字が読めないとか、上手く字がかけないみたいな話も、夜職でLD(学習障碍)などを持ってる子ってのはたまにいるので、そこまでおかしな描写でもないのかなと。
尚矢
あとはディスレクシア(読字障碍)だとか。ちゃんとリアリティのある描写ですよね。
小山
ココロちゃんとの勉強会がうまく行かないシーンも、個人的にはすごく納得感があったんです。自分は長期ひきこもりだとか学校中退だとかの子供の教育支援をやってた時期があるんですが、やはり「勉強についていけなかった」「勉強ができなくて馬鹿にされた」みたいなトラウマがある子って叱責に対してすごく過敏になるので。このシーンなんかは、自分も同じような場面に遭遇したことがありますし、すごくちゃんと描いてるなと感じました。
尚矢
なんというか、1巻までのみいちゃんってまだグレーゾーンの子なんですよ。色々な特性があったりはするんですが、「たまにいるよね」くらいのそれなりに普通の子。
でもそれが2巻以降どんどんエスカレートしていって、我々支援職でも見たことのないような「空想上の最強最悪の障碍者」になっていくんですよ…(苦笑)
リアリティの崩壊が始まる2巻
小山
ということで2巻です。2巻でも前半部は、たとえば7話に出てくるニナちゃんとかはちゃんと現実的なキャラクターですよね。ケアレスミスが多くて、話がポンポン飛んで、すぐに膝とかぶつけちゃって…という。今だとADHDだとかそういう診断名がつきそうなタイプの子。2012年当時はまだ「発達障害」という言葉が知られていなかったため、ニナちゃんの特性に名前がつかないという話も個人的にはかなり好きです。ただ、2巻からは、その、アレが始まってしまって…。
尚矢
まったく同じところを想定してると思います(苦笑)
小山
はい、その…(苦笑)
尚矢
みいちゃんの過去編、ですよね。あそこから一気に加速が始まりました。
小山
そこまでは「どこにでもいる、あなたの隣にもいる、ちょっと変わった女の子」だったみいちゃんが、なんというか民話系ホラーに出てくる忌み子みたいになってしまって…。
尚矢
実はみいちゃんは近親相姦の結果生まれた子供で、さらに両親もどちらも知的障碍者だった!という。そんなんあるわけねえだろ!!!と。
小山
一応、取材としてお聞きするんですが、知的障碍を持つ当事者が家族と性的関係を持ってしまうケースというのは現実に多いんですか?例えばよくネットの噂話として「知的障碍を持つ男性が母親や姉妹を襲う」みたいな話がよく知的障碍者叩きの文脈でまことしやかに語られますよね。
尚矢
正直なところ、
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衝撃の内容であった。 これが率直な感想であると同時に、自分の無知をこれほど恥じるのは久々。 ツバサ君の描写に一瞬でもリアリティを感じてしまった自分の愚かさを悔いる。 あと非常に恐ろしい事実がサラッと出てきた。 そもそもレイプは一定以上の能力が必要で、性欲の弱さや身体能力、情緒コ…
重度の知的障害の時点で身体障害もかなり大きいケースが大半でそもそも何か悪意を持ったとしても身体が弱すぎて、強制力がないんですよね。 車椅子でかなり惚れっぽい障害者に会ったことありますが、トラブルを起こしようがないんですよね。 付き纏うことすら出来ないですし、ハラスメントは起こせ…
みい山、ミームとしての画像は見たことあるけどちゃんとストーリーを追うのは気持ち悪くて無理だった。あれを楽しめるのは、少し倫理観が麻痺してる人たちだと思ってたので支援職の人が否定してくれてよかった。
支援の当事者の方からの話は、こちらの知らないことばかりで、いかに自分が無知であるかを自分も思い知らされた感じです。 なんとういうか「差別」についても、人の生き方の「自由」についても、我々は色眼鏡をかけた狭い範囲でしか物事を見てない可能性あるよなあって考えさせられました。