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【槍弓】それは正しく恋だったので/Novel by 音速沙汰

【槍弓】それは正しく恋だったので

8,836 character(s)17 mins

ランサーを好きで好きでたまらないアーチャーが、何度だってランサーに恋をするお話。途中に演出上の空白ページが1ページ挟まります。
キャプションの下につけている短い小説は、本編を読んだ後にお読みいただけると幸いです。

**************

 君に覚悟があるのなら、エミヤの書いていたノートを見せてもらうといい。彼にはもう読めないノートだ。ただし、覚悟があるならだよ。背負う責任は君にはない。
 すべてを説明されたあと、茫然としている俺にダ・ヴィンチはそう言った。
 まぶたの裏にあまりにも鮮やかに甦るのは、どこまでも不敵に笑って自信ありげにふるまうくせに、断崖の孤独の中で双剣を振るうアーチャーの姿だ。あの男は、世界を幾度も救いながら、世界から拒絶されていた。俺は、それでも誰にも寄りかかろうとしないあいつに、腹を立てていたし、どうしようもなく惹かれていた。執着と反発はいつしか形を変えて、この孤独な男に誰かと触れ合うことを教えたいと思うようになった。いまさら名前をつけるのであれば、それは正しく恋だったと思う。
 だから、俺は覚悟を決めた。迷いはなかった。アーチャーのノートの中に書かれたあいつのすべてを読んで、俺が代わりにすべてを覚え直す。
 アーチャーは俺を忘れたと言う。でも、俺は覚えている。あの男の孤独、優しさ、正しさ、強さ、その輪郭を形作るすべての記憶。だから、今度は俺がおまえに言おうと思う。アーチャー、好きだぜ、誰よりも。

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 君の中にあるクー・フーリンの記録、記憶はこれから徐々に摩耗し、いずれすべて消去されてしまう。今のところ、この異常は食い止めることができない。
ダ・ヴィンチ女史にそう言われても、自分は妙に冷静だった。あとから思い返してみれば、あれは冷静だったというよりも、反応すべき感情がすべて凍り付いていたのかもしれない。
 サーヴァント達に義務付けられている定期的なメディカルチェックで、霊気の中に微小だが奇妙な空白が見つかったのがきっかけだった。欠損と呼んでもいいそれが何なのか、魔力と科学による検査を数度繰り返してようやく判明したのが、冒頭の馬鹿馬鹿しいほど限定的な異常である。どうやってそれが判明したのか、なぜそんなことが起こったのか、それについての長々しいダ・ヴィンチの説明はここでは割愛しよう。どうせ、このメモを見るものは誰もいないのだ。
 なぜ、あの男の記憶だけが? 私の問いかけに、ダ・ヴィンチは机の上に広げた霊気グラフや魔術回路の展開図を眺めながら、この段階ではわからない、と答えた。仮定はたてられるが、確証もないのに私に告げるべき仮定だとも思えない、と言葉が続けられる。科学者として、魔術師として、今言えるのは事実だけであり、その事実とはやはり「英霊エミヤの中にあるクー・フーリンの記録、およびカルデアに現界してからの彼の記憶はいずれすべて消去される」という端的なものでしかない。消去という言い方をしたが、極所的な記憶喪失が徐々に訪れるようなものだと思ってくれていい。そうダ・ヴィンチは言っていた。
 完全に記憶を失うまでにどのくらいかかるのか、それも断定はできないそうだ。目安で構わないと食い下がると、今日明日という話ではないが、早ければ一か月、遅くとも三か月以内にはその日が来るのではないかと教えてくれた。
 ダ・ヴィンチのところを後にしたその足でスタッフ用の備品倉庫を覗き、ノートを一冊失敬してきた。今こうして罫線を文字で埋めていても、自分が何をどう感じればいいのかよくわからないのが正直なところだ。まして、どういうつもりでこれを書き出したのかも判然としない。そう言えば、カルデアに召喚されてからこんなに長い文をしたためたことはない。それどころか、日本語でランサーの真名を書いたのすら初めてかもしれない。
 ランサーの記憶が消える。私の中に、どれほどの記憶があるのだろう。可視化できないものの量を計ることはできないのだ。考えなければいけないことは山ほどあるはずなのに、いま頭に浮かんでくるのはあの男の屈託なく笑う顔ばかりだ。


▼2日目
 日付を記そうかと思ったが、日記ともメモともつかない記録であるから、それよりもダ・ヴィンチに話を聞いた日を初日と起点し、何日経ったかを記しておいたほうがいいだろうと思い、そうすることにした。
 昨日の今日だが、ダ・ヴィンチのところへ顔を出して、こういう記録をつけることにした、と伝えると、そうかい、とうなずかれる。記憶を失っていく過程でこの記録を読み返したらどうなるのかと尋ねると、女史は腕組みをしながらうーんと唸り、何が起こるかはわからないが少なくとも記憶消去を押しとどめるようなきっかけにはならないだろうと、わずかに申し訳なさそうな色を目に浮かべて教えてくれた。今起きているのは、現象としては進行性の記憶喪失だが、原因は脳の異常ではなく霊気の異常であり、言ってみれば魔術による呪いに近い。だから、こうして目から脳へ取り込むような情報が記憶の消去に影響を与えることはない可能性が高いということだ。わかった、と頷くと、大丈夫かいエミヤ、と率直な言葉を投げかけられる。大丈夫だと答えようとして、ふと気が変わった。ランサーについての記憶が消えていくのであれば、今日のこの記憶もランサーにまつわる記憶としていずれ消えてしまうのだろう。だからというだけでもなかったが、大丈夫だと答えられればよかったのだがね、と答えて踵を返した。聡いあの英霊にはそれですべてが伝わるだろう。

Comments

  • ポリゴン

    大好きです

    November 9, 2025
  •  ぱ
    November 6, 2025
  • あまりに理想のランサーすぎて感無量です...😭

    January 25, 2025
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