「おらァ、アーチャー!」
「っ!、っ…ハッ、甘いぞランサー!」
クラス名を呼ばれ、上から殺気と共に飛んできた朱槍を咄嗟に投影した干将・莫耶で払いながら返し、衝撃に欠けたそれを魔力に戻す。
距離を取った後に弓を引き、連射…勿論『矢避けの加護』があるランサーには当たらないが攻撃される範囲を狭めることはできる。
攻撃される方向をある程度絞って仕舞えば応戦のしようもあるというものだ。
思った通りの軌道で攻めてきたランサーにアーチャーは剣を飛ばしつつ再度干将・莫耶を投影してその双剣で槍の突きを受け止める。
ガリガリと削られる夫婦剣でなんとか持ち堪えるが、突かれた瞬間の空気が頬を僅かに裂いてピリリとした痛みを伝えた。
「っ…!ぐ、ぅ…っ、ぁ」
「ハ、随分とエロい声出しやがる、…ッ」
「た、わけ…っ!」
いくらシミュレーターに己と目の前の男の2人しか居ないと言えど、そんなふざけたことを抜かす槍兵に悪態をつきつつ地を滑りそうになる足に力を入れて踏ん張った。
じわじわと押される身体に舌打ちをすれば目の前の槍兵がにいっと犬歯を見せて不敵に笑ってみせる。
瞳孔の開いた目の前の男の筋力は、悔しいことに己より数段階は上だ。
これ以上押されてしまえば勝ち目は無い…一度引かなければなるまい。
距離を取ろうと投影した夫婦剣をぐっと押し込もうとすると今の今まで拮抗していた力がふっと唐突に解かれ、予想外の動きに弓兵の足がたたらを踏んだ。
「ッ!!?」
「隙あり!ってな」
目の前に迫る青い身体に咄嗟に投影を解くとそのままぼふりと彼の腕の中にアーチャーの身体は落ちる。
すぐに体勢を立て直そうとするがランサーの腕はアーチャーの身体を閉じ込めて逃がさないとばかりにぎゅうぎゅうと締め付けてきた。
「ッ、ランサー!」
「ガラ空きだぜ、アーチャー」
ふざけるなよ、とじたばたと暴れて抵抗する弓兵の身体を抱え、ランサーはゲイボルグと両腕でアーチャーを囲うようにして捕らえる。
自由を奪う青い男に文句を言おうと体を捩らせランサーの顔を見た刹那、目の前が焦点を結ばずにぼやけた。
「っ!?んーっ!!!」
唇には慣れた感触、アーチャーが囲われた腕を引っ張り胸を押し返そうとするもびくともせず。
背中を押さえ付けていた槍の硬い感触が消え、逸らそうとした顔をランサーの手が後頭部を掴んで固定し隙間が無いくらいに口を塞がれる。
はむはむと唇を食み、舌で舐めて口を開けるようにせがむが頑なに引き結ばれた唇は中々侵入を許してくれない。
ランサーは薄く目を開けじっと鳶色の瞳をその紅い瞳で射抜く。
「っ、…っ!」
ぎり、と歯を食いしばった後悔しそうに呆気なく弓兵の唇がわずかに開かれる。
あっさりと差し出されたそれに目を細めて笑った槍兵はその温かい咥内に舌で侵入した。
「ン、…っむ、ぅ、っ」
縮こまった舌を器用に引っ張り出され、擦り付けるように舌を絡ませられる。
ぢゅ、と舌を吸われたかと思えば口の中の舌は上顎をなぞってその感触に背筋を甘い痺れが走った。
びくりと跳ねた身体に咥内を荒らす男が喉奥で笑ったような気配がして、不満を訴えるように腕に爪を立てた。
それをあやす様に歯列を柔く舐められて鼻にかかった声が漏れてしまう。
ランサーの唾液から滲みてくる神気の濃い魔力がどうにも酩酊の様な状態を作り、頭がぼんやりと靄掛かった。
「っ、ふ…っは、ぁ」
「ん、…っ、…えみや」
「ぁ……、…くー、」
真名を囁けば、唇が離れた後もふわふわした頭でアーチャーはランサーから逃げ出さない。
そのことに気を良くしたランサーは頬についた小さな切り傷をべろりと舐め取った。
走ったぴりりとした痛みに瞬間我に返った弓兵はガバリと槍兵の胸を押し返すと、今度はあっさりと体は離れた。
「っ、ランサー!君と言うやつは…!」
うっかり垂れた唾液をごしごしと手の甲で拭いながらぎゃんぎゃんと喚くアーチャーに両手をひらひらと挙げて見せるランサーは先程までの殺気を綺麗さっぱり消して最早戦う気はない様子だ。
「今日はオレの勝ちだな、アーチャー」
「っ…!!!っくそ」
ふふんと得意げに笑ったランサーが近づいてきて彼の瞳に呆気なく落ちてしまった自分に打ち拉がれるアーチャーの肩を抱いた。
離せ馬鹿者、と悪態をついてしかし振り払いはせずにアーチャーは横で鼻歌を歌い始めたランサーの横顔を至近距離で見つめる。
最近殊更にこの顔に弱くなった気がする。
この瞳に射抜かれると抵抗出来なくなり、あっさりと言うことを聞いてしまう己に歯噛みしたのは一度や二度では無い。
思わずじっと見つめてしまいばちりと彼の視線がこちらとぶつかるとランサーはにやにやと笑いながらあーちゃぁ、と甘ったるく呼びかける。
「…なんだね」
「ん、勝者の特権」
顔をこちらに突き出して唇を尖らせた彼が何をしたいのかは当然理解できた。
さっき散々しただろう…と溜息を吐きつつそれでも負けたことは事実であるので。
「お前からしてもらわないとご褒美になんねーだろ」
ん!と赤い瞳は瞼の下に伏せられ間近に光の御子の整った顔が寄せられる。
長い睫毛に一瞬見惚れつつ仕方ない敗者は勝者に従わなければ、と無駄に自分に言い聞かせながらアーチャーはランサーに口付けを贈る。
触れるだけの口付けですぐに離れるがぱちりと目を開けたランサーは、鼻歌を再開して満足げだ。
「あー腹減った、あ!この間のアレ作ってくれよアーチャー」
「全く君は…先程まで戦っていた相手に言うことかね」
「いーじゃねえか、お前の飯最高に美味いんだよ」
美味いと言われて悪い気のする料理人は居ないだろう、いや私は料理人では無いが。
心の中で言い訳をしつつ既に頭の中でこの間作ったレシピを立ち上げているアーチャーは、もしかして自分はこの男をかなり甘やかしているのでは?と今更ながらに自覚してきたのであった。