両想いにならないと出られない部屋に入れられる槍弓『部屋「まぁ両想いでも開けないけど」』
「両想いにならないと出られない部屋」に閉じ込められた両片想い中の槍弓
しかしこの部屋。別に両想いになったところで出られないのである。
お互い好きなのに扉は開かないから(相手は自分の事好きじゃないんだな…)ってなるやつ。
ギャグを目指したのにどうしてギャグにならないのか。性癖に邪魔されている絶対に。
弓が泣き虫。槍はもっと男らしくしてください。私が書くこいつら女々しいぞ何でだ。
────── ←こやつで視点が槍と弓コロコロ変わる。
ガーッと書いてワーッと上げるので恥ずかしくなったら消しますはい……
両片想い槍弓万歳!!
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『両想いにならないと出られない部屋』
そんな馬鹿げた事が書いてあるだけの普通の部屋。
我等サーヴァントに個別に与えられる部屋と同じもの。最初から備え付けてある家具があるだけの簡素な部屋。
違うのは、書いてある通りに扉が開かない事と、自分の他にもうひとりのサーヴァント。
ランサー。クー・フーリン。
あの文字を見た瞬間思い浮かべた人物。
私の一方的な片想いの相手が、すやすやとベッドで寝ていた。
「…………は?」
待て待て待て、ここは私の部屋……だよな?まさか場所を間違えた訳でもあるまい。
普通に部屋に入って、扉が閉まる時に変な音がしたから確認してみたら扉が開かなくなっていて、扉の上には不可解な文字が書いてあって、ひとまず落ち着こうとぐるりと部屋を見ると毛布にくるまって寝ているランサーがいた。
さぁもう一度。
ランサーが、私の部屋のベッドで、寝ていた。
「おいランサー何故ここで寝ているここは私の部屋だそれは私のベッドだ起きろ貴様ぁ!!」
シーツを思い切り剥ぎ取りバシバシと頬やら腹やらとにかく叩く。ランサーはすぐに目を覚ましたが構わず叩き続けた。
「ゔぅぅ……ぐっ!な、ちょ、いてっ!は?あーちゃ、痛てぇ!やめ、急に何しやがるやんのかコラァ!!」
ランサーの腕が私の手を押しのけて、何度も見た、あの朱槍を構えようとする前の僅かな動きを視認する。
こちらも迎え撃とうといつもの双剣を投影しようとして、
「は?」
「え?」
双方から出た気の抜けた声。
その手には何も握られていなかった。
──────
『両想いにならないと出られない部屋』
そんな馬鹿げた事が書いてある物が少ない部屋。
俺も部屋にごちゃごちゃと物を置くタイプではないが、それでもこの部屋は簡素すぎる印象を受ける。
そして聞くところによると、この部屋はここにいるアーチャー。エミヤの部屋らしい。
自室に戻った時に扉から異音がしたと思ったら出られなくなって、おまけによく分からん文が書かれてたと。
にわかには信じがたいが、俺が扉を開けようとしてもビクともしないあたり本当らしい。
おまけに武器も出せない魔術も使えないときた。ひと言で片付けるなら異常事態だ。
「満足したかね?私がここに閉じ込められた経緯は話したんだ。そろそろキミがここにいる経緯を話して欲しいのだが?」
椅子に座って顰め面でこちらを見ていたアーチャーが口を開いた。
「経緯つってもなぁ……俺は部屋で寝てただけだぞ?ちゃんと自分の部屋でだ。何でここにいるかなんてこっちが聞きてぇよ」
人が気持ち良く寝てるところ急に叩き起されて、腹が立って売られた喧嘩を買おうとしたらゲイボルク出てこねぇし、挙句この部屋から出られませんとかめちゃくちゃすぎるだろ。
しかもここから出る条件が、両想いになる。しかもここにいるのはアーチャーのみ。
そりゃあれかね、
絶賛こいつに片想い中の、俺の背中を押してくれるってか?
「……まぁいい、まずこの状況が異常なんだ。キミがどうやってここに連れてこられたのか考えても意味はなさそうだしな」
「お前さっき俺を叩き起した事なかったことにしようとしてねぇ?」
なんの事やらとそっぽを向くアーチャーはこの状況でもいつも通りに見える。扉が開かないのを見るに、やはり俺が一方的に想っているだけであちらはそうではないらしい。
「何にしても、今の私達に為す術はない。カルデア内のどこかならいずれ誰かが異変に気付くだろう。気長に待つとしようじゃないか」
まさか自分が心を寄せられているとは夢にも思っていないのだろう。
椅子から立ち上がるとベッドに向かい、そのまま横になって目を瞑ってしまった。
どうやら本当に外からの助けを待つようだ。
「……なぁアーチャー、待ってるだけじゃ、時間の無駄だろ?」
静かにベッドに近付き、アーチャーの顔を覗き込むように枕元に片手を置いた。鉛色の瞳と目が合う。
「ランサー……何を」
アーチャーの表情に動揺の色が滲む。
どうせ待ってなきゃいけないなら、口説く時間はたっぷりあるよな?
──────
ちっ……近い近い顔が近い近い近いちかいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!
真っ赤な目が近い白い肌が近い青い髪が近……どういう状況だこれは!?
「ただ待ってるだけなんてつまらねぇだろ……ちょいと付き合えよアーチャー」
いつもと声が違うっ……!何だその声のトーンは!挑発する時に似ているがそれにしては瞳がギラついていないしどことなく甘いというか……やめろ艶っぽく下唇を舐めるな!!
「……馬鹿を言うな。今は身の危険が無いだけでいつ何があるか分からんのだぞ。だいたい武器も出せないし、それにここは私の部屋だ、暴れて壊されるのは御免だな」
平常心平常心平常心!
こいつはただ暇だから体を動かしたいんだろうきっとそうだしかしこんな状況で手合わせなどしてられん何とか落ち着かせて大人しくしてもらって……というか急にどうしたんだランサーは!?まず早急にここから退いてもらわねば!
「違ぇよ。扉が開く条件は両想いになる事なんだろう?それなら……」
荒れていた思考がぴたりと止まる。
カラカラになった口を潤そうと必死に唾を飲み込んだ。
「お前の心を俺に向かせる事が出来ればいい。アーチャー、俺はお前に惚れてる。どうせ何も出来ないなら、この時間を俺に口説かれる事に割いてくれよ」
優しく、本当に優しく微笑んでそう言ったランサーの胸を押して自身もベッドから身を起こす。
ランサーの呼び止める声が聞こえたが、そのまま扉の前まで歩き、手をかけた。
扉は、開かない。
扉に背を預けて腕を組む。大きく息を吸って、長く長く息を吐いた。
「全く何を言い出すかと思えば……冗談にしては笑えないぞランサー。馬鹿な事を言っていないでもうひと眠りしたらどうだ」
不覚にも……もしかしたら、なんて思ってしまった。
あまりにも彼の言葉が真に迫っていたものだから、本当に……彼が、私を……
私は彼が好きだとも。伝えた事などないが、この気持ちに嘘はない。
彼は私に惚れていると言った。しかしここから出られない。きっとそれが答えだろう。
「冗談なんかじゃねえって。まぁいい、今にそんな口きけなくしてやるよ」
目の前にランサーが立つ。まるで逃げ道を断つように。
きっと彼は、いち早くここから出る為に行動しているのだろう。サーヴァントとして、マスターの武器として戻る為に。
条件は『両想い』
その基準が分からないのであれば、色々と試す価値はある。彼が私を突然口説き出したのも、その一つなのだろう。
お互いにその気が無くとも、もしかしたら好きと言い合うだけで開くのかもしれない。
だが私は、扉が開かなかった事で、彼が言ったことは嘘だと思ってしまった。実際、そのような想いを向けられてはいないのだろうとも。
しかし、同時に期待もしてしまった。言葉と心、どちらも揃わないといけないのではないかと。
だから、ここで私が彼に好きと伝えたとして、もし扉が開かなければ、それは彼の言葉が本当に嘘だったという事になるのではないか。
そんなくだらない理由で、私の保身の為だけに、彼の努力を無駄にしている。
「そんなものに付き合う義理はない。こんな文字に踊らされていないでもう少し冷静に行動しろランサー」
だから、これ以上無理に言い寄って来なくていいんだ。
どうか、これ以上私に期待させないでくれ、ランサー。
──────
思った以上に反応が薄い。惚れてると言った時にいつもと違う反応を見せたから脈アリかと思ったが、すっかりいつものお堅いアーチャーだ。
こりゃあこの時間だけで落とすのは難しいかね。
「これはきっかけに過ぎねえよ、ずっとお前に好意を持ってた。こんな事が無くてもいずれ言ってたさ。別に無理矢理どうこうなろうと思っちゃいねえが、精一杯惚れさせてやるから安心しろ!」
高々と宣言すると、白い眉を寄せれるだけ寄せてくっきりと眉間に皺を刻むアーチャー。
顔だけで「嫌ですやめろ」と言っているのが分かる。
やめねーけど。
「……そんな事をしても出られないものは出られないんだ。キミの努力は認めるが、扉が開かない事はもう分かっただろう?大人しく助けが来るのを待っていよう」
そう言うとそのまま目を瞑ってしまった。聞く耳持たずってところか。
そりゃあ、ただの仲間だと思ってた奴に急に好きだのなんだの言われたところで信じろという方が無理があるだろうが、それにしたって冷静すぎてこれっぽっちも可能性が無い気がしてくる。
「なぁに、動かすのは口だけだ、それくらいなら消耗もしないだろ。アーチャー、お前と刃を交えた。一緒に飯を食った。背中を預けた。そして今、同じマスターの元にいる。記録にあるお前も好ましい所はあったが、俺は今のお前が、アーチャー、サーヴァントエミヤに、ひとりの男として惚れている」
動かずに、言葉だけで伝える。
どこかで召喚された俺ではなく、他のクーフーリンでもない。俺という人物が惚れたのがお前なのだと。
「……いい加減にしてくれ……そんな事を言って何になる?両想いになど……有り得ないのはキミがよく分かっているだろう……」
……これは……回りくどいが俺に諦めろと言っているのか?
好きでもない奴からアプローチされて鬱陶しいというなら理解できるが、それならはっきりと断ればいい。
しかしこいつは俺の口を閉ざそうとするばかりで、自分の言葉を零さない。それが俺を期待させる。
「有り得ないだぁ?お前俺が諦め悪いの知ってるだろ?仮に助けが来てここから出られても、どれだけお前にその気がなくて迷惑がっても、絶対その気にさせてやるよ」
扉は変わらず閉まったまま。という事は今はまだ、俺の想いは届いていないし、あいつの気持ちがこちらには向いていないのだろう。
さっきも言ったが、これはきっかけに過ぎないのだから。これからゆっくり伝えていけばいい。
「……ああそうか、わかったよランサー。もう充分だ、降参だ」
あれだけ頑なだったアーチャーから突然そんな言葉が聞けて拍子抜けしてしまった。
その隙に俺に背を向けて再び扉に手をかける。
「とっくに私はその気だとも。好きだよランサー。これ以上なくキミが好きだ」
後ろ姿で表情は見えず、平坦な声。
手は扉にかかったまま、開けようと力を入れているからなのか震えている。
しかし、それが開くことはなかった。
そうだった、そういう奴だこいつは。
目的の為に手段は問わない。ここから出る為に、もしくは、そう言えば俺が大人しくなるとでも思ったのかもしれない。
だが、その言葉は、嘘をつかせてまで聞きたかった言葉ではない。
ふざけるな。
誠心誠意伝えた自分の想いが踏み躙られた気がして、ふつふつと怒りが込み上げる。
開かない扉に向いたままのその面を見ようと手を伸ばした。
──────
開いてくれ、頼む。
そんな祈りも虚しく、扉は開かなかった。それでも、もしかしたら開くかもしれないと、力を込めた手が離せない。
これで、言葉がここから出る条件では無いことが確定してしまった。
彼が、本心で言っている訳では無い事が分かってしまった。
できる事なら、知りたくはなかった。
「おいアーチャー。テメェ……惚れさせてやるとは言ったが嘘ついてまで好きになれとは言ってねぇぞ」
ランサーが肩を掴む。
その言葉で、必死に抑えていたものが溢れ出す。
掴まれていた手を払い、睨みつけた。
「……っ!それはこちらの台詞だ!嘘をついてるのはお前だろうランサー!心にもない事をつらつらと……!無理にここから出ようと形だけでも両想いなんて物を作ろうとしたんだろうが、出られなかったからといってオレのせいにするのか!」
部屋いっぱいに響くほど叫ぶ。
急に大声を出したせいか、頭がクラクラしてきた。
「はぁ!?何でそうなるんだよ!俺がお前のこと好きって言ってんだよ!お前が俺を黙らせる為に適当な事言ったんだろが!」
ランサーも負けじと大きな声を出すものだから、頭どころか視界まで霞んでくる。
適当な事なんて言っていない。全部紛れもない本心だ。
「うるさい!例えあれがお前の本心ではないと分かっていても、胸の内が震え高鳴ってしまう感覚など理解できまい!……キミが好きだ!ずっと好きだっ!たとえキミでも!オレの心を否定するな!」
思いっきり拳を奴の顔面に叩き込む。しかしぶつかる直前で捕らえられてしまった。
「あっぶね!てめ……アーチャー!いきなり顔ね…ら……」
捕まった手の暖かさが消える。
次の瞬間には、その暖かさに包まれていた。
「な、泣くな〜、あ〜ちゃ〜?……わ……悪かった……頭っから決めつけるのは、良くなかったな……だからその……まず、泣き止んで……くれ……な?」
ぽんぽんと背中を叩かれる。まるで赤子をあやすように。
やめろと声を出そうとしたらしゃくりあげてしまって上手く話せなかった。
「泣いっ、てなど……いなっ……い……っ、離せっ、もう……っ……かまわっ、ないで……くれ」
意識してみると本当に私は泣いているらしい。
霞んだ視界は涙のせいで、しっかり話せないのは泣いた時特有の横隔膜の痙攣だろう。
離せと言った手前、本当は私から離れなければいけない。
しかしランサーは私を抱きしめたまま、同じリズムで背を叩き続けてくれている。既に醜態を晒してしまったんだ、最初で最後のこの機会、もう少しだけ浸ってもいいだろうか。
肩に顔を埋める。涙やらなにやら色々と付いたが、どうせ霊体化すれば元通りだと開き直った。いつもある肩の防具がいつの間にか消えているのが、意外と彼が気遣いの出来る人物だという事を思い出させる。
「あー、アーチャーさん?そろそろ泣き止んでくれたか?……ちょっと……いやだいぶ、肩のとこ濡れてる気がするんだが……」
ランサーの腕の中を堪能していたらそこそこの時間このままだったらしい。最後かと思うだけでまた涙が溢れそうになるが、どうにか留める。
「気のせいだ。それに私は泣いてなどいない。……だが、その……すまなかった……みっともない姿を晒した」
今更だが顔を見られるのが嫌で下を向く。きっと酷い事になっているに違いない。
泣いている時に頭も撫でられていた為に髪が下りていて少し助かった。おかげで目元が隠れる。
「んー……いや、それはいいんだけどよ……あー、ちょっとあっちで話そうぜ」
手を引かれ、扉から離れる。
何を言われるのだろう。あれだけの迷惑をかけたんだ、何を言われても私は受け入れる他ない。
けど今は、涙腺がどうにかなってしまったみたいだから、鋭利な言葉はできればまだ、聞きたくない。
そんな言い訳を飲み込むと、また少しだけ涙が零れた。
──────
アーチャーの手を引きベッドの所まで来ると、アーチャーを座らせて自分も腰掛けた。2人分の重みを受けたマットレスが沈む。
まさか泣かれると思ってなくて咄嗟に、よくマスターや面倒見のいいサーヴァント達が子供サーヴァント達にやっていた事を真似しちまったが、ひとまず落ち着いてくれたみたいで安心した。
でもやっぱりあれはまずかったか……いやこいつの泣き顔なんか見たこと無かったし……頭より先に体が動いたっつうか……もっと見たいけど見たくないっつうか……
「ランサー……その……さっきの事は忘れるか……せめて誰にも言わないでいてくれると、助かるんだが」
繋いだままの手がぎゅうっと握られる。アーチャーを見るとまだ俯いたままだった。
こんなに強く手を握られると思っていなかったが、もしかしたら手を繋いだままということを忘れているのかもしれない。
「安心しろ。忘れてはやらねえが言いふらしたりなんかしねえよ。お前のあんな珍しい顔忘れるなんて損だろ」
手を強く握り返すとびくりと体が跳ねた。握ってくる力は弱くなったが、手を引こうとする気配はない。
「……ランサー……本当にキミが好きだよ……嘘偽りなく、私の本心だ。もうキミがどう思っているかはいい。ずっとあるこの感情を、他でもないキミに否定されるのは……正直、キツい」
絞り出すような言葉。俺はこいつのこの言葉より、あんなものを信じてそれを否定したのか。
「……お前の言う通り、あの文字に踊らされてたよなぁ。悪かった……だからあれは無視だ。開いたかの確認もしねえ。ここはお前の部屋で、俺はお前の部屋に来てるだけ。いいか?」
まだこちらを見てはくれないアーチャーが、それでもゆっくりと頷く。
顔が見てえな。
そう思った時には、体が動いていた。
アーチャーの前で片膝を着き、繋いでいた手を両手で包む。
「アーチャー、もう一度言う。お前に惚れてるんだ、心から。誓ったっていい、それでお前が信じてくれるのなら。この身では渡せるものは少ないが、この心をお前にやる。だから、お前のその心を俺にくれないか?」
泣いた跡が残る顔で、目を大きくしている。口が少し開いているのが可笑しい。
「……ここから出ても……その言葉は、なかったことには……させないぞ」
「なかったことになんてするかよ。お前こそ、後で逃げられるなんて思うなよ?」
「……そうか……なら……私に渡せるものなら全てやろう。心でもなんでも持っていけ。元々キミに向けていたものだ。……だから、その……たまに……たまにでいいから、またこうして、手を……握ってもいい、だろうか」
もじもじと居心地悪そうに視線をあっちへこっちへさせているアーチャーの顔は、褐色の肌でも分かるほど真っ赤になっている。
愛おしさが込み上げ爆発した。
「アーチャー!」
「うわぁ!」
全力で抱きつき2人揃ってベッドに沈む。
両手でアーチャーの顔を押さえて頬やら目元やら口元やら、あらゆる所にキスを降らせた。
「なんだお前急に可愛いなどうした!手なんてずっと繋ぐしハグだってするしキスもいっぱいしてやるって〜」
「やめっ、やめろらんっ、ランサー!離せこのっ……顔中、べろべろと……犬か貴様…!んぅ…!」
暴れるアーチャーを無視して口にキスすると大人しくなった。流れてくる微量の魔力が心地良い。
しばらくそうしていると、いつの間にか抵抗が無くなっていたので口を離した。
「ぶはぁっ…!はっ、はぁっ!し、死ぬかと思った…!」
顔を火照らせて荒い息をするアーチャー。
なんかこう、正直、クるものがある。
「……アーチャー……優しくするからな」
拳が飛んできた。
受け止めると、反対からも拳が飛んできた。同じように受け止める。
「くそっ…!無駄に動体視力が良い!酸欠と魔力過多で殺されかけた相手の優しくなど誰が信じるかっ!」
「なんだよ、お前も途中よさそうだったじゃ…痛ってぇ!」
頭突きは想定外だった。
手を離して額を押さえるが、アーチャーも同じ格好をしていたから痛み分けといったところか。ならやるなよ。
「〜〜っ!……それに、私達の置かれている状況を忘れたのか?いつ助けが来るか分からないんだ。自力で出られないのなら大人しく……」
そこまで言って、扉を見つめたまま動かなくなってしまった。
考えるなと言っても難しいか。
「そうだな、大人しくしてるか。起きてても暇だし寝てようぜ。そういや俺叩き起されたから寝足りねえわ」
アーチャーの腕を引いて隣に横たえさせる。毛布を肩まで上げればあとは寝るだけだ。
「せめてどちらかは起きていた方が……いや、そうだな」
意外とあっさり力を抜いた。
疲れたのか俺の隣に安心してくれたのか。
一応逃げないように腕と足を絡める。ぼそっと、重い……と聞こえた気がしたが無視だ。
起きた時にもう一度キスをしよう。
そう思いながら、閉じた瞼にキスを落とした。
──────
「いやぁ〜ごめんね遅くなって。まず気付いた時間が遅くてね」
「本当にごめん!」
眉を下げて言うのはダ・ヴィンチちゃん。腰を直角に折って頭を下げているのはマスターだ。
私達が眠ったあと、令呪による強制召喚でマスターの元に私達は呼ばれた。
慌てふためくマスターを何とか落ち着かせて聞いた事の顛末はこうだ
まずひとつ、中にいるものを閉じ込め絶対に中からは開かない部屋を開発していた者がいたらしい。
ふたつめ、あらゆる魔術が作用しない部屋を作ろうとしていた者がいたらしい。
みっつ、〇〇しないと出られない部屋?というものを作りたくて奮闘していた者がいたらしい。
それぞれは別の制作ルートだったが、何故か『部屋』という共通点だけで結ばれ、
『両想いにならないと出られない部屋』という名前の
『武器も魔術も使えないし何をしても出られない部屋』
という頭のおかしい部屋が出来てしまったのだという。
何故私の部屋がそうなってしまったのか、ランサーが元々そこに居たのかは分からないが、恐らく私とランサーの部屋が選ばれてしまって、元々部屋で寝ていたランサーは知らぬ間に巻き込まれでもしたのだろうという話だ。
考えてはいけない……ここはそういう場所だったな……
中からも外からも開けることのできない部屋。
外の者が異変に気付いたが為す術なく、マスターが令呪という力技で私達を救出してくれたという訳だ。
「本当にごめんね……あれ作った人達にはきつく言っておくから……」
今にも消えてしまいそうなくらい落ち込んでいるマスター。そもそもマスターのせいではないのだし、責める気はない。
「大丈夫だよマスター。この通り何事もなく出られたのだから。寧ろ令呪を二画も使わせてしまってすまない。そこまでして救い出してくれて感謝している」
「そうだよマスター。君のせいじゃないんだ。でもこのあとちょっとだけ手伝ってくれるかい?あの部屋はさすがに何とかしないといけないからね」
データと睨めっこしていたダ・ヴィンチちゃんが笑う。マスターのメンタルケアは彼女に任せて大丈夫だろう。
「分かったよ。クーフーリンもごめんね。それに、ふたりの部屋も使えなくなっちゃったし……」
「大丈夫だってマスター。確かにほんの少し焦りもしたが、悪いことばかりじゃなかったしな!」
そう言ってランサーは私の肩を引き寄せ、頬に唇を……
「わぁ」
「ひゅ〜」
「……っな!」
「なぁダ・ヴィンチ、確か二人部屋いくつか空いてたよな?適当に入っていいか?」
「いいよ〜あとで何処にしたかだけ教えてくれたまえ」
「了解!んじゃマスター、俺達に出来ること無さそうだから戻っていいか?あとあんまし気負いすぎるなよ〜」
「あ、うん、大丈夫!ありがと!」
あれよあれよという間に話が進み、ランサーに手を引かれて出口に向かってしまう。
「お、おい!このっ!ランサー貴様っ!離せ!ふたりとも違うんだこれはっ!くそ離れない!」
ずりずりと引き摺られるように部屋を出る。
後ろからふたりの、お幸せに〜なんて声が聞こえた。やめてくれ!
「なぁ、もうちょい俺の事信じる気にはなったかよ」
足を止め、こちらを見る赤は優しく弧を描いていた。
「……とっくに信じているとも。だって、それをくれるのだろう?」
静かにランサーの胸を押す。
彼はその答えに、白い歯を見せて笑った。
「お前のもくれるんならな!」
今度は唇同士が合わさる。
数秒後、ここが廊下だということを思い出してランサーを張り倒してしまったが、些細な事だ。