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【全文公開】エミヤさんの脱!オカン大作戦/Novel by 八門

【全文公開】エミヤさんの脱!オカン大作戦

50,467 character(s)1 hr 40 mins

新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス が 憎 い

このままだとアヴェンジャーになってしまいそうなのと
再販の予定がないため全文公開いたします。
2019年春コミにて発行いたしましたギャグ槍弓です!

「お前……恋人にオカンと思われたら…アウトやで?」
みたいなワイドショーの特集を見て一念発起し、
ランサーに再度惚れ直されるべく奮闘するエミヤさんの話です。

少しでもにっこりしていただけましたら幸いです!

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「恋人に【オカン】を感じ始めた時――――
 ……それは、恋の終わりのサインかもしれません」




――――ガラガラガッシャーン!

カルデアの白い壁に跳ね返って飛び散る、
メラミンの食器の落ちる音。

そしてその喧騒の、真ん中にいるのは。

「なん……だと……?」

がっしりとした体躯を身に包む猫さんエプロンに
今更ツッコむ者は無し。
気が抜けて降りた前髪、けんの取れた表情。
ここ最近は童顔とツッコまれるのも疲れて
仕事中はアップスタイルにすることも稀。

食卓の守護神、南極のブラウニー、
あとなんか最近忘れられがちだけど人理の守護者。

――――アーチャーこと、英霊エミヤ、その人である。



「ええ、そうなんです。最初の頃は
 すごくラブラブだったんですけどぉ……
 私尽くすタイプなんですよねぇ。
 彼のおうちに通ってご飯作ったり、
 掃除してたりしたんですけど……」

エミヤは、身を震わせ、呆然自失といった体で
カルデアのロビーで流れる大型テレビを
じっと見つめていた。
いつもならば仕事の合間に、職員や
サーヴァントたちがくつろぎながら、
アーカイブや、並行世界の娯楽番組を
だら流しにしているその画面に
一心不乱に視線を注ぐ。

そこに映っているのは、トーク番組の
類の様であった。
司会者の男性がうなずきながら、ギャルに
清楚系、そしてセクシー系と、系統さまざまな
女性たちがずらり並ぶひな壇のヨコに立ち、
彼女たちが繰り広げる恋愛トークに
深くうなずいている。

人理が焼却から救われてからこっち、
何事もなく動き始めた外界から情報を
受け取れるようになったのはここ最近の事。
過程の過酷さはともかく、またこうして、
益体もない、毒にも薬にもならない
テレビ番組がまた見られるようになったわけだが、
今流れているプログラムも、そんな凡百の
ありふれたシロモノにすぎない。

人理の守り人たる男、ましてや現代日本に生きていた
彼が足を止めるほどの新鮮味があるとは言えない、
ただのバラエティだ。

――――そう。その話題さえ出なければ。


「なんか突然、『ゴメン、オレもうお前に
 ときめかない。お前の事恋人って思えない。
 オカンみたいでさ』って言われちゃって。
 そこからキスもエッチもご無沙汰で」
「わかる~!」
「あるあるですよね~!」
「男って本当それ~」


きゃいきゃいと、画面の、中。
女性たちは、隷属と奉仕を要求しながら、
いざそれに応えると自分達に興味を失う
男達をケチョンケチョンにクサしている。

と言うとなんだかアレだが、要するに、
尽くしすぎると、恋人として見れなくなって
どうのこうのという、古今東西どの国
どの時代でもよく見る、恋愛あるあるだ。

取り立てて新鮮な見地でも何でもない。
ましてや彼は童貞処女の類じゃなし、
むしろ女難のドンファンの呼び名を
ほしいままにしている。
何も心に引っかかる所などないはずだ。

――――そう。
「オカン」。その単語さえ、出なければ。


ここ最近、彼自身としては実に誠に本当に
まったくもって大変何ともはなはだリアルガチマジで
遺憾なことに、エミヤはこの人理の天文台にて
「オカン」の異名をほしいままにしている。

念のために言っておく。男だ。メンズだ。Y染色体だ。
身長187センチ。体重78キロ。体型だってムッキムキだ。
誰だ今「なお筋力」とか言ったのは。おやつ抜きにするぞ。

女性と見紛うが如き美貌の美丈夫ならともかく
(恐ろしい事にこのカルデアにはそんな輩が多数存在する)、
どこからどう見ても完璧なる男性の身空で
そんな呼ばれ方をするのは、確かに彼の
性格と言動によるところが大きいだろう。

無類の世話好きにして、おせっかい。
料理上手の掃除好き。
お人好しが服を着て歩いているのだの、
いや隠しきれてない最早全裸だだの、
好き放題言われているのは彼自身も
自覚しているところだ。


――――だってしょうがないじゃないか。
此度の現界。彼が召喚された時、
この星見の天文台は、ひどい有様だったのだ。

けが人は多く、生きている人間は憔悴しきり、
足りない人手、積み重なるタスク。
働かねば死んでしまうが、働けば過労死。
そんな極限状態、詰みの状態だったのだ。

そこへ持ってきて、魔力リソースさえ
何らかの形で確保できれば、過労の心配も
なく稼働できる英霊が現れれば。
しかも、戦闘だけでなく、施設の修理や
生活レベルの改善までこなせるスキルを
有していたとなれば――――これはもう、
使役しない方が愚策だろう。

かくてエミヤは召喚されるや否や、職員たちが
有していたタスクを極力巻き取り、破壊された
環境の修繕から、料理、洗濯、掃除を一手に
引き受ける事となった。
はたまた、事故以降、気を張りどおしだった
マスターの悩み相談と言うか、愚痴聞きなんかも。

苦痛ではない。――――苦痛であるものかと
彼は、心の底より、認識している。
理想に敗れ、人理の掃除屋に堕ちる前に
抱いていた夢。今のこの状況は限りなくそれに近い。
ならば拒絶する道理はなく、喜んでこの身を
粉にして奉仕するのもやぶさかではないと言うわけだ。


……う、うむ。いや、まぁ、その……今になってみれば
こんな感じの冷静さで語れもするけれど。
確かに、その事実を知った時にはいささか、平静を
欠く言動をした事は否定しない。
「人殺ししないんでいいんですかヒャッホ――――!!!!!」
みたいなテンションアゲアゲかつノリノリ状態で
なかったかと言われれば、完全否定は難しい。

加えて得意のがらくた弄りと家事やらなんやらを、
「お願いします」と乞われた上に「超助かります」みたいに
喜んでもらえてると来れば、そりゃもう、
居酒屋の店員300人分くらいの音量で
「はい喜んで――――――!!!!!」みたいになったのも
なんというか致し方ないというか、ほら。
分かるだよ。分かれよ。分かってくれよ。
「ブラック企業勤めが長い社畜の私が、超ホワイトな
 出向先で特技生かしまくりの仕事を任された件」みたいな。
テンション上がるのもやむなしだろ。なっ。


――――とにかく!

エミヤは浮かれていた。それは認める。
日々、納得のいく仕事に心血を注げる喜びに。

そう、再び、同じ場所に召喚された彼
――――ランサーが驚愕するほどには。

幾度となく、顔を合わせる、腐れ縁。
互いの命を奪った英霊ですら、同時に
召喚される方が稀だという事を知った
今となっては、最早運命と言うか、呪いに
近いと言われても「アッハイ」としか言えない。

ちょっとみんながドン引きしているので
それ以上エミヤ自身も何も言えなかった。
それ以上――――即ち。ここではない、
別の世界線では彼と恋仲であった事さえ
あったなどと。


まあ秒でバレたが。
というが、キャスターの『彼』がバラしたが。
その後ひと悶着もふた悶着もあって、
せっかく直したシミュレーションルームは
大破したが。

エミヤと彼との初顔合わせは我ながら酷かった。
何せ彼が召喚された時は、エプロンをかけて
洗濯物の真っ最中。
喜びのあまりおっとり刀でかけつけて、

「此度の現界は……味方同士と言うわけだ。
 君との決着に興味がないわけではないが、
 ここはひとつ共に――――世界を救おう」

……などとドヤ顔でのたまってはみたものの。
向こうから帰ってきたのは「お、おう……」
という困惑の声であった。


分かる。いや分かるよ。
初対面の時には私だってトガってた。
ナイフみたいにとがっては触る者みな
何とやらみたいな側面があったのは否めない。
――――と、エミヤは思う。

でもアレはいろいろ事情もあったんだよ。
私が長年の望みと言うか八つ当たりと言うか
贖罪と言うかを果たすにやってきた、そんな
千載一遇の機会の時が、たまたま初対面だったのだ。
まあ彼からしてみればそんな事情は知ったこっちゃなし、
あの過去の自分絶対殺すマン殺意大盛りマシマシな私こそが
素なのだと思われても致し方ないのかもしれない。


……そう、仕方ない、のかもしれない。
日々おさんどんに励む私を、彼が、
怪訝な顔で見るのも。
嬉々として雑用をこなす私を、
「何たくらんでるんだお前」みたいな顔で
見るのも。

そんな私を横目に――――昔なじみの
ケルト連中を相手に、「ったくよぉ。
あいつ、前はあんなんじゃなかったのによ」
などと、吐き捨てるのも。



「馬鹿な……」


エミヤは頭を抱えた。
しばし、思い返せば、思い当たる節ばかり。
いや、それどころではない。


「そ、そういえば……」


かぁぁ、と耳まで真っ赤になりつつ
――――彼はとんでもない事実に
気づいてしまった。


「ま、待て!い、いつだ……いつだった!?
 その……さ、最後に……致したのは」


そう。此度の現界でも、なんだかんだで
彼らは元の鞘というか、恋人関係に
収まっていた。
無論、そっち方面のスキンシップもあった。
そう、『あった』。過去形でいうのは、
それが長らくご無沙汰だからだ。

いつからだろう。彼が、部屋に
おとなうことがなくなったのは。
すきあらば仕掛けてくる、色を含んだ
ちょっかいがなくなったのは。

連日、日々おさんどんに疲れて部屋に直行、
しかる後就寝と言うルーティンを重ねる
エミヤに、いつしか彼は色めいた声を
かける事をしなくなった。

かわりに増えて行ったのは身内相手の愚痴だ。
気心知れたケルト連中相手に、酒を片手に
「前のあいつはあんなんじゃなかった」と、
愚痴っているところを見るようになった。


「なんという……事だ……!」


これはまさしく、あのテレビでやっていた
倦怠期に他ならないではないか。


エミヤはがくりと膝をつき、現実に打ちのめされた。
――――嗚呼、やんぬるかな。
私があまりにも「オカン」じみていくあまり、
彼は私にときめかなくなってしまったのだ。
それをどうして責められよう。
おしなべて男とは、安寧の果てには
興奮を覚えられない生き物。
同じ男でありながら、そのサガに
想像をめぐらせられなかった時点で、
私は恋人失格の烙印を押されても
しょうがなかったと思う。

――――が。


「くっ……だがしかし……これで終わる
 私だと見くびってもらっては困る!」


すっくと、立ち上がり。
エミヤはこぶしを固めた。

――――そうだ、思い出せ。

元よりこの身には何もない。
それを、まがりなりにも英霊の身まで
押し上げてきたものは、ただ、研鑽。

たゆまぬ努力と自己分析、そして
信念のみで、英霊たちと肩を並べ、
彼の愛を真っ向から受け止めるまでに
なった、己の起源を思い出せ。

そしてもう一度やってのけるのだ。それを。


「見ていろランサー……!
 私はきっともう一度君の愛を取り戻す……
 否ッ!」

ダン、と、床をふみしめて、立ち上がり。


「君を惚れ直させてみせる!必ずだっ!」


錬鉄の英霊は、高らかな宣戦布告のように、叫んだ。



「ええええええ!?しばらくキッチンを離れるぅ!?」


――――小一時間の、後。
食堂を取り仕切るメンバーに告げた
彼の決心は、案の定、大いなる
驚きをもたらしたようであった。


「ど、どうしたのエミヤくん、急に!」
「あんなに毎日楽しそうに働いて
 いらしたと言うのに……」
「ま、まさか!チーフ!キャットたちの
 働きに至らぬとこがあったのか!?
 チーフばかりに負担がかかって、
 嫌気がさしたとか……!?」
「い、いやいやいや、違う違う。
 違うんだよ」


半ば涙まで浮かべながら詰め寄る面々に、
エミヤは苦笑いしつつ答えた。


「これは私のただのわがままだ……
 少し、自分を見つめ直す時間が欲しくてね」


そう言うと。


「エミヤくん……」


しばし、涙で目を潤ませた後で
――――真っ先にそれをぬぐい、
どん、とその胸を叩いて見せたのは、
ブーディカであった。


「よぉし!オッケー!皆まで言うなっ!
 ここはお姉さんたちにドーンとまかせて、
 やりたい事、やってらっしゃいっ!」
「ブーディカ……!」
「うんうん。思うにチーフは
 働きすぎなのだワン!
 いっつもいっつも、自分の事は後回し。
 みんなのために身をコムギコのように
 コナッコナのコネコネ!
 いつかはうどんになってノビてしまうぞと
 キャットは常々思っていたのだ!」
「ええ……そのようなエミヤ殿が
 ご自分の望みを口に出されるというのが
 私も嬉しゅうございます。
 後の憂いは我らにお任せくださいまし」
「キャット……頼光殿……」


我知らず、エミヤは目頭が熱くなるのを覚えた。
ああ、なんとありがたいことか。
死してその後も、理解者を得られる。
その感動を味わえる人間はそういない。
その身に余る幸福に、震えるばかりだ。


「……本当に、ありがとう。
 君らの想いに応えるためにも、
 必ずや私は一回り成長して
 帰ってくる」


そう言うと、エミヤはそっと手の中のものを
彼女たちに差し出した。


「……これを。ここで作った
 レシピを書き留めたメモだ」
「チーフ……」
「キャット。私のエプロンを預かっていてくれ。
 戻ってきたときのために、な」
「チーフ……」
「ああ、それと……頼光殿。
 糠床を頼む。毎日かき回してやらないと
 ダメになってしまうからな」
「チーフ……!」
「あと、戸棚の下に作り置きの……」
「チーフ……!!」
「ま、まだあるのかだワン……!?」



「……ふぅ。まさか引継ぎが
 二時間もかかってしまうとは」


マイルームに戻って、エミヤは嘆息した。

――――日々の憂いは断ち切った。
残るは私のわがままと意地だけ。
思う存分己に向き合い、彼に向き合い、
そして幸福を取り戻す。それだけだ。

さあ……後には引けないぞ。
此度の現界における最大の大勝負だ。
……題して!


「――――英霊エミヤ、脱オカン大作戦!だっ!」


カルデアの白い壁に、床に、決意声が跳ね返る。
かくしてエミヤの戦いの日々は、幕をあけたのであった。


……もしここに、彼の恋人がいたならば、
「だっせぇ!ネーミングだっせぇ!
 ケツが六つに割れるほどだっせぇ!」
くらいのツッコミは入れてくれたかもしれないが。
それはまた、別のお話である。

Comments

  • わんわんお
    August 29, 2024
  • November 8, 2023
  • 由紀 潔@雪潔屋/ゆきさぎや
    July 7, 2022
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