短めの少し苦い日常SSです。
『選択』
きっと誰しも、一度は他人を憎んだことがあるだろう
ないって言う人もいるかもしれないけど
嫌い、不快、目障り
もっと言えば__
いや、これ以上はやめた方がいいか
まぁ、そういう経験が誰にだってあるはずだ
もしも今、目の前に
嫌いな人がいなくなるボタンがあれば
果たして、私は迷いなく押すのだろうか
ある日の放課後
カズサ「よし、っと」
私は鞄を肩にかけ、教室から出ようとしていた
今日はスイーツ部の活動があるので、これから集合するところだ
その時
「ねえ!カズサ!」
後ろから声をかけられる
私は一瞬、そちらを向くのを躊躇う
でも、そうするわけにもいかないので振り向く
カズサ「ど、どうしたの?」
「ちょっとね!聞いて欲しいことがあるんだけどさ、この前ね...」
あぁ、また始まった
いつもの一人愚痴大会
私の話は全く聞かないで、ただ自分の話ばかりをする
私もなんだかんだ最後まで付き合ってしまうのが悪いんだけど
つい最近友達になったこの子
と言っても、そう思っているのは向こうだけで
私からしたら一方的に話しかけられて、ちょっと面倒くさい
でも正直に言ってしまうのもどうかと思ってしまうし
うーん...
「ねえ?ちゃんと聞いてる?」
カズサ「聞いているよ」
「でも私、そろそろ行かなきゃだから、今日はこれくらいで」
「え~?別に大した用事でもないでしょ?」
カズサ(何であんたにそんなこと言われなきゃいけないんだよ!)
その思いを心の中で噛みしめながら
カズサ「あはは、まぁ、もう行くから」
「それじゃ」
半ば無理矢理、私はその場を後にする
「それじゃあ誰に話を聞いてもらえばいいのさ」
カズサ(そんくらい他の人を見つけなよ...)
去り際に聞こえたその独り言に、私は呆れるしかなかった
カズサ「...」
自分のことを優しい人だなんて言うつもりはない
でも、『それじゃ』なんて言ってしまうから
相手もまた話しかけてくるんだ
もう、本当に
カズサ「はあぁぁぁぁぁ...」
アイリ「すごいため息だね、カズサちゃん」
ヨシミ「まぁ気持ちはわかるけど」
「私だって、そんな人に付き纏われちゃ嫌になるよ」
ナツ「しかしそれも人生というもの...」
カズサ「あんたは黙ってケーキ食べてなさい」
ナツ「はいよー」
私たちは今、巷で話題の新しいケーキ屋さんに来ている
店内はたくさんの客で賑わっていて、人気っぷりがよく伺える
私たちも窓際のテーブル席で、各々選んだスイーツを机に並べていた
ヨシミ「もう素直に全部言っちゃえば?」
「”話しかけてこないでください”ってさ」
カズサ「いや、そうしたいのは山々なんだけどさ」
「こう、なんと言うか...」
ヨシミ「まぁ、その気持ちもわかる」
ナツ「う~ん、口の中でとろけるチーズケーキ...」
アイリ「う~ん、私はあんまりそういう経験無いから何とも...」
カズサ「あんたはお人よしすぎんのよ」
「人を嫌うって発想無いでしょ?」
アイリ「そ、そんなこと...」
「ないよぉ?」
カズサ「目を逸らしてんじゃないの」
アイリ「で、でも!カズサちゃんも頑張れば、その子とも仲良くできるよ!」
カズサ「あんたじゃないんだから、そう簡単にできないのよ...」
ナツ「おぉ!このモンブランも中々に良い...」
ピロン
カズサ「ん、通知?」
私はスマホの画面を見た
その瞬間、表情が変わる
カズサ「は?」
ヨシミ「ん?どうしたの」
カズサ「これ」
そう言ってスマホの画面を見せる
そこには、私と例の子が写った写真がSNSに投稿されていた
しかしよく見ると、私には加工は無く
自分だけを盛っていた
ヨシミ「あぁ~、これはやってるね」
カズサ「しかもこれ、私からの許可も無いやつだし」
ヨシミ「やっぱり、はっきり言っちゃえば?」
「十分、嫌われるには仕方ないことしてるし」
アイリ「で、でも向こうも悪意があるってわけじゃ...」
ヨシミ「いやこれは100%悪意あるでしょ」
アイリ「そうなの!?」
カズサ「本当にあんたは平和ボケすぎるのよ」
アイリ「でも、私はやっぱりできるだけ仲良くしたいなぁって...」
カズサ「う~ん...」
ナツ「ふぅ、お腹いっぱい」
「あれ?みんな全然食べてないけど、どうかしたの?」
カズサ「はぁ?聞いてなかったの!?」
ナツ「私は黙って食べてろって言われたから、それに従っただけ~」
ヨシミ「言うて黙ってなかったような」
ナツ「まぁ冗談はほどほどにして」
「カズサがとれる選択肢は、拒絶か、受容か、それ以外か」
「でも、おそらく正解なんてない」
「それでも、正解だと思うしかできないんだよ」
「人生は、このスイーツのように甘くはないからね」
ヨシミ「今までずっと食べてただけなのに、急に哲学っぽいこと言いだしてる...」
アイリ「あはは...ナツちゃんはいつも通りだね」
カズサ「なんかそれっぽいこと言ってるんだろうけど」
「なんか癪だわ」
ナツ「まぁ、好きなようにすれば~」
「あ、このマカロン美味しい」
ヨシミ「あれ?さっきお腹いっぱいとか言ってなかった?」
ナツ「それはそれ、これはこれってやつ」
ヨシミ「いや、なんもわからないんだけど...」
アイリ「とりあえず、私たちも早く食べよう!」
「折角ここまで来たんだし!」
カズサ「そうだね、今はとりあえずあの子のことは忘れる」
そうして私たちはスイーツを食べ始める
その後は、一切その話題に戻ることは無かった
数日後
教室から出ようとしたところ
カズサ「よーし、行くか...」
「あ、ねぇちょっとちょっと!」
カズサ「ん?何?」
「さっきね、面白いことがあってさ」
あれから結局、結論は出なかった
出くわすたびに、声をかけられる
カズサ「面白いことって、何かあったの?」
「さっき廊下でさ、すれ違ったんだけどさ」
カズサ「誰とさ」
「確か、くり、むら?そう、栗村って人!知ってる?」
カズサ(知ってるというか同じ部活なんですけど...)
「で!そいつとすれ違う時、肩ぶつかったんだけどさ」
「そしたらそいつ振り返って、『大丈夫ですか?痛くないですか?』って聞くの」
「その時に私さ、”ちょ~っと痛いかな~”って言ったら」
「『え!?大変?保健室行きますか!?』とか言って」
「肩ぶつかっただけで保健室行くやつがいるかっつうの!」
「もうバカすぎて笑っちゃいそうになったよね!」
カズサ「...」
「そ、じゃあ行くね」
「え~それだけ?もう少しリアクションしてもよくない?」
その言葉を無視して、足早に教室から去る
もう声すらも聞きたくなかった
それから
私は一人、学園の近くにあるスイーツ屋さんに来ていた
いつもスイーツ部のみんなとよく行くところ
でも今は、一人で時間を過ごしたくなった
そんな時だった
アイリ「カズサちゃん?」
カズサ「アイリ...」
アイリ「やっぱり!」
「お店の前を通りがかった時に、窓からカズサちゃんが見えたの」
「珍しいね、何かあったの?」
カズサ「べ、別に何も...」
アイリ「ふ~ん」
「...よいしょっと」
カズサ「?」
アイリ「あたしも一緒に食べる!いい?」
カズサ「うん、もちろん」
それからしばらく、二人で他愛も無い会話をしながら食べ続けた
もうそろそろ店を出ようかとなった時
アイリ「カズサちゃん」
カズサ「ん?どうしたのアイリ」
アイリ「また一緒に行こうね!」
カズサ「うん、約束だね」
アイリ「えへへ」
店から出てしばらくして、アイリと別れた
帰り道の途中
ナツ「なんだか浮かない顔だね」
カズサ「!?」
後ろから聞こえた声に驚き、鞄を思い切り振る
ナツ「ひえぇぇぇ!?」
「きゅ、急に何するのさ!?」
カズサ「急に声をかけるあんたが悪いんでしょうが!」
ナツ「むぅ...責任転嫁とは」
「流石キャスパリーグ、荒ぶっておられる」
カズサ「...」
ナツ「...」
「...悩んでる?」
カズサ「え?」
ナツ「この前話していた例の子について」
カズサ「あ、あんたには関係ないでしょ」
ナツ「おぉ、なんと薄情な」
「仮にも同じ部活に所属している身だというのに...」
「しくしく」
カズサ「さっきからなんなの?その態度」
ナツ「私なりの励ましだよ」
カズサ「...逆効果な気がするけど」
ナツ「まぁ細かいことは置いといてさ」
「この前、私が言ったことは覚えてる?」
カズサ「どの選択肢を選んでも正解は無いってやつ?」
ナツ「そう、その続きを話そうよ」
夕方
太陽は沈み始めて、辺りも徐々に暗くなっていく
私とナツは道中で辿り着いた公園にいた
周りには誰もいない
ただ、私たち二人だけの姿があった
カズサ「それで?話の続きって何なのさ?」
ナツ「まぁそう急かずに」
そう言いながら、リュックを開けたナツは
中からマカロンを取り出す
カズサ(なんでそれがリュックの中にあるの...?)
そう思いつつもツッコミはしなかった
ナツ「さて、まずは単刀直入に言っちゃえばね」
「この前の話、あれは半分誤りなんだ」
カズサ「どういうこと?」
ナツ「正解は無いって話」
「本当はあるの、正解の選択肢ってやつが」
「まぁ、それもあくまで私にとっての正解だけどね」
カズサ「ふーん、それは一体どういうものなの?」
ナツ「簡単さ、初めから嫌悪すら感じないことだよ」
「『その人はそういう人間だ』」
「そう思うだけでいい」
カズサ「それは、そうかもしれないけど...」
ナツ「もちろん、そこに至るまでは簡単ではないかもしれない」
「でも、誰も傷つかない方法としては、これ以上は無いんじゃない?」
カズサ「...確かにね」
「それでも、私はもう無理だから」
ナツ「そうか、それも一つの立派な選択肢だと思うよ」
カズサ「...じゃあ、私はそろそろ行く」
ナツ「うん」
「あ、そうだ」
カズサ「ん?まだ何か?」
ナツ「最後に一つだけ言いたいこと」
「カズサがどんな選択をしようが、私たちには何も関係ないよ~」
「それだけだよ」
カズサ「...そうだね」
話が終わった後、私たちは別れた
夕日はもう沈みきっていた
翌日
私は伝えた
今まで積み上げてきた感情の全てを
できるだけ傷つけない言い方をしたつもりで
それを聞いた向こうの反応は
驚愕、動揺
そして溢れんばかりの罵倒
まぁそうでしょうねと思いつつ、しばらくそれを聞いていた
ようやく出る言葉が尽きたと思ったら、最後に
”絶対許さないからね!!”
と、捨て台詞を吐きながらどこかに走って行った
結局彼女は、自分にも非があったことは認めなかった
別にそれでもいいと思った
彼女との会話が終わり、廊下を歩いていた時
生徒A「ねぇちょっとあんた!」
カズサ「ん?」
後ろから二人組に話しかけられた
生徒B「さっきあんたと話してた子、泣いてたんだけど!」
カズサ「あー、まぁそうだね...」
生徒A「気になったから話聞いてみたんだけどさ」
「あんたから、酷い暴言とか罵倒を浴びせられたって」
生徒B「ちゃんと謝りなさいよ!」
カズサ(うわー、ちゃっかり話を盛ってる)
(まぁ...)
カズサ「ちょっと悪いことしたなとは思ってるけど、謝る気はないよ」
「私は自分が正しいと思ったことをしただけだもん」
生徒A「はぁ?何それ」
生徒B「謝れって言ってんの」
カズサ「それじゃ、失礼しまーす」
生徒A「ちょっと待ちなさいよ!」
生徒B「逃げるつもり!?」
二人からの怒号を背に、私は再び歩み始める
その声は、不思議と何も心には響かなかった
それからしばらく歩いた後
アイリ「あ!カズサちゃ~ん!」
ヨシミ「やっと来た、もう集合の時間過ぎてるよ!」
カズサ「ごめんごめん、ちょっと用件があってさ」
ヨシミ「用件?」
カズサ「まぁ、そんなに大したものでもないから」
ヨシミ「うーん、まぁ何かに巻き込まれてたとかじゃなかったからいいけど」
アイリ「それじゃ、4人揃ったことだし」
「新しくできたケーキ屋さんに行こう!」
ヨシミ「おー!」
カズサ「ふふふ」
先導するアイリとヨシミ
その後ろにいる私にナツが話しかける
ナツ「気持ちはスッキリした?」
カズサ「う~ん、完全にってわけじゃないけど」
「後悔はないよ」
ナツ「うむ、それでこそキャスパリーグ」
カズサ「...次言ったら吹っ飛ばすからね」
ナツ「え~、どうしよっかな~」
カズサ「この...!」
アイリ「二人とも~!早く来てよ~!」
気づけば、前の二人とはずいぶん距離が離れていた
カズサ「は~い!今行くよ~」
アイリたちの元へ駆け寄ろうとする
その前に
カズサ「...でも」
ナツ「ん?」
カズサ「もっといい選択があったかもしれないってのも、あるよ」
ナツ「...ふふ」
「そうかもしれないね」
そうして私はアイリたちの元へと駆け寄る
アイリ「ナツちゃんと何話してたの?」
カズサ「ん-、内緒」
アイリ「え~!どうして!?」
ヨシミ「ナツ!あんたも早く来なさいよ!」
ナツ「ほ~い」
雲が広がる空の下、私たちは歩いた
吹く風が、少し冷たかった
え、ボタンの話?
それはもう、どうでもいいかな
終わり
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