法華狼の日記

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アニメ映画版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は環境破壊に目と耳をふさぐ現代社会で公開されている

 富野由悠季を愛好するライター、山田集佳氏によるnoteが注目を集めていた。
 アニメ映画の第二部が公開された『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』について、普遍的な問題を描いた作品を予言ととらえる意識へ、山田氏は疑問をぶつけている。
今更ハサウェイに先見性を見ている場合ではないんだ|山田集佳

それは単なる、優れた洞察を伴う映画に対する驚きの表現としての反応であって、つまり現実を観察する力がある人が作り出す物語には常に圧倒的に必然的に普遍性がはらむということですね。

パレスチナの占領だって1940年代半ばからの歴史的事実なわけで、人間狩りみたいな状況はずっとあって、それを冒頭のシーンとかを引用してガザっぽさを感じるのって、要するに今までのパレスチナの状況を看過してきたことの一種のエクスキューズなんじゃないの。つまり今まであった世界の危機や死に対して現在進行形で無視してきたことは置いておいて、過去の時代の今を描いた作品に対して「これは未来を予言した革新的な作品だった」と褒めの姿勢を見せることで今まで自分たちが無視してきた30年の態度を免罪しようとする態度なんじゃないかってことよ。

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の公開時、ロシアのウクライナ侵攻に重ねあわせる反応を見て、感じたことを思い出した。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』を観て、藤子・F・不二雄は予言者ではなく神さまだと思った - 法華狼の日記

「まるで人間の歴史をくりかえしてるみたい。神さまもがっかりなさったでしょうね」と……その言葉を侮辱と感じた侵略の尖兵は少女に敵意を向ける。
藤子・F・不二雄はミャンマークーデターやウクライナ侵攻を予知したわけではない。チリクーデターをモデルに物語をつくって、それが数十年後も同時代的に受容されているだけ。
そういうことなのだと、まずは認めなければなるまい。


 はてなブックマークの反応を見ると、山田氏や原作者の問題意識を真面目に受け止めるものもあれば、受け流すものもある。
[B! ガンダム] 今更ハサウェイに先見性を見ている場合ではないんだ|山田集佳
 そこで印象に残ったのが、地球温暖化の壊滅的な影響についてコンセンサスがとれていないというid:studycalnu0220氏のコメント。

studycalnu0220 現代は、30年前に比べて平均的な庶民の絶対的生活レベルは明らかに良くなっているし、地球温暖化が壊滅的な影響を与えるかも未だにコンセンサスを得ていない。ガンダムの世界とはまるで違うのに一緒にする愚かさ……

 これは、科学的な知見はかたまっているのに社会のコンセンサスをえられていないことを問題視するコメントではないだろう。地球温暖化の悪影響を直視するならば、庶民の生活レベルが良くなっていると同時に主張するとは思えない。
 庶民の生活レベルで考えても、すでに気候変動による一次産業への悪影響は表面化しているし、複数の島国が土地を失いつつある問題に直面している。

 もちろん現実の世界とガンダムの世界は同じではない。『閃光のハサウェイ』の原作小説が書かれた時代は、人口爆発による環境や生活の悪化が懸念されていたたため、宇宙進出という技術的な解決策がSF設定として採用され、虐殺という手段が事態の切迫の表現として選択された。
 しかし現前の気候変動の悪化を視界にいれることができないstudycalnu0220氏自身は、生活レベルが悪化しているからこそ未来どころか現状の危機すら考えることができなくなっているガンダム世界の庶民と酷似してしまっている。


 現実の社会問題に目をふさいでいるのは、id:tacticsogresuki氏のコメントもそうだ。
 私自身は「リベラル」ではないが、高市早苗氏の特定の発言が日本の立場の蓄積を不用意に無視したものだという批判は、あらゆる手段でも他国の紛争に介入してはならないという主張ではあるまい。

tacticsogresuki でも高市発言をバッシングして他国の紛争に介入するなんて論外だと主張するのがリベラルだからパレスチナ問題も同様でしょ。富野作品のアニメ評価は別として、物語は先見性ではなく過去の教訓を基にしたものだろ。

 むしろこのtacticsogresuki氏のコメントこそ、特定の社会問題の解決に軍事的なオプションしか選択肢がないかのような錯覚にもとづいている。

  • コウモリ

    元の小説はハサウェイの革命の話だがそれに共感出来る人はいないし現実が見えてないと咎める場面を見るしそれはいいのだが一方で行動としての整合性ない事やってる上に共感する人がいる事例は何故かある、自分達や市民と関わる現実的な問題とお墨付きを与えて。目に付くのが、様々な理由で海外から移住する人や労働者に関する話。最も目に付くのは最近ではないが。

  • METHIE (id:METHIE)

    Gレコでもデブリを敵味方ともに網で捕まえるシーンとかあって、後に海洋ゴミの問題にも富野由悠季監督も触れていましたね。
    原作よりも共感しづらくなっているのは現実の環境テロリストが絵画にペンキをぶっかけるようなしょうもない集団と判明して、そういった社会的な問題を扱いつつも第二章が高評価なのは、ハサウェイやギギの心情や生活描写、アクションに力を入れているからでしょう。
    話は変わりますが、一昔前の日中アニメトレインヒーローでも環境問題は描かれていますが、中国だとシビアな問題でしょう。
    最近だとストレンジ・ワールドでも様々な人種や主人公の一人を同性愛者にして多様性やエネルギー問題を扱っていましたが、
    ウクライナ事変があったせいか、ピンときてない観客が多かった気がします。

  • hokke-ookami

    コウモリさんへ
    >元の小説はハサウェイの革命の話だがそれに共感出来る人はいない

    うーん、富野監督は共感はしないまでも、その問題意識の共有まではしてほしかったんじゃないかなあと思っています。もともと富野キャラはどの党派でもエキセントリックなことが多くて共感しづらいことが多いですが。

    >一方で行動としての整合性ない事やってる上に共感する人がいる事例は何故かある、自分達や市民と関わる現実的な問題とお墨付きを与えて。

    そう、はっきりいえば1作目でよく共感されるタクシー運転手って、しっかり視聴すれば主張と態度の整合性がないんですよ。
    まあ、映画では不法居住者という設定がわかりにくく、マンハンターの標的となりうることが観客につたわりづらい問題がありますが。たとえば会話のなかでハサウェイが運転手に対して、「でも貴方もマンハンターの暴力でいつ居場所をなくすかわからないでしょう?」と尋ねて、「嫌なことは考えたくない」と運転手が返して会話がとぎれたりすれば、未来だけでなく現在にも目をつぶっていることがわかりやすくなるはず。


    METHIEさんへ
    >Gレコでもデブリを敵味方ともに網で捕まえるシーン

    『ハサウェイ』1作目でも自然の美しさは描かれて、そこが戦闘で傷つけられていく痛みは感じられましたが、あまり環境汚染のような光景は描かれていないんですよね。それが人類が宇宙に出るべきという作品の目標設定のつたわりにくさを生んでいる。

    >現実の環境テロリストが絵画にペンキをぶっかけるようなしょうもない集団と判明

    もちろん環境活動家を偽善と嫌う描写は外国のエンタメ作品でも見られます、
    ところが、以前に環境活動家を射殺する事件があった時に調べて意外だったのですが、そうした非暴力活動は英国では66%もの世論の支持があるそうです。
    https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20231110/1699542000
    生体飼育に反対する活動家が、イルカショーからイルカを解放するTV番組なんかも世界にはあったりして。
    https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20260202/1769958000
    むしろ、そうした環境活動と比べてずっと穏健な活動しかない日本で、なぜ環境破壊企業よりも環境活動家が嫌悪されているのかという謎ですね。
    まあ環境活動への賛意が少ないので、活動そのものが低調になって過激な活動も少ない、というだけの因果関係なのかもしれませんが……

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