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山田裕仁のスゴいレース回顧

【全日本選抜競輪 回顧】“互角の勝負”を挑むために必要なもの

2026/02/24 (火) 18:00 8

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが熊本競輪場で開催された「全日本選抜競輪」を振り返ります。

(撮影:北山宏一)

2026年2月23日(月)熊本12R 第41回読売新聞社杯 全日本選抜競輪(GI・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①郡司浩平(99期=神奈川・35歳)
②荒井崇博(82期=長崎・47歳)
③脇本雄太(94期=福井・36歳)
④松浦悠士(98期=広島・35歳)
⑤寺崎浩平(117期=福井・32歳)
⑥三谷将太(92期=奈良・40歳)
⑦山口拳矢(117期=岐阜・30歳)
⑧犬伏湧也(119期=徳島・30歳)
⑨古性優作(100期=大阪・35歳)

【初手・並び】

←⑤③⑨⑥(近畿)①②(混成)⑦(単騎)⑧④(中四国)

【結果】

1着 ③脇本雄太
2着 ⑨古性優作
3着 ⑦山口拳矢

今年最初のビッグが開幕!SSは全員出場

 一気の気温上昇で、全国が春の陽気につつまれた2月23日の祝日。熊本競輪場では今年最初の特別競輪である、全日本選抜競輪(GI)の決勝戦が行われています。今年のS級S班は、9名全員が無事に出場。初のS級S班で地元開催のGIを迎えたのですから、嘉永泰斗選手(113期=熊本・27歳)はかなり気合いが入っていたでしょうね。ここで、今年のKEIRINグランプリ出場の「1枠」が早々と決まります。

 初日の第10〜12レースが特別選抜予選で、ここで3着以内だった選手が翌日のスタールビー賞に進出。このレースに出走する選手は、着順に関係なく全員が準決勝に駒を進められるので、先の決勝戦を見据えた「試走」ができます。四分戦となったここは、近畿3車の先頭である寺崎浩平選手(117期=福井・32歳)が先頭で打鐘を迎えるも、後方から郡司浩平選手(99期=神奈川・35歳)がそれを叩きにいきました。

 郡司選手は最終ホームで先頭に立ち、叩かれた寺崎選手は3番手に後退。最終バックでは眞杉匠選手(113期=栃木・27歳)が中団まで追い上げ、合わせて寺崎選手も捲りにいきますが、寺崎選手にはもう余力がなかったですね。脇本雄太選手(94期=福井・36歳)は内を突くも伸びを欠き、郡司選手が先頭で最後の直線に向きました。郡司選手マークの佐藤慎太郎選手(78期=福島・49歳)が、郡司選手を差しにいきます。

スタールビー賞は3連単18万円超の波乱(写真提供:チャリ・ロト)

 最後の直線では、粘る郡司選手を佐藤選手が捉えますが、内をきれいに抜けてきた古性優作選手(100期=大阪・35歳)や、大外からいい伸びをみせる松浦悠士選手(98期=広島・35歳)が、これを強襲。最後は古性選手が突き抜けて1着、大外を伸びた松浦選手が2着で、佐藤選手は3着でした。脇本選手は8着という結果で、前の寺崎選手を残そうという意識が強く出た結果、中途半端なレースになってしまった印象です。

準決勝では地元エース嘉永が失格に…

 しかし脇本選手は、初日と同様に自力で勝負した準決勝では、再び後方から豪快に捲りきって快勝。まだ肘にダメージは残るようですが、タテ脚は相変わらず絶好調ですね。

 地元期待の嘉永選手は、準決勝で最終バックから仕掛けていったんは先頭に立つも、後方から捲った寺崎選手に捲られ、番手の三谷将太選手(92期=奈良・40歳)を止めにいくブロックで佐々木豪選手(109期=愛媛・29歳)を落車させてしまいます。

地元エース嘉永泰斗は無念の失格に(写真提供:チャリ・ロト)

 連係していた荒井崇博選手(82期=長崎・47歳)は3着で決勝戦進出を決めるも、嘉永選手はレース後に赤ランプが灯って失格に。準決勝ではほかにも、阿部拓真選手(107期=宮城・35歳)や吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)、眞杉選手が敗退しています。

近畿は4車結束!荒井は郡司と即席タッグ

 決勝戦は三分戦で単騎が1名というメンバー構成ながら、近畿が4車と圧倒的多数。しかも機動力上位ですから、他のラインはかなり厳しいですよ。その近畿勢は、寺崎選手が先頭で脇本選手が番手、3番手が古性選手で4番手を三谷選手が固めるという超強力布陣。寺崎選手がすんなり逃げられるような展開だと、他のラインは手も足も出ないでしょう。

 脇本選手が番手というのは「弱点」ですが、前受けから突っ張られてしまうと、そこを捌きにいってのライン分断は難しい。他のラインは、初手から仕掛けていく必要がありそうです。

 1番車の郡司選手は、なんと荒井選手と即席コンビを結成。荒井選手は九州勢としての意地をみせるため、そして悲願の特別競輪優勝を狙うためにも、この位置がベストだと判断したのでしょうね。同じく2車の中四国勢は、犬伏湧也選手(119期=徳島・30歳)が先頭で、番手が松浦選手という並び。車番が悪く後ろ攻めとなりそうですが、そこからどのようにレースを組み立てるのか、注目しましょう。

左から、荒井崇博、郡司浩平、犬伏湧也、松浦悠士(写真提供:チャリ・ロト)

 唯一の単騎が山口拳矢選手(117期=岐阜・30歳)で、デキは上々の様子。過去に優勝しているビッグはいずれも単騎と、その勝負強さには定評があります。とはいえ、近畿勢がこのメンバー&並びだと、単騎での攻略は至難。郡司選手や犬伏選手が積極的に動いてくれればチャンスはありますが、他力本願な面があるのは否めません。そう強くは推しづらいというのが、正直なところですね。

近畿4車が前受け、突っ張り先行濃厚か

 ではそろそろ、決勝戦の回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、素晴らしいダッシュを決めたのが9番車の古性選手。内から1番車の郡司選手も出ていきますが、それを制してスタートを取り、近畿勢の前受けが決まります。郡司選手は中団5番手からで、単騎の山口選手は7番手。中四国勢の先頭である犬伏選手が8番手の後ろ攻めというのが、初手の並びです。

前受けの近畿勢は突っ張り先行濃厚か(撮影:北山宏一)

 古性選手がスタートを奪取している時点で、近畿勢は突っ張り先行が濃厚。初手の並びが決まってからは淡々と周回が進み、後方の犬伏選手が動き出すのも、青板(残り3周)周回の4コーナーと遅めでした。犬伏選手は赤板(残り2周)掲示でも4番手の外と、前を斬りにいくのではなく「様子見」といった動き。先頭の寺崎選手が突っ張る姿勢をみせたことで、あっさりスピードを落として元の位置に戻りました。

 再び一列棒状となって、打鐘前のバックストレッチに進入。振り返って後方の様子を確認した寺崎選手は、まだ誰も動いてくる気配がないというのに、早々とスピードを上げて主導権を奪いにかかります。そしてレースは打鐘を迎えますが、先頭の寺崎選手はここですでに全力モード。隊列がタテに長くなり、打鐘後の2センターを回って、最終ホームに帰ってきます。

全力モードの寺崎、脇本は準備万端

 中団の郡司選手や後方の犬伏選手が少し差を詰めて、最終1センターでまた一列棒状に。先頭で飛ばす寺崎選手の後ろでは、脇本選手が前との車間をきって、番手捲りの準備を整えます。そして脇本選手は、最終バックストレッチに入ったところで躊躇なく前に踏み込み、寺崎選手の番手から発進。ここまで何度か仕掛ける気配をみせていた郡司選手も、ここで動いて前を捲りにいきました。

躊躇なく前に踏み込む脇本(3番車)(撮影:北山宏一)

 脇本選手の鋭いダッシュを古性選手は離れず追走しますが、その後ろの三谷選手は離され気味に。そこに外から郡司選手が差を詰めてきますが、そのときには脇本選手と古性選手は後続を突き放していましたね。郡司選手の後ろからは荒井選手と山口選手も上がってきますが、前とはまだかなり距離がある。後方に置かれる展開となった中四国勢は、もうこの時点で絶望的です。

 最終3コーナーでは、外から捲ろうとする郡司選手を、前と離れながら追いすがる三谷選手が内から何度もブロック。その間に脇本選手と古性選手はさらに後続を突き放し、最終2センターではセイフティリードを築くのに成功しました。三谷選手と絡んだ郡司選手はここで勢いが鈍り、その後ろにいた荒井選手は内に突っ込みながら、最終コーナーを回って最後の直線へ向きました。

仕事を全うする三谷(6番車)(撮影:北山宏一)

 内を突こうとした荒井選手は、キッチリ内を締めた三谷選手に阻まれて進路なし。郡司選手のブロックに続いて、三谷選手は本当にいい仕事をしていましたね。外からは山口選手や犬伏選手も伸びてきますが、前をいく近畿2車は遙か彼方。番手から捲った脇本選手と、それを追う古性選手のマッチレースです。古性選手がジリジリと差を詰めますが、脇本選手のスピードはゴール直前になっても衰えません。

近畿ワンツーで堅い決着に 大接戦3着は単騎の山口

 そのまま、脇本選手がハッキリと古性選手の前に出た隊列でゴールイン。今年に入って絶好調モードの脇本選手が、全日本選抜競輪の連覇と通算11回目のGI優勝を決めました。2着は古性選手で、そこから大きく離れた3着争いが大激戦に。内から三谷選手、郡司選手、山口選手が並んだこの争いは、外を伸びた山口選手に軍配が上がりました。3連単配当が4番人気の1,940円という、堅い決着です。

脇本雄太が全日本選抜連覇!(撮影:北山宏一)

 三谷選手が4着で、郡司選手は5着。九州の意地をみせたかった荒井選手は6着で、中四国勢は何もできずに犬伏選手が7着、松浦選手が8着という結果に終わっています。昨年の函館・オールスター競輪(GI)での“恩返し”とばかりに、寺崎選手がラインから優勝者を出す走りに徹したこと。スタールビー賞での失敗を踏まえて、脇本選手が躊躇なく番手から発進したこと。この2つが勝負を決めましたね。

“近畿の競輪”は今年も健在だ(撮影:北山宏一)

近畿の牙城崩せず…“互角の勝負”に必要なもの

 近畿勢が逃げればこういう結果になるとわかっていながら、それでも打開策がなかった郡司選手や犬伏選手。共倒れを覚悟で仕掛けても、そこに加わっていないラインを有利にするだけですからね。現行ルールにおける「強引に前を斬りにいく危険性」もあって、郡司選手と犬伏選手の両方が「他力本願」に賭けるも、どちらも動かなかった。ならば、この結果に帰結するのは当然でしょう。

他力本願に賭けて動かなかった2人(写真提供:チャリ・ロト)

 それに、近畿勢は役割分担も素晴らしかったですよね。外枠から気合いでスタートをもぎ取った古性選手に、ラインのために駆けた寺崎選手。離れてからもいい仕事をした三谷選手と、何より大事な「結果」を出した脇本選手。このチームワークがあったからこその完勝劇で、おそらくゴールがあと半周延びたとしても、脇本選手と古性選手のワンツーという結果は変わっていないと思います。

 郡司選手がレース後にコメントしていましたが、決勝戦がこのメンバー構成になった時点で、勝負は決まっていたのかもしれません。だからこそ“次”の大舞台に向けて、近畿以外の地区は決勝戦にもっと仲間を送り込めるように精進してもらいたい。ファンが本当にみたいのは、車券がハズレでも「いいレースをみた」と納得して笑顔で帰れるような、もっと熾烈な戦いなのですからね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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