12月16時──娘──
12月の16時 ──娘──
最寄りのバス停を降りて、少し上を向いた。
マジックアワーに惹かれて白い息を吐く。
母からのメッセージに気づく。
制服のまま、くるっと家と反対方向へ向かう。
ローファーの音がコツコツと鳴る。
いつもと違う、寄り道のときめき。
ショウウィンドウ越しに映る私。
前髪を整え、制服の第一ボタンを閉める。
ケーキ屋さんってなんだか緊張するな。
「いらっしゃいませ」
店員さんの大きな声で少し驚く。
たまたま空いていた。よかった。
お父さんって甘いもの好きだっけ。
まあ、なんでもいいや。
私の好きなものにしよう。
勇気を出して笑顔の店員さんに声をかける。
「ショートケーキを3つ、お、お願いします!」
声がひっくり返ってしまった。
つい顔が赤くなる。
恥ずかしさのせいか、冬の冷たさのせいか。
帰り道、点滅する青信号。
上を向きながら早歩きする。
カレーの匂いを辿り、重い扉を開ける。
「ただいま」
「おかえり、香澄」
キッチンから聞こえるお母さんの優しい声。
「おつかい、ありがとう」
目を合わさず頷いて、箱を冷蔵庫にいれる。
日が落ちる。しんと静かに、私の心と共に。
私を呼ぶ母の声が狭い部屋を響かせる。
「先に食べちゃおうか」
____お父さん、今日も帰ってこないんだ。
「うん。」
カレーを食べながら、お母さんとたわいも無い話をする。
どうやらお父さんは甘いものは苦手らしい。
寂しさを埋めるように、テレビをつける。
ぽつんと空いたままの席には、白い花束。
無機質なLEDに照らされるカスミソウの花束。
冷蔵庫から箱を取り出す。
お待ちかねの大好物なデザート。
ケーキの箱に記された消費期限——
お父さんの誕生日。
「いただきます」
お母さんと静かに手を合わせる。
ショートケーキはとても甘くて、美味しい。
でもどこか寂しい味がした。
今頃、お父さんは何をしてるんだろう。
ごちそうさまと共に、心の中で呟く。
「誕生日、おめでとう。」


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