シン・エヴァ見ました(2)ゲンドウについて


■ゲンドウについて

まずは何と言っても今回の物語が碇ゲンドウの補完であったことは述べねばならない。すごすぎる。エヴァに立ち向かうとはまさにこのことだったのだと、思わずにはいられない。それまでは、謎の第三村での生活をしらじらしい目で見つつ、あまりにも優れた作画と動画による艦隊戦の様子をまあスペクタクル的には楽しいよね、といったような斜に構えた気持ちでいられたのだが、そしてそこに至るまでにも無限に本当は重要な要素があったのだが、とにかく、ゲンドウの補完に入った瞬間に涙腺がダメになった。これまでのエヴァの全てを救うシーンと言えた。駅のホームで、幼少のシンジを、碇ゲンドウがひざまずいて抱きしめていた。そして、シンジの中にユイがいたことに彼は気づいた

すごすぎる。そうなのだ。だってシンジはユイの子なのだから、そこに彼女がいたことはわかりすぎるほど明らかだった。なのにその観点はこれまでのエヴァには全くといっていいほどなかった。なぜか。なぜなら、ユイの面影は、もっぱら綾波レイというユイのコピーに重ねられていたからだ。シンジは造形としてユイにも似ているはずだが、それよりももっとユイに似ているレイに迷彩されていた(そしてEoEを見ればわかるがシンジとレイこそが似ている)。

補完のシーンは圧巻だった。TV版、そしてEoEを知っているものなら、エヴァが帰ってきたと思うだろう。ヱヴァではなく、エヴァが。電車のシーンのBGM(「不安との蜜月」)。かつて映されたフィルムのバンクを利用したリビルド。かつてシンジが綾波や過去の自分に詰められていたシーンで、碇ゲンドウが詰められていた。自分を補完の基盤にすると言ってまるで神のように振る舞っていたゲンドウが、心象宇宙の中で心の弱さを独白していた。それを促したのは、父さんと話したいと願ったシンジだった。

13号機に乗ったゲンドウと初号機に乗ったシンジの決闘も圧巻だった。鏡写しのように同じ動きを繰り返すことに気づいたシンジが戦いをやめ対話に望むという流れになるのだが、その過程で、MAD的なシーン遷移が行われ続けた。ミサトの部屋やカヲルと出会った水辺、学校の教室、その他様々なかつて見たことのある場所で二人のエヴァの戦いが描かれ、背景が破壊されていった。マイナス宇宙?と呼ばれる空間での出来事らしい。もはやそういう設定上の帳尻はどうでもいい。

補完が終わるとゲンドウは特に顕現したユイとは出会わずに(シンジの中の面影に気づいたとしても)電車を途中下車する。そして物語は続いてアスカ、カヲル、レイの補完へと移る。シンジは現実で自分の弱さを克服していたから、もう補完の必要性を持っていなかったらしい。ガイウスの槍とかいう第三の槍を使って、自害することで世界の再生をしようとしたが、そのとき、シンジの中にいたユイが飛び出して、シンジを射出した。ゲンドウがシンジの中にユイを発見したことにこんな物理的な意味があると思っていなかった。そして、13号機の中にいたゲンドウと、初号機にいのこったユイが二人重なって槍によって自決した。その代償によって世界を再生したようだった。シンジはこれについて、父さんは母さんを見送りたいだけだったんだね、と言っていたような気がする。見送っているといえば見送っているのかもしれないが、一緒に死になおしているといったほうが正確だろう。だが、ゲンドウはユイのいない世界に生きていたくなかっただろうから、一緒に死ぬことができればよかったのだろう。これは論理的に問題ないと思う。アスカが無気力になったシンジに「死ぬ勇気もないからただ生きているだけ」というようなことを言っていた気がするが、それはゲンドウにも当てはまるかもしれない。

もちろんゲンドウの経緯については、想像していた以上の秘密があったということはなかった。こういう孤独な人格形成をしたのだろうというのは誰もが思っていたことだと思う。けれど、それが改めて描かれることに意味があった。EoEでは、ゲンドウの内面はほんのちょっと触れられるだけで、イメージの碇ユイが「怖かったのね」と補足するばかり。あまりにも口数が少なかった。まるでゲンドウはシン・エヴァで初めて自分の言葉で喋ったかのようである。

この件については渚カヲルとの比較が有効かもしれない。渚カヲルは補完されるにあたって、自分はシンジを救おうとしていたが、そうすることで自分が救われたかったのだ、ということを吐露した(まるでFate/Zeroにおける衛宮切嗣だ)。ゲンドウがシンジを抱きしめたことには同じ効果がある。彼は子供のシンジを救うことで自分を救った。しかし、彼はシンジを救うことが自分を救うことだとは考えていなかったはずだ。ただ、シンジに対して負っていた負債に直面した結果、まさに結果的に自分のほしかったものを発見するに至った。

エヴァにおいては表面的なものは批判され攻撃される。たとえばシンジが唯々諾々とミサトの命令にしたがって訓練をする様子はリツコから「彼の処世術」と言われ、ミサトからはなんでアスカが怒ったかわかる?と聞かれ、「そうやって人の顔色ばかり伺っているからよ」と指弾された。そういうところには「まごころ」はないのであった。

ゲンドウは思い込みは激しかったが、「まごころ」だけで駆動していたように思う。彼は口数が少ないため、およそ「嘘」というものをつかない。あるのは「沈黙」である。それゆえに彼がしゃべることには大きな意味があり、彼がする行動には決定的な意味があった。

余談だが最終的にゲンドウは13号機に乗るのであって、これは僕の見立てでは、大人のレイヤーに属するものが子供のレイヤーとまるで線の両端を結びつけたかのようにつながっていることを示唆している。エヴァに乗るのはチルドレンだけのはずなのにゲンドウがそれに乗るからには、ゲンドウもまたチルドレン(と同格)になったと言えるはずだ。それは大人たちが成長のない「エヴァの呪縛」にとらわれていた存在であること示すものであるし、むしろエヴァの物語が大人の補完を必要としていたという原初の事実に立ち返るものでもある。

エヴァは、オイディプス・コンプレックスを取り上げた代表的な作品とされていた。父殺しというテーマは古びているかもしれないが、エヴァほどこの問題を正面から取り上げるのにふさわしい作品はない。ただ、これまではあくまでも主人公であるシンジの側に視聴者は感情移入するのであり、我々は謎めいたゲンドウの仕草に振り回されるばかりであった。なぜ補完が必要なのかについてゲンドウはTV版から訳知り顔で「行き詰まった人類を進化させるために」というようなことを言っていたが、ミサトのいうように「他人が勝手に! 大きなお世話だわ!」といったところだ。これはまっぴらごめんだという以前に、そもそも全く意図がわからない、ということでもある。セカンドインパクトは地球に大きなダメージを与えたかもしれないが、それでも人類は立派に生きていた。迫りくる使徒に物理的に対抗することは必要であっても、それさえ耐え抜けば補完は必要なかったはずだ。なぜ人類に補完が必要なのかの本当の理由はずっと語られてこなかった。といってもEoEでゲンドウが「ユイの許へ」と言っていることから、その狙いはまあわかるのだが、それは言葉足らずの行動説明という感じが強かった。

外部から整理をすれば、ユイは体を失ったが魂は初号機なりなんなりに残っているとされている。ところで補完計画は人類の精神を取り出して一つにしたり、肉体を取り出して一つにしたりすることができる。ゆえに精神を全部一つにしてしまえば、通常時は手出しできないユイの魂も取り込めるはずであり、そうすれば精神的にユイと再会できる、というのがゲンドウの狙いだったと言える。そして一応EoEでは「ようやく会えたな、ユイ」ということになっていた。

僕は最初、EoEでのユイとの再会はまやかしで、今度こそ本当にユイと再会するのだ、というのが新劇場版のなりゆきなのかと思っていた。しかし、それは半分はそうであり、半分はそうではないのだという結論になった。新劇場版の設定の齟齬を生真面目に云々していても仕方ないかもしれないが、新劇場版のユイは綾波ユイとかいう謎の人物である。碇ユイではない。とはいえ新劇場版のゲンドウにとっては唯一のユイであるようにも描かれているので困るのだが、ゲンドウはメタレベルでは別な目的に準じている。つまりシンジの中に発見されたユイは、単なるユイではなく、真なるユイという感じがするのである。綾波ユイという別名の存在は、本当のユイが別なところにいるという、暗示であったような気がするのだ。とはいえ、繰り返すように、ゲンドウはユイを探してシンジにたどり着いたわけではない。つまり、EoEはオイディプスの物語を完遂できなかったが、それゆえに新劇場版はオイディプスの物語を完遂したと言える。

といってもそれは、作中でミサトが仄めかしていたような「父殺し」そのものではなく、「父殺しの物語の終わり」というものであった。シンジは父を殺していない(EoEでは父を殺した)。むしろ父を救ったのだった。だから、シン・エヴァはエヴァという物語を終わらせたような感じがしたのだった。

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