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選んだ檻。与えられた幸福。/Novel by みじゅ

選んだ檻。与えられた幸福。

15,343 character(s)30 mins

非公開フォロー、非公開♡のご協力お願いします。

素敵な表紙お借りしました。

⚠️♡゛あり(左右どちらとも)/擬音表現あり/攻めフェラ/未成年との性行為要素あり。

世界線重視の設定はガバガバ。メリバエンドあり。不穏。閲覧の際はご注意を。

一定期間が経ちましたらべったーの方へ移行します。

赤ずきんパロ🥟🐥🔞

🐥→16歳の青年。生まれた時から集落で育つ箱入り娘(♂)一度自分の命を助けてくれた狼男に恋をする。(単純)(ちょろい)
🥟→年齢不詳の半人獣の狼男。そのせいか群れに馴染めず一人で生活していた。🐥の好意を利用して懐に入り込もうとする計算高い男。

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むかしむかし、あるところに女の子がいました。


厳密に言えば、女の子のように可愛らしい顔立ちの男の子です。

蝶よ花よと育てられたその子は外の世界も知らない純粋無垢なあどけない子でした。


その子はおばあさんに作ってもらった赤い頭巾をいつも被っているので村のみんなから「赤ずきんちゃん」と呼ばれています。
ある日、赤ずきんちゃんはおかあさんにお使いを頼まれました。

「ヨンボク、おばあさんの所へ行ってあるものを渡して欲しいの」
「ん?なに?」

そう言って手渡されたのは大きめサイズのバスケットに入れられたお菓子とぶどう酒。

「おばあさんの家には何度か行ったことがあるでしょう?おかあさん今手が離せなくてあなたに頼みたいんだけど代わりに行ってきてくれる?」

大変そうなおかあさんの手助けをしたい赤ずきんちゃんは元気よく頷いて満面の笑顔を浮かべました。

「任せて!おつかい行ける!」
「ふふ、ありがとうヨンボガ」

おかあさんは張り切る赤ずきんちゃんの頭を優しく撫でて再度言葉を並べます。

「──…だけどオオカミさんには気を付けてね。」
「オオカミさん?」
「ええ。最近うちの村の周りでも何件か被害が出て騒ぎになってるの。人喰いオオカミが人里に降りてきたって」

赤ずきんちゃんからすればまだ非現実的な言葉の数々に理解が追いつかず、頭の上にハテナを浮かばせました。
そんな赤ずきんちゃんに目線を合わせたおかあさんは小さく微笑みました。

「わるいオオカミさんって事よ。もし出会ったらあなたも襲われるかもしれないからくれぐれも寄り道せずにおばあさんの家に向かうこと。分かった?」
「へえ、悪いオオカミさんがいるんだね…」

赤ずきんちゃんは少し怖がる素振りを見せてから「分かった!まっすぐおばあちゃんの家行く!」と決心したように声を上げました。

そうして頭に着けた赤い頭巾を目深に被りバスケットを片手で持って意気揚々と扉を開けて外へと足を踏み出したのです。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



外は雲ひとつもなく晴れ渡るような晴天。


空気も澄んでいておいしい。
そんな日はどこかへ寄り道をしたくなってしまいたくもなる。

おばあさんの家に向かっている途中、赤ずきんちゃんはふと逸れた道沿いに綺麗な花々が咲いているのを見つけました。
陽の光を浴びてキラキラと輝きを放つ花に吸い込まれるように近付きました。

この時、赤ずきんちゃんはおかあさんとの約束を頭からすっぽりと抜け落ちていたのでした。
『くれぐれも寄り道しないように』そう言われていたはずなのに。

「おばあさんにこのお花を何本か摘んでいったらきっと喜んでくれるはず!」

嬉々として綺麗な花の何本かを厳選して丁寧に摘んでいきます。足元の花に視線を奪われてはすっかり夢中になってしまいついつい自身の背後が無防備になっていました。
周りの木々が揺れ小鳥たちが何者かから逃げるように飛び立ちます。いつの間にか自身の後ろで聞こえ始める不気味な足音ですら全く気付く素振りはありません。
その間にもジリジリと距離を詰める何者かの存在に気付けない間抜けな赤ずきんちゃん。

すると早速魔の手が赤ずきんに襲いかかりました。

「ガルル…グルルルル…」

「……ん?…わっ!?」

やっと彼らの存在に気付いた赤ずきんちゃんは自分が知らぬ間に寄り道をしてしまっていた過ちに気付きました。素っ頓狂な声を上げて後退りするも、狼たちはそんな赤ずきんちゃんを追い詰めるようにジリジリと距離を詰めていきます。
その内の一匹がガバッ!と赤ずきんちゃん目掛けて飛びかかった時に何者かが赤ずきんちゃんの前に立ちはだかりました。

「えっ……オオカ、ミ……?」

赤ずきんちゃんが捉えた姿は自身を襲いかかろうとする群れと同じ狼の姿で、大きな背中をこちらに向けていました。
正体が分からない反面、その勇ましい姿に圧倒的な存在感をひしひしと感じ取りました。

「──この子から離れろ。」

喉奥から聞こえる唸り声と地を這うような低い声に赤ずきんちゃんには思わずゾクリとする感覚が。
状況が分からず後ろで縮こまり震えながら黙りこくっていると相手の群れも同じような空気を感じたのか恐れをなしたように逃げ出したのでした。
すると不思議なのが、自身が何度か瞬きを繰り返すと赤ずきんちゃんを守ってくれた狼が突如として人型の姿に変身したのです。マジックを目の当たりにした気分になった赤ずきんちゃんは不思議そうに小首を傾げます。
でも目の前の狼男は恐ろしいくらいの美貌で男らしさは感じつつも不思議な色香を放っていました。
赤ずきんちゃんはその姿に心を奪われてうっとりと惚けてしまい‬ます。

「怖かっただろ。大丈夫?」
「……だいじょうぶです。お兄さんもオオカミさん、なんですか……?」

まじまじと彼の顔を見つめる赤ずきんちゃん。
純粋なその問いかけに狼男はただ静かに微笑むだけでした。
それだけなのにすごく様になって見えたのはなぜなのだろう。赤ずきんちゃんは狼男の纏う不思議な雰囲気にすっかり釘付けになってしまいました。

「それはそうとお前、花摘みに来たんだろ?」
「あっ、うん!今からおばあちゃんにお花を届けようと思って…!」
「そうか。じゃあさっきの群れの奴らがまた来ちゃう前に早くここから離れな」
「わ、分かった。ありがとう!」

なんだか優しい人だな、と赤ずきんちゃんがあんぐりとしていると彼の大きな手が一回り下にある赤ずきんちゃんの丸い頭を撫でました。
赤ずきんちゃんにとっては得体の知れない怖い狼のはずなのに手のひらから感じる温もりがすごく暖かく感じました。
ふわふわとした感覚のまま狼男の元をゆっくりと離れます。
でも少し名残惜しく感じたのか、赤ずきんちゃんはそのまま振り返って満面の笑みを浮かべながらひらひらと手を振りました。

「───オオカミさんも気を付けてね!」


まさか自身の身まで案じられると思わなかった狼男は僅かに目を瞠ります。


再び背を向けた赤ずきんちゃんを見つめては口角を持ち上げ唸るように喉を鳴らしたのでした。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




まさかこんなにも興味を唆られるとは思わなかった。


退屈な上に腹も空かしていたから誰か手当り次第捕まえて食ってやろうと思って彷徨い歩いていた。
そうしたら珍しく俺とは違う狼の群れがたむろしていて何でか無性に気になって後を追った。
気配を殺して近付いてみると輪の中心に赤い頭巾を被ったひとりの人間が立っていた。シルエットからまだ成熟しきってない子供のようにも見える。
ちらり。人間が振り返ったと同時に顔が見えた。

……人間?妖精?

その容姿はてっきり人目につかないよう扮したエルフが隠れ住んでいたのかと目を疑ったくらいだ。

そう思っていた矢先、群れの一匹が赤ずきんに飛びかかっていく姿を見てあまりいい気がしなかった。
気が付けば俺は単身で群れの中へ飛び込んで赤ずきんの前に背を向けて立ち尽くしていた。

「オオカミさん」そう呼んで俺を見つめる彼の表情にたまらなく欲を昂らせる。
こんなに興味を唆られたのはいつぶりだろうか。
視線だけはずっとこの子の事を追ってしまっていた。


「オオカミさんも気を付けてね!」


赤ずきんがキラキラとした瞳で俺を見上げた。
その言葉を聞いて危うく吹き出してしまいそうになる。
なんでお前が狼を心配するんだよ。

獲物のくせに。脆くて貧弱で弱いだけのくせに。

今までに感じた事のない気持ちを、ましてやたった一人の人間風情に抱いてしまった。
どうかこの気持ちを悟られないように平常心を装う。


「…うん。また会おうね、赤ずきん」



そう言って別れを告げたはずなのに、思っていたよりも早く赤ずきんとの再会を果たしてしまった。喜ばしいことに。


人間の集落から離れた小さな小屋で生活をしていた俺は
たまたま道端を歩く赤ずきんを目撃した。

相変わらず美味しそうだ。
途端に腹が鳴り、涎が零れそうになる。
ただ俺は獲物を見つめるようにひたすら赤ずきんを目で追い続けた。

すると赤ずきんは少し古びた家の中へ笑顔を浮かべたまま入っていく。

確かあそこは年寄りがひとり住んでたような……
もしかして赤ずきんの婆さんだったのか。

そう思いながらひっそりと息を潜めていた。

この後どうやって赤ずきんとコンタクトを取ろうかな。
いっそのこと掻っ攫ってしまおうか。


そうして俺は悪い笑みをたたえながら虎視眈々と瞳を光らせたのだった。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





───トン、トン、トン。


等間隔のノック音を響かせては中からの返事を待った。

「おばあちゃん!僕だよ、お家入れて!」
「あら…いらっしゃい。今開けるから待っててちょうだい」

扉の向こうから声が聞こえてゆっくりと僕の元へ向かってくる足音がする。ギィ、と開かれた扉の前で満面の笑みを浮かべながら元気よく挨拶した。

「久しぶり!おばあちゃん、体の方は大丈夫?」
「えぇ最近はなんだか調子がいいの。大丈夫よ」

その言葉を聞いてホッと胸を撫でおろした。

「それならよかった!…あ、これお母さんから届けもの!」

バスケットからお菓子とぶどう酒を手渡した。おばあさんは嬉しそうに顔を綻ばす。

「まぁ、差し入れだなんて……わざわざ来てもらってごめんなさいねヨンボガ」
「ううん大丈夫!僕も久しぶりにおばあちゃんに会いたかったし顔が見たかったから!」
「ふふ…あなたのおかげでもうすっかり元気よ。ありがとう」

そう言って控えめに広げられた腕に僕は頬を染めてぎゅっと抱きついた。
おばあちゃんの体温を肌で感じては生きている事を実感して胸が熱くなる。

それからおばあちゃんとの話に花が咲き、お母さんの様子、家での出来事、僕の成長した話など、しばらく会っていなかった隙間を埋めるように色々と話をした。


けどこの時まで僕は全く意識してなかった。
気が付けばすっかり日が暮れていたことを。

「あら!もうこんな時間!」

時計を見たおばあちゃんがそう声を上げた事により僕ももう今の時間が夜の6時を回っていることに気がついた。

「長く引き止めてしまってごめんなさいね、送っていってあげたいところなのだけど…まだ足腰が悪くてあなたに迷惑かけてしまうかもしれないの…」
「えっ!いいよ気にしないで!家まですぐそこだしひとりで大丈夫!」

体の調子を更に悪化させたくなかった僕はおばあちゃんの善意に感謝しながらも優しく断った。

「本当?心配だけどあなたが言うなら大丈夫よねきっと。今度は太陽が高く登ってる頃にでもまた来てちょうだい」

にっこり微笑むおばあちゃんに大きく頷いた。
そうして玄関のドアノブを握り、暗がりが続く外へ出た瞬間「ねぇあの人、ヨンボガのお知り合い?」とふいに声を掛けられた。
何事かと目を凝らしてよく見ると少し離れた木の下に一人の男が佇んでいた。

じっと見つめるうちになんだか何時間か前に見た顔のような気がして…

「えっ、オオカミさ──」

咄嗟に言いそうになってしまった言葉を急いで喉奥に飲み込んだ。
あ、あぶない。確かに狼は狼だけど彼は優しい方の狼さんなんだから。

「ん?狼だって?」

たまたま僕の発言を拾ってしまったおばあちゃんにヒヤリとして言い訳を考えてみるけど何も思い浮かばない。どうしよう。

あの時にオオカミさんの名前くらい聞いておけばよかった。

いや、その、と露骨に言い淀んでいると突然背後から気配を感じて思わずその場に立ち尽くした。

「赤ずきんちゃん。探したよ」
「…え?」

背後からするり、と肩に腕を回されたかと思えば聞き馴染みのある声が頭上から降ってきた。
見上げると案の定、例のオオカミさんで心臓が大きく脈打った。

「あぁすみません。俺は最近この子と仲良くなったヒョンジンと言います。彼のお母さんに心配だから様子を見てきてくれないかって頼まれたのでここまで。」
「あら、そうだったの?こんな夜遅くにごめんなさいね。あなたにもこの子のお母さんにも面倒かけちゃったわ」

荒波を立てないように、という事なのか突然丁寧な口調で彼はおばあちゃんに挨拶をした。
全く動じない僕を見てかあっさりと信じきったおばあちゃんに心の中で謝りながらこのオオカミさんの口実に乗っかることにした。
どうしてだか今はそれが最善のように思えたから。

「もう!お友達が出来たのなら早く言ってちょうだいよ!彼のお話色々聞きたかったのに」
「ご、ごめん…その話はまた次来た時に!」

嬉しそうに笑いながらそう言われるもまだこれといった出逢いエピソードはない。
実はここへ来る時に狼の集団に襲われたんだなんて言ったらそれこそ驚いておばあちゃんの心臓が止まっちゃうかもしれない。
僕の背中にピッタリとくっつく彼の手が優しく撫でてきた。

「ではこの子を家まで届けてきます。おやすみなさい、おばあさん」
「えぇ。本当にありがとうヒョンジンさん。良い夢を見てちょうだい」


お互いに手を振って何事もなくおばあちゃん家から離れる事ができた。とりあえず一件落着かな。


「家には後でちゃんと送るから少しだけ俺に着いてきてくれない?」


再びふたりきりになったときに、ふいにオオカミさんがそう口を開いた。
最初は疑問に思ったけどすぐ家まで連れて行ってくれるっていうことならちょっとくらい付き合ってもいいかな。
この時の僕はあまり深く物事を考えられてなかった気がする。
オオカミさんとまた再会出来て浮かれている自覚が多少なりとも自分にはあったから。

「ねぇ!オオカミさん…!なんで来てくれたの?」
「…お前が心配だったからかな。どうしても目が離せなくって」


嬉しい。心配してくれてたんだ。
どうしよう、口元が緩んでついついニヤけてしまう。

何度も夜風が頬を撫でてくるのに全く冷たさなんて感じなかった。

そうして気が付けば、僕はオオカミさんの大きな手に引かれて暗闇の中を歩いていた。
オオカミさんという好奇心を対象に胸を高鳴らせながら。

「あっ…そういえばオオカミさんの名前、ヒョンジンって言うんだね」
「あぁ。すっかり名乗った気でいたよ」
「ヒョンジン……かっこいい名前!」

どうにも舌に馴染む名前だった。
何度も心の中で彼の名前を反芻する。

「ヒョンジナって呼んでもいい?」
「好きに呼んで」

そう言うと彼は肩をすくめて小さく笑った。
オオカミさん…いや、ヒョンジナと一緒に手を繋いで会話が出来ている事に不思議な気持ちを覚える。
まだ出逢って間もないのにこんなに距離が縮まるとは思わなかった。

「…ヒョンジナ、さっきからどこに向かってるの?」
「着いてきてくれたら分かるよ」
「あとどのくらいで着く?」

暗い道を歩いて行くにつれて少しずつ不安になってくる。おばあちゃん家の灯りもどんどんと遠ざかっていく。
そわそわとどこか落ち着かない様子の僕を見兼ねてか、彼は肩越しにちらりと視線を寄越した。

「安心して。もうすぐだよ……あ、ほら。見えてきた」

指を指した方に視線を向けると暗闇の中に佇む一軒の小屋が見えた。
それは日の落ちた景色に加え、生い茂る木々や草原に自然と同化していて最初は気付けなかった。

「ここが俺の住処」

扉の前で一度立ち止まり、ヒョンジナは僕が小屋の中へ入るのを促した。

「えっと…お邪魔します」

扉の軋む音とともに中へ踏み入れればぐるりと辺りを見回した。
中は思ったよりも広い。天井は低く、梁が剥き出しでところどころに獣の爪痕のような傷が走っている。
壁際には薪が乱雑に積まれ、乾いた木の匂いと獣の匂いらしきものが混ざりあっていた。
想像していたものよりも案外平凡な部屋にどことなく親近感を感じた僕は至るところへ視線を巡らせたあとに「どこか座ってもいい?」とヒョンジナの方へ振り返った。

「もちろんいいよ。座るなら…そこの椅子に座って」

彼に指さされた先には壁際に置かれたひとつの椅子。その手前には木製のテーブルにもうひとつの椅子。
僕は早速言われた席に深く腰掛けて座り心地を確かめた。

「うわぁ…ヒョンジナってこんな生活してたんだね。なんだかすっごい憧れる…!」
「そう言ってくれると嬉しいな。寒かったら言ってね」

穏やかな表情のまま着ていたダウンコートをゆっくりと脱ぐヒョンジナの姿が妙に色気を感じて少したじろいでしまう。
さりげなく彷徨わせた視線はすぐに掬われてしまった。

「ふ、緊張してる?」
「いやそういうわけじゃないけど…ちょっと、落ち着かなくて」
「大丈夫だよ。きっとすぐ慣れるから」

惚れ惚れしている間にヒョンジナは小さな台所に足を運び何やら作業をし始めた。その背中を見つめていると「お前も温かいもの飲むか?」なんて声をかけてくる。「飲みたい!」そう素直に言葉を返すと笑い声が聞こえたあとに「分かった。少し待ってて」と優しい返答がきた。

珈琲を沸かす音やヒョンジナの方から聞こえる音に耳をすませる。
この家はすべてが新鮮なようで同時に懐かしくも感じた。
昔僕の家に似たような時計があったな、とかこの机はお母さんが使ってるものとそっくりだ、とか。
机に突っ伏した体制で辺りを見回していたらこくこくと船を漕ぎ始めてしまう。微睡みの中、夢と現実の狭間で意識が彷徨っているとヒョンジナの声がハッキリと聞こえた。

「おい、赤ずきん。珈琲入れたから起きて」

薄く瞼を開けると人間のものにしては少し長い爪先が見えて顔を上げると僕の好きなヒョンジナの顔が近くにあった。

「あっ…ごめん、いつの間にか寝ちゃったみたい」
「全然いいんだけどな。寝かせてても良かったんだがせっかくの珈琲が冷めちゃうと思って」
「起こしてくれてありがと。珈琲も貰うね」

珈琲カップを受け取っては息を吐いて熱を冷まし始めた。
目の前に腰掛けたヒョンジナは口端を上げてにっこりと笑った。

「ここの訪問者はお前が初めてだよ。ふふ、一気に華やいだな」

そう呟かれる言葉の端々には嬉しさが滲み出ているようでそれを聞いた僕は満更でもなくなってしまう。

「ふふっ。やっぱり落ち着くなぁ…うっかり長居しちゃいそう」
「お前ならいくらでも居てくれたっていいよ」
「ええ?なんで?」
「その方が……安心する」

珈琲カップに口をつけながらそう呟くヒョンジナの口元を見つめては僕も同じように珈琲をゆっくりと飲み進めた。
多少の恥ずかしさを隠すように。

「…へへ。僕も君がいてくれると安心するよ。心強いし」
「目を離すとすぐまた狼に囲まれそうだもんな。お前は」
「もう!そんなに間抜けそうに見える?」
「ふ、可愛いって事だよ」

真正面でじっと目を見て言われるとつい言葉に詰まる。
僕の反応を窺うような熱い視線に絡め取られる。
悩みに悩んだ挙句、ガタンと立ち上がった。

「ちょっと…外の空気吸ってきてもいい?なんか熱くなってきたから軽く夜風でも浴びたいなぁ、なんて」

じんわりと色付いた頬を冷ますように両手でパタパタさせながらいたたまれなく感じた僕はそのまま玄関の方へと向かおうとした。
一連の行動を静かに眺めていたヒョンジナはおもむろに口を開いた。そして彼も席を立ったかと思えば。


「じゃあ今日はここら辺にするか───なんて言うと思った?」


耳元でそう囁かれては、進行方向をいとも容易く封じ込められる。
咄嗟に顔を上げると悪い顔をした彼が至近距離で僕を見つめていた。

「ちょっ、なに…!」

この密着した空間に焦ってるのか逃げる術を閉ざされた事で焦ってるのか分からなかった。
平然を装おうとしたがゆらゆらと泳ぐ目までは隠せない。鋭い彼はすぐに僕の些細な変化に気付いて舌なめずりをした。

「…お前のその表情、すっごい唆る」

あっと思った直後、顎を掬われた。
更に近づく僕とヒョンジナ。
吐息がかかる距離まで詰められればすっかり僕の頭はキャパオーバーになる。

「ジナ、だめ…ちか、い……」

離れないと、どうにかなってしまいそう。
さっきから胸がドクドクとうるさくて仕方ない。

「なんで?俺がお前のこと食べちゃいそうだから?」
「……うん、こわい…」
「…そうやって小動物みたいに震えてるのも可愛いけどこうやってのこのこ着いてきたお前が悪いな」

目を細めたヒョンジナに見下ろされる。でもそれはどこか愉快げに弧を描いていて。

「だ、だってヒョンジナ…優しいオオカミさん、だから…」
「バカだな。オオカミに優しくて良い奴なんていないよ」

ドクン、大きく心臓が跳ねた。
その言葉を聞いてなんだか裏切られたような気分になる。

「……僕のこと騙してたの…?」
「いいや?少なくともお前に言った言葉に嘘偽りはない」

「まぁ、お前以外の獲物なら今頃この中にいるんだけどな」と自身の腹をさする動作を見せる。
そうは言いつつも彼は狼なんだからきっとその気になれば僕を丸呑みしてしまうかもしれない。
食べられてしまいそうな恐怖心と密かに好意を抱いている彼への逸る心臓がぐちゃぐちゃと混同している。

「でもそろそろ俺も我慢出来なくってさ。ちょっとだけ味見させてよ」
「…えっ、味見?」

本当に食べられる可能性が浮上してきて思わず動悸がした。
いやだ、いやだ。食べられるのだけはごめんだ。

「ゃ、やめて食べないで…なんでもするから…っ!」

咄嗟に言い放った僕の言葉にヒョンジナの動きが一瞬止まった、気がした。

「“なんでも”?へえ、いい事聞いちゃったな。」

彼は目を細めてニヤリと不敵に笑う。
まずい、何か余計な事を言っちゃったみたいだ。

「とりあえず味見させて。」

そう言うと性急に噛み付くようなキスをされた。
一瞬何が起きたのか分からなくて薄く唇を開けるとそのタイミングを見逃さなかった彼は舌を強引に侵入させてきた。
人生初のキス、僕のファーストキスがこうも簡単に奪われてしまうなんて。

「んふ…ぅ、……んっ…」
「ほら、鼻からしっかり呼吸して…」

呼吸させる気もないくらいの荒々しいキスに頭に血が上った感覚がしてクラクラと苦しくなってきた。いてもたってもいられずに目の前の厚い胸板をバシバシと容赦なく叩いて抗議した。

「あぁ…ごめんごめん。窒息させるところだった」

ヒョンジナは悪びれもなさそうに軽く笑いながら唇を離した。僕は何を言うでもなくただひたすらに乱れた呼吸を整える。
酸素が薄くなった頭の中はまだグラグラと揺らいで目眩がする。
苦しさから生理的に溢れた僕の涙を舌先で器用に拭ってくる。こういう行動はやっぱりどこか動物らしい。

「俺はお前を食べたいわけでも殺したいわけでもないんだ。ただお前が欲しい。心も身体も、全部」
「…ぼ、ぼくの…ことを……?」

頭が上手く回らずに彼の言葉を反芻する事しか出来ない。
この人は今僕の事を欲しいって言ったの?

「ああ。好きだなんて可愛い言葉じゃ表せない。それよりもっとずっと…欲深い感情だよ」
「……僕は、君のこと…すき」

僕は逆に好きって感情以外分からないんだけどね。
優しくてかっこいいヒョンジナの事が好き。
ちょっと怖いけど今みたいに鋭い眼光で見つめてくるヒョンジナも同じくらいに魅力的で好き。

「へえ、本当に?お前も俺のことそう思ってくれてたの?」
「…うん。生まれて初めてだよ、こんな気持ちになったの」

視線を落として自身の胸の内を小さく吐露した。
僕の言葉を黙って聞いてくれているヒョンジナにほっと胸を撫で下ろすと突然、視界が反転した。

「───え?」
「悪いようにはしないよ。ただこれで心置きなくお前を堪能できる」

硬い床に押し付けられた僕の背中がぎし、と軋む。
僕の上に跨ったヒョンジナはあろう事か脚を開かせようと太腿に手をかけた。それには流石に僕も慌てて彼を止めようとした。

「っ…!やめて、ジナ!」

今まで感じたことのない恐怖に身体が硬直する。

「…怖い?」

こくこくと素直に頷いた。一体何されるか分かったもんじゃない。
すりすりと内側の太腿を撫でられると擽ったくて思わずガードが緩くなってしまう。ぷるぷる悶えていると内側へ添えられていた手が強い力で強引に股を開かせてきた。

「あっ、!?」
「お。赤ずきんの小さい生殖器見つけちゃった。もうこんなになっちゃったの?かわい」
「や、やめ…ちがうの!これ、は……っ」

下着の中で膨らんでしまった僕のものを見られてしまう。
さっきのキスで気が付いたらこうなっちゃったみたい…でもこんなのだってただの生理現象だ。
ヒョンジナがえっちなキスなんかしてくるから…。
それに他人に秘部を直視されるなんて初めてだ。
視線が刺さるように痛いし、怖いし、はずかしい。

「っぜんぶ、ジナのせい」
「ふぅん。なら俺がしっかり責任取らなきゃだね」
「うん、……えっ?」

手馴れた手つきで僕のものが下着から露出されたかと思えばそれを彼が大きな口でぱくりと咥えたのだ。
声が出なかった。僕いま何されてるの?

「ちょっ、ジナ?そこだめ、汚いよ…!!」
「赤ずきんに汚いとこなんてないよ。小ぶりで可愛かったからつい食べたくなっちゃった」
「な、なんで……」

彼の暖かい口内が喋る度にむず痒く感じる。
ブルル、と身体が震えた。鼻息が当たって擽ったい。
身を捩らせてなんとか解放してもらおうともがいたらすぐさまヒョンジナに咎められた。

「じっとしてろ赤ずきん」
「あ…ッ!?♡お゛!おぉ゛♡すっちゃ…やら〜〜〜っ!♡♡」

ち゛ゅ!♡♡と勢いよく吸われて全身に強烈な電撃を食らったように甘く痺れた。訳も分からず声を漏らしてビクビクビク♡と腰をヘコつかせながら。そうして僕の先端から吐き出された白いものをヒョンジナは表情ひとつも変えずに飲み込んだ。

「はーー赤ずきんの濃くて美味い♡もうイッちゃったの?まさかこういう事されんの初めてだった?」
「んぁ……?ぼく、どう…なったの………♡」
「あぁ、‎やっぱり初めてか。中身も純粋だったみたいだな。予想通りで良かった」

噛み合ってるようで噛み合っていない。ふわふわとした会話をした後に彼は再度僕のモノを咥えてくる。
未知の感覚に怖くなってもうやめて、と抵抗しようとしたけどまだ身体がビクビクと震えて言う事を聞かなかった。

「年相応でここもまだまだ元気そうだ。ほんとしゃぶり甲斐あるな♡」

れろぉ♡といやらしく舌を出して舐め上げる動作に意図せず腰が浮いてしまう。
やだ、いやだ、いやなのに、身体がへん……っ♡♡

「はっ、は……っ♡あぅ♡なめないれ…っ♡おかしくなるぅ…♡あぁっ♡」

もはや自分の意思とは関係なく媚びるようにヘコヘコ♡と腰を動かしてしまう。ヒョンジナは僕のを刺激しながら器用に自分の下着を下ろして取り出したモノを片手でしゅこ♡しゅこ♡と扱きだした。
僕のと違って比べ物にならないくらいソレがちらちらと視界に入るたびにぞくり、と腹の奥が疼いた。

「もっとお前のよがり狂う姿見せろ…赤ずきん…」
「んぉ゛…♡あっ、♡そこでしゃべらないでぇ♡」

休む暇もなく執拗に責められ続け、先っぽから出る体液が止まらない。分からないことばかりで頭が混乱する。
またさっきみたいなふつふつと湧き上がる気持ちよさが身体全体を支配してきた。

「また、でる…ッ♡やだやだぁ♡もうやめて……っっ♡♡」
「たくさん出せ。俺がぜんぶ飲み干してやるから」
「ああッ♡それのむものじゃ、ないぃ♡」

顔をぐい、と押して離そうとするけど思ったより力が入らない。気持ちよさからつい背中を仰け反らせるとその分ヒョンジナの口の中に僕のが沈んでいき根元から更に吸い上げられる。
次第に全身がビクビクと痙攣し始めてはいよいよ引き返せないと悟った。

「まっ…♡やら、はなしてぇ!♡じなぁぁぁ♡♡」

ビュルルルル♡とジナの口の中に勢いよく吐精した。
肩で呼吸を何度か繰り返しているとヒョンジナは熱い吐息をこぼしながら僕に詰め寄ってくる。
完全に力が抜けて脱力しきった僕の身体をいい事に割り開いてきた。
そしておしりの穴にぴとり♡とヒョンジナのグロテスクなモノを押し付けられては反射的に身体を強ばらせる。


「お前のハジメテ、この狼が貰ってやるよ」


ずぷ♡と一気に奥深くにまで突き立てられて声にならない声を上げる僕はこれから深い深い夜が始まるんだなと確信した。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



パンパンと乾いた音ががらんどうとした部屋にこだまして響く。
お互いの呼吸音が混ざり僕だけが甲高い嬌声を上げる。


「ねぇ…そういえば赤ずきんの名前、なんて言うの…っ」

激しい律動を繰り返しながら僕に問いかけてくる。

「あっ♡…よんぼく…っう♡おぉ゛〜〜〜♡♡」
「へえ、いい名前じゃん…」

壁に手をつくように言われおしりを突き出した僕を後ろから穿ち、おしりを揉みしだきながら腰を深く打ち付ける。
その度に喉から悲鳴のような声を上げる僕。
涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔で汚い声を上げてるのにヒョンジナは「かわいい、かわいい」と何度も何度も同じ言葉を紡いでくる。
こんなみっともない姿、可愛くもなんともないのに。

「ヨンボガ…気持ちいい?」
「う、んっ♡……きもち、ぃ…♡♡」

息も絶え絶え、呼吸すら上手く出来なくて苦しいのにそれ以上に今まで味わったことのない快感に全身が痺れる。

「ひょん…!ひょんじなぁ……んぁっ!♡」
「良い子。もっと俺の名前呼んで、もっと俺に狂って…もっとお前の奥まで味わいたい……」

ヌプ…っ♡ずちゅ、ずちゅ…♡♡

既にもうお腹の中はヒョンジナのモノで満たされているというのに更に奥深く腰を押し付けられれば圧迫感が強まり声すら出なかった。

「んん……っ……ぁ……!!♡♡♡」

みち、みち……っ♡と肉壁を掻き分けられ彼の腰骨がピッタリとくっついた。

「あ〜…ヨンボガのナカ締まって気持ちい……♡もう出そう、出る…っ♡」
「はぁ…ぅ…ぐるし……ッ♡♡じな…ぁ♡…あ゛っ〜〜〜!♡♡」

獣のように腰を振りたくるヒョンジナに僕の声なんて届くはずもなくて更に質量を増した後にビュッッッ!♡♡と勢いよく吐き出された。

既にもう何回も最奥に出され続けられたからお腹の中はヒョンジナの精液でいっぱいになる。
加減もせずに飛ばし続けるから急に意識が飛んだりお尻を叩かれては無理やり呼び戻されたりして散々で。
記憶も曖昧な上に苦しいしつらいけど、快楽は絶えず浴びせられているせいでいつの間にか受け入れて善がってしまっている自分がいた。
こんな経験のなかった僕でもはしたない、下品だって思うのにヒョンジナからの愛を目いっぱい受け取りたくて自ら腰を振って欲張る痴態すら晒してしまった。

はずかしい。きもちいい。すき。だいすき。ひょんじな。


「ひょんじなぁ…もっと…♡奥まで突いて……っ♡♡」


もう何度もこんな行為を繰り返されて頭がバカになったのかもしれない。
淫らに腰を突き出して誘惑する僕。その腰を支えていた彼の手に力が入ったのを感じた。
未だに硬度を保つソレは僕のナカにすんなりと収まり、収縮するナカに呼応してガツガツと重いピストンを始めたのだった。
挙句の果てに僕のモノにも手を伸ばしシコシコ♡と巧みに扱かれればさすがに我慢の限界だった。
元々彼のせいでリミッターなんて壊されていたけど。

「ヨンボガ…!…うっ、こいつ本当エロすぎる……はぁ…俺ので腹いっぱいにしろ…!イけ!イけ……ッ!♡」
「イっ、く…!♡あッあ♡だめ、つよいぃぃ♡ぉ゛〜〜……♡ヒョンジナのちんぽでイッちゃう!♡♡♡」

気持ちよすぎて訳がわからず、タガが外れてしまった。
彼に激しく求められてるだけで安心感を覚えてしまう僕はもう救いようがないのかな。

ビュッ!♡ビュルッッ!♡♡ドピュッ!!♡♡♡

お互いに精を吐き出した。僕の身体が大きく跳ねた反動でナカからヒョンジナのモノが抜ける。
足腰に力が入らなくなってその場に倒れ込んだ。余韻で何度も喘ぎながら必死に呼吸を繰り返す。



遠のく意識の中、ヒョンジナに優しく抱き抱えられたような気がして彼の胸元に頬を寄せてはそのままゆっくりと眠りについた。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



チュンチュンチュン────



翌朝。小鳥のさえずりで次第に意識が冴えてきた。
いつの間にか掛けられていた毛布とその上に被せられた赤い頭巾に視線を落とす。頭の中にモヤがかかっているようでちっとも脳みそが働かない。


ここは、どこなんだっけ。
…ああ。確かヒョンジナの家で……

のそりと重たい身体を動かした瞬間、股の間からドロッ…♡と粘着質な液体がこぼれ落ちる感覚がして身を震わせた。

「あ……っ♡こ、これって…」

一瞬にして昨晩の記憶が鮮明に蘇り、一気に熟れた林檎のように頬が真っ赤に染まった。
どうしよう、一旦お風呂でも借りようかな…で、でもさすがにもうお家に帰らなきゃだよね……。
言い訳を考えつつ身体を起こしたところにタイミングよくヒョンジナが外から戻ってきた。こんな朝っぱらからどこに行っていたんだろう。

「ひょんじな…?」

その声は酷く掠れていて、耳をすませばなんとか聞き取れるほどの声量で。

「おはよう。身体は大丈夫か?」
「…うん。大丈夫だよ。ちょっとだるいだけで」
「昨日は歯止めが効かなくて悪かった。風呂、入る?お湯でも沸かすよ」
「あっ、ありがとう。…でももうお家に帰らなきゃ……」


その言葉は思ったよりも弱く、自分でも驚くほど自信がなかった。
僕の言葉に対してヒョンジナはすぐに答えなかった。
少しの沈黙のあと、静かに口を開く。

「無理だ」
「……え?」

「丁度昨晩、人間が狼に襲われる事件が起きたみたいだ。お前が起きる前に外に出たら人間の集落一帯が騒ぎになってた」

その衝撃的な発言に微睡んでいた意識がすぐさま覚醒した。

「っ、!!じゃあお母さんとおばあちゃんは───!」

僕が声を荒らげたと同時にヒョンジナが僕を力強く抱き締めた。
彼の突然の行動に思わず固まると、耳元で「お前のお母さんとおばあさんは無事だったよ。ちゃんとこの目で見てきた」と呟かれる。

「ほ、本当に…?」
「ああ。避難している集団の中にいたよ」

神妙な顔つきのまま彼は長い睫毛を伏せた。

正直、嘘か本当か分からない。
お母さんとおばあちゃんも無事だっていう保証も何もない。

けどヒョンジナの声色は落ち着いていてその冷静さに僕は返って度肝を抜かれてしまう。


「今お前が向こうに戻るのは危ない。それに比べてここは安全だよ」


───“安全”。

その言葉は今の僕には酷く甘く聞こえた。

ぎゅ、と毛布を握りしめる。
帰らなければいけない理由はたくさんあるはずなのにここを離れる想像をすると胸の奥がざわついた。

「……いつまで?」

かろうじて、それだけを聞いた。
肩に顔を埋めている彼が今どんな表情をしているのか、何を考えているのか僕には全く分からない。

「事態が落ち着くまで」

首筋に彼の唇が寄せられてはほんの僅かに焦れったくなる。

「それにお前、俺の匂いがこびりついてる」

野性味を帯びた行動で首周りをくんくんと嗅ぐ素振りを見せては口を大きく開いて容赦なく食らいついてきた。

「ひっ、!じな、いた…ッ……!」
「お前と俺の匂いが混ざってて凄く俺好みの匂いをしてる」

痛みから生理的な涙を目元に浮かべるけど、ヒョンジナからの純粋な好意を感じるたびにすっかり心の内が満たされてしまう自分がいて。

「こんなに獣の匂いを撒き散らしてたら他の奴らに目を付けられるだけだよ」

何も言えなかった。
オオカミに食い荒らされて穢れてしまった僕なんてきっと村へ戻ったところで軽蔑の目を向けられる。
…でも、大好きなヒョンジナと一緒に安全に過ごせて好奇な目に晒される日々が来ないのならここでの生活は何の苦もない。
むしろ、嬉しい。

俯いて悶々と考えていた僕をヒョンジナは再びベッドへと縫い付けてくる。
あれ、不思議だな。昨日までは怖かったはずなのに今じゃ何とも思わない。
ベッドが軋む音とともに僕を組み敷く彼はやっぱり綺麗な顔をしていて、見下ろしてくるその視線から目を逸らせなかった。
ヒョンジナは満足そうに微笑んだ。

「大丈夫。お前の事はちゃんと守るから」

その言葉は優しくて心強くて、同時に僕の意志を固める決定打だった。

外では完全に朝日が森を照らし始めている。

けど僕はもう家へ続く道を自分ひとりで歩くことはなかった。出来なかった。

ヒョンジナがいないと無理。彼がいないと、駄目なんだ。





赤ずきんは狼に食べられたわけでも殺されたわけでもありません。


ただ、誰にも知られずにひとり閉じ込められただけ。





────めでたし。めでたし。

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