琥珀の焔が舞うところ
FGO小説、村正×エミヤです。1.5章最高でした。村正実装を切に待ちつつ、ピックアップが来たら悲鳴を上げてコンビニにリンゴカード買いに走ります(血走った目)。
相変わらず独自解釈設定などありますので、スルーするか何でもOKという方のみご覧ください。
表紙絵、小説用フリー素材使用させていただきました、ありがとうございます!
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ふ、と気がつけば空気が違った。
違和感は限りなく。けれど、どこか懐かしい気もするのは、過去どこかで見知った風景だからだろうか。
山奥に佇む庵の先には鍛冶場があるようだ。錬鉄は、自身の体内において既に練り込まれた感覚でもある。懐かしいのはあの鍛冶場の雰囲気こそであるかもしれない。つと、足を向けた途端、声が掛かった。
「なんだ。テメェは」
赤茶けた髪に金の瞳、遙か昔によく見た顔であるはずなのに、浮かべる表情には覚えがなく、結果として他人の空似とするには似ていない自分といった心持ちだ。とはいってもそれは身体(ガワ)のことであって、中身は全くの他人であろうという確信がある。
「すまない。いつの間にやらここに居た。邪魔というなら立ち去ろう」
「違ぇな。儂が聞きたいのは、おまえが何者だってことだ」
向き直れば、視線が合う。
まっすぐに見つめられている先は己で在るはずなのに、どこかもっと深くをひたりと視られているような気がした。それはまた、自分でも相手を視る目が違うことを意識することとなる。
「刀に憑いてる何かってのは見慣れてるが、人型の『剣』を見たのは初めてだ」
「……貴方こそ。鍛冶場を内包している人間には、初めて会った」
互いを顔を見合わせ、ついで、く、と声を上げて笑った。
「っふは、おまえの方こそ胎ン中から鉄の音させてんじゃねぇか。鍛冶場とは違うみたいだが、似たもんだろう?」
「きっちり『剣』と言い直してくる辺り、本当によく視えているようだ。この身は生身だが、剣を起源としている。それを言う前から見破るとは」
笑う声は途絶えない。
声は密やかに、けれど心地よく続く。
「初めまして、千子村正殿。マスターから話は聞いている」
「こちらこそお初にお目に掛かる。話は、この身体(イレモノ)の人間から聞いた。面倒臭ぇが、その時に依頼も受けている。よろしく頼むぜ、錬鉄の守護者よ」
似た面持ちで起源も似たものでありつつも、それでも断固として全くの別人と言い切れるほどに纏う雰囲気が違う。
話を聞いたときから気になっていた、最高の刀匠。
まさか実際に会うことが叶うとは、と久方ぶりに発動する幸運にささやかな興奮を溶け込ませて、小さく笑みを浮かべた。
◇
「大体おまえ何だあ、こりゃ。刀ってのは手入れが欠かせないもんだってのに、相当放ってたんじゃねえか」
じろじろと視られ、言われた言葉がこれだ。
自身が剣であることは、自分こそがよくよく理解しているが、この人にとってどのように視えているのかいささか不安になってきた。
「脂が巻いてる訳じゃあないが、ヒビがやたらにありやがる。……ほお、なるほど。おまえさんの『剣』には、生身は触れても痕を残せないってことか」
「私の扱う剣は投影品(複製)だ。使えなくなったら新しく喚ぶ(ツクル)。有象無象とある代わりに一つを使い込むこともない。それでだろうか」
「馬鹿か。違う。儂の言う『剣』はおまえ自身だ。使っているのは投影した剣だろうが、自分自身を喚ぶ(ツクル)ことは出来ねえだろ」
視られている瞳に、焔が映る。
まるで紅葉ででもあるかのように琥珀に散っている姿に魂が鷲掴まれる心地になる。ちらちらと炎の雪が舞っている情景が、怖ろしくもまるで安寧の地のようで何故だかすうと力が抜けた。軟弱者と誹った過去の自身(ガワ)の気質では決してない。そんな稀代の刀鍛冶の男に、隠し事など通じるように思えなくなったのだ。
けれど、多少の事情の開示はやむを得ないだろうと口を開こうとすれば、別にいいと平静な声で言われた。
見透かすかのように、遮られた。
「おまえが本当に話したいっていうなら聞くがな。耳障りの良いだけの言葉は欲しかねえ。まあ、身体(ガワ)の情報もあるし、此処におまえが来れたことが奇跡、いや、執念の証だ」
「……どういうことだ」
「おまえがこの身体(ガワ)に何かを感じているように、身体(ガワ)の方も感じるものがあるってことよ。儂から言えるのはそんなところだ」
「そんな軟弱者の言うことなど」
「こいつ(ガワ)は軟弱者じゃあねえ。一応謙遜で言っても、儂以上の刀匠はいねえっていうのに見込まれた器の主だぞ。儂は刀を打つことだけを為し続けて果てへと辿り着き、この身体も同じく理想(ユメ)の果てへと辿り着いたからこうして馴染んでいるんだろうよ。言ってみれば、志を同じくした同胞よ。誰に言われても構いはしねえが、自分自身が理想を否定するんじゃねえや」
その言葉に、今度こそ魂(ココロ)が掴まれた。
誰にもわかってはもらえなかった。ただの一度も理解されなかった。一人剣の丘に立つのが自分の宿世。
そうだというのに、彼は正しく諒解している。
同胞、という声に、途方もない幸福が沸き起こった。
「あ」
「おう、その顔はいいな。ちいとはましになったぜ。全く、錆の浮いた剣ほど見てツライもんはねえ。それがこれだけイイ剣なら尚更だ」
見た目に合わぬ老獪な笑みが紡ぐ言葉が、ひどく甘い。
聞く者によっては何と言うことはないのだろうが、自分にはとんでもない口説き文句のようでさえある。顔に血が上るのがわかった。それを誤魔化すために、常の鉄面皮を貼り付ける。うれしくはあってもそれは真実ではない。そう思い定めて皮肉に彩られた言を零した。
「私はただの使い捨ての守護者(剣)だよ。貴方のような、神仏へと至った神霊のごとき存在ではない。縁が合ったことは認めるが、格が違うというものだ」
彼の表情が変わった。
我の強い、凜と引き締まった表情が、怒に染まる。
先程まではいかな言葉でも年の功だとばかりにいなされていた空気が、そそけ立つほどに熱くなる。
「儂は、刀鍛冶に心血注いだ刀馬鹿だぞ」
半眼の瞳には金の焔。
その焔が燃え盛る。舞いに舞う。降り積もる紅葉が如くにその面積は拡がっていく。
「おまえのような、見たこともないとんでもない上玉の剣に興味がわかないはずねえだろ。しかも、儂にしか治せねえような見るも無惨なザマだ。視た以上、知った以上は、捨て置けねえ。儂はやりたいようにやる。依頼があろうがなかろうが、儂は同じことを決めたぞ。同じ血(根源)の同胞よ」
「儂は、おまえの本当の身体(剣)に触れられる男だ」
いつの間にか間近に迫った焔の瞳から目が離せない。
はく、と開きかけた口は結局音も出せずにわななくだけに留まった。
「ああ、何も言わなくていい。
おまえは剣だ。
剣で、儂がわからないことがあるものかよ」
彼が言う。我が身が剣である限り、全てを視通すだろうと信じられるその言葉。至高の刀匠は、自分の言葉の価値すら自分で定めると決めつけて、言い捨てる。確かに、剣に関するならば、彼の言葉は神の声。私(剣)が出来ることなど翻弄されて戦くのみ。
「此処は、あの縁の出来た小僧がおまえを思って創り出し、身体(ガワ)が必死になって儂ごと引き連れてきた泡沫の場所だ。あいつらの努力は報われた。儂との縁が、おまえに直接出来たからな」
いずれ消える定めの儚き地よ。守る者(ヒト)とてないのだから、抑止力てえのも及ばねえだろう。
世界の神さんの手の届かないところで、相見えたぞ、錬鉄の英雄。
「何」
「その意味さえ分らんてことはねえだろ。此処の意味は教えた。やることはやった。意味をなくしたモノは消える。次に会う時は、もうちょいとゆっくりと話し合いたいもんだ」
地を見る。
辺りを見る。
森は薄れ、鍛冶場に続く長屋は既に溶け込むように崩壊が始まっている。自身もまた、レイシフトから帰るような感覚に包まれた。
この世界が、消える。
「おまえを、……から――――するぞ」
最後の言葉は、何故かよく聞こえなかった。
とても美しい話でした。紅葉、琥珀、炎と次々にたくさんの表現で語られる瞳をまざまざと想像出来て、一枚の絵を見ているようでした。 また、村正が器となった士郎のことをとても高く評価している、ことも嬉しく感じました。 突然失礼致しました、美しいお話をありがとうございました!