【FGO】エミヤのカルデアごはん〜ドラゴン肉のさくさく唐揚げ〜
ロード・トゥ・ビカム・ママ〜エミヤがカルデアのママになるまで
☆ご飯ネタが好きです。唐揚げも大好きです。あと名もなきモブが頑張ってるのが好きです。
☆ところで私の性癖なんですが、エミヤが他の英雄には割と礼儀正しいのに、クーフーリンにはぞんざいな態度なのが好きです。これは日本人の「ウチとソト」という感覚ではないだろうかとふと思いました。エミヤは他の、例えばディルムッドやアーラシュ、話ができて尊敬できて礼儀正しい味方の英霊諸氏相手には、ちょっと皮肉っぽい面もありつつ、全体的には礼儀正しい青年です。無礼な相手には無礼で返しますが、基本的には、世話焼きで世話好きの男です。ですがランサーのクーフーリンには割と食ってかかるし、無礼なことも言ってみるし、なんなら地雷だとわかっていて「狗」と呼んでみたりもします。これは、彼にとってランサーのクーフーリンは「ウチ」の存在だからではないでしょうか。「喧嘩するほど仲がいい」という諺があります。矛盾した言葉です。実に日本人的な諺でもあると思います。喧嘩するほど仲がいい、というのは、つまり日本人は「ソト」の人間と喧嘩をしたりはしないのです。諍いはあるでしょう。いざこざが起きたりすることもあるかもしれません。でも「喧嘩」するのは、「ウチ」の人間だからなのです。逆に言えば、一緒に飲んで、笑って、冗談を言い合って、そして和やかに別れたその相手は必ずしも「ウチ」の相手とは限らないのです。一方で、エミヤはクーフーリンにはぞんざいな態度をとる。周りから見ると、犬猿の仲のふたりです。実際二人とも、互いに相手が気に入らないと思っているし、公言しています。でもそのこと自体、エミヤにとって気を許している部分なのではないでしょうか。エミヤはクーフーリンには、喧嘩も売れるし、罵倒もするし、ぞんざいな態度をとる。それは少年時代に憧憬を抱いた英雄クーフーリンは、彼にとって「ウチ」の存在だからこそなのではないかと思ったのでした。そして、クーフーリンはそこを本能的にわかっていて、エミヤの喧嘩を買って、その甘えを許しているような気がします。大体は妄想です。槍弓です。私からは以上です。
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「ママ、なにかお手伝いすること、ある?」
カルデアの食堂の奥、ハーフオープンになっているキッチンの中で、エミヤは何やらこねていた。そこをジャック・ザ・リッパーが、エミヤの赤い外套をくいと引っ張って、首をかしげながら男を見上げた。男の方も呼びかけの不釣り合いさを訂正するでもなく、少女に優しく微笑む。
「そうだな、スタッフの夜食用にクッキーを焼こうと思うから、型抜きを手伝ってもらえるかね?」
「うん!クッキー作るの、好きだよ!ナーサリーも呼んでくるね!」
たたっとアサシンらしい軽やかさで駆け出したジャックを、微笑ましげに見送りながら、エミヤは力強く生地をこねた。クリーム色のクッキー生地が、丸められ、伸ばされ、叩きつけられてまた丸まる。
それを食堂の方から何とは無しに見ていたマスターに、最近召喚されたばかりのサーヴァントが、ぽつりと疑問を漏らす。
「あの逞しい御仁が、『ママ』ですか・・・?」
古参のサーヴァントは、苦笑とも微笑ともつかない表情を浮かべた。マスターが、ニコッと笑う。
「まぁ、いろいろあってね。」
✳︎✳︎✳︎
今でこそ快適で和やかな生活が送られているカルデアだが、たった一人のマスターが特異点Fから帰還したばかりの頃は、なかなかにひどい有様だった。
まず、人手が絶望的に足りない。
特異点Fからマスターが無事帰還して間もなく、結ばれた縁によってキャスターのクーフーリンが召還されたが、そこはまるで戦場だった。
いや、まさしく戦場だった、という表現こそが正確なのだろう。
残された限られた人員・資源で、なんとか壊れた機材を復旧し、レイシフトを可能にしたのは偉業だったと言って良い。それこそが、カルデアのスタッフにとっての戦いであり、その意味ではそこはまさしく戦場であった。
たった一人、未熟な若者を危険な場所に送り込む罪悪感に胸を痛めながら、スタッフ達はせめて自分にできることに全力を尽くした。ロマニとダ・ヴィンチちゃんが先頭に立って、互いを励ましあい、時には叱咤しあい、スタッフ達は働き続けた。
だが魔力さえあれば疲れ知らずのサーヴァントと違い、人間は眠らなければならない。食べなくては生きていけないし、風呂に入らなければ臭いも出てくるし、集中が途切れる事だってある。
冬木から無事にマスターとマシュが帰ってきた事で、スタッフ達は安堵した。そしてそれまで張り詰めていた緊張が解けた途端に、どっと疲れが襲ってきた。見回せば、周りの同僚は目の下に重たげな隈が出来て、ゾンビのよう。食事の時間もろくに取れなかったため、管制室の隅には保存食の缶詰や真空パックの空がゴミ袋につめて積んであり、最後にいつ洗ったか分からないマグカップには冷めたコーヒーが半分残っている。最後にシャワーを浴びたのがいつなのかもわからず、それより何よりまず寝たい。
キャスターのクーフーリンも、現状を素早く把握し、己に出来る事を率先して行った。あまり得手ではないが、スタッフに癒しのルーンを掛けてやったり、話を聞いてやったり。
とはいっても、カルデアスタッフが行う仕事など、キャスターには門外漢である。彼は自分の役割はマスターを支え導く事であると知っていた。そこでキャスターは、マスターとマシュの戦闘訓練をみてやり、新しいサーヴァントが召還されれば、率先してマスターとの仲立ちになってやった。
幸か不幸か、召還されるサーヴァントはどこかで見たことがある顔が多かった。恐らく縁に惹かれたのだろう。槍の自分、アサシンの佐々木小次郎、騎士王、ディルムッド・オディナ、そして―――
「サーヴァントアーチャー、召還に応じ参上した。」
召還陣の真ん中で、赤い外套がゆれる。
顔を上げたエミヤは、部屋の端で腕を組んで壁に寄りかかっている知った顔に、皮肉げに口端をあげた。
「また君か。そろそろその顔も見飽きたな。何処に召還されても――」
「アーチャー!待ってたぜ!」
にぱっと心からの笑顔で答えられて、エミヤはたじろいだ。
なんだその笑顔は。光の御子の名に恥じぬほど、光り輝いている。夏の青空のように一転の曇りもない、喜びが伝わってくる。
思いもかけない反応にびしりと固まったエミヤを他所に、ランサーは入口から顔を出して外に大声で言った。
「おーい、アーチャー来たぜ!狩りに行くやつ準備しろよー!」
「アーチャーが来たのですか!」
入口から顔を出したアルトリアに、エミヤはまた固まった。
「せ、セイバー・・・」
「アーチャー、あなたがここに来てくれて本当に嬉しい。共に戦いましょう。あなたがいれば、私は何処までも戦える!」
両手をとられてセイバーにそういわれ、エミヤはじんと胸が熱くなるのを感じた。
「あ、ああ、もちろんだ、セイバー、」
「今夜の夕食を楽しみにしています!」
「ああ、もちろん・・・夕食?」
その後マスターからカルデアを一通り案内され、事情を把握して、エミヤは頭を抱えた。
生活の質が低すぎる。
いや、カルデアスタッフを責める事は出来まい。ところどころに、すこしでも快適に過そうと工夫が見られるのは認めよう。保存食のゴミは臭いを出さないように袋を2重にして、使われていない倉庫の中に一旦一まとめにされていて、できるだけ不潔ではないようになっている。限られた人員の中で、掃除当番が決まっているのが涙ぐましい。たまには温かいご飯を、とキッチンを使おうとした後も見て取れた。残念ながら、あまり上手くは行かなかったようだが。
エミヤは腕まくりをした。
「先ずは掃除だ。それにゴミの処理をもう少し何とかしたいな・・・。この施設にゴミ処理用の機材はないのか?」
「あったんだけど、故障していて・・・まずはレイシフトとその関連機材を修理・維持するのに精一杯で・・・」
「見せてもらっても?」
機材を前にして、エミヤは眼を閉じて詠唱した。
「解析、開始。」
幸い、その機材は比較的シンプルなつくりだった。といっても、エミヤはその原理を理解しているわけではもちろんない。解析と投影と強化が、エミヤの数少ない取り柄である。機材のつくりを解析し、本来の状態であろう姿を予測し、壊れた部分を投影、補強しただけだ。そういえば学生の頃、よく学校の備品をこんな風に直して回ったものだった、とふと記憶が蘇ってきて、エミヤは瞬きをした。磨耗したはずの記憶が、妙に鮮明に残っている。他の召還時の記憶もあるようだし、肉体は半受肉状態に近い。どうやら今回の召還はかなり特殊なようだった。
「ふむ、これで動くと思うが、先ずは電源を入れてみようか。」
問題なく動き出した機材に満足げに頷いて、エミヤは振り返った。
「これでよし。溜まったゴミを処理したいのだが・・・」
振り返った先には、きらきらと目を輝かせたロマニ・アーキマンとダ・ヴィンチちゃんがいた。
ぐわしっと掴まれた肩に、逃がしてはなるものかという妙な重圧を感じる。
「な、何か・・・?」
「ようこそ、カルデアへ!共に世界を救おうじゃないか!さあ、君にぴったりの仕事があるんだ!」
あれ、これに似た様な勧誘をかつて私はされたことがあるような・・・エミヤはデジャヴを感じながら、ダ・ヴィンチちゃんに引っ張られていった。
ダヴィンチちゃんに求められるままに解析・投影で出来る限りの機材を修理し終わったときには、すでに午後になっていた。洗濯物もしたかったのに・・・とカルデア職員の汚れた襟元をちらりと見ながら、エミヤはホールに出た。
そこには、竜がいた。
比喩でも、目の錯覚でも、ドラクル娘でもなく、本物の竜である。幸いな事に、死んでいる。というか解体されている。かなり広いホールを占拠する巨体は、全体が緑がかった鱗で覆われている。頭と翼は、何か素材として使うのだろう、スパルタクスが素手で角を剥ぎ取っている。そして胴体の方は・・・
「アーチャー、良い所に来てくれました、今日は大猟ですよ!是非これで美味しい食事を作ってください!」
食べるのか、竜。
エミヤは眉間を揉みつつ、牛刀を投影した。
「・・・竜の肉を食べた事がないので、まず塩焼きで味を見たい。メニューを決めるのはそれからだ。」
結論から言うと、竜の肉は美味しかった。
処理の仕方が良いのだろう。獣臭さもなく、意外に淡白で、牛肉というよりは鶏肉に近い味わいだ。少し筋が固いが、そこは料理人の腕の見せ所。尻尾の付け根辺りの肉は脂が乗っていて、ステーキにしてもよさそうだ。とりあえず、今夜のメインは・・・。
「よし、今夜は竜肉のからあげだ。」
『からあげ』が何か知っている五次聖杯戦争のメンツから歓声が上がり、エミヤは思わずふっと微笑んだ。
✳︎✳︎✳︎
料理の味の半分以上は、下ごしらえで決まる、と言うのがエミヤの持論だ。
物事の多くは、そういうものかもしれない。本番よりも、往々にして準備の段階が重要なものだ。戦争にしても、お祭りにしても、準備が大事なのだ。
エミヤは大量に積まれた肉塊の山を前にして、黒のエプロンを投影し、しゅるりと紐を締めた。
まず、肉を一口サイズに切っていく。この時、出来るだけ大きさは揃えたほうがいい。火の通り方が均一になるからだ。鶏肉と違って筋の固い竜肉は、筋切りが肝要だ。筋を断つように何度か切り込みを入れる。
大量の肉を切り終わったら、ビニール袋に調味料と共に入れる。醤油がないのが痛いが、キャスターのクーフーリンからタイムなどのハーブを分けてもらえたので、それを使うことにする。塩、酒、ハチミツを少量、それに刻んだハーブやスパイスも入れて、揉む。
だが何しろ、量が量である。袋も巨大なら、重さもなかなかのものだ。ちょうど通りがかったディルムッドが、何か手伝うことはないかと聞いてきたから、エミヤは遠慮なくその肉詰め大袋を複数渡し、満遍なく揉んでくれと頼んだ。ディルムッドは生真面目に、大量の肉を丁寧に揉み込んでいる。
それを横目に、エミヤは白米の用意に取り掛かった。
幸い、カルデアにはかなりの量の備蓄があった。
そもそもが、もっとたくさんのマスターとスタッフが、ここで人理修正のために長いこと暮らす予定だったのだ。補給の予定はあっただろうが、人里離れた雪山であるから、それ相応の備蓄があるのは当然と言えた。
特に、西洋系の食材の備蓄が多かった。パスタ、オリーブオイル、小麦粉、サバ、オリーブ、コンデンスミルク、その他色々の缶詰、真空パック、保存食の数々。どうやら補給が絶える事も想定のうちではあったらしい。水については完全に循環システムが確立している。地下には人口菜園もあり、ある程度自給自足を試みようという気概も伺えた。残念ながら、いまは手入れが行き届かずにだいぶ葉が萎れているが、枯れてはいない。ちゃんと手入れをしてやれば、採れたての野菜がコンスタントに手に入るだろう。
さて、話が逸れたが、白米である。
世界各地から集められたマスターのために、備蓄庫には米もあった。全体としては西洋風だが、米は保存が利くからだろうか、かなりの量とが壁際に積まれ、たいていの種類もあった。いわゆるジャポニカ米ーー日本人が慣れ親しんだ普通の白米もあったのは、エミヤを喜ばせた。
やはり唐揚げには、ご飯がほしい。
それにパンを一から捏ね上げるには、今夜はちょっと時間が足りない。備蓄庫にはドライイーストもたっぷりあったから、朝は焼きたてのパンにしてやろうと決めつつ、エミヤは米を研いだ。
米を研ぐというのは、なかなか奥が深い。そもそも「研ぐ」という言葉が、趣深いとエミヤなどは思う。研ぐというのは、磨いてツヤを出し、汚れを落とすことを言う。米同士を擦り合わせて、表面を削り、そうしてぴかぴかつやつやの白米が研ぎ上がるのだ。
それにしても、すごい量だ。単位は合ではなく、升である。その米をがっしゅがっしゅと力強く研ぐ姿は、まさしく歴戦の勇士を思わせた。これだけの量だと、何度研いでも洗い水が白濁する。エミヤは根気よく、だが丁寧に優しく、がっしゅがっしゅと米とぎを続けた。
一方、言われた通り律儀に肉をモミモミしながら、ディルムッドは今日召喚されたばかりの弓兵の手慣れた動きに見惚れていた。すごい。テキパキと何か穀物を洗う姿は、まるで職人のようだ。どこの英霊かは知らないが、どうやら御子殿とも親しい様子。この様子では、いずれ他に劣らぬ勇者であろうと、ディルムッドは己の無礼を恥じた。
「失礼を、名乗りが遅れて申し訳ない。我が名はディルムッド・オディナ、誇り高きフィオナ騎士団が一番槍、妖精王オィングスが養い子である。これから同じ主人に仕え、同じ目的で戦う同志として、どうか貴殿の名を教えていただきたい。」
エミヤは背筋を正して、投影したばかりの巨大な土鍋を置いた。
「これは丁寧にどうも、だが私はしがない凡人でしかないのでね。貴方のようなきらびやかな伝説も、英雄譚もない。だが同じ主の元、同じ戦場を駆けるのはその通りだろう。今回の現界では同クラスが多数いることだし、私も名を名乗った方が良いのだろうな。私はエミヤと言う。一介の弓兵でしかないが、この弓と力はマスターに預けた。ここが人理の最終戦線、勝つか負けるかしかないのだから、せいぜい足掻いて見せようとも。」
ディルムッドはぱちくりと瞬いた。
どうやら一筋縄ではいかない御仁のようだが、行動が言動を裏切っている。研ぎ終わった米を土鍋に入れて水を入れ、直火にかける姿は真剣そのものだ。
「よし。」
なにやら納得したらしいエミヤは、次はなにやら生地をこね出した。
下から取り出した籠の中には、たくさんのリンゴが入っている。そういえば、今日狩りに付いてきた幾人かは、果物の採集に回っていた。
「ありがとう、もう十分だ。夕食は7時からの予定だ。」
ディルムッドは肩をすくめて、食堂から出た。英霊には一癖も二癖もあるものが多い。ほんの少しの会話で、打ち解けられるとは思っていなかったし、そもそも続々と増えるカルデアのサーヴァント全てと友誼を結ぼうと思っているわけでもなかった。今はただ、マスターに忠実らしいと分かればそれで十分だ。
それに、御子殿が突っかかってはいても警戒していた様子はなかったから、悪い男ではないのだろう。
彼と共に戦場に立つのが楽しみだ、彼はいったいどんな戦い方をするのだろう、と考えつつ、ディルムッドは食堂をあとにした。
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どん、と置かれた大皿の上には、唐揚げが山となって積まれていた。大皿というと、かなり大きさに幅があるが、この皿ときたら子供が乗れそうなほども大きさがあった。というか、多分乗れる。日本文化に妙に馴染んだランサーなどは、天井から落ちてくるあーいうタライぐらいデケェな、と妙な感想を抱いた。
他にも、マッシュポテトや、竜肉を細切れにして野菜とマスタードで和えたのや、根菜のスープや、つやつやの白米が食卓に並んでいる。だが、一際輝きを放つのは、やはり唐揚げだ。湯気を立てる揚げたての唐揚げは、香ばしい匂いをさせて、本当にキラキラして見えた。
「お、美味しそう・・・!」
スタッフの1人がよだれを垂らさんばかりに思わず呟く。
すっと座る姿も美しい騎士王が、声を上げた。
「アーチャー、今夜の晩餐は貴方の働きの賜物、どうぞ貴方が号令を!」
「私が?」
まだ食事が始まってもないのに、もう第二弾を上げる準備をしていたアーチャーが、パチリと瞬いた。彼自身は、味見をしてお腹いっぱいとのことだ。
アーチャーはしばし戸惑った様子を見せたが、腹をすかして今か今かと待っている様子のスタッフを見とめて、ため息をついて手を合わせた。
「では・・・、ドラゴンと農家のみなさんに感謝を込めて、いただきます。」
手を合わせてそう言ったアーチャーに続いて、第5次組と日本出身の英霊が「いただきます!」と元気よく声を上げた。
それからは、まるで早送りを見ているかのようだった。あの山のように積まれた唐揚げが、みるみるうちに崩されていく。聳えるようだった敵の要塞も、我が軍の圧倒的な力の前にはただ無力でしかなかった・・・。
だが、無力化されたかと思われた敵の要塞に、いまぞとばかりに援軍がやってきた。
「熱いから、火傷に気をつけて食べるんだぞ。」
どん。
食卓の上に景気良く乗せられた、唐揚げマウンテン第二弾。
ちなみに、スタッフと英霊は流石に皿を分けている。スタッフたちは普通の人間の、人間にしては速いスピードで、はふはふしながらあつあつ揚げたての唐揚げを頬張っていた。
さくっと揚げられた丁度よい厚さの衣の中には、ジューシーな竜肉がジュワッと肉汁を溢れさせる。ハーブの香りとシンプルな塩の旨み。白米、野菜スープ、唐揚げ、唐揚げ、白米。
しばし、誰も言葉さえ喋らず、無言で肉を貪った。
ようやく人語を取り戻したのは、ご飯一杯を平らげ、スープを味わい、冷茶を飲み干したあとだった。
「おいしい!おいしい・・・!!」
「やばい、俺生きてる・・・!」
「なんか涙出てきた・・・。」
多分、カルデアスタッフたちは、ここ暫く極限状態に置かれて、いっぱいいっぱいだったのだろう。本当に涙ぐんでいる者もいる。次々無くなる唐揚げを補充に来つつ、アーチャーは何気ないように言った。
「口に合ったようで何よりだが、この後はデザートもあるから、お腹いっぱいになりすぎないように。」
「おっ!デザート?なんだ?」
食いついたランサーに、アーチャーは呆れた声で言う。
「アップルパイだよ。もう焼きあがる。しばらく置いてしっとりさせたほうが美味しいんだが、焼きたてもまたオツなものだ。」
すらすらと言うエミヤに、スタッフのひとりが「アップルパイ・・・」と呟いた。
ところで、彼はマーク・エディ・エヴァンズ、アメリカ出身で、母親が毎年サンクスギビングに焼いてくれるアップルパイをこよなく愛していて、そして人理焼却により家族の安否はもちろん不明だった。いや、不明というのはおかしい。このカルデアの外には、もはや無事な世界はないのだ。彼の母親はもう・・・
「さあ、アップルパイだ。ちゃんと分けて食べるんだぞ。」
ああ、マムもいつもそう言っていた。リチャードがいつもズルをするからだ。兄さん、父さん、母さん、今はこの世界のどこにもいない。
そう思ったら、もうダメだった。この1ヶ月近く、張り詰めて張り詰めて、押し込めた不安と疲れと恐怖と、そして何より悲しみが、堤防が崩れたように溢れ出た。
「マム・・・!」
カルデアの食堂は、一瞬静寂に包まれた。
筋骨隆々の白髪褐色の大男の胸に飛び込んで泣き出した、白人男性(34)。気持ちは理解できるが、その光景はシュールである。
突然胸に飛び込んできた泣きじゃくる34歳の成人男性(中肉中背、髪の毛は後退中)に、さしものエミヤも一瞬固まった。パチパチと瞬き、そっとアップルパイを乗せた皿をテーブルに置くと、そろそろと男の肩を叩いてやった。
「大丈夫だ、ゆっくり深呼吸してみるんだ。大丈夫、私に合わせて呼吸してみよう、吸って、・・・吐いて・・・吸って・・・、よーしよし、上手だぞ、いい子だな」
エミヤはひょいとマークを片手で持ち上げた。筋力Dのエミヤでも、100キロ以下の人間くらいなら、軽く持ち上げられる。
「君は疲れているんだ。お腹いっぱいになって、ゆっくり眠れば、きっと気分が良くなるとも。」
まだぐずぐずとエミヤの胸に顔を埋めるマーク(34歳、趣味は釣り)を宥めつつ、エミヤは食堂の出口の方へとスタスタと歩いて行った。
そこで一度振り返り、エミヤは釘を刺した。
「オーブンにアップルパイが焼けているから、みんなで分けて食べてくれ。ズルはダメだぞ。マスター、食べ過ぎてお腹を壊さないようにな。」
そうしてスタスタと去っていった後ろ姿に、マスターはぽつりと呟いた。
「ママ・・・」
これが、エミヤがカルデアのママになった経緯である。実に召喚初日の出来事であった。