こんなにも幸せになって罰など当たらないだろうか。
大切な愛を手に入れた。
大切な人を手に入れた。
いつかこの幸せが消えて無くならない事を願って。
「かあさーんっ!ハナがまたころんだぁ!」
「う、ふぇ…わぁぁっ!」
「あー…セタ、ちゃんとハナを見ておいてと言っていただろ?」
「えー!ちゃんとハナとてつないでたもん!」
「しょうがないな…ハナおいで」
「おかぁさん…っふぇ…ひっ…く」
不貞腐れたようにそっぽを向く蒼い髪の男の子。とその後ろでしゃくりあげながら泣き膝を擦りむいている白い髪の女の子。
あの出産からたったの三ヶ月しか経っていないと言うのに目の前の子供達の成長と言ったら早い事。もうその辺にいる五歳くらいの子供と変わらない成長を遂げている。
蒼い髪の子供はあの男同様に瓜二つでもう一人の目の前で泣いている長い白い髪の子供は少し成長が遅く体も弱い。
「よお、帰ってきたぜ」
「とうさんっ!」
「おう、セタいい子にしてたか〜?ってあれ、ハナはどうしたんだその怪我」
「ああ、おかえりランサー」
庭から降りてきた人物にセタは嬉しそうに飛び付く。おかえりと言葉に出せば私の膝で抱かさった状態のハナを見る。膝に手を当て魔力を注ぐと治るものの泣き止まないハナの頭を撫で続けると目の前の男は嬉しそうに微笑む。
「ハナは甘えん坊だな。ほんと、母さんそっくりだな」
「な…っ」
「母さんも泣き虫なんだぜ?」
「そうなの?かあさんないたことないよ?」
「俺だけに見せてるんだぜ?布団の上で鳴く」
「たわけっ…!!子供の前でな、なな何をっ!?」
何やら悪い笑みを見せつつセタに耳打ちをする男は今とんでもない事を口走ろうとしていた。それを咄嗟に口を手で抑え睨む。もうそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべる男にほんの一瞬心が跳ねるものの頭を小突く。
「ほら、もう痛くない…セタと遊んでおいで」
「…うん」
「セタ、ちゃんとハナを見ているんだぞ」
「わかったあ!」
「…子供は…元気なもんだ」
「ああ…全くだな…っあ!」
「おいっ!」
セタとハナが二人仲良く手を繋いで行く所を見ていると本当に頬が綻ぶ。つい縁側から身を乗り出し子供達の遊ぶ姿を見ようとした時だった。バランスを崩し前に倒れ目の前の視界には地面が広がり咄嗟に目を瞑ったが一向に痛みがこない。
「馬鹿野郎、気を付けろっ!」
「す、すまない…」
「…まだ、魔力が戻らないのか…?」
「…ああ」
体を逞しい腕一本で支えられた状態で地面に転ばずにすんだ。しかし、この体になってから早三ヶ月。どうしても足だけが動かない。動かせない。何度も試しては見たものの自分の力では立ち上がる事が出来ず部屋の中を移動する時は専ら這いずるしかない。
魔力は多少なりともあるにせよ、子供達に何かあった時に動かない足では不安でしょうがない。私の変わりに体の弱いハナと遊ぶ時はセタに任すしか他なかった。
「あの子達にも魔力が流れてはいるものの自分の中の魔力までは奪われていないんだが…」
「こればっかりはキャスターに聞いてもわからないと言ってたし」
「どうしたものか…」
俺はあの時程感動した事なんてなかった。
だが、正直子供達が産まれて嬉しかったがこいつの事が何よりも心配でしょうがなかった。
「名前は…どうしようか」
「こいつは本当に俺そっくりだからな…」
「セタンタ…」
「セタンタ?俺の幼名がどうかしたか?」
「君のようにすくすく育って欲しい…君の幼名から取ってセタはどうだろうか?」
「あ、いいんじゃねえのか?だったらよ、女には…ハナって付けようぜ」
「ハナ…か…いいな」
「花のように美しい女性って事でよ」
「ふ…君らしい」
腕に抱かれる可愛い可愛い天使達。それを嬉しそうに見つめる親の顔をした嫁。なんと実に理想的な家族構成だろうか。可愛い嫁に可愛い子供これ以上望むものなんてありはしない。ぐっすりと眠る子供の頭を撫でつつこいつに深いキスを贈る。唇はカサつくものの絡む舌の弾力は柔らかく食べてしまいたい。魔力を唾液に多く含ませこいつの喉に流し込む。
「ん…んんぅ…んくっ…ふ、ぅ…ぷぁ…」
「全然足りてねえな…」
徐々に赤らむ頬を撫でコクリコクリとゆっくり呑み込む唾液。唇を離し指でなぞるとやはり感じる魔力量は少なく、まだまだ足りていない。そのままキスを続行しようと唇をよせた時、こいつは俺の唇に手を当てそれを阻止した。不服そうな表情をする俺に顔を赤らめたまま視線を逸らしながら子供を見つめる。
「こ、子供の…前では、そ、その…止めてくれないだろうか」
「…っ!!」
照れたように逸らされる視線と同時にその言葉そそられる。不謹慎かもしれないが実に煽りを掛けられる。子供に見られているとでも思ったのかこいつなりの精一杯の言葉だったのだろう。すると、ふと気付いた事がある。
「…なあ、お前。足どうした」
「あ、足…?」
「何を隠してやがる。足だよ」
「…べ、別に足は何ともないが…」
「これ以上隠すってんならこの状態で襲うぞ。いいのか」
「…っ」
先程から上半身は動くものの不自然に下半身だけが動いていない。それを突き付けると視線を泳がせその話題から気を逸らそうとしているのか何ともない事を装っている。
でも、そんな事なんて丸わかりだった。
「…この子達を産む前に…魔力が一気に減っていってしまったんだ」
「減った?」
「ああ、どうしてかセタを産んでから足が…動かせない、動かないんだ」
全然反応を示さない足。子供達を布団に起きゆっくりと起きようと試みるもののどうしても動かない。それどころか布団に倒れそうになり慌てて上体を支える。危なっかしくて見ていられなかった。抱き締めた状態のまま俺が足を動かそうと必死にやってもやはり動く気配が無かった。
「また、当分はセイバーにこの街の見回りをお願いしなくてはいけないな…」
「あいつなら引き受けてくれる。でもよ、子供には何も、何ともなってねえんだろ?」
「ああ、それが何より良かった…」
苦笑いを浮かべたまま話すこいつが正直心の中では心配で心配でしょうがなかった。こいつが消えてしまうのではないのか?俺の前からいなくなるのでは。そう嫌な事ばかりが頭にぐるぐると浮かんでは消える。
自分の事は二の次にするこいつらしい言葉に心が締め付けられる。
もし、こいつを失ったら
俺はこの世界にいる意味を無くしてしまう。
「…さー」
嫌だ。
「ん…」
それだけは絶対に。
「んさー…ら、さー…」
こいつを失いたくない。
「…ランサー?」
「え?あ、ぁ。どうかしたか?」
「君は疲れているのでは…と」
「はあ…今お前を抱き締めているだけで疲れなんか吹っ飛んじまった」
「あ…ったわけが…っ」
微笑むこいつを絶対に離すものか。
幸せを、やっと掴んだ。
こいつを助ける。
そう一人心に誓った。
「あいつらを見てると産まれてきた事を思い出すな」
「私も同じだ…あんなに幸せを感じた事なんて今までない…」
目の前で笑い合う子供。
なんてこんなに可愛いのだろう。
愛しいのだろう。
俺の隣に座るこいつの肩を抱き寄せた。
今ある幸せが決して夢ではありませんように。
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- meichiJuly 4, 2018